天国と地獄3 (1)

 こんにちは。

 こちら、『天国と地獄』シリーズで書いたんですけど、なぜか内容が岡部さんの話に……。
 実は本編の方で、岡部さんの好きなひとについて幾つか伏線を張っておいたのですが、(『仮面の告白』とか『ファイヤーウォール』あたり) 回収しきれなくなりまして。(^^;  
 暴露しますと、回収しようにもあまりに絶望的な恋路なので、本編では絶対に悲恋になる、ので、ハッピーエンド主義者の筆者には荷が重く。 苦し紛れに、何でもありのこちらで回収を目論んでみました。
 
 男爵カテゴリにしても悲恋に違いはないのですけど、こちらはギャグなので~、
 笑っていただけるとうれしいです。(^^ 


 あ、それと、こちらリハビリ第2作目で、文章がかなりぎこちないです。 ストーリーもギャグもいまいち☆
 どうか、広いお心で。


 


天国と地獄3 (1)





 地球温暖化の影響かオゾン層の破壊か、とにかくあまり慶ばしくない環境問題が原因であろうと察せられる暴力的なまでの集中豪雨。『ゲリラ豪雨』という名称も聞き慣れて久しいが、その名のごとく、こちらに準備をする間も与えず突然襲い掛かってくるのが特徴だ。

 慌てて逃げ込んだ店舗の軒下で、岡部靖文は恨めしそうに空を見上げていた。
 人間相手なら怖いものなど無い岡部だが、自然現象には勝てない。自分ひとりならともかく、連れを雨に濡らすのは避けたかった。
 彼は岡部の横で、同じように空を見上げている。こんなところで時間を無駄にしているのが腹立たしいのか、一向に弱まる気配のない雨脚に軽く舌打ちして、
「最初の雨粒が地面に落ちて、3分もしないうちにずぶ濡れなんて。ここまでくると自然現象というよりは、兵器だな」
 積乱雲に突拍子もない言いがかりをつけているのは、岡部の直属の上司だ。仕事が引けて、一杯飲みに行こうと目当ての小料理屋への道すがら、この集中豪雨に見舞われて雨宿り中、というわけだ。

「確かに、ここまで勢いがつくと雨粒も痛いですね」
 苦笑しつつも上司の意見を否定することはせずに、岡部は相槌に近い言葉を返す。
「相変わらず、面白いこと考えますね」
「できないことじゃないだろ? ヨウ化銀やドライアイスを用いて、人工的に雨を降らせることは可能だ。ヒートアイランド化している都市の上空に限定してばら撒けば、簡単にこの現象を起こせるはずだ」
「だれがやってるんですか、そんなこと」
「ロケ○ト団あたりじゃないか?」
 岡部が子供の頃に流行ったアニメの悪役の名称が出て、岡部はそこでやっとそれが薪の冗談だったことに気付く。このひとは真面目な顔で小難しい冗談を言うから、本気と冗談の区別が付き難いのだ。
「見てたんですか? ポケ○ン」
「あはは、やっぱり岡部は話が通じるな。こないだ青木に言ったら、ぜんぜん通じないんだ。12歳も違うと、思い出のアニメも違うんだな」
 苦笑いをして下を向き、華奢な肩を竦める。細い首を左右に振ると、亜麻色の髪から水滴が飛び散った。

 薪の向こう側で同じように雨宿りをしているサラリーマンの2人組が、ちらちらとその様子を見ている。片方の男が、もう一人の男にそっと目配せしたのに気付いた岡部は、雨の中を一歩踏み出した。
「いや~、お互い参りましたね、この雨で……」
「ええ、まったくですな」
 隣の男に声を掛けられたことに気付いた薪が顔を上げるより早く、岡部は薪とその男の間に滑り込んだ。薪の代わりに至近距離で応えを返してやると、2人組はじりじりと後ずさり、何を思ったかゲリラ豪雨の中を走って行ってしまった。

「ひゃー、本物のヤクザ、初めて見たよ! やっぱ迫力あるな」
「あの娘、清純そうな顔してヤクザの情婦かよ。人は見かけによらないな」
 ちょっと待て、禁句を発して消えるのはやめてくれ! とばっちりはこっちに来るんだぞ!

 先刻、人間相手なら怖いものはない、と岡部は言ったが、ひとつだけ例外がある。この上司だ。
 先ほどの2人組が勘違いしたように、彼の見てくれはスーツを着ていてすら女性に間違われてナンパされるほどの優男だが、中身は猛禽獣だ。怒るととてつもなくコワイ。本気で怒った薪に見据えられると、岡部は身体が動かなくなる。
 そして、彼の最も危険な逆鱗が『女性に間違われること』なのだ。

 恐る恐る振り返ると、意外なことに薪は平気な顔をしていた。不思議そうに首を傾げて、
「どうしたんだ? あの二人」
 どうやら、彼らの捨て台詞が聞き取れなかったらしい。雨音のおかげで命拾いした。
「この雨の中を、あんなに急いで」
「さあ。ポケ○ンの再放送でもあるんじゃないですか?」
 薪の疑問を、岡部は冗談で煙に巻く。真実は言えない。岡部だって、まだ命が惜しい。

「あのう」
 控え目な声掛けに、岡部は再び焦燥する。
 一難去ってまた一難、続いて薪に声を掛けてきたのは、さっきまで岡部の隣にいた大学生風の若い男だ。
「よかったらこのタオルを使っ、ひいっ!!」
「ありがとうございます、使わせていただきます」
 再び薪の前に回り込み、男子学生からタオルを奪い取る。顔を近づけ、相手の目を見てきちんと礼を言い、取調室で鍛えた低く野太い声で、
「洗濯してお返ししますから、ご住所とお名前を」
「か、返さなくて結構ですからっ!!」
 お化けでも見たような真っ青な顔になって、男子学生は雨の中へ消えて行った。消え去る間際に言い残した言葉が、
「やべー、美人局って本当にあるんだー」
 とうとう犯罪者だ。

「……あの人も、ポケ○ン見に帰ったのか?」
「ええ。そうらしいですね」
 白々しい岡部の言葉に、クスクスと笑い出す薪を見て、彼らの間違いは彼らだけの咎ではないと岡部は改めて思う。
 雨に濡れた薪は扇情的だ。
 つやつやした亜麻色の髪から滴る水滴が、真珠色の頬を流れ落ちる。その水玉たちが行き着くのは細い首筋、それからボタンを外した胸元だ。広げた襟から、きれいな鎖骨が覗いている。蒸し暑い夏の夕暮れ、ネクタイを取ってしまっているのも、彼が女性に間違われる要因のひとつになっている。
 さらに、仕事中はギンギンに張り詰めている人を寄せ付けないオーラが、プライベイトの薪には感じられない。特に岡部や自分の部下たちと共に過ごすときには、和んだやさしい雰囲気になる。その分、他人からも声を掛けられやすくなるのだ。

 きりがない、と岡部は思った。
 今のところ薪は、自分が連続で女性に間違われていることに気付いていないようだが、いずれ本当のことを知るだろう。が、その怒りは間違いを犯した彼らには向かない。薪は警察官だから、一般市民に対して危害を加えるような真似は絶対にしないのだ。
 しかし、彼の怒りが消えるわけではない。どこかで発散しなければならない。
 こういう場合、ほぼ100%の確率で怒りの捌け口となるのは、自分たち部下だ。

「冗談じゃねえぞ」
 非常事態だ、と岡部は思う。
 雨が小止みになって、目的の小料理屋に行ったとしよう。薪が暖簾をくぐった途端店中の注目を集めて、その抜きん出た容姿でもって彼らの視線を固定し、さらには絶世の美女と自分のような無骨な男との関係を面白おかしく推測されて、それを薪が耳にしようものなら、明日の太陽が拝めるかどうか。
 きちんとスーツを着たいつもの薪ならそこまでの心配は要らないが、今日の薪はそうなる確率が大きい。雨が止んだら飲みに行くのは諦めて、家に帰らせよう。

 命の危険を感じている岡部の隣で、薪は濡れた前髪をかき上げた。
 それは、鼻先に落ちかかる水滴を後ろに流そうとしているだけのことなのに、何を思ったか隣の店舗で雨宿りをしていた連中がこちらの軒下に移ってきて……。

 雨が止むのを待っている猶予はない、早いところ薪を人目に付かないところに避難させないと。
 いったいどこへ、と考えて、岡部は一番最初に自分の家を思い浮かべ、直ぐにその案を却下した。家には母がいる。彼女を薪に会わせるわけにはいかない。
 しかしそこで岡部は今朝、母親と交わした会話を思い出す。彼女は今夜、同窓会で遅くなると言っていた。ならば、薪を自宅に招いても何の問題も起きないはずだ。

「薪さん、俺の家に来ませんか。ここから走って3分くらいです」
「え?」
 苦し紛れの岡部の提案に、薪はきょとんと眼を丸くして、
 ちょっ、ダメですってば、あなたがそんな顔するもんだから、向かいの店舗の連中までこっちに走ってきたじゃないですか。

「いや、濡れたままだと風邪引きますから」
「ありがとう、岡部。シャワーを貸してもらえると助かる。雨でシャツが張り付いて、気持ち悪かったんだ」
 あー、ほらほら、そんな、湖から出てきた女神様みたいに微笑んだりしちゃダメですって。斜向かいの店舗の連中までどよめいてるじゃないですか。てか、シャワーに反応して薪の横で鼻血出した男の顔、警視庁のブラックリストに追加決定。

「じゃ、行きますか」
 二人はひょいと鞄を横にしてそれぞれの頭の上に乗せると、斜向かいの店舗から走ってくる男たちを尻目に、未だ弱まらない雨の中を駆け出した。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
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