破壊のワルツ(11)

 本日、2個目の記事です。
 
 滝沢さんが主役の章だと、何の二次創作だかわからなくなってきますね。(笑)
 あー、萌えない。



破壊のワルツ(11)




 滝沢の友人は事故死だった。
 地方の、外灯の少ない夜の道端を歩いていて、トラックに跳ねられた。死体は何日も発見されなかった。土手の下に転がり、背の高い草が彼の死体を隠したのが原因だった。
 どうして彼がそんな場所で事故に遭ったのか、彼の同僚は皆不思議がったが、滝沢にだけは分かっていた。
 あそこは木梨の実家の近くだ。友人は、彼のことを調べていたのだ。

 友人が死ぬ前にしていた調査を、滝沢は引き継ごうと思った。そのことは誰にも言わなかった。滝沢は彼のように、本気で公安の隠蔽を疑っていたわけではなかったが、それでも刑事が最後に調べ残した仕事だ。完璧に調査して、墓前に報告してやりたかった。
 この研修が終わったら、思うように時間が取れないかもしれない。ならば、チャンスは今だ。

 官房長の後ろ盾で創られた第九は、様々な面で優遇を受けている。この、MRI捜査の技術習得のためだけに用意された研修施設もそのひとつだ。
 第九への異動を命じられた職員は、全員ここで規定の研修を受け、ノルマを達成しなければ第九に入ることはできない。彼らに与えられる期間は、3ヶ月から半年。3ヶ月までは全額、残る3ヶ月は6割の給与が支給される仕組みになっている。つまり、3ヶ月でMRIシステムを攻略しろ、と暗に命じているのだ。
 半年を超えると、人事部から打診が来る。そして3つの選択を強いられる。さっさと研修をクリアして第九へ行くか、他の部署に行って閑職に就くか、給与7割カットで研修を続けるかだ。
 滝沢が最初に狙っていたのは2番目の選択肢だったが、調査のためには3番目の選択がベストだった。1月もあれば充分だ。調べ物が終わったら、自分から人事部へ他部署に回してもらえるように申し出よう。

 友人を跳ねたトラックの運転手は、なかなか捕まらなかった。死体発見までに時間が経ちすぎて、雨風で証拠が流されてしまったことも、捜査を難航させる一因になっていた。
 管轄外の仕事にイライラしながらも事件の解決を待っていた滝沢に、やがて信じられない情報が入ってきた。
 ひき逃げ事件の調査は、打ち切りになった。捜査本部が設立されてから、1月も経っていなかった。
 ありえないと思った。彼は警察官だ、いわばこれは身内の仇討ち。面子を重んじる警察が、たった1ヶ月で事故とはいえ身内を殺めた犯人逮捕を諦めるなんて。
 しかし、部外者の滝沢に捜査に口を挟む権利は無かった。せめてもと思い、所轄にいた友人に頼んで捜査報告書を閲覧させてもらった。

 その内容の薄さに、滝沢は戦慄した。
 捜査報告書の紙面から伝わってくる、この希薄さはなんだ。一応の体裁は繕ってあるものの、捜査とは名ばかり。事情聴取した運送会社の名簿がつけてあるだけで、いつ、その会社の誰に話を聞いたのかも記載されていない。ただ名簿の下に一行、上記の会社に当該トラックは無し、と書き込まれているだけだった。これなら庶務課の女の子にも作れる。
 現場の写真も2枚しか綴じられていない。死体の検死報告書にいたっては、法医学教室で保存、と来た。

 これはさすがにおかしい、と思った。
 滝沢は所轄に勤めたことが無いから分からないだけかもしれないが、人が死んでいるのだ。こんな報告書で上が納得するわけがない。

 嫌な予感に駆られた滝沢は、木梨のことは余程慎重に動いたほうがいい、と考え直した。もしかしたら友人は、本当にでかいヤマに当たったのかもしれない。

 表向きはエリート集団第九への勤務に執着する振りで研修を続けながら、滝沢は自分のネットワークを使って、こっそりと木梨のことを調べ上げた。
 同期生や元部下たちが教えてくれたことによると、彼は評判どおり、いや、それ以上の男だった。国家を守るためなら、自分の命は惜しくない。また、国民はすべてそうあるべきとの極論の持ち主でもあった。
 彼は公安第2課の所属だったが、本人は外事3課に行きたがっていたと言う。外事3課は外国人によるテロ事件を主に扱う部署だ。彼の愛国心は、諸外国から日本を守るという思想の元に形作られたものだったらしい。

 そして彼が2057年11月の末、休暇を取っていたことを知ったとき。
 行きつけのバーで友人と交わした冗談が、滝沢の脳裏に甦った。

『あの飛行機には、テログループのリーダーが乗ってたんだ。そいつを抹殺するために、政府が乗客ごと飛行機を落としたんだよ』

 あの飛行機に、本当にテログループのリーダーが乗り合わせていたとしたら?
 国家組織ならそんなバカな真似はしない、だけど、妄信的な愛国心に囚われた男がそこに居合わせたら? 国の安泰のためには国民の犠牲はやむを得ないと公言する愚か者が、彼の信じる崇高な考えを行動に移すこともありえるのではないか。

『仕事一筋だった木梨が休暇を取るなんて、赤い雪が降るって騒ぎになったそうですよ。それも、えらく急だったそうで。その後すぐに退職して……』
 滝沢の突拍子もない仮説を後押しするように、木梨の退職前後の状況を教えてくれた元部下の言葉が、耳の中で木霊する。
『そういえば、休暇明けの木梨を見たってひと、いないなあ』

 突然の休暇取得。
 不可解な飛行機事故。
 帰ってこない息子。
 そして、彼を調べている最中に事故に遭った友人。

「……バカバカしい。俺こそ、スパイ映画の観すぎだ」
 何度も何度も否定しながら、滝沢の考えはそこに行き着く。

 もしも木梨がテロリスト抹殺のために乗客を道連れに死を選んだとしたら、それを知った公安は―――――。
 絶対に隠す。木梨は公安の正式な職員だ。その彼がそんな大事件を起こしたとしたら、前代未聞の不祥事だ。政府にも上層部にも、その強力なコネクションをフルに使って事件の隠蔽を強要するだろう。公安はその職務柄、取引材料には事欠かないはずだ。

 そこまで考えて、滝沢は大きくかぶりを振った。
 ありえない、いくら何でもそんなことはありえない。この妄想を消す手立てはないものか。

 滝沢は頭を抱えた。一番簡単なのは、墜落した飛行機の乗客名簿を調べることだ。その飛行機に木梨が乗っていなかったことが証明されれば、このくだらない妄想も消える。しかし、政府ぐるみの隠蔽工作がなされているとすれば、関係書類は確実に隠滅されて……。

 いや、ある。
 公安にも政府にも、予想外のことが起きたではないか。
 飛行機事故の、たった一人の生き残り。他の乗客を食べて生き残ったと今際の際に告白した、かの乗客の脳。それを調べた第九には、捜査資料が残っているはず。

 滝沢は決心した。
 くだらない権力争いに巻き込まれるのは真っ平だと思っていたが、これは運命かもしれない。あるいは、彼女が自分を導いているのかも。

 研修生に割り当てられてた狭い私室で、滝沢は机の引き出しから写真ケースを取り出した。左右に開くと、左手に若い女性。右に若い男性が映っていた。
「ゆかり……西野……」
 滝沢の呟きは、一人きりの部屋の中にひっそりと吸込まれ、空気に混じりこんで再び滝沢の中に返って来た。

 俺は、生きる意味を見つけた。

 次の日から、熱心にMRIシステムに向かう滝沢の姿があった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、いらっしゃいませ~。

>ええと、滝沢は友人の敵討ちが目的なんでしょうか。小野田さんつながり?だとしたら本当に逆恨みな感じですが・・

そうです、目的は恋人と友人の敵討ちです。
そのために第九に来たんだよ~、でも次長に頼まれたこともあったから、ちょっと意地悪しちゃった~、という感じでした。
だけど、薪さんが事件隠蔽に関わったことが発覚して、憎しみの対象に変わっていくんです~。 実際にやったのは上層部及び政府ですけど(あくまで滝沢さんの仮説ですが) どっちも自分がどうにかできる相手じゃないでしょう? で、身近にその手先=薪さん がいたら、そこに矛先が向くと思いません?
いずれにせよ、薪さんが悪いわけじゃないので、結局は逆恨みなんですけど(笑)


>ああ、薪さん、瀕死の状態かしら(тт)鈴木さ~ん、気づいて!!

ええ、まったくね~。
親友なら気付いて欲しいですよね~。
気付かないどころか、雪子さんといちゃいちゃ・・・・・うちのすずまきさんは、いつもこんなんだなあ(^^;


それと、
Aさま、ひどい災難でしたね!!(><)
コメント欄では、あまり詳しいことは返せませんが、わたしも一緒に怒りを感じたことと、Aさまと旦那様のご心痛をお察しします、とだけ・・・・・
二度と来なかった、とのこと、胸をなでおろしました。

Mさまへ

Mさま、こんにちは~。


> てか、あのっあのっ!
> 薪さんはいつ解放されるんですか~~ 私泣きそう。

きゃー、すみませんっ、薪さんをツライ目に遭わせてしまって、(じゅる)わたしも心が痛むのですが(ぐへへ)これはお話の進行上仕方のないことで、ぐへへへ、(わたしとしても本意ではなく)
・・・・・・あれっ、いつの間にかタテマエと本音が逆に!?

すみません~~、わたしSなので、イタイ薪さんとか苦しむ薪さんとかに、どうしようもなく萌え・・・・・ごめんなさいっ、だけど好きなんです~。


> 夏の暑い時期だと脱水症状になっちゃいますよ、てかその前にトイレどーするんですかああ?

脱水症状にしたいんです~。 (これは本当にお話の進行上です)
ていうか、
トイレは気にしなくていいからっ!(爆笑)
いや、Mさまの他にもいらっしゃいましたよ、心配してくださってる方が。 みなさん、そこまで考えるんですね(笑)
実を言うと考えたんですよ。 倉庫にトイレつけようかなって。 でもそうすると、給水タンクの水が飲めちゃうでしょう? それだと脱水症状にならないから、却下したんです。

銀行の地下金庫はね、
わたしも経験があります。
わたし、昔、銀行員だったんですけど、営業店にこういうロック式の書類庫がありまして。 
中で伝票探してたら気がつかないうちに外の金属扉が閉まっちゃって、閉じ込められたらマジで出られなかったんですね~。 大声で叫んでも、本当に聞こえないんですよ。
先輩に「書類庫に行ってきます」と報告してから席を立ったので、10分もしないうちに先輩が来てくれましたけど。 めっさ笑われました☆


> ところで、4月号メロディの表紙の薪さんって、もしかして、第九崩壊前の薪さん?
> だって、心なしかちょっと表情が幼いし、原作なのにネクタイしてるし。。。

そうか、ネクタイ!
そうかもしれませんね!
そうすると、このとき薪さんが誘ってるのは、やっぱり鈴木さんということになりますね。(←何がやっぱりなんだか・・・・)


> でも、めちゃかっこいいですよね。

ですねっ。
拳銃や割れたガラスから、追い詰められた状況にあると察せられるのですが、薪さんの表情は落ち着いてて、困窮しているどころか、いっそ好戦的ですらあります。 刑事する薪さん、ステキ♪


> そして、その薪さんをまねるしづさんのご主人も・・・かわいいっす。しづさん、しあわせですね!

いや、あの・・・・・・アホ過ぎて、ときどき扱いに困るんですけど・・・・・・
そうですね~、これを幸せと称していいのかどうかは大いに疑問ですが、とにかく、オットといると退屈だけはしませんね。 イジメルと楽しいし。
身内ネタで、お恥ずかしい限りです。(^^;


今回のお話はあおまきさんじゃなくて、あんまり楽しくないお話なのに、読んでいただいてありがとうございます! とってもうれしいです。
Mさまの、またのお越しをお待ちしております。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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