破壊のワルツ(30)

破壊のワルツ(30)





 その夜、約束通り、薪が家に来た。

 鈴木が眠っている振りをすると、彼は謙虚にも親友の顔も見ずに帰った。
 玄関を出て、塀の前で立ち止まると、彼は明かりの点いていない二階の窓を見上げた。鈴木の母親からの差し入れを大事そうに両手で持ち、(多分中身は煮込みハンバーグだ。夕方、その匂いがしていた)長いことこちらを見ていた。
 やがて彼は小さなため息を吐くと、肩を落して帰っていった。鈴木はカーテンの隙間から、その様子をじっと見ていた。

 彼がいなくなると、母親が風呂に入っているときを見計らい、鈴木はそっと家を抜け出した。駅前でタクシーを拾い、研究所へ向かう。
 無人の第九を訪れ、IDカードと指紋センサーで中に入る。MRIシステムを起動させ、自分の席に座ってモニターの電源を入れた。

 24人目の被害者までは見終えた。25人目で薪が止めに来たから、そこからだ。
 少年のふくらはぎで作ったハンバーグをフライパンで焼く貝沼の、何ともいえぬ楽しげな手つきを眺めながら、鈴木は彼のことだけを想う。

 やさしい薪。
 オレのことをあんなに心配して、他の連中のことにも心を痛めて。勝手に死んだやつらのことなんかどうでもいい。薪が気にすることはないのに、あんなにあんなに辛そうな顔をして。
 かわいそうに、オレの薪。
 もう少し、もう少しで全部見終わる。そうしたら、薪に教えてやろう。
 貝沼の事件は、おまえとは何の関係もない。心配しなくていい。それから。
 もう、淋しい思いはさせない。おまえの気持ちは知ってる、だから。
 ふたりで、ずっとふたりだけでいられるところへ行こう。オレたちが何をしても、誰からも何も言われない、何物にも干渉されない、そういう場所に行こう。
 やさしいおまえがその心を痛ませないためには、そうするしかない。
 おまえを永遠に守るには、それしかないだろう?

「あと少しだよ……まき……」

 画面の中では貝沼が、留置所の洗面所で顔を洗っていた。彼は濡れた顔を上げ、小さく濁った瞳で自分の顔を見た。
 次の瞬間。
 彼は鏡の中に、自分以外の誰かを見つけたように、喜びに顔を輝かせた。離れ離れになっていた恋人に再び巡り合ったときの、はしゃぐような笑顔がそこにあった。
 逮捕され取調べを受けている彼の身の上に相応しくない表情に、鈴木は背筋を凍らせる。

 鏡の中の貝沼の唇が、鈴木のよく知った名前を象り始めた。
 それは鈴木に振り下ろされた、最後の槌だった。



*****



 翌、8月10日、深夜。
 科学警察研究所法医第九研究室に、3発の銃声が轟いた。
 狂ったように鳴く蝉の声が木霊する、蒸し暑い夏の夜だった。





*****






 ということで、わずか3日で崩壊してしまった第九ですが、
 原作もこれくらいのハイスピード崩壊だったのではないかと想像します。 少なくとも、貝沼が捕まったのは8月に入ってからなので、鈴木さんの発砲事件で幕を閉じるまでに10日も経ってないんですよね。

 それと、知らなかったんですけど、最近のミンミン蝉は夜中も鳴くんですね。
 蝉は一定の気温に達すると鳴く性質を持っているので、熱帯夜なら、しかも夜中でも明るい都会なら、ガンガン鳴くそうです。
 実はですね、わたしは鈴木さんの事件を8月9日の早朝だと思っていたのですよ。
 6巻のP25に新聞記事が載っていて、その前の銃声が響いているコマは昼間のように見えるし、そこではミンミン蝉が鳴いていたからです。
 薪さんの夢で8月10日の0時だったことが判明し、蝉の種類もあぶら蝉に変わってて、おやあ? 設定変わったのかしら、ミンミン蝉は夜は鳴かないよね? と思って調べたら、鳴くんですねえ。
 未来では、今よりも温暖化が進んでいることでしょうから、充分に考えられる現象ですね。
 あとは、記者会見の時間の問題だけだな。←いやな読者だな~。(笑)



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

あ、Mさまが泣いてる・・・・・

>やっぱりこの事件は、漫画史上に残る悲劇だと思います。

そうです、Mさまのおっしゃる通りです。
愛していたからこそ起きた悲劇なんですよね。(;;) それが一層、哀しくて・・・・鈴木さんの薪さんへの愛を思うたび、涙が止まりません。
やっぱりすずまきさん、最強です。<おーい、あおまきすと~?


>ところでしづさんの検証、素晴らしいっ!ミンミン蝉の性質までチェック済みとは(笑)

いやー、てっきり8月9日の早朝と信じていましたからね~。
それが覆されたので、そんな?! と思って調べたんですよ。 思い違いを認めたくなかっただけなの。(^^;
整然としたレビューを書かれるMさまに褒めていただいて、照れます~~。
ありがとうございました。(〃∇〃)

Aさまへ

Aさま、いらっしゃいませ。

>鈴木さんは薪さんと心中する気だったということですか・・?

そうです。
作中の「ふたりで、ずっとふたりだけでいられるところへ行こう」という鈴木さんのモノローグは、突き詰めれば「一緒に死のう」という意味になります。 
このとき、鈴木さんは完全に狂っていて、それが結果的に何を意味するのか、正常な判断ができませんでした。
もちろん、これはうちの二次創作上の設定で、原作とは異なります。
原作の鈴木さんには、そんなつもりはなく、ただ純粋に薪さんを守りたかっただけだと思います。


>私は何故、鈴木さんは薪さんに発砲したのか?自分を撃たせるため?とか思いましたが、ちょっと腑に落ちなかったんですね。

わたしも! わたしもです!
「オレの頭を撃ってくれ」は分かるんですけど、薪さんに対して発砲してるんですよね。 
わたしもAさまと同じように、自分を撃たせるための威嚇射撃か、と解釈しましたが、これは二次創作なので。 より腐女子的に、ドラマティックに、心中説を展開してみました。

色々な解釈があって、そこからまた、様々な二次創作が生まれる。
この「秘密」という物語は、薪さんのモノローグが少なくて彼の気持ちがハッキリわからないこと、鈴木さんが最初から亡くなっているので、彼のひととなりを想像する余地が沢山あること、など、創作が生まれやすい土壌を持っているのですよね。
本当に、奥が深いです。

Mさまへ

そう、そうなんですよ。 雪子さん、ワンシーンも出てこないのよ、この話。
ホント、立場ないです。
鈴木さん、婚約した彼女のこと一秒も考えてないし。 ひどいよ。(笑)

原作でも、恋人のクセに何をやってたの、と言われがちな彼女ですが、
多分、ものすごいスピード崩壊で、気付いたらすべて終わった後だったのではないでしょうか。
仕事帰りに鈴木さんの部屋に行ってたのは、心配だったからと言うよりは、単に付き合ってたからだと思うんですよね。 (一時も眼を離したらヤバイ状態だったら、置手紙を見た雪子さんは、すぐに第九に直行するんじゃないのかな?)
それじゃなくても少々鈍いところのある女性ですし、他人の苦しみは中々分からないものですしね・・・・・
わたしもオットの悩みとか、全然気付かないことがあるから身につまされます・・・。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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