破壊のワルツ(28)

破壊のワルツ(28)




 いったい何が起きているのか、もう訳が分からなかった。

 猟奇的な事件捜査に必要と思われる様々な文献が揃えられた資料室で、上野は息絶えていた。朝になって出勤してきた滝沢が、変わり果てた上野の死体を見つけた。上野は、自分で自分の胸をナイフで刺して死んでいた。ナイフの柄を握り締めた両手が、死後硬直で固まっていた。

「豊村が自殺して、上野は大分参っているようだった。やはり、昨夜は上野から眼を離すべきではなかった」
 悔やんでも悔やみきれない、と言った表情で目を閉じた滝沢を、鈴木は徹夜明けの充血した眼で見た。
 鈴木は一晩中、貝沼の画を見ていた。脳裏に残った残像がちらちらと目の前に流れていき、その被害者に上野や豊村の顔が重なった。
 現実に起きた2つの死が、MRIの画と混濁していく。どちらが現在でどちらが過去の出来事なのか、どちらが自分の目で見たことで、どちらが貝沼の眼を通して見たことなのか、その区別がつかなくなりそうな恐怖に鈴木は戦慄した。

「昨夜は、上野と一緒に帰ったんじゃなかったのか」
「途中で別れた。その後は」
 滝沢は不意に口ごもり、その場に相応しくない照れを含んだ態度で横を向くと、鈴木が聞きもしない自分のアリバイを語った。
「その後は、薪と一緒だった。朝までずっと」
「……なに?」
 滝沢の言葉に驚いて、鈴木は眼を見開いた。緊急対策会議に出席している親友の顔を思い浮かべて、喉をつまらせる。

 昨夜、自分が薪を自宅に送り届けた後、2人が一緒に夜を過ごした?
 まさか。あの薪が、そんな軽はずみな真似をするわけがない。

 疑わしそうな眼で滝沢を見ていると、彼は沈黙を怖がるように、自分が何故そんな行動に出たのかを説明し始めた。
「豊村のことで取り乱していたとはいえ、ひどい疑いを掛けてしまった。だから、薪の家まで謝りに行ったんだ。薪は俺を許してくれて、だから俺は」
 そこで一旦言葉を切り、滝沢は鈴木の方へ向き直った。それからしっかりと鈴木の眼を見据え、
「自分の気持ちを打ち明けた」
 滝沢は、真っ直ぐに鈴木の眼を見ていた。嘘を吐いているようには見えなかった。

「薪もギリギリだったんだろう。誰かに傍にいて欲しかったらしくて、俺を拒まなかった」
「まさかおまえ、薪に無体なことを」
 鈴木は滝沢の気持ちを知っている。前に病院で、直接本人に聞いたのだ。その彼が、夜を薪と共に過ごしたと言ったからには、当然予想される展開だった。
「俺は、豊村みたいに乱暴な真似はしなかった。ちゃんとやさしくしたさ。薪も満足してくれて」

 それ以上は聞きたくなかった。
 止めろ、という言葉よりも前に、右の拳が滝沢の頬にのめり込んでいた。言葉を発する余裕もなく、鈴木は彼の上に馬乗りになり、何度も彼の顔を殴りつけた。

 殺してやりたいと思った。
 その感情が自分のものなのか、自分の中に蓄積された貝沼の意思なのかは、当の鈴木にも分からなかった。

 現場経験が長く捕り物にも長けた滝沢は、隙をついて鈴木の両手を捉えた。自分の上に乗った男の背中に、容赦なく膝頭を叩き込む。
 その痛苦に鈴木は呻き、滝沢の上から転がり落ちた。これまでの殆どを内勤で過ごして来た鈴木が、肉弾戦で滝沢に勝てる道理がなかった。

「俺だけじゃないぞ」
 現場で鍛え上げられた滝沢の身体は頑強で、鈴木に殴られた痛みなど感じていないように見えた。たった一発の膝蹴りで咳が止まらなくなってしまった自分との差が口惜しくて、鈴木の憤りはますます強くなった。

「おまえも薪を抱いてみればわかる。薪は何人もの男を知ってる。あれは素人の動きじゃない」
「嘘をつけ! 薪のことはオレが一番よく知ってる。薪はそんなことはしていない」
「信じる信じないはおまえの勝手だ。好きにすればいいさ」
 一歩リードしたものの余裕か、滝沢はそんな風にうそぶくと、床に胡坐をかいて穏やかに言った。

「薪が望めば、俺はいつでも彼を抱く」
 ゼイゼイと息を弾ませて、でも深呼吸をしようとすると咳が出る。鈴木は黙って彼の話を聞くしかなかった。
「今までも、これからも、薪を愛する男はたくさん出てくるだろう。俺はその中のひとりに過ぎない。それでもいいと思っている。あいつだって淋しいんだ。本当に欲しい相手は手に入らないから」
 薪の想い人に嫉妬するでもなく、滝沢は静かに言って立ち上がった。床にへたったままでいる鈴木にくるりと背を向けて、
「薪の気持ちはわかる。あいつが淋しさに耐え切れなくなったとき、慰めてやれればそれでいい」

 滝沢の逞しい背中を見ながら、鈴木は嵐のように荒れ狂う心を抱えていた。
 滝沢は大人で、たぶん自分よりも精神的に円熟している。その事実は、認めざるを得なかった。でも。

 オレの方が薪を愛してる。
 ぜったいにぜったいに、オレの方が。薪を幸せにできる。
 オレはこれからそれを証明する。薪の憂いを、オレが全部払ってやる。

 モニターに向かって捜査の続きを始めた滝沢を尻目に、鈴木は一人、特捜用の個室へ向かった。



*****


 すみません、鈴木さんイジメがすっごく楽し、、、、すみません。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Cさまへ

Cさま、こんにちは~。

くら~~い展開でも、好み、楽しみ、とおっしゃっていただけて嬉しいです~。
わたしは、書くのは楽しかったんですけど、読むとなると敬遠しちゃいそうです。(^^;


>特に,薪を襲い、そのネクタイを使って豊村が自殺をした展開は,『なるほど!だから薪さんもうネクタイしないのね!』と合点がいきました。

きゃー、これはオリジナル設定なんですっ。
1巻の85P、ドアの前に座ってる方の首には、細い黒紐のようなものが掛かっています、ネクタイではないです。
でも、そうだったら納得いくなあ、と思って書きました。<アクマ。

鈴木さんの暴走も、どきどきしてくださって、ありがとうございます。 わたしも書いててとっても楽しかっ・・・・・・自重します。

で、このお話、ラストまで暗いんですけど・・・・・ほら、滝沢さんが改心しちゃうと、もう第九に戻ってこなくなっちゃうから、原作と違っちゃうでしょう?
すみません、救いの無い話で、でも、Cさまにお付き合いいただけたら幸甚でございます。
あと3回です。 よろしくお願いします。

Mさまへ

Mさま、こんにちは。


>鈴木~、信じるなよ~^^;

もう、マトモな判断ができない状態だったということで。(笑)

そうですよー、薪さんが滝沢さんになんて、そんなシーン、ビジュアル的に受け付けません!
というか、わたしは鈴木さんと青木さん以外は、どんな超絶美形を持ってきてもダメですけどね。(^^;
でもそうか、無理矢理ならいいのか。←冗談だって分かってますよ☆


>自殺じゃなくて滝沢が殺していたとは。どこまで悪なんだ、滝沢(笑) 

芯まで悪党になってしまいました~。
いやー、貝沼の画を見なければ、ここまでいかなかったはずなんですけど。 貝沼の狂気は間違いなく彼にも影響を及ぼしていたということで・・・・

ていうかですね、貝沼の凶行の原因は薪さんへの恋情だったわけでしょう? すると、それを見て一番影響を受けるのは、やはり誰かを強く愛している人ではないかと思うのです。 
その観点から言うと、この第九で一番狂気に傾く可能性が高かったのは、鈴木さんと滝沢さんなんです。 薪さんのショックは、また種類が違います。 だから狂ってないの。
それが外に向けられるか内に向かうかは、持って生まれた性格とかこれまでの人生経験とかで変わってきてしまうけれど、愛する人に対する執着は同じくらいだった、という設定で書いてます。


>でも皆が自殺より納得の展開かも知れませんね。でないと青木は何で平気なのか?の疑問が…。

ですよねー。
だいたい、猟奇殺人なんか見慣れてるでしょう?<聞きようによっては物凄い発言だな、オイ。
それがパワーアップしたからって、吐き気ぐらいは感じるかもしれないけど、狂わないでしょう、普通。
そこでわたしが思ったのが、貝沼の歪んだ愛情に感化されたのではないか、と。  だから鈴木さんは狂ったけど、青木さんは狂わなかった。 鈴木さんは薪さんを愛していたけれど、青木さんは愛していなかったから。 てな解釈で、ラストカットを書いたんですけど。
で、他のみんなは・・・・・やっぱり滝沢さんに殺されちゃったんだよ。(笑)

なんて、アクマ的なことを考えつつも、滝沢さんはいいひとだと頑なに信じているしづでした。


>アニメのあれは結構納得でしたもの、爆発落ちは別として(ーー;

アニメの「催眠術」は、なるほど!と思いました。
あの矛盾と綻びを恐れないアニメスタッフ(話の前後で薪さんの心情がつながってないんだもん(^^;) ある意味尊敬に値しますが)が、どうして鈴木さんは狂い、青木さんは狂わなかったのか、という疑問を見事に解決しましたものね。

原作では、その辺の謎は謎のまま終わってしまいそうですね。 年内ということでは、あと何回も残ってないし、現在の事件を解決するだけでいっぱいいっぱいだと思います。
もしかしたら、番外編で描いてくれるかもしれませんね。
薪さんと青木さんの未来編も読みたいけれど、そっちは切なくなりそうなので(^^;
過去編のすずまきさんがいいなあ。
とか期待させておいて、山本さんと滝沢さんが主役だったらどうしよう。(笑)

Aさまへ

Aさま、こんにちは♪

はい、余震が続いておりますね。 
毎日続くものですから、すっかり慣れてしまって。(^^;) 震度3くらいじゃPCの電源を切ることもしなくなっていたのですが、さすがに5強となると~。 焦りました。
その後も、4くらいのが何度も何度も繰り返し襲ってきて、本当に日本はどうなってしまうのだろう、と不安になりますよね。(><)

しかし、Aさまも、慣れてきてらっしゃる?
>これ書きながらまた揺れてる~!
揺れたら避難しましょうよ、お互い。(笑)


そして、
ほーら、やっぱりイヤでしょう?<セのつくお友だち。
Aさまもモノガミストになっちゃえ~。(笑)

>薪さんは鈴木さんが生きてる間は寂しくても他の男とはしてないと思いますよ!

わたしもそう思います~。
わたしの薪さん像は、超モノガミストなんです~。
鈴木さんが亡くなってからは多分、死んじゃいたくなる夜とかあったんですよね。 そういうときに、人肌を求めたのかもしれないな、とは思ってるんですけど。
青木さんに恋をしてからは、きっとまた、他の人とはしなくなったんじゃないのかな。 
彼を好きだという気持ちを大事にしたかったら、安易に代用品で済ますことはしないと思うんです。 薪さん、強い人だし、プライド高いから。

なーんて、自分の主義を薪さんに押し付けてたりして。 勝手だな。(^^;

Mさまへ

Mさま、こんにちは!

えっ、原作でも、ですか?
そ、それはカクジツに
原作でしてはいけない3つの禁忌の一つだと思いますが、(残りの2つはなんでしょう・・・・)
はい、見てみたいですねっ!
肩を叩いたくらいでヤキモチ妬いてましたものね~、こんなことを吹き込まれたら大変なことになってしまうでしょうね~。
楽しそう~~。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: