天国と地獄5 (1)

 こんにちは。

 天国と地獄シリーズも、ターニングポイントを迎えました。
 こっちのあおまきさんも最終的には恋人同士になるのでね、そろそろこういう話題も必要かなって。 
 でも、大人な内容、というよりか、オヤジな内容?
 仕方ないじゃん、男爵だもん。(笑)





天国と地獄5 (1)





「青木。いいもん見せてやろうか」
 薄いCDケースを人差し指と中指の間に挟んで、薪は意味ありげに青木を見た。下方からの目線、しかし見下されていると感じるのは、その目つきの悪さのせいか。
 なんですか?と応じると、薪はケースを青木に差し出し、デッキにセットするよう促した。DVDの裏面は真っ白で、ラベルも文字もない。
 それでも上司の命令だ。別に違法なものではないだろうと判断して、テレビの下に据え付けれたデッキにメディアを挿入する。

「うわっ!?」
 屈んだ姿勢のまま、何気なく画面を見ていた青木の身体が仰け反って、大きな身体が後方に引かれた。咄嗟についた両手も間に合わず、青木はその場に尻もちをついた。
「なんなんですか、これ!」

 42インチの液晶画面に映し出されたのは、大人しか見てはいけないヒメゴトの画。それもモザイクなしの無修正ものだ。
「見るの初めてか?」
「そうじゃないですけど……これ、違法ビデオですよね。どこからこんなもの」
「脇田課長が貸してくれたんだ。僕好みの娘が出てるからって」
 なんて不愉快なことをしてくれるんだ、あの鬼瓦は。巨大ハンマーで粉々にして、ガレキの塊にしてやりたい気分だ。

「本当だ、むっちゃ僕好みだ。やっぱり女の子はちょっとくらいぽっちゃりしてた方が……青木?」
 興味津々の顔つきで身を乗り出してくる上司の姿に、青木は思わず涙ぐむ。いくら外見がきれいでも、中身は普通の男。正常な男なら、これが当たり前の反応だ。なのに、その様子を見てると涙が出てくるのは何故だろう。
「感激して泣いてるのか?」
 ストーリー皆無のエロビデオの何処に感動の涙を流せと!?
「たしかに、この胸は感涙ものかもしれないな」
 ああ、涙が止まらない……。
「はあ、可愛いなあ。特にこの、太ももとお尻のむっちり感が」
 エロオヤジ全開の薪の発言が、青木の精神を蝕んでいく。どうしてこのひとは、顔と中身のギャップがこんなに激しいんだっ!

 キレそうな勢いで頭を巡らせた青木は、幼い美貌が微笑んでいる様子にたちまち骨抜きになる。
 青木の隣に正座して画面を凝視しているその横顔は、テレビのスピーカーから妖しげな音が響くこんな状況にあってもやっぱり可愛くて。どんな理由からでも、彼が笑ってくれることは嬉しい。仕事中は常に厳しく吊り上げられた彼の眉に、これほどやさしいカーブを描かせてくれるなら、画面の中の彼女をご苦労さまと労いたいくらいだ。彼の笑顔が増えるなら、それでいいじゃないか。
 
 と、天使のような考えを持てたのはほんの数分。
 可愛らしい顔でとんでもないものを見ていた薪は、ビデオが進むにつれ、次第にソワソワしだした。これは、多分あれだ。男特有の現象が起こりかけているのだ。
 薪はちらっと青木の方を見て、青木が平然としているのに眉を顰め、少し頬を染めて前を向いた。
 昔の青木だったら彼と同じことになっていたと思うが、薪に恋をした今では、画面の向こうの女性を一夜限りの恋人にする気は全然起きない。メリハリのきいた彼女のボディも、正直、肉の塊にしか見えない。
 
 画面に視線を戻した薪は、緩んでいた口元を引き締め、MRIでも見るような表情を取り繕った。年下の青木が平静を保っているのに、自分が興奮しているのがプライドに障ったのかもしれない。面倒なひとだ。
 しかし、薪が抑えようとしているのは謂わば生理現象。仕事の時ならともかく、オフタイムの彼に御しきれるはずがない。仕事モードの薪は人間の5大感性まで見事に押さえ込んで見せるが、プライベートモードの彼は基本のポーカーフェイスすら危ういのだ。

「……どちらへ?」
 黙って席を立った薪に、青木はやっかみ半分に問いかける。訊くのは野暮だと分かっていても、知らないふりはできなかった。

 だって、くやしい。
 当たり前だけど、薪は自分の裸体を見ても興奮してくれない。女の子の身体を持っているというだけで、実際に触れもしない映像だけで彼をこんな気分にすることができる彼女たちが、めちゃめちゃ羨ましい。
 もしも自分が女の子だったら、少しは可能性があっただろうか。器量よしでなくともいい、女性でありさえすれば、女の武器は備わっているはず。少なくとも『あなたが好きです』という言葉の意味は、正しく捉えてもらえたはずだ。
 ……真面目に性転換しちゃおうかな……。

「ちょっと、その」
 青木に呼び止められた薪は、その場に立ち尽くした。頬を赤くして、右手で口元を覆っている。恥じらいの理由はエロビデオによる男の事情という身も蓋も無いものなのに、なんでこんなにかわいいんだ、これは詐欺じゃないのか。
 パーカーの裾を引っ張って、ズボンの前を隠している。隠さなければいけない状況になっていると白状しているようなものだ。

 薪のその状態が自然に頭に浮かんで、途端に青木の下腹部は熱を持つ。
 夢の中で想像の中で、幾度も繰り返された薪の痴態。自分の下になって悶える夢の恋人と現実の薪が、ほんの少しだけ重なった。

「すぐ戻るから」
「薪さん、待ってください」
 くるりと翻った細い背中を、青木はもう一度呼び止めた。肩越しに顔だけ振り向いた薪に、恐々と申し出る。
「あの、良かったら……お手伝いしましょうか」

 言葉にした直後、青木は後悔した。薪の顔がひどく歪んだからだ。
「手伝うって、どういう意味だ?」
 プライベートのときにはついぞ聞いたことのない、冷たい声音。嫌悪感でいっぱいの表情。あまりにも明確な拒絶に、青木は声も出せなかった。

 気まずい沈黙が下りて、青木は俯いた。膝の上に置いた自分の手をじっと見る。女優のはしたない声が、空々しく響いている。
 薪はリモコンでビデオを止めると、スタスタと歩いてビデオデッキからDVDを取り出した。元通りケースに入れると、それを青木の前に置き、
「これ、貸してやるから。今日は帰れ」
 固く強張った背中で、薪は書斎に入ってしまった。追いかけて謝らなければ、と思ったが身体が動かなかった。
 どうしていいか分からず、狼狽えるばかりの青木の頭の中で、薪の冷たい亜麻色の瞳が悲しげに伏せられた。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。

男と言うものはですね、一緒にエロビデオを見るものなのですよ。 学生のころとか、男子みんなで集まってAV鑑賞会やってませんでした? (←いったいどういう学生時代を過ごしてきたのか・・・・・・)


>薪さんの好みは顔より巨乳なのか!?

うちの薪さんのお好みは、頭が良くて、胸の大きい女性です。 そこに、自分より背が低い、という絶対条件が付きます。
あんまり顔には拘らないみたいですね。 大学時代の彼女も、十人並みの容姿でした。


>青木が性転換・・190センチの女の子を想像してしまった(笑)
>巨乳というより、巨大な女って益々、引かれるよ青木!

あはははは!
これねえ、6月号で「オレが女になったら」って雪子さんと話してたでしょう?
実はあのシーンで、ここを思い出しちゃって、思わずフイちゃったんですよね。
雪子さんの言うとおり、190センチの女の子は、絵柄的に、ねえ。(笑)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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