室長の災難(22)

室長の災難(22)







 昨日の記憶はない。
 正確に言えば、青木に抱き上げられてからの記憶がない。
 あれから警視庁に顔を出すつもりだったから、着替えに帰るだけだったはずなのだが、どうやら朝まで眠ってしまったらしい。ドアロックを外したり寝巻に着替えたりしているのだが、全然覚えていない。これもクスリの影響か、と頭痛の残る頭で薪は考えた。

 鑑識から青木が帰ってくる。
 いつも薪の前ではおどおどしている青木だが、今日は特にひどいようだ。そういえば、昨日はこいつに送ってもらったはずだ。記憶にはないが、腹いせに2、3発殴ってしまったのかもしれない。
「青木、分析の結果は出たのか。よこせ」
「は、はい」
 書類を持ってこちらへやって来る。が、薪の顔を見ようとしない。A3サイズの茶封筒を置いて、逃げるように自分の机に戻っていく。これは、5、6発、殴ったのかもしれない。もしかすると、蹴りも入ったかも。

「青木。ちょっと来い」
 室長室へいざなう。一応、フォローしておくのが上司の役目だ。
 何を心配しているのか、いっそう青ざめた顔をしてギクシャクしながら歩いてくる。最近の若い者の考えていることはよくわからない。
「昨夜はなぜ起こさなかったんだ? 僕は、ここに戻ると言っていただろう」
 そう水を向けると、驚いた顔をして「覚えてないんですか?」と言う。
「なにをだ。僕は眠ってしまったのだろう? それとも、おまえに何かしたか?」
「いいえ! 薪さんはよく眠ってました!」
 明らかに、あやしい。
 じっと見つめると、汗をだらだらと流してさかんに目を泳がせている。ウソのつけない男なのだ。
 まあ、仕方がない。こっちは何も覚えていないのだから。青木の方から何か言ってこない限り、謝りようがない。
 別に謝る必要もない。自分はここに戻ると言っていたのに、起こさなかった青木も悪いのだ。
 
「この次からは、ちゃんと起こせ」
「……はい」
 なにやら憔悴しきって、青木は出て行った。

 入れ替わりに岡部が入ってくる。捜一の取調べの様子を見に行かせたのだ。
 岡部は1年前まで、捜一のエースだった。一課には親しい後輩もいる。遥か昔に捜一を離れた自分より、ずっと顔が利くのだ。
「あいつら、ヘラヘラ笑いながら供述してるらしいですよ」
 正義感の強い岡部は、義憤に駆られた顔をしている。
 それは昨日、薪も思っていた。
 とにかく、軽いのだ。
 あんな重大な犯罪を犯しているとは思えないような、普通のノリの良い若者たちだった。
 明るく笑いながら女を犯し、嬲り殺す。正気の沙汰とは思えない。その快活さが、薄ら寒い。

「まったく最近の若いもんは。善悪の区別がつかない連中が多すぎるんだ」
 苦渋に満ちた顔つきで、岡部が低く呟く。
「病んでいるのかもな。この時代は」
 いつになく感傷的な声音で、薪は呟いた。
 だから、自分たちのような特殊な捜査をするものたちが必要になる。被害者の声なき声を聞くために。

 デスクの上の電話が鳴る。
 田城からだ。つまり、新しい仕事だ。薪の目は、すぐさま有能な捜査官の眼になる。
「わかりました。すぐに行きます」
 立ち上がり、しっかりとした足取りで歩き出す。いつまでも靴擦れなどにかまっていられない。
 室長室のドアを勢いよく開ける。部下たちが一斉にこちらを見る。
「みんな、事件だ。モニター準備!」
 第九の日常が、再び始まった。                    



 ―了―




(2008.8)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

総拍手数・・・

しづさん、こんばんわ。
ストーカー青木のように、読み続けております。
もしかして、しづさんドン引きしてませんかね・・・
どうかひろ~いお心で、ここはひとつ見逃してくださいませ。

室長の災難・・・読み終わりましたぁ。
読みながら拍手してまして、最後の拍手をしたら、88884・・・
残念ながら88888になりませんでした。

今回のお話し、女装した薪さん。
もうめっちゃキレイすぎて、羨ましいです。
小っちゃくて細くて・・・(薪さんに怒られますね)
でも、中身は男らしいんですよねぇ。
小っちゃいけど、態度は威圧的でそんな薪さんが好きです。

この時期からもう薪さんは青木のこと実は頼りにしてるんですね。
「僕の背中はお前が守れ」なんて。青木よ、良かったな。
しっかり守るんだぁ。
と思ってたら結局最後は全て青木のせいにされるという・・・
「くるのが遅い」確かに危なかったですもんね、薪さん。
青木に逢えてほっとして泣いちゃう、薪さん可愛いっす。

「うふっ」って言ってる薪さん。薬飲ませないと絶対に見れない
レアな姿ですよね。普段は絶対に甘えないからなぁ。
少しは人に甘えようよ・・・でも、頑固だし照れ屋だから無理か・・・

そして・・・やっぱり鈴木さんに間違えられる青木。可哀想に・・・
青木の想いが伝わるまで長いですね。頑張れ、青木。
思いが伝わるまで、薪さんが青木に心を開くまで
色々あって目が離せないですよね。
やっぱり、しづさんは天才だぁ。早く続き読まないと・・・

竹内は、この回で薪さんに心を奪われてしまうですねぇ。
これからが大変ですね。
薪さん以上の女性なんていないですもんね。
青木のライバル出現ですね。
鈴木さんに似てるという点で青木が一歩リードなのかしら。
ストーカーそして奴隷になりつつある点ではかなりのリードかも。
あぁ、でも竹内は薪さんに心底嫌われてますもんね。残念な竹内・・・

今回もだらだらと長いコメントですみません。

今週はまた寒くなるようですね。
札幌は雪まつりが始まりました。観光客がいっぱいです。
私は地元なので、行かないです。理由は寒いから・・・
テレビで十分、行った気になります。
風邪などひかぬようご自愛くださいませ。

では、次の「宴の始末」行ってみよう!!



ひろっぴさんへ

ひろっぴさん。
こちらにもコメントありがとうございます。
ドン引きなんて、とんでもない。ずっと更新してないのにこうしてコメントいただけるの、感謝してます。


拍手、たくさんたくさん、いただいてます。本当にありがとう(*^^*)
88888のキリ番、残念でしたね。踏んでいただいても、現在は特典もありませんが……
もしも何かリクエストがあれば、どうぞ。書き上がりは何時とはお約束できませんが、お話だけでも(^^)



>室長の災難

うわー、懐かしいー。
これ、初めて書いた話ですよ。道理でとっちらかってると、すみませんー(^^;

アニメの女装して囮捜査した話を膨らませたんでした。
あのアニメ、画もさることながら脚本がねえ……あの薪さんに女装させといてあんなショボイ話しか作れないの、いっちょわたしが作ったるわ、と思い上がって書いたら悲惨なことになりました、身の程知らずで申し訳ありませんでした<m(__)m>


>もうめっちゃキレイすぎて、羨ましいです。

アニメもきれいでしたよ~!
薪さんが女物のカツラを取るシーンがあるんですけど、本来のショートカットに戻った方が綺麗なんですよ。あれは笑ったなーww


>この時期からもう薪さんは青木のこと実は頼りにしてるんですね。

うーん、やっぱりちょっと無理がありますね。
最初は、この話以外、書く気なかったんですよ。だから書きたいこと、みんな詰め込んじゃったんです。
この時期なら、二人の距離はもう少し遠い方が自然ですね。


>そして・・・やっぱり鈴木さんに間違えられる青木。可哀想に・・・

先を書く気が無かったのにこの仕打ち(笑)
わたし、昔は本当に青木さんキライだったんですよ。ごめんねえ。
今は大好きだから、許してね。


>竹内は、この回で薪さんに心を奪われてしまうですねぇ。

そうなんですね。
竹内の不憫はここから始まるんですね。
とりあえず、薪さんには一生嫌われたままですからね(笑)

何気に気付きましたが、竹内は一番最初に出来たオリキャラなんですね。
ストーリー上は三田村(間宮の前任の警務部長)という薪さんの敵役が最初に出てくるオリキャラなんですけど、書いた順番から行くと竹内が先です。とにかく雪子さんの結婚相手を作らなきゃ、って思ってたから。



>雪まつり

そうだ、ひろっぴさん、札幌にお住まいなんですよね。
えー、なんで行かないの!
理由は寒いから?
や、それはそうかもしれませんけど、もったいないですよ~!
とは言え、地元ってそんなものかもしれませんね☆

わたしも若い頃は地元の観光地には興味無かったんですが、年を取ったら近場もいいな、と思うようになりまして。(結婚してからはお姑さんと同居なので、長時間家を空けられなかったせいもありますが)
偕楽園の梅とか、かみね公園の桜とか、車で1時間くらいの観光地に赴くようになりました。
現地でなければ見られない風景、雰囲気、感動がありますよ。

中でも感動したのは、冬季の袋田の滝です。
家から車で2時間くらいのところにあるんですけど、冬は滝が凍りまして、氷の壁になるんですね。で、それが日中、気温が高くなると段々に融けてくるんですけど、その融ける様子がすごくきれいでした。思わず足が止まってしまうくらい。
観瀑台に、1時間くらい立ってたかなあ。オットは飽きちゃって、大変だったみたいですケドw


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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