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秘密の森のアリス(5)

秘密の森のアリス(5)





「青木さんていうの? 面倒な男ね。あなたの話が本当なら、彼とっくに殺されてるわ」
 足音を隠す余裕もなく、ふたりは目的の部屋までの道を急いでいた。

「でも、そんなに心配することないわよ。今までも奥さんのいる男は何人も来たけど、彼らの上には大抵、奥さんよりも若くてきれいな女性が乗ってたから」
「世間一般の男の基準であいつを測らないほうがいい」
 薪はそれを青木という人間を冷静に判断した上で言ったのに、青木のことを知らない少女には、自惚れに聞こえたらしい。大した自信ね、と小さく口中で呟き、
「はいはい。それじゃ、妖怪の変身能力に期待するのね。あなたそっくりに化けられてるといいけど」
 冷やかす口調で言われて、薪は少々腹を立て、
「彼の上にどこかの女が乗ってたら、それはそれで僕が彼を殺すけど」
「……シュールすぎて笑えないんだけど、その冗談」

 裾の長いドレスを蹴立てて走る少女の後ろを、薪は必死に付いていく。薪は足はかなり速いほうだが、この少女の走りはすごい。陸上でもやっていたのだろうか。
「大丈夫? 息、上がってるみたいだけど」
「ああ。でも、こんなに遠かったかな」
「一番未熟とはいえ、さっきの奴も妖怪だからね」
 瞬間移動のような力でも持っていたのだろうか。周りが同じ土の壁だから、気がつかなかった。
「青木の意識さえ戻れば、彼は僕よりも強いから。そう簡単にはやられないと思う。銃も持ってるし」
 青木は薪のボディガードとして正式に任命されているから、銃の携帯を許可されている。いつも持ち合わせているわけではないが、今回のように遠出をするときには何があるか分からないから、必ず持っているはずだ。妖怪に鉄砲玉が効くかどうかは不明だが、丸腰よりは心強い。

「あなたがさっきやっつけた奴は、まだ年が若いから普通の人間よりちょっと固くて力が強いくらいだけど、一番年長の奴はそう簡単にはいかないわ。力は人間の何倍もあるし、車にぶつかっても傷ひとつ付かない丈夫な身体を持ってる」
「げ。そんなデタラメな奴にどうやって対抗するんだ?」
「大丈夫、こっちにも秘密アイテムがあるから」
「秘密アイテム?」
 そんなものがあるのか。さすがは彼らと3年も暮らしてきた少女だ、只者ではない。もしかすると、逃げ出す機会を伺いつつ、彼らの弱点を研究していたのかもしれない。
 走りながら、彼女はエプロンのポケットからカラフルなステッキを取り出した。

「これよ、魔法の杖」
 …………オタクのコスプレイヤーの言うことなんか、マトモに信じた僕がバカだった。

「あ、信じてないわね。あなた、そんなんだから彼らの姿が見えないのよ。可哀想なひと」
「僕の年になってそれを信じられたら、別の意味でカワイソウな人だよ」
 それよりも青木が心配だ。
 青木は確かに強いけど、それは人間相手のときだ。心を読むという妹と、怪力を持つという兄。妹が青木の心を読み、兄に伝える事ができたら、青木の攻撃はすべて相手に予測されてしまう。まともに戦えるとは思えなかった。
 殺されてしまうくらいなら、浮気してくれたほうがいい。仲間由○江でも蒼○優でも、なんだったら僕のフ○キョンを貸すから! だれでもいいから青木の上に乗っかっててくれ!

「部屋が見えてきたわ、あの突き当たり……!」
 前を走る少女が言い終わらないうちに、部屋の入り口から放り出された人影があった。
「青木っ!?」
 思わず呼びかけるが、それは彼ではなかった。亜麻色の短髪に華奢な肢体、下着をつけていない身体が妖艶に透ける膝丈のチュニック。

「……僕?」
 って、ちょっと待て―――――っっ!!
 なんだ、その場末のストリッパーみたいな衣装は! 僕の顔を使うならもっとマトモな服を着ろ、てか、お願いだからパンツ穿いて!! でないと僕は、猥褻物陳列罪の罪で、自分に自分で手錠を掛けなきゃならなくなる!

 放り出された人影は直ぐに立ち上がると、部屋の中に取って返した。なにやら揉めているような2つの声が聞こえて、その片方が自分の恋人の声だと知って、薪はその場にへたり込みそうになる。
「中で何をしているのかしら」
「なにって」
 子供には見せられないことに決まってる!

 入り口までの20mを全力疾走で駆け抜け、薪は部屋に飛び込んだ。
「青木、無事か!」
「ちょっ、わたしを追い抜いていくなんて無鉄砲すぎっ、あら、1人だけ?」
「え? 僕に見えないだけじゃなくて?」
 部屋の中にいたのは、青木と薪にそっくりな青年の2人だけだった。つまり、これは男性の心の中が読めて、好ましい姿に変身できるという妹の方だ。どうして兄の姿がないのだろうと考えて、すぐにその理由に気付く。
 彼らの目的は青木の精を絞ること。席を外すのが当たり前だ。
 これはチャンスだ。兄の方は相当の手練と聞いている。彼がいないうちに、ここを離れられれば。

「青木、今のうちに逃げ」
「薪さん」
 青木は自分の腕に縋るようにしていた細身の青年を邪険に突き飛ばすと、薪の方へ一目散に走ってきた。薪の言葉を途中に、その長い腕に彼を封じ込めて、深く息を吐く。
「よかった、無事だったんですね!」
 ぎゅっと抱きしめられて、薪は目をつむる。こんなことをしている場合じゃないのに、だけど安心して力が抜けてしまった。
「どこも痛くありませんか? せっかく旅行に来たのに交通事故なんて、ついてませんでしたねえ」
 青木は薪の身体を確かめるように、背中から腕、それから頬に手を当てると、薪の顔を上向かせて、彼の瞳をじっと見つめた。青木の黒い瞳に、微かに水膜が張っている。よほど薪の身を案じていたのだろう。

 チッと舌打ちする音が聞こえて、彼らの傍らを薪にそっくりの男が走り抜けて行った。
「青木、あいつは」
「ああ、あのひと。何を考えてるのか知らないけど、あんな格好でオレに迫ってきたんですよ。だから思わず跳ね除けちゃって」
「どうして」
「え、だってオレ、薪さん以外の男の人は興味ないし、てかすみません、気持ち悪いです」
 その姿はどこからどう見ても自分なのに、『気持ち悪い』などとヒドイ言葉で拒否されて、薪は複雑な気分になる。青木の心の中に、自分以外愛を捧げる相手がいないことが立証されたのは嬉しいけれど、薪と同じ外見の人間にまったく惑わされないのは矛盾しているような気がする。

 自分を放そうとしない青木の腕を力ずくで押しのけて、薪は少し非難がましい口調で言った。
「あいつ、僕にそっくりじゃないか。どうして偽者って解ったんだ?」
「え? ぜんぜん違いますよ?」
 青木は不思議そうに首を傾げて、薪の顔を覗きこんだ。間近に迫ってこられて、薪の心臓がとくんと跳ねる。
 いやいや、これはさっき走ったから。付き合い始めて4年にもなるのに、いまさら顔が近付いたくらいでときめいたりしないから。

「どこが似てるんですか? 薪さんの方が100倍きれいですよ。
 顔も身体も声も匂いも、まるで違います。オレいつも、薪さんを見た瞬間にドキドキするんです。それから嬉しくなって、幸せな気分になって。でも、あの男には何も感じませんでした」
 騒ぎ出す心臓を押さえられない薪が必死に言い訳を重ねる間にも、青木はますます薪の胸中を乱す言葉を重ねてきて、薪は頬に熱が上るのを抑える事ができない。だから薪はいつものように、そっぽを向いて憎まれ口を叩く。
「おまえ、眼鏡作り直したほうがいい」
「えー、なんでですか?」
 薪には鏡を見ているとしか思えなかったのに、こいつの眼は腐ってる。

 横を向いた薪の視界に、ぼーっと立っている少女の姿が映り、薪は彼女の存在を一時忘れていたことに気付く。
 まずい、彼女の前で抱き合ってしまった。彼女にショックを与えてしまったのではないだろうか。腐女子というのは幻想の世界に生きるものであって、現実を見たら引く可能性が大きいと、雪子の助手から聞いた事がある。
 しかし少女は茶色の瞳を熱っぽく輝かせ、
「ステキ……見かけに惑わされることなく、真の恋人を見抜くなんて。BLっていいわあ」
「BL言うなっ!!」
 腐女子の妄想とイコールにカテゴライズされてたまるか!!

「誰ですか、この子」
「行きずりの腐女子だ」
 彼女の逞しい精神には感謝すべきところだが、BLとか呼ばれたくない。だいたい、僕たちボーイズじゃないし!

「『ふじょし』ってなんですか?」
「BLをこよなく愛するエイリアンだ」
「『びーえる』ってなんですか?」
「……おまえは知らなくていい」
 ああ青木、なんて純粋でかわいいやつなんだ、抱きしめてやりたい。

 現実から外れて行きそうになる薪に再び緊迫感を与えてくれたのは、夢想が得意なエイリアンだった。
「もうちょっと妄想してたいけど、妹の方が兄を呼びに行ったから。早く逃げましょ」
「逃げる? どうして」
「逃げながら説明する。早く来い」
 1人だけ状況のわかっていない青木の両腕を引いて、薪と少女は部屋から駆け出した。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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