天国と地獄3 (3)

 こんにちは。

 お話の途中で2日ほど落ちちゃいました。
 コメントのお返事も遅くなりまして、すみませんでした。

 で、しばらくぶりに戻りましたら、 

 いつの間にやら4万ヒット!  
 みなさまのおかげです、ありがとうございます!!
(3,4日前だったのかな、気付かなくてすみません~。 お礼言うの遅れちった)

 文字ばっかりで退屈なブログに、今日もようこそおいでくださいました!
 感謝の気持ちを込めて、お話のつづきです。
 本日もバカバカしくってすみません……。







天国と地獄3 (3)




「………………………………………………………………………………お母さん?」

 長すぎる間は、彼女の言葉を理解するのにそれだけの時を要した、ということだ。
 薪の頭脳に搭載された超高性能ハードディスクは、網膜から入力されたデータと耳介から飛び込んできた言語の間に存在する乖離の大きさに、一瞬でクラッシュした。仕事用の頭脳が働かなくなった彼に残されたのは、ズレまくってる、とかつて何度も親友の失笑をかったプライベイト用のIC。それは時に常識を軽々と超えて、人々を驚嘆させる結論を導き出す。

 ――――― 彼女が岡部の母親?
 ありえない。10代で岡部を産んだとしても、岡部は現在38、ならば母親は50代後半のはずだ。
 色眼鏡の強度を割り増ししていくら年嵩に見ても、彼女は30代後半。それ以上は無理だ。でないと、己の常識が崩壊する。これが50代後半の肌だったら、彼女は人間じゃない。
 ……もしかして、魔女?
 夜な夜な若い娘の生き血を絞ったバスタブに身を沈めて、『わたくしに永遠の若さを』とかやってる? 岡部は彼女の魔力で操られてて、生贄の調達をさせられ――。

「ぼ、僕は男ですから! 僕の血に効き目はないと思います!」
「はあ?」
 緑がかった目とピンク色の唇をポカンと開けて、薪に相対した美女は返された言葉に呆然とする。
 彼女が点目になるのも無理はない。急に青冷めて、突然叫んだ薪の思考経路を読める者がいたとしたら、それは神さまかテレパシストか。
 いやいや、岡部副室長その人だ。

「お母さん。風呂を使いますから、着替えを用意しておいてくれますか?」
 岡部は薪の思考があさっての方向へ暴走しているらしいことを悟ると、機転を利かせて彼女をその場から去らせた。こんなスットンキョーなことを考え付く変人の下で自分が働いていると分かったら、彼女に要らぬ心配をさせてしまう。
 彼女が岡部の部屋に着替えを取りに行ったのを確認して、岡部は上司のあり得ない誤解を解きにかかった。

「薪さん、安心してください。おふくろは普通の人間です」
「嘘だ! あんな50代が存在してたまるか。いくら女性が化粧で化けるからって、実年齢より20歳は若く見えるぞ? 人間業じゃない」
「いや、あなたには言われたくないです」
 実年齢より20歳若く見えるのはお互いさま、ちがう、彼女は普通の人間だ。異常なのは薪だけだ。
「彼女は実の母親じゃありません。年齢は俺より下です」
 嫌々ながらも岡部家の事情を白状すると、薪は亜麻色の瞳を小さく引き絞って、「ああ、なるほど」と軽く手を合わせて頷いた。

「そうか、思いもよらなかった。事実は小説よりも奇なりというやつか」
「見た瞬間に分かるはずなんですけどね。全然似ていないし」
「そんなことはない、共通点はあるぞ。眼が二つで鼻が一つで口が」
「仕事が絡まないとその程度の顔認識能力しか発揮されないんですね……」
 不思議な人だ、仕事の時は顔認証システム真っ青の記憶力なのに。この人の頭の中ってどうなってるんだろう。

「なるほど、義理のお母さんか。て、おまえ、あんな美人とふたりきりで暮らしてたのか?!」
 言われると思った。だから会わせたくなかったのだ。
 彼女は今夜、同窓会の予定が入っていて、ここにはいないはずだった。だから薪を連れてきたのに、この雨と猫のせいで思惑が外れてしまった。彼女は雨に濡れるのが大嫌いで、可愛いものに目がないのだ。
 岡部が今の段階で取れる最上の策は、一刻も早く薪を家から追い出すことだ。余計なことを悟られないうちに。

「そんなことはどうでもいいでしょう。とにかく、早く風呂に入って身体を温めてください。夏とはいえ、風邪を引きますよ」
 この会話を打ち切りたい気持ちもあったが、それ以上に岡部は薪の身体を心配して、彼に風呂を勧めた。それなのに薪は、岡部の言葉に頷くこともせずに、
「よく理性保ってるなー」
 このっ、スットンキョー男爵がっっ!!

「なに言い出すんですか! 母親ですよっ!」
 西の鬼瓦と称されてマル暴関係者にも恐れられる鬼警部の恫喝に、薪は顔色ひとつ変えずに平然と嘯いて、
「彼女の名前は? なんていうんだ?」
「雛子ですけど」
「ふうん。ヒナコさん、て呼んでるのか?」
「…………風呂はあちらです」
 恐ろしい眼で薪を睨んだまま、岡部はバスルームの方向を指し示した。岡部は本気で怒っていたが、薪はニヤニヤ笑いを浮かべたまま、足取りも軽くリビングを出て行った。

 何だか、一番タチの悪いひとに秘密を知られたような気がする。
 薪は一旦思い込んだら、ちょっとやそっとのことでは考えを変えない。勘違いが得意なくせに、自分の間違いを認めようとしない。現実との辻褄が合わなくなれば、思惑に合うように事実を曲げて解釈するのが得意だ。
 あれでどうして百発百中の推理が展開できるんだろう。本当に不思議な人だ。

「靖文さん」
 薪と入れ替わりに、年下の母親がリビングに入ってきた。彼女は両手に岡部の寝巻きを持っており、それを岡部に差し出しながら、常になくしおらしい口調で不安げに尋ねた。
「もしかして、わたくし、お邪魔でした?」
「まあ、会わせたくはなかったですね」
 少々無愛想に彼女から着替えを受け取り、ワイシャツを脱ごうとして躊躇する。このひとの前で着替えるのは、まずいか。

 岡部が着替えのために自分の部屋に戻ろうとすると、彼女は頬に片手を当て、ひどく後悔する様子で、
「やっぱりそうでしたの。ごめんなさい、気が利かなくて。わたくし、自分の部屋でじっとしておりますから、どうかお気になさらず。ええ、それはもう、息も殺しておりますから。もちろん、靖文さんのお部屋の様子を伺ったり、夜中に突然ドアを開けたりしませんから、どうぞ朝までごゆっくり」
 ここにもスットンキョー男爵が!!

「ちょっと待ってください!! 何を誤解してるんですか、あなたはっ!」
「いいんですのよ。靖文さんも、いつまでも子供じゃありませんもの」
「あのひとは男ですよ!! 俺の上司です!」
「えっ?」
 岡部が事実を端的に告げると、彼女は自分の思い違いを恥じるように頬を染めた。薪のことを完璧に女性だと思いこんでいたらしい彼女は、まあ、と軽い驚きの声を洩らすと、
「わかりましたわ、靖文さん。気をしっかり持ってくださいね。世間の目になんか負けちゃ駄目。一番大事なのは、お互いの気持ちですからね。お母さんは、いつでも靖文さんの味方ですよ」
 ブルータス、おまえもかっ!!!

「いやですわ、靖文さんたら。母親が息子の恋を応援するのは当たり前のことですのに。感激のあまり、涙なんて」
「カンベンしてくださいよ……」
 勘違いの大玉ころがしは薪だけで間に合ってる、ていうか、持て余してるのに!

 誤解を解く気力を振り絞ろうにも、雨に打たれてブルーになった身体と薪に秘密を知られてしまったショックで、岡部の心は麻痺寸前だった。何だか膝の力まで抜けてきて、この場に座り込んでしまいそうだ。
 がっくりと俯くと、自分の身体から落ちた雨の雫が、リビングの床に敷かれた夏用のイグサで編まれたカーペットに染みを作っているのに気付いた。これはまずい、早く着替えてこないと母親の仕事を増やしてしまう。
「俺は部屋で着替えてきます。すみませんが、バスルームに薪さん用の着替えを」
「あ、それなら脱衣所に置いておきましたわ」
 さすが母親、きめ細かな気配りはお手の物だ。
 ありがとうございます、と礼を言ってその場を去りかけた岡部は、ある可能性に気付いて立ち止まった。短い髪から拭き取り切れていない水滴が飛び散るのを気にする余裕もなく、バッと後ろを振り返って、
「どんな服を?」
「わたくしのワンピースを」

 その言葉を聞き終える前に、岡部が猛スピードで脱衣所へ走ったのは言うまでもない。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

管理人のみ閲覧できます

このコメントは管理人のみ閲覧できます

Aさまへ

5月14日 12時に拍手コメントいただきました Aさまへ


>ひーっ、可笑しすぎますーo(≧∇≦o)。
>勘違い人間の二人に振り回されて、アタフタしている岡部がいかにも苦労性の岡部らしくて、凄く可愛く思えてしまいます。

男爵が3人いたら、この世は滅ぶと言われております。<どこで?
そう、岡部さんは苦労性ですよね!
「薪警視正は精神を病んでいます」と総監に告げ口して自分が室長の座に座ることより、あんなに手のかかる上司の世話をする方を選んじゃうんだもん。 苦労するのが好きなんですよ、きっと。(笑)


>そして、可愛いワンピースを着た薪さんを一瞬想像して、似合いそうと思ってしまいました。

うちの薪さん、女装慣れしてますからねえ。
いやになるくらい自然に着こなしそうですねえ。(^^;
(原作の薪さんの女装には断固反対しますが、二次創作ではイケイケなしづです♪ )

Aさまへ

5月14日 13時に拍手コメントいただきました Aさまへ


>やっぱり、義母ですよね!

はい、ここは義母で。
岡部さんの秘められた恋なのです~。


>薪さん、事件以外の推理は苦手そう・・

もはや苦手とかそういうレベルじゃないですね、バカですね。
この人の頭脳はツイン搭載になってまして、仕事の時とプライベイト時では完全に切り替わるという設定です。 (←そうでもしないと冤罪だらけに・・・・。)


>「魔女たちの○時」
高校生にしか見えないのに35歳警察官、しかも警視正。 もう、パーフェクトですね!(笑)


>岡部さんの理性の謎が解けました(^^)

実は好きな女性がいたので、薪さんの色香に迷わなかったということで。
納得していただけてうれしいです♪


>ファンシー系ワンピ姿の薪さん、見た~い(>▽<)

あら、Aさまもですか?
うーん、じゃあ今度、すがちゃんに借りたピンクハウス系のワンピースを着て曽我さんの恋人の振りをする妄想をSSにしようかな。
あ、曽我×薪 は需要ないですか?
そうですか・・・・・・。

Cさまへ

Cさま、こんにちは。
拍手コメントありがとうございました!

わーい、Cさまに笑っていただけてうれしいです~!!

しばらくSSを書く作業から遠ざかっていたので、書き方を忘れてしまって、つっかえつっかえ書いたんですけど~、
頑張って書いてよかったなっ!

そしてCさまも、薪さんのファンシー系ワンピース姿をご所望で・・・・・・どうしてみなさん、そんなに薪さんに女性の格好をさせたがるのかしら。 (おまえが言うか)
やっぱり曽我さんの話、練り直そうかな・・・・?


拍手ありがとうございました。
続きも、お付き合いいただけたらうれしいです。(^^

Mさまへ

Mさま、こんにちは!
コメントありがとうございます!


> 薪さん そのワンピース着て~
> (↑フリフリでリボンついたラブリーなワンピースを予想。)

ああっ、Mさままで!!
(こちらの記事にコメントくださった方、オールで期待されてまして(^^;))
これはもう、新しく「薪さんがフリフリワンピースを着る話」を書かねばなりますまい!


> ユニクロの部屋着のワンピだと何の違和感も無いでしょうし…

何の違和感も無いって(^^;
でもそうだなあ、無地だと平気で着てそうだなあ、
ブカブカTシャツだと思い込んで着てるとか、うちの薪さんらしいかも。(笑)


> しかし、岡部さんの服を出されたところで『急に彼氏のお部屋にお泊まりでシャツを寝間着にしてる彼女』状態では……(おや?女物の服より余計萌える?)

そうそう、そうなんですよ!
お母さんも認めてますし!! 彼のシャツの上だけ借りてお泊り、大萌えですっ。(根っからのヘンタイですみません)


> W勘違い男爵に囲まれた岡部さんの明日はどっちだ!(←おおげさ)

さあ、どっちだ!!(爆笑)
どっちに転んでも火だるまでしょうね!(>∀<)


4万ヒットのお祝い、ありがとうございます!
Mさまはじめ、みなさんのおかげです(^^
これからもよろしくお願いします~!


それと、
わたしは秘密コミュの片隅に生息する苔のような生物なので、ネットの世界は詳しくなくて~、
Mさまのおっしゃるコミュがどういうものか、よくわからないのですけど、
Mさまのお友だちとのコミュニケーションの話題になれたなら、とても光栄です。


新規のお客様とか、
Mさまのご心配されているようなことは何もございませんので、ご安心ください。(^^

しかし、わたしは逆にMさまのことが心配なんですけど・・・・・・
うちのようなブログのことを話題にされて、Mさまの社会的信用にヒビが~~~、
特に、『深田×子』と『巨乳好き』は~、だだだいじょうぶでしょうか!?
すみませんーー! わたしがあんなん書いたばっかりに、すみませんーー!!!

Mさまの、mコミュでのお立場が悪くなったりしませんように、お祈りしてますっ。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: