天国と地獄3 (7)

 こんにちは。

 ラストです。
 お付き合いいただきまして、ありがとうございました。(^^





天国と地獄3 (7)




「ううう……もう酒ヤメル……」
「その台詞、50回くらい聞いたような気がしますけど……アツツ……」
 亜麻色の頭を抱えるようにして薪は執務机にだらしなく突っ伏し、その傍らで岡部も喉元を押さえている。第九の室長と副室長ともあろうものたちが、揃いも揃って二日酔いとは、まったく嘆かわしい限りだ。

 ぐわんぐわんと頭の中で半鐘が鳴り響くような痛みに耐えかねて、岡部はこめかみを押さえた。右手のファイルを差し出そうとするが、どうにも身体が言うことをきかない。
「なんだ、岡部も二日酔いか?」
「すいません、実はあれからお袋と。朝方までつき合わされまして、潰されました」
「えっ、あのお母さんと飲んだのか?」
 おそらく、あれは息子の恋の絶望的な未来予想に裏打ちされた彼女なりの激励会のつもりだったのだろうが、本気で勘弁して欲しい。明け方まで粘られてとうとう、岡部の意中の人は他にいて、それはれっきとした女性だ、ということまで白状させられてしまった。これからどうやって彼女の追及を避わしていけばいいのか、正直者で不器用な岡部には見当もつかない。
「しかもおまえが潰され? すごいな、彼女」
「ははは。色々と規格外なんですよ、うちのお袋は」
 見かけによらず、雛子の内臓は異常に強い。そうでなければあの料理を食べて、病院の厄介にならずにいられるわけがない。

「まあ、がんばれ」
 薪の励ましに勤労意欲の向上以外の含みを感じて、岡部は悪心に曲げた顔を更に歪める。
「薪さん。まだ誤解してるわけじゃないですよね?」
「僕は誤解なんかしてない。案外、誤解してるのはおまえの方なんじゃないのか?」
 クスッと笑ったら、それが頭に響いたらしく、言葉にならない声を上げて薪は再び頭を抱えた。言い返そうとして岡部も、喉の奥から込み上げてくるものを必死で抑える。

「おはようございま、うっわ、何ですかこの部屋。ものすごくお酒臭いですよ!」
 朝のコーヒーを持ってきた青木が、慌てて窓を開ける。八月の熱い空気は朝から身体にまとわりつくようで、嘔気を増進させる。
 今だけはエコロジーに背を向けて、岡部はエアコンの温度を2度ほど下げた。壁のパネルを操作する岡部の視界の隅で、薪がアイスコーヒーのグラスを持ち上げ、ストローを咥えることなく自分の額に押し当てる。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃない。おまえのせいでこんな、ううう」
「ええ~、オレ、もうやめた方がいいって何度も言いましたよね?」
「口で言われたくらいで止まれるなら、二日酔いに苦しむ人間なんかいないんだよ」
「じゃあ、どうしたらよかったんですか?」
「物理的、かつ強制的にアルコールから引き離して、ベッドに押さえつけてくれ。そうしたら僕は2分で眠るって、前に鈴木が言ってた」
「えっ!! そんなことしちゃっていいんですか!?」
「大きな声を出すな、頭に響くっ……僕が許す。次は頼むぞ」
「ま、薪さんの身体を強制的にベッド押し付けっ、ぐふぅっ!!」

 いつものように意識することなく青木の心を弄びながら、薪の一日が始まる。
 すべてこの世はこともなし。
 その平和な風景の連想から、すでに昨夜のアルコールを分解し終え、今時分は片付け物も終えて子猫に餌でもやっているであろう雛子の姿を想像して、岡部は帰りにキャットツリーを買っていこうと考えた。



(おしまい)



(2011.4)


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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