緋色の月(4)

 先日から過去作品に拍手くださってる方、どうもありがとうございます。
 最初のお話から丁寧に読んでくださってるみたいで、律儀にポチポチと、ありがとうございます。 あなた様のやさしいお心は、しづに届いております。
 昔の話は日本語がヘンなところも多いので申し訳ないのですけど、『桜』から『ラストカット』まではきちんと主題に沿って書いてるので、最後までお付き合いいただけるとうれしいです。
 そこから先は萌えのままに、なのであんまりオススメではなくて。できれば『ラストカット』で止めておいた方が、むにゃむにゃ。

 こうして読んでくださる方がいらっしゃるのですから、いつまでも怠けているわけにはいかないと思いました。
 1ヶ月の記事数が4つって、ありえないですよね。(^^;
 作品を書きながら公開しているならともかく、わたしの場合、ワードからコピペして保存ボタン押すだけだもん。 時間なんか、一記事に5分も掛からない。 できないわけがないんです。 気力の問題なんです。 怠けててごめんなさい。
 来月はがんばります!!





緋色の月(4)





 青木がいなくなって、我慢できたのはたったの3時間だった。
 今日は金曜日で、午前中に第九へ帰ろうと思っていたから、朝食は7時に頼んでおいた。その連絡がフロントから入り、薪は連れの朝食をキャンセルし忘れたことに気付いた。
 まだ任意同行の段階なのだから、青木には警察から朝食が供されているはず。青木のことだから、お代わりとか要求して、所轄の人間に呆れられているかもしれない。
「あんまり恥ずかしいことをしてくれるなよ」
 部屋で独り、パサついた焼鮭の身をほぐしながら、薪は呟いた。

 部屋係の女性が食事と一緒に持ってきてくれた新聞に目を通すが、昨夜の事件は載っていなかった。報道規制が為されているのか、校了時刻に間に合わなかったのか、いずれにせよ情報は得られなかった。テレビはいくらかましだった。昨夜遅く、Y地区の公園で男女の他殺体が発見されたこと、被害者の身元が判明したことについて報じていた。が、それ以外のことは捜査中とのことで、詳しいことは報道されなかった。
 朝食が済むと、薪にはすることがなくなってしまった。帰り支度は青木が整えておいてくれたし、チェックアウトの手続きも彼が戻ってからにした方が良いと思った。
 青木だって、ショックを受けているはずだ。取調室から職場に直行では、さすがに参るだろう。質の良い仕事ができるように少しフォローしてやって、それには2人きりの方がいいから、部屋は確保しておいたほうがいい。

 敷いたままの布団に寝転がって、板の目がうねるように連なっている天井を見上げる。青木はもうすぐ釈放されるはず、自分はここで待っているより他に術はない。
 署長に直談判して無理矢理釈放させることもできるが、彼らが自分たちの関係を知っている風だったのが気になる。ごり押しは、彼らの疑いを確証に変えるだろう。得策ではない。

 騒ぎ立てないほうがよいと判断して薪は、しかしどうにも落ち着かなかった。
 ひょいと起き上がり、布団の上に胡坐をかいて腕を組む。腕時計を見ると、時刻は8時を指している。青木からの連絡は、まだない。
 1分ほど思案して、薪は腹を決めた。窓の外を見て曇り空を視認し、薄いベージュ色のスプリングコートを羽織る。
「ちょっと散歩に出てきます。僕宛に何かあれば、この番号に電話をください」
 仕事用の携帯電話の番号を記したメモをフロントに預けて、薪は外へ出た。宿の人間は青木が警察に連れて行かれたことを承知しているのだろうが、そこはプロだ。何食わぬ顔で、笑顔さえ浮かべて、いってらっしゃい、と薪を送り出した。

 行き先は無論、昨夜訪れた公園だ。
 ここで起きたという殺人事件に興味を持ったわけではない。管轄外の事件に手出しする気はない、それは警察の重大なタブーのひとつだ。興味本位で首を突っ込んで、トラブルを起こす心算はない。ただ、青木が帰ってきたときに、話を聞いてやるのに基礎知識があった方がいいだろうと、それくらいの考えだった。じっと待っているのは性に合わない。捜一にいたころ、薪が一番苦痛に感じていた仕事は張り込みだった。
 問題の公園には正門があり、周囲は高いフェンスに囲まれていた。つまり入り口は一つで、そこには見慣れたキープアウトのテープが張られていた。野次馬はいなかった。すでに現場検証は済んだのだろう。死体のなくなった現場に張り付いているほど暇な一般人は、この町にはいないようだ。
 入り口に、警邏係の警官が立っていた。黙って警察手帳を見せると、仰天して背筋を伸ばし、しゃちほこばって頭を下げた。一介の巡査が警視長の手帳を見せられたら、これが普通の反応だ。あの連中がおかしいのだ。

「ごくろうさま。ちょっと中を見せてもらえますか」
「どうぞ。現場は公園の奥です」
 殺人事件が起きれば県警から刑事が来るのは当たり前。自分が顔を知らない捜査員がいても当然のこの状況で、彼の非を問うものはいないだろう。
 制服を着用していない薪に、彼は額に手を当てての敬礼はしなかった。これは当然の配慮で、何故なら誰に見られているかもわからない屋外で手敬礼で挨拶を交わしたりしたら、相手が警察関係者だと遠目にも判ってしまい、私服刑事の意味がなくなる。駐在の教育は行き届いているようだ。

 公園の中に入ると、昨夜見た桜が今日は曇天の空に霞んで、うら寂しいような薄ら寒いような、昨日とはまた違った風情で佇んでいた。
 警官の言うとおり、奥の方に、青いビニールシートで囲った一画があった。間違いない。昨夜青木と行為に及んだ場所だ。
 偶然とはいえ、ここが殺人現場に選ばれたことは、青木にとっては不利だ。ここには彼の痕跡が残っている。毛髪や体液が残っている可能性もある。が、だからと言って、それは決定的な証拠にはならない。それはあくまで、彼が此処を訪れた証拠に過ぎない。殺人の物証にはなりえない。

 それにしても、と薪は思う。
 自分たちがここで愛を交わした後、同じ場所で非業の死を遂げた人間がいるのか。
 そう思うと、複雑な気分だった。事件の詳細は分からないが、警察が、他所者という理由で青木に目をつけたのなら、通り魔的な犯行だったのかもしれない。時間がずれていたら自分たちが襲われていたかもしれない。薪も青木も柔道は黒帯だ。通り魔の一人や二人、投げ飛ばせる自信はあるが、あの状態で襲ってこられたら応戦できるかどうか、いや、危害を加えられる前に恥ずかしくて死んでるかも……。

 ひとりで頬を染めながら、もう二度と外では許すまい、と心に誓って、薪はブルーシートの中に入った。
 桜の枝に紐をかけて、シートは四方を囲んでいた。上空に覆いはないから、観察に必要な明るさは得ることができた。
 現場は雑草交じりの芝生で、下足痕は期待できそうになかった。犯人の指紋が残っていそうな箇所もなかった。あったとしても、ここは公園だ。数が多すぎる。被害者の血液が付着してでもいない限り、特定は不可能だ。
 血痕は、草叢に残っていた。さほど多くない。小雨が降れば流れてしまう程度だ。この量から見て撲殺の可能性が高いと思ったが、遺体を見ないことには断定できない。刺殺でも、凶器を刺したままにしておけば外部的出血は少なくて済むし、絞殺だったとしても揉み合ううちに流血に及ぶこともあるからだ。
 草を数箇所採取した跡があるから、鑑識が持っていったのだろう。そこに被害者以外の唾液、血液等が混じっていればベストだ。DNA鑑定で、青木は即釈放される。
 DNA鑑定には専門の技術が必要だが、その精度は77兆分の1という驚異的な数字だ。これ以上の物証はない。

 薪はシートから外に出て、公園を後にした。
 長居は無用だ。場所が確認できたら、それでいい。どうせ細かいことは鑑識の結果待ちだろうし、自分が捜査に加わることは許されない。
 歩きながら腕時計を確認すると、午前10時。何事もなければ、東京行きの電車に乗っているはずだった。
 青木が連れて行かれてから5時間。まだ聴取は終わらないのだろうか。
 事情を聞くだけなら、とっくに解放されてもいいはずだ。ましてや青木は本庁の警視。濡れ衣だと分かった時点で客人扱い、頼めば車で宿まで送り届けてくれるはずだ。それが未だに何の連絡も入らないと言うことは。
 
 青木はただの参考人から、重要参考人になった。

「…………あのバカ」
 ふーっと重いため息を吐いて、薪は携帯電話を取り出した。周囲に誰もいないことを確認して、留守を任せてある副室長に電話を掛ける。
「僕だ。何か報告はあるか?」
 昨日も今日も平和なもんですよ、と落ち着いた声が聞こえてきて、薪は安堵する。
「そうか。特に急ぎの案件はないんだな。じゃあ僕と青木、今日休んでもいいか?」
 短い沈黙の後、「何があったんですか」と深刻な声が問うのに、薪は努めて軽い口調で、
「いや。桜がきれいだから、ついでに観光でも、と思ってさ」
 取ってつけたような言い訳に、元捜査一課のエースが騙されてくれるはずもなく。厳しい口調で、薪さん、と呼びかけられて、薪は奥の手を出すことにした。

「わかった。岡部にだけは本当のことを言おう。実は、すごく困ったことになってて」
 困ったこと? と、一転して心配そうな声音になる岡部の素直さを好ましく思いながら、薪は用意しておいた台詞を淀みなく口にする。
「昨夜、張り切りすぎちゃってさ。青木のやつ、ぎっくり腰になっちゃったんだ」
 岡部が黙った。予定通りだ。
「久しぶりだったから、明け方まで粘られて。僕も足腰立たなくてさ」
 ユデダコのようになった岡部が、ダラダラと汗をかいている姿が見える。これがテレビ電話でなくて残念だ。
「本当にすごかったんだ。青木ったら、僕のあんなところまで舐め」
 ぷつっと電話が切れた。後に残るのは、ツーツーという無機質な電子音。

「岡部を黙らせるにはこれが一番だな」
 ぱたりと携帯を閉じて、薪は皮肉に笑った。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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岡部さぁ~~ん(´;ω;`)

小野田さんがダメでも、岡部さんがいるから大丈夫っ
たすけてっ元捜一のエース おかべさぁ―――んっっ
と心の中で唱えていたのにっ薪さん自ら助けの手を払いますかっっ(>д<;)
すげー原作通りの行動(方法はともかくゴニョゴニョ…)

でも、捜査員モードの薪さん カッコいいです


決算お疲れ様でした
本当は続きが気になって、1日5回位チェックしちゃってます。
しづさん、朝しか更新しないだろうと分かっていながら、ついつい
なんかストーカーちっくすいませ~ん
でも、決算終了、うれしいな続き早く読みたいです

Aさまへ

Aさま、こんにちは!
ご無沙汰しちゃっててすみません~! 今度、ブログにお邪魔させていただきますね!


>きゃっ薪さんさすが(`∇´ゞ、
>純情な岡部を黙らせる術を心得てますね(笑)。

目的のためには手段を選びませんね、このひとは☆
自分だって純情なくせに、こうやって誰かをイジメルときは平気だって言うんですから、ホント、筋金入りのイジワルです。


>現場から青木と薪さんの体液が出てきたら、赤面ものでちょっと恥ずかしいかも…(笑)。

もう、そんな生易しいモノじゃなくて。
今回、薪さん恥ずかしさで悶死しそうになるシーン、たくさん出てきますから。 うちの薪さんの慌てっぷりをお楽しみに。(^^


Aさま、あちらの様子を見に行かれたのですね。
こちらはすっかり日常に戻っていますが、現地はまだまだ大変なのですよね・・・・ガレキの撤去作業が終わらない、と言う声も聞かれます。
その様子をテレビで見るのと、現地に行かれて自分の目で見るのとでは、衝撃も雲泥の差かと思われます。 
どうか、少しでもAさまのご傷心が癒されますように・・・・・。

まきまきさんへ

まきまきさん、こんにちは~。


>すげー原作通りの行動(方法はともかくゴニョゴニョ…)

うはははは、思いっきり払いのけちゃいましたね~。<岡部さんの手。
まあ、うちのは原作よりもずっと岡部さんに頼ってるから、このあと助けを求めようとするのですけど、それが色々ありまして。(^^;


> でも、捜査員モードの薪さん カッコいいです

ありがとうございます~~!
うちの薪さんがカッコいいのって、仕事してるときだけですからね。 この人から仕事取ったら、ただの残念なオヤジですからね★


>決算お疲れ様でした

労いのお言葉を、ありがとうございます。
えー、そんなにチェックしてくださったんですか? 申し訳ないです~~!!
続きが気になるとのお言葉、とっても励みになります、とか言いつつ、7月は4つしか記事あげてなくて、本当にすみませんでしたっ。
でもって現在、そんなに気にしていただくほど面白くないかも~~、という不安が山のごとし!なんですけど!! 
この先、がっかりさせてしまったらすみません。(>_<) 
どうか広いお心でお付き合いください。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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