ニアリーイコール(4)

 発売日ですよっ!

 うきうきうきうきうき♪

 
 あ、すみません、お話の方はこれでおしまいです。
 命題に対するわたしの答えは、つまり、

『すれ違っててもいいじゃん、想い合ってるのは間違いないんだから☆』
 
 あらら、一行に書けちゃった。 ええ、それだけの話でございました。 ペラくてすみませんです。(^^;





ニアリーイコール(4)




「っ、ゔぁおぅっっ……!!!」
 踏み潰される蛙のような声を聞いて、青木は荷造りの手を止めた。見ると、洗面所の鏡の前で薪がうずくまっている。顔を洗おうとして、洗面台に肘が触れてしまったらしい。
 青木の頭を抱いたまま眠ってしまった薪の左腕は、朝には指先の感覚が無くなるほどに痺れていた。その痛痒感は薪の美しい声帯に、風に吹かれただけでも声にならない悲鳴を上げさせ、固体に触れようものなら先刻のような何処の言語だか判別の付かない不思議な言葉を喋らせた。

「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないっ!!」
 青木の心配を即行で打ち返して、薪はきれいな額に青筋を立てる。床にしゃがんだ体勢のまま、青木の顔をキッと見据えて、
「おまえのせいだぞ、青木!」
「はいはい、すみませんね」
 怒り心頭の薪に恐れを抱く様子もなく、青木は彼の手助けをするためにタオルを持ってサニタリーへと向かう。
 自分の身体の不調を青木のせいにする、そんなことは珍しくもない。この人の責任転嫁主義にはもう慣れた。

「ったく。スカスカの脳みそしか入ってないくせに重いアタマしやがって」
「ぜんぶ許してくれるんじゃなかったんですか?」
「だれが許すか!!!」
 顔を洗っている途中のハプニングの為に、濡れたままの薪の顔を拭きながら、青木はこっそりと呟く。
「ころっころ変わるんだから」
「何か言ったか」
「いいえ、なにも」

 薪は、指の感覚を取り戻そうとしてか、左手を何度も開いたり閉じたりしている。その細い指が白百合の花弁のように、あるいは可憐な蝶の羽根のように、動くさまを青木はうっとりと見つめる。
 なんてきれいな指だろう、なんて白いてのひらだろう。
 この手が昨夜、自分の頭を撫でてくれた。繰り返し繰り返し、母親が幼子を慰撫するように、やさしくやさしく撫でてくれた。
 前夜に与えられた慈悲を思い起こせば、その手はとても気高いものに思えて、神の御手を押し頂くように、青木は両手で彼の左手を包み込む。

「薪さ、おごぁっ!!」
「触るな!! ビリビリしてるんだからっ!!」
 だからって、いくらなんでも右アッパーはないんじゃ。
 
 青木が涙目になって顎をさすっていると、薪は自分の左肘を右手で抱え込むように握って、
「おまえ、いつも僕の頭載せてくれるけど、こうなったことないのか?」
「ないです」
「それは僕の頭が軽いという事か?そういう意味か!?」
 また怒られた。正直に答えただけなのに。
 
 腕枕にはコツがあって、相手の首の部分に腕を入れるのが基本形だ。こうすると相手の頭の重さは枕が支えてくれることになるから、腕の痺れは軽くて済む。昨夜の薪のように、相手の頭をまともに腕に乗せて、しかも胸に抱え込んでしまったら、こうなって当たり前だ。
 女の子を腕枕で眠らせた経験のある男なら誰でも心得ている技術を、全然知らない薪が可愛い。見栄っ張りの薪は認めないだろうが、多分、彼の腕枕第一号は自分だ。

「ちょっとくらい痺れても、薪さんとくっついて眠れるの、うれしいです」
 青木がニッコリ笑って正直に言うと、薪は、うっ、と何かを喉に詰まらせたように呻いて、ぷいと横を向いた。
「……ちょっとってレベルじゃないだろ」
 そのまま青木の方を見ずに、薪はドアへと向かった。壁の時計は8時を指している。朝食の時間だ。

 鍵を掛けて部屋を出て、青木は細い廊下を歩く薪に追いつく。
「薪さん、片手じゃ不自由でしょう。オレが食べさせてあげましょうか」
「そんな生き恥を晒すくらいなら、僕は餓死を選ぶ」
「ええ~……」
 相変わらず、薪はシビアだ。青木は薪に食べさせてもらえるなら、腕の一本くらい無くなってもいいと思ってるのに。

――――― でも、昨夜の薪はすごくやさしかった。

 彼に許されて、それでいいと思えるほど青木も単純ではないけれど、悩んでも仕方のないことは考えないのが青木の性分だ。過去は消せない、でも、きっと何かしらの形で取り返す事ができる。やり直せない失敗はない。自分が諦めない限りは、どこからでも再スタートは切れると信じている。

「朝食は、テラスだそうですよ」
「そうか。天気もいいし、気持ち良さそうだな」
 掃除の行き届いた階段を下りて、ロビーを通り抜け、ガラスの扉を開いてテラスに出る。朝食会場では、すでに3組ほどの泊り客が朝食をしたためていた。
 丸テーブルの上に掛けられたクロスは緑と白の二枚重ね。四つ角をずらして重ねることで、交互に出現する色のコンビネーションは、今の季節にぴったりの爽やかさだ。その上に準備されたグラス、コーヒーカップ、ピカピカの食器類に手作りらしいランチョンマット。オーナーの奥さんが、パンのバスケットと木製のボウルに盛られた野菜サラダを持ってきて二人に席を勧め、目印の部屋番号が記されたプレートをエプロンのポケットにしまって戻っていった。
 バスケットからは、焼きたてパン特有の香ばしい匂いがする。サラダはレタスとトマトの色合いがとても鮮やかで、青木の大好きな冷たい牛乳もグラスに満たされていて、青木は自然とうれしくなる。

「美味しい! 牧場直送の牛乳ですね」
 牛乳嫌いの薪が冷ややかな眼差しで、自分のコップをこちらへ寄越す。ありがたく受け取って、右手でコップを持ち上げる。
 2杯目の牛乳を飲みながら、青木は空を見上げる。
 5月の美空は高原の空気に映えて、泣けてくるほど青かった。



(おしまい)



(2011.5)

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

6/28 に拍手コメントいただきました Aさまへ


Aさま、こんにちは。
お返事がっつり遅くなってすみません、こちら、旅先から書いてます。 ←どこまで行っちゃったんだか・・・・。


>薪さん、前回は聖母のように優しかったのにね(笑)

ふふふ、台詞だけ抜粋すると、えらく居丈高なんですけどね。
青木くんには声に出した言葉しか伝わらないから、薪さんにやさしくしてもらったことは分かっても、薪さんがどれだけ自分を思っているのか、ぜんぜん分かってないんですよね。 
この辺もすれ違ってるんですけど、それでも幸せ、という二人を書きたかったので。


>薪さんが女性に腕枕って想像できないし!

え?
じゃあ、薪さんが女のひとに腕枕してもらうの? まあ、うちの男爵なら、女のひとに抱きしめてもらって、胸に埋もれて眠るとか喜びそうですけど・・・・
あ、もしかして、女の人と寝ること自体が想像できないとか?(笑)


>お互い想い合っていれば・・原作では更にスレ違った気が・・(ТТ)

あはははー。 ←もう、笑うしかない。
さすが清水先生、一筋縄では行きませんね~。


>滝沢がしづさんのブラック滝沢みたいでした!やはり、恨みに思ってる!?貝沼に影響受けてますが・・・

滝沢さんは意外でしたね。
なんだ、ストレートに悪者なのか、とがっかりしました。
一番頭に来たのは、薪さんの罪悪感をあおって、データを入手する手段として用いようとしたこと。
滝沢さんはもともとスパイとして第九に潜入してきたわけですから、旧第九の職員たちに仲間意識を感じていたとは考え難い。 なのに、「上野は結婚したばかりだった」「償うべきなんだ」とかって白々しいことを言ったのは、義憤ではなくて目的を達するための手段だと思う。
薪さんの一番の傷を抉るようなやり方は最低だと思いました。 だったら力ずくで脅したほうがマシ。
でも、P294の薪さんが膝をつくシーンは萌え・・・・・・。 ←最低はおまえじゃ。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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