天国と地獄3 (5)

 こんにちは~。

 過去作品を読んでくださってる方へ。
 毎日拍手をありがとうございます。 とってもうれしいです♪
 でも時々、ものすごい時間に拍手が入ってる事があって、(朝の2時から4時とか)この方、ちゃんと眠ってらっしゃるのかしら、と不安になったりします。(^^;
 10時から深夜2時までの間はシンデレラタイムと言って、お肌をすべすべにするホルモン (要は成長ホルモンなんですけど) が分泌される時間帯なんだそうですよ。 美容のためにも、夜は早めにお休みくださいね☆☆☆





天国と地獄3 (5)





「うっ……」

 テーブルの上に並んだシュールな物体に、薪は思わず息を呑んだ。
 なんで煮炊きしたはずの食材が、こんな不気味な色になるんだろう。どの皿からも劇薬のような匂いがするが、これはいったいなんだろう。どうやったらこんなものが一般家庭の台所で製造できるのだろう。まるで生物兵器の研究機関みたいだ。
「何もありませんけど、どうぞ召し上がってくださいな。見た眼はアレでも、お味はなかなかですのよ」
 ニコニコと給仕をする彼女の楽しそうな様子を見ていると、食事を断ることはとてもできなくて、仕方なく薪は箸を取る。岡部に到っては、すでに諦めたようだ。黙って味噌汁を啜っている。

「い、いただきます」
 家人に倣って汁椀を取り上げ、薪は再び固まった。
 この味噌汁、工業用水と廃油で汚染された沼の表面みたいな色なんだけど。飲んでも大丈夫なのか? ていうか、この具は!?
(岡部っ、味噌汁にゼリービーンズが浮いてるぞ!?)
(俺のお袋は料理下手だって、前から言ってあったじゃないですか)
(上手い下手以前の問題だろ!)
 雪子だって、ここまで独創的な料理は作らない。彼女は料理本の通りに食材を集め、料理をし、最終的には食べられないものを作り上げるという特技を持っているが、参考書を使っているため、基本から逸脱した食材は選ばない。

(これはなんだ? なめくじを炒めたみたいなビジュアルだけど)
(家庭菜園で採れた野菜の末路です。元になった野菜の種類は俺にも判別つきません)
(原材料はなんだ? 石油か、ゴムか?)
(だから野菜ですってば)
 嘘だ! この食感は野菜じゃないぞ、ゴムを噛んでるみたいに噛み切れないぞ?!

 恐ろしい。
 彼女は一般家庭に備え付けられた調理器具を使って、野菜という有機物を咀嚼することすらできない無機物に変えることができるのか。世界中の科学者よ、彼女にひれ伏して教えを請うがいい。

「いかがかしら、室長さん。お口に合いまして?」
「は、はい! とってもオイシイですっ。まるで口の中でN2爆弾が暴発したような、この刺激的な辛さがなんとも!!」
「まあ、うれしい。でも、お手柄はわたくしの料理の腕前じゃなくて、素材の持つ生命力だと思いますわ。旬菜に勝る美味はありませんもの」
 素材の持ち味をここまで殺せるとは、見事なクラッシャー精神だ。生でおいしく食べられるキュウリやトマトまで、油でベトベトの素揚げにされて。
 それを平気で口に運んでいる彼女の神経が分からない。ナメクジみたいな色合いの炒め物を噛み締めて、「やっぱりお茄子は味噌炒めに限りますわ」ってあれは茄子だったのか? どうやってあそこまで茄子の硬度を高めたんだ、魔法か!?

(おい、彼女の味覚はどうなってるんだ!?)
(俺だって知りませんよ)
(なんで分からないんだ、母親だろう?)
(彼女の遺伝子は、俺の中には入ってません。俺を産んでくれたお袋は、普通のお袋だったんです)
 たしかに彼女は普通の女性じゃない。天は二物を与えずというが、ここまで惨たらしく彼女の味覚を奪わなくてもいいのに。下手をすると、岡部の命に関わる。
 岡部は慣れているのか、自分に盛り分けられたおかずを黙々と食べている。が、薪はもう限界だ。特別にグルメな舌をしているわけではないが、そこいらの料理人よりずっと美味しいものが作れる彼は、不味いものを我慢して食べる訓練を積んでいない。

「あら。室長さんはずい分小食ですのね? だからそんなにスマートでいらっしゃるのかしら」
「あ、や、その、な、夏バテでちょっと」
 薪が苦しい言い訳をすると、岡部が彼の窮地を救うべく、
「お母さん。薪さんのスーツは乾きましたか?」
「ええ、もう少し。続きをしてきますわね」
 自分の分をさっさと食べ終えた彼女は、使った食器を食洗機に入れると、「ごゆっくり」と薪に声を掛けてダイニングルームを出て行った。

 彼女の姿が見えなくなると、薪はテーブルの上に突っ伏し、
「ううう……口の中が焼け爛れてる感じだ……」
 食感も凄かったが、味付けはその上を行く。どれだけ唐辛子が入っていたんだ、あのナメクジ料理。
「薪さん、これをどうぞ」
 岡部が冷蔵庫から、小鉢に盛られた漬物を持ってくる。きれいな紫色の、なんて美しいんだ、これだ、これが茄子という食物だ!

「美味い!」
 今まで食べたものがひどすぎたから、その比較で美味しく感じられるのかと思ったが、そうではない。口の中を麦茶で洗い流し、改めて味わってみたが、これには薪もシャッポを脱いだ。
「うちのおふくろ、糠漬けだけは上手いんです」
「今度おまえの家で夕飯をご馳走になるときは、糠漬けとお茶漬けをリクエストする」
「そうしてください」
 笑いながら立ち上がって、岡部はこれまた愛らしいウサギの絵が描いてある缶の蓋を開けた。ふわっといい匂いがして、中にはコーヒーが入っていたらしい。
 青木には敵いませんが、などと言いながら、コーヒーメーカーを使って薪のためにコーヒーを淹れてくれる。皿の上に載ったおぞましい物体の匂いを、コーヒーの香りが包み込んで消してくれた。

 テーブルの上をきれいに片付け、汚れた食器を食洗器にセットする。薪に振り分けられたノルマの殆どはディスポイザーが食べることになってしまったが、岡部はきれいに平らげていた。さすが岡部だ、胃袋も鋼鉄でできている。
「薪さんの服は、コーヒーを飲んでる間に乾くと思いますよ。お袋の家事能力はなかなかですから。――― 料理以外は」
 たしかに、部屋の中は掃除が行き届いているし、薪が借りているパジャマも毎日洗濯しているのだろう、せっけんの香りがする。思い出してみれば、岡部のワイシャツはいつも真っ白で、パリッとアイロンが掛けられていた。
「おまえが料理を覚えればいいんだ。そうしたら、みんな上手くいく」
「どうして俺が? あのひとが自分で身につけなきゃいけないことでしょう」
「別にいいんじゃないか? 男が料理をしちゃいけないって法律はないんだし。どっちかがやれば」

 岡部は二人分のコーヒーを両手に持って、テーブルに戻ってきた。片方を薪の前に置き、自分は立ったまま一口啜って、
「あのひとの再婚相手が、そういう考えの持ち主であってくれたらいいんですけどね」
「再婚? そういう話があるのか」
「いや、今のところは」
 岡部が正直に答えると、薪は何やら満足そうに頷いて、
「じゃあ、おまえは早いとこ料理上手になるべきだ。恋人は胃袋で捕まえろ、って言うだろ」
「あのですね、この際ハッキリ言っておきますが、たとえ薪さんの邪推が的中していたとしても、俺と彼女は結婚できません。どうやっても無理なんです」
「735条か」
 一度でも親子の関係になった男女が夫婦になることを、この国は許していない。これはモラルの問題で、血の繋がりは関係ない。薪だって知っているはずだ。なのに、
「大事なのは法律より、お互いの気持ちだと思うけどな」
 などと遵法者とも思えないことを言うから、岡部だってムキになる。

「いい加減にしてくださいよ。小説の世界じゃあるまいし、そんなことあるわけないでしょう」
 厳しく眉を吊り上げて、自分の怒りがダイレクトに薪に伝わるように、岡部は語気荒く言い放った。しかし薪はそれを恐れるどころか、じいっと岡部の目を見つめ返してきた。
 亜麻色の瞳は清冽に輝いて、どんな異変も見逃さない。わずかな違和感、些細な相違、そのすべてを見透かす天才の瞳。吸い込まれそうな、底知れぬ琥珀。
 脳髄の裏側まで読まれそうな気分になって、岡部は眼を逸らせた。

「俺は、彼女が新しい伴侶を見つけるまでの間、息子としてあのひとを守りたいだけです」


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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