破壊のワルツ(18)

 ということで、本日2個目のアップです。
 よろしくお願いします。





破壊のワルツ(18)





 昼休みの室長室に駆け込んできた同僚は、開口一番にとんでもない質問をぶつけてきた。

「副室長。病院で室長とキスしてたってホントすか」
 書類棚の前に薪と並んで立ち、次回の室長会議で報告する事案を選んでいた鈴木は、ファイルを持ったまま一瞬固まり、心を落ち着けてからゆっくりと訪問者を振り返った。
「なにをだしぬけに」
 鈴木の声に、バサバサッという派手な音が重なった。
 鈴木が、豊村の質問をはぐらかそうと思ったときには遅かった。薪は持っていた書類を全部床に取り落とし、真っ赤になって口元を両手で覆っていた。

「ち、ちがうんだ」
 薪はもともと正直者だ。記者会見など予定された質疑応答に対して前もって用意された彼のポーカーフェイスは鉄製のそれだが、仲間内では紙のように薄い室長の仮面をつけているだけだ。こんな突然の襲撃にあってはひとたまりもない。
「あれはっ、僕が脱水状態で意識が無かったから……く、口移しで水分補給してくれただけで」
 ようやく彼が搾り出した声は、普段の涼やかなアルトとは似ても似つかぬ裏返ったかすれ声。薪、ちょっと黙ってろよ、と言いたいのを我慢して、鈴木はこのフォローをどうしたものか迷う。

 それをしたのは自分ではない、滝沢だ。
 しかし、本当のことは言えなかった。病院で見た薪の、気恥ずかしそうな嬉しそうな顔が、鈴木の口を重くしていた。

「あ、なんだ。やっぱりそんなことですか。失礼しましたー!」
 物事をあまり深く考えないタイプの豊村は、明るく笑うと疾風のように部屋を出て行った。残されたのは、その時のことを思い出してか頬を赤くした室長と、自分の嘘に気まずい思いをしている副室長のふたり。
「ごめん、鈴木。またヘンな噂が立っちゃうかも。雪子さんに怒られないかな」
「雪子は笑いとばす。ぜったい」
 床に落ちた書類をふたりで拾い集めながら、何となく目を合わせずらくて、ふたりとも自分の手元だけを見ていた。

 扉の向こうでは、豊村が早足に自分の席へ向かい、気が抜けたように腰を下ろした。途中だった弁当には手を伸ばそうとはせず、不在の間に置かれていたコーヒーを手に取る。
「誤解だったっす」
 隣でコーヒーを飲んでいた滝沢に、ぼそっと室長室で聞いた真実を告げる。
「な。だから俺の見間違いだって言っただろ」
「でも」

 豊村は言い惑い、しかし耐え切れなくなったように、真剣な顔で滝沢に訴えた。
「でもなんかあのふたり、様子がおかしかった」

 思った以上の成果に、滝沢は満足する。
 豊村が抱く薪への感情が恋に発展しなかったのは、薪は男と情を通じるような人間ではないと固く信じていたからだ。その因子があるとわかれば、暴走の可能性は充分にある。

 もうひとつ、波が欲しい。
 上野が薪に抱いた不信感を怨恨に転じさせ。
 豊村の感情を幻滅から破壊衝動へと誘導し。
 鈴木の抱えた爆弾のスイッチを入れる。
 それらを一気に起動させる、きっかけさえあれば。第九をカオスに変えることができる。

 貝沼清孝が連続殺人容疑で逮捕されたのは、その翌週のことだった。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

はい、わかりませんでした。
でも、何で検索をかけたらいいのかはすぐにわかりましたよっ(笑)

薪さんは、可愛いというよりはバカだと思いm・・・・・・
鈴木さんの苦労がしのばれますね(^^;


全機投入は、もうちょっと後です☆
お楽しみに~。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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