ニアリーイコール(1)

 こんにちは。


 こちら、先月書きました雑文です。 (あ、また予告とちがう)
 ストーリーのないお話なので、だからとってもつまんないんですけど、実はこれ、
 6月号を読まれたあおまきすとさんならみんな気になってると思う、
『青木さんと薪さんの気持ちは絶望的にすれ違っている。 これであおまき成立と言えるのか』
 という命題に対するわたしなりの答えでございます。
 なので、8月号が発売される前に公開しておきます。 
 いえ、8月号でちゃぶ台返しはないと思いますけど、一応念のため。(←だって何度もイタイ目に遭ってるから(^^;)


 雑文はね、いつもこういう感じで、原作を読んで何かしら思ったり、音楽を聴いてあおまきさんに転換&妄想したり、そんな他愛もないことで生まれてくるんです。 
 本来なら、レビューにしたり日記にしたりして公開するものなんでしょうけど、わたし、日常の文章はどうも苦手で~、SSにしたほうが、自分の気持ちがちゃんと文章になるような気がします。 少なくとも、文を書いてる途中で自分の考えが分からなくなったりしない。 ←もうバカとしか……。
 ということで、よろしくお願いします。

 なお、こちらのふたりは付き合って6年越え。
 将来を誓い合っちゃった後だと思って読んでください。






ニアリーイコール(1)






「カエルの声がする」
 そう言って薪は、不愉快そうに眉をしかめた。

 せっかくの露天風呂なのに、蛙の鳴き声がうるさくてゆっくりできなかった、とこぼしながら、濡れた髪を拭き始めた彼の手から青木がタオルを取り上げたのは、その拭き方があまりに乱暴だったからだ。
 そんなに手荒に扱ったら、細くてやわらかでサラサラの、青木の大好きな彼の髪が傷んでしまう。濡れた髪は、とても傷つきやすいのだ。薪はこんなにきれいなのに、自分の美貌を維持することに無頓着すぎると青木は思う。
 備え付けのソファにすとんと腰を下ろし、後ろに立った青木に髪を拭いてもらいながら、薪は軽く舌打ちする。
「青木、窓閉めろ」
 そんなに気になるのだろうか。田舎育ちの青木には、田んぼの畦道で懸命に鳴く両生類の声は懐かしく、子供の時分を思い出したりして、いっそ愛しく聞こえるのだが。

「閉めたら暑いですよ。今時期はまだ、冷房入れてないんですから」
「ったく。東京なら、こんな不愉快な思いをしなくて済むのに」
 休暇を利用して、T県に来ている。薪がナイトサファリに行きたいと言うので、土日を利用した小旅行と相成った。ここはサファリパークの近く(と言っても車で20分ほど走ったが)にある小さなペンションで、6月からでないとエアコンのメインスイッチは入らないようになっている。
 そんな不自由なペンションをどうして青木が選んだかと言うと、実はこの宿は全室掛け流し温泉露天風呂付き、「カップルで泊まりたいペンション(関東圏)ベスト5」にランクインしているのを旅行誌で読んで知っていたからだ。しかし、その記事にはエアコンの記述はなかった。蛙の声がこんなに煩いことも。泊まってみないとわからないことはけっこうある。

「来るんじゃなかった、こんな田舎」
 サファリパークでは大はしゃぎだったくせに。相変わらず勝手なひとだ。
「風情があっていいじゃないですか。カエルの大合唱なんて、東京では聞きたくても聞けませんよ」
 薪の憤慨を軽くいなしながら、青木はドライヤーの用意をする。薪の我儘は今に始まったことではない。この位の不満声でいちいち慄いていたら、彼の恋人は務まらない。

「あれのどこが風情だ。ただの騒音だろうが。あまりに喧しくて、早々に引き上げざるを得なかった」
 1時間も風呂に浸かっていたら充分だと思うが。
「月がすごく綺麗だったのに」
 可愛らしく唇を尖らせる薪の髪に、指を埋めながら青木は、
「まあまあ。薪さん、カエル、お好きでしょう? だったら大目に見てあげましょうよ」
「好きじゃない」
 また心にもないことを、このひとは。
 薪は動物が大好きで、だから手っ取り早く彼のご機嫌を取りたいと思ったら、動物園に連れて行くのが一番簡単で確実な方法だ。園内にある爬虫類のブースで、子供に紛れやすいようにラフな服装をした彼が、アクリルの透明な板に鼻先を付けんばかりにして色鮮やかな両生類を凝視している様子を、青木は数え切れないくらい目撃している。
 よって青木には、薪が明らかに虚言を発していると分かったが、目撃証言を元に彼のウソを暴くようなことはしなかった。そんなことをしたら逆ギレされて、2階の窓からガラスごと蹴りだされかねない。

「そうでしたっけ?」
 曖昧に疑問を投げかけるだけにとどめて、薪の髪を乾かし始める。
 最初は地肌から。髪の根元を持ち上げるようにして、襟足に温風を送る。傷みやすい毛先からかけてはいけない。ドライヤーをかける目的は、速やかに頭皮を乾かすことによって雑菌の発生を防ぐことだ。
 青木の左手は薪の短い髪を丁寧にほぐし、その右手はドライヤーの先端を小刻みに動かす。同じ箇所に長く当ててはいけない。熱による髪のダメージを低く抑えるためだ。
 行きつけの美容室で教えてもらったことを思い出して、青木は注意深く恋人の髪を乾かしていく。濡れた髪はつやつやと光って、普段よりもいくらかダークな色合いに見える。その水分が青木の手に移り、部屋の空気に移り、やがて薪の髪はいつもの輝きと手触りを取り戻す。

 こんなにきれいなのに、と青木は再び独語する。
 薪の行きつけのヘアサロンが、警視庁内の簡易床屋だなんてあり得ないと思う。髪形だって、こんなありきたりの短髪じゃなくて、カリスマ美容師とかがいる店で流行の髪形にカットしてもらったらどんなにか彼の美貌を引き立てることか。てか、今どき床屋って。岡部や曽我でさえ近所の美容室を利用しているというのに。尤も、曽我の場合は美容室の女の子が目的のようだが。
 でも以前、美容室を使うよう薪に進言したら、何故かものすごく怒られた。「おまえは僕をアクマの巣窟に放り込む気か!」とわけのわからないことを言われたが、あれはどういう意味だったんだろう。薪の言動は、ときどき理解不能だ。

「カエル自体は嫌いじゃない。鳴き声も単体なら、おまえの言うところの風情を認めよう。でも集団になったときの、あの競い合うような浅ましい鳴き方は嫌いなんだ。おまえ、あいつらが今、何のために鳴いてるか知ってるのか」
「知ってますよ。メスを呼ぶためでしょう」
 孔雀がその美しい羽根を広げてメスを魅惑するように、カエルは鳴き声で異性を惹き付ける。そう思うと彼らの騒がしい声も、情緒的な響きをもって聞こえてくるから不思議だ。
「暗闇の中、声だけを頼りに愛する人を見つけるなんて。ロマンティックじゃないですか」
「なにがロマンティックだ。おまえはそれでも警察官か。暗闇に紛れてあいつらがやってる犯罪行為を見逃すのか」
「なんですか、カエルの犯罪って」
 のどかな田園風景を演出する陰の役者たちに掛けられた疑惑に青木が首を傾げると、薪は、ふん、と高慢に笑った。この仕草、普通の人間がやったら絶対に鼻につくと思うのだが、薪がやるとどうしてこんなに可愛く見えるんだろう。

「蛙の鳴き声にも巧拙があって、上手に鳴く蛙には、メスがたくさん寄ってくるんだけど」
「アイドル歌手は人気者ですか。人間と同じですね」
 美声でイケメンのアイドル歌手に熱を上げる女性たちを連想して、青木は苦笑した。人間も蛙も、女性と言うのは基本的に同じなのかもしれない。しかし薪は、とんでもない、と言うように首を振って、
「これは人間の女性がアイドル歌手に群がるミーハー心理とはまったく別のものだ。賢い彼女たちは、種全体を繁栄させるため、より強い子孫を残すため、どうしたらいいかを考えて行動している。彼女たちの接近は対象の表面的なものに惹かれてるんじゃなく、強い鳴き声の個体は生命力も強いはずだと判断した上でのアプローチなんだ」
 そうなのか、知らなかった。
 蛙にそこまで考える能力があるわけないから、これはDNAに組み込まれた行動パターンのひとつに過ぎないのだろうけど、逆にそれを本能的にやってのけるところが動物のすごさで、薪が動物たちに敬意を払う理由のひとつだ。
 どうだ、彼女らはすごいだろう、と自慢げに瞳を輝かせて、薪は蛙のラブアフェアの講義を続ける。

「でも人間と同じで、彼らも喉を鍛えるにはある程度の年月が必要だ。だから、メスを引き寄せられるような魅力的な声が出せるのは、たいていは身体の衰え始めた年寄り蛙なんだ。
 反対に、身体機能は盛んでも、若い蛙は弱々しい声しか出せない。これではいくら頑張って鳴いても、メスは寄って来ない。
 で、若い彼らはどうすると思う?」
 使い終わったドライヤーを元の位置に戻しながら、青木は「さあ?」と首を捻った。ソファに座った薪は身体を捩り、左腕をソファの背もたれに載せて、
「年寄り蛙の側に隠れていて、寄ってきたメスの上に有無を言わさず乗っかっちゃうんだ」
「えっ。じゃあメスは騙されて、目当ての蛙とは違う蛙の子を身篭ってしまうわけですか?」
「そうだ。これは明らかな詐欺罪、しかも相手の合意なくコトに及ぶわけだから、強姦罪も適用される」
 カエルの世界に法律があったとして、それを証明するのは限りなく不可能だと思われるが。だいたい、レイプは申告罪だ、ていうか、どうやってカエルから調書を取るのだ。
「蛙の大合唱の裏では、女性の尊厳を脅かす犯罪が横行しているんだ。実に許しがたい。検察として、死刑を求刑したいくらいだ」
 カエルに裁判制度があったとして、以下略。

「薪さんて本当に、色んなコトを知ってますね」
「当たり前だ。僕はおまえより12年も長く生きてるんだ。知識も12年分多くなかったらおかしいだろ」
 年長者は物知りで当たり前。薪のこういう考え方が、とても好きだ。
 薪は天才だけれど、それ以上に勤勉だ。激務をこなしながらも、毎年、自分に何かしらのスキルアップを課している。それは語学の習得だったり武道の嗜みだったりするが、決して現況に満足せず、より高い位置を目指して努力をし続ける彼の生き方を青木は尊敬している。

 すっかり乾いた髪を軽くかき上げて、薪はソファから立ち、窓辺に寄った。窓から入ってくる弱い風にも揺れる、彼の亜麻色の髪は天女が纏う羽衣みたいだ。耳にかけていない毛先の風に遊ぶ様が、重さを感じさせないその動きが、そんな幻想を青木に抱かせる。
「彼女たちの英知を嘲笑うみたいなからくりを思うと、この声が詐欺師の哄笑めいて聞こえる。だから僕はこいつらの合唱は嫌いなんだ」
 それは不正を憎む薪らしい憤慨で、青木は彼のそういう頑なさが大好きだったけれど、これが原因で薪の機嫌が悪いまま夜が終わってしまうのはどうにもやりきれなかったので、被告側の弁護に立つことにした。

「でも、若いオスの精子の方が、受精の確率も強い子孫になる可能性も高いんじゃないんですか?」
「それは結果論だろ、僕は彼らの奸計が許せないって……いや」
 薪は最初、青木の意見に一層怒りを高めるように激しく振り返ったが、ふと言葉を止めて、
「もしかしたら、彼女たちはそこまで計算してるのかも……うん、確かに、それが一番効率がいい方法だ。そうか、気が付かなかったな」
 考えるときのクセで右の拳を口元に当てた薪は、ふむ、と頷いて青木の方へ身体を向けた。窓ガラスを背にした彼の背後に、白いバスローブを着た彼の背中が映っている。

「なるほど、おまえの説にも一理ある。ていうか、そっちの方が正しいんだ、きっと。やっぱり彼女たちは賢いな」
 そんな言葉で、薪は青木の珍説を支持してくれた。それから窓枠にもたれると、月を見上げながらさばけた口調で、
「結局、見てくれに騙されてバカを見るのは人間だけってことか」
「そうですねえ。何だかんだ言って、男も女も美人の方がモテますからね。人間、見た目じゃないって言いますけど、あれって絶対にウソ……」

 外見に心を左右される人の滑稽さを揶揄する薪の言葉に、青木は追従し、しかし重大なことに気付いて口を閉ざした。
 それから自分の罪深さに初めて気付き、ぞっと背筋を粟立たせ、今までそのことに思い至りもしなかった自らの愚かさに嘔吐しそうになった。
 軽い眩暈に襲われて青木は、その場に膝を付きそうになった。が、薪に心配をかけるわけにはいかないと咄嗟に踏みとどまり、さりげなくソファの背もたれに手を置いて自分を支えた。
 青木が途中で言葉を切ったので、薪は視線をこちらに寄越した。先刻まで月を捕らえていたその瞳に青木を映して、話の続きを促すように軽く微笑んでいる。

「……オレも、風呂に入ってきますね」
 青木が話題を変えたので、薪はちょっと面食らったようだったが、すぐに気分を切り替えてそれに応じた。
「じゃあ、僕ももう一度入ろうかな」
「そんなに続けざまに入ったら湯疲れしちゃいますよ。もう少し、インターバルを置いてください」
 薪の申し出を、彼の身体を気遣う振りで体よく断って、青木は部屋を出た。一人になりたかった。
 狭い廊下を浴場へ向かう青木の足取りは、牢獄へ帰る囚人のように重かった。





テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは~。

いただいたコメントを読みまして、???? と思って本文を読み直しましたら、
たしかにこれ、そんな風に読めますね!! 
いやー、ぜんぜん気がつきませんでした~~!

青木くんが凹んでるのは、
自分が薪さんの外見に惑わされているのか? と悩んでいるのではありません。 その逆です。
6年超のお話なのでね、大した諍いは起きませんので、ご安心ください。(^^

台所の窓にヤモリ・・・・・・
か、かわいいの!? ヤモリって爬虫類のヤモリでしょう?
わたし、爬虫類はちょっと怖い・・・・・・・そうか、あれってペットで飼ってるひともいますものね。 慣れればかわいいのかな・・・・・?

Aさまの意外な一面を知った思いです。(^^;
ありがとうございました。

Sさまへ

Sさま、こんにちは!
二周年のお祝い、ありがとうございます!!


>これからもでろ甘なあおまきをお願いいたします(頼む相手が間違っている)

 (  ) の中にSさまの本音が~~(^^;
はい、でろ甘なあおまきさん目指してがんばりますっ、よそ様のあおまきさんに負けないように、でも多分、無理だと思う!! だってうちのあおまきさんだもん! ←不戦敗。


>で、さっそくこの展開ですか?何で青木が崩れ落ちているんですか!こわい。こわすぎる・・・。怖いのはメロディ発売日だけで十分なんです・・・

大丈夫ですよ~~、
青木くんが崩れているのはちょっとした思い込みですから、すぐに立ち直ります。
そうそう、
怖いといえばメロディの発売日ですよねっ!
て、もう明日だよ!!!
怖いな~、でも楽しみだな~、そんなにひどいことにはならない気がするんですよね、カンですけど。

秘密は、薪さんが鈴木さんを射殺したところから始まる話じゃないですか。 で、最後も誰かを射殺したり、逆に薪さんが撃たれて死んだりしたら、いったい何のために物語を積み重ねてきたのか、意味がなくなってしまうと思うんですよ。

秘密は、生きる話だと思うんです。
どんなに重い過去を背負ってでも生きる、辛くても苦しくても生き続ける。 そこに希望が生まれることを信じて、生きることそのものが大事なんだよ、という話だと、だから薪さんも青木さんも第九のみんなも、きっと大丈夫。
・・・・・・・・甘いかしら?
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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