緋色の月(7)

 こんにちは~。

 一昨日、人間ドックに行ってきたのですよ。
 血液検査は今年もすべて規定値内に入ってて、引っかかったのは例年通り、低血圧症だけでございました。 (上がいつも90止まりなんですよね~。 寝起きはフラフラします☆)  
 オットも一緒に行ったんですけど、彼はコレステロールやらバリウム検査やらで引っかかりまくりまして。 最後に保健師さんの指導があるんですけど、これからの健康や食生活について色々とアドバイスを受けておりました。
 あれって普段からの食生活が大事なんですよね。 その責任は妻のわたしにあるわけで。 
 とりあえず、わたしが残した食事をオットが食べてしまう習慣は改めさせよう!! 缶ビールも1日2本までに制限しよう!!
 
 と、決意しましたら本日は、会社の暑気払いだったりします。(笑)


 お話の続きです。

 おやあ? なんかこの章、つまらないぞ。 しかも長いし~。
 長すぎて携帯でダウンロードしきれなかった場合はご連絡ください。 





緋色の月(7)




*****


 彼はいつも人形のように大人しい、と私は思いました。

 さわっても、キスしても、はしたなく喘いだりしません。だけど彼は従順で、私の意のままに身体を開きました。
 彼の静寂を私は好ましく思い、彼の消極性を愛しました。
 彼の薄い目蓋は常に閉じられており、その亜麻色の瞳に熱情が宿るさまを見ることは叶わなかったけれど、彼が私の手を拒んだことが一度もない以上、彼の私に対する好意は明らかだと思いました。

 言葉で確かめるまでもない。彼は私を愛していたのです。

 私の手の中で慎ましく息づいていく彼の分身を愛でるたび、その可愛らしい口元から湿った吐息が洩れるたび、私は彼への気持ちが深まっていくのを感じていました。それは彼も同じだったと思います。
 いや、同じでした。
 何度も何度も重ねられる秘密の中で、私と彼の愛は次第に深まっていったのです。


*****


 警察署を出て、薪が真っ先に考えたことは、岡部に助けを求めるべきかどうか、ということだった。
 これだけ不利な証拠が揃ってしまっては、正直、薪一人の力で青木の無罪を証明することは難しい。岡部なら現場の経験も長いし、事件の勘所も心得ている。関係者の自分には開示してもらえない情報も、岡部になら見せてくれるかもしれない。それが無理でも、捜査本部に警戒されている自分よりは自由に動けるはずだ。
 それはとても有力な対策に思えた。電話で事情を話せば、岡部は此処へすっ飛んでくるだろう。
 しかし。
 もしも事件が起きたらどうする。自分も岡部もいなかったら、第九は回らない。研究室内の平常業務なら岡部がいなくてもこなせる、でも、実地検分が必要な案件に関しては、現場経験のない今井では的確な指示を出せるかどうか。
 迷った末、今日一日だけ、一人で情報を集めてみよう、と薪は思った。
 今日は金曜日。明日は公休日だ。
 夜には岡部に連絡を入れる。事件の概要は頭に入っているから、電話で説明ができる。明日の朝合流して、捜査に協力してもらおう。それまでは自分ひとりで動ける範囲で、できるだけの調査をしておこう。

 何から手をつけようかと考えて、正規の捜査員でもない自分にできることの少なさに、薪は戦慄する。
 もし自分が現場を任されていれば、DNA鑑定の再検申請をし、司法解剖の結果を踏まえて凶器の探索をする。目撃者から話を聞き、矛盾がないか確認を取る。地取りの指示を出し、真犯人の足取りを洗う。被害者の交友関係を調べ上げ、彼らに恨みを持つものがいないかどうか聞き込みを行う。それから、過去にこの地域で起きた通り魔事件、流しの殺人等の記録を洗い出し、類似の犯行がないか精査する。
 それらのどれ一つとして、自分は為せない。自分にできることといったら、近隣の住人に話を聞いて回るくらい。管轄外の仕事に、それも被疑者側の関係者と目される自分が手を出したりしたら間違いなく本庁に苦情が行く。

 その懸念に気がついて、薪は不安に駆られる。
 田城の耳に入るのはまだいい。叱責は受けるだろうが、それには衷心から謝ろう。問題は小野田だ。

 小野田は、自分と青木の仲を認めていない。それどころか、積極的に裂きたがっている。
 昨年の夏、薪は小野田の本心を改めて突きつけられた。あの高潔なひとがあんな策謀を巡らすほど、そこまで憂慮されていたのかと、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。と同時に、小野田は決して聖人君子などではなく、目的のためならあざとい手段も用いる人間なのかもしれない、という微かな疑惑も浮かんだ。
 小野田への信頼は厚いが、薪とてそこまでおめでたくはない。彼の地位を鑑みれば、これまでに数多くの非情を為してきたことは容易に察しがつく。しかし。
 その非情が自分に向けられるとは、想像もしていなかった。これまでに小野田から受けてきた愛情を思えば、ライバルを蹴落とすため過去に為したであろう彼の姦策を夢想することすら、小野田への裏切り行為に思えた。
 薪はそのとき、小野田の愛情を信じた。薪の将来を思うが故、これは小野田の親心から派生した行為だと判断し、それは間違いではなかったと今も信じている。
 でも。

 今回のこの状況、管理者としての小野田はどう動くだろう。
 警察全体の名誉を守るために、官房長の権限を使って、強引に青木を助けるか?
 いいや、絶対にそんなことはしない。小野田は姑息な真似はしない、むしろ、膿は出しておくべきと捜査本部に励ましの言葉を送るだろう。
 もし捕まったのが薪なら、釈放はさせずともそれなりの便宜を図ってくれるかもしれない。しかし対象が青木では。励ましの言葉どころか、「早く送検しろ」と捜査本部にハッパをかけるかもしれない。小野田ならやりかねない。
 青木は小野田に嫌われている。自分が青木の話をするとき、彼の薄灰色の瞳に浮かぶ微かな苦渋を、薪は見逃していない。
 彼の怒りと不興は自分にこそ注がれるべきなのに。自分のせいで青木が、警察庁の頂点に極めて近い人物に疎まれている事実を思うたび、自分は本当に青木の恋人に相応しくない人間だという自戒に囚われる。
 が、今は自分の低劣を嘆いている場合ではない。一刻も早く、青木を救い出す証拠を集めなければ。

 行動計画を立てながら歩くうち、薪はキープアウトのテープが張られた問題の公園にさしかかった。姿勢よく立っている制服警官の姿を見て、軽く会釈する。向こうも薪の顔を覚えていたとみえて、無言の敬礼で挨拶を返してきた。
「ちょっと聞いてもいいかな」
 薪に話しかけられて、彼は緊張しているようだった。まだニキビ痕の消えない頬が紅潮している。自分がまだ警視だったころ、警視監の小野田に呼び出されて、一課の仲間の前では平静を装いつつも内心ものすごく緊張したことを思い出し、薪は頬を緩ませた。

「君は何時からここに?」
「朝の3時からであります」
「そのとき、現場検証は済んでいましたか? 野次馬はいました?」
「現場検証が終わったのは7時過ぎでありました。野次馬は、20人ほどおりました。自分と同僚二人、計3人で現場内に部外者が入らないよう、堰き止めておりました」
「野次馬の中に、不審な人物はいませんでしたか?」
「町の者以外は、一人もおりませんでした」
「君がひとりで警備をしている間に、現場を訪れた人物は?」
「警視長殿お一人であったと記憶しています」
「失礼だが、君の目を盗んで侵入された可能性は?」
「ここからはビニールシートがよく見えます。誰かが出入りすれば気がつきます」

 警官の言う通り、現場は公園内で見通しはよい。唯一の死角になっている桜木の背後には高いフェンスが境界線の代わりを為していて、あの柵を越えてきたとしたらそちらの方が目立つだろうと思われた。
 薪が彼に声を掛けたのは、これが目的だった。犯人は現場に戻ってくる。不思議なことに、何百年も前からこの愚かな心理行動は多くの犯罪者の間で繰り返されている。確認しておくべきだと思った。
「そうか。ありがとう」
 今回の犯人に、その心理は働かなかったらしい。いささかがっかりして、薪はその場を去ろうとした。

「君、手に何を持ってるの?」
 去り際に見咎めて、薪は警官を振り返った。薪に言われて彼は、おずおずと自分の右手を差し出した。白い手袋をはめた彼の手の中の、それは携帯のストラップだった。
「これはどこで?」
「公園の噴水のところであります」
 噴水は公園のほぼ中央にあり、現場とは10m以上離れている。事件の遺留品と見るには、少し遠い。紐が切れて落ちたようだが、殺人を犯した後で警察に連絡しようと携帯を出したとしたら、もっと犯行現場に近い位置に落ちるはず。
「本部の方の落し物ではないかと」
 薪もそうだと思った。何故なら、警視庁のマスコットがついたその携帯ストラップは自分も持っていたからだ。
 
 何年前だったかとんと記憶にないが、警察全体に配られた何かの記念品だ。警察創立200周年記念だか何だか、そんな名目での予算合わせだったような気がする。総務部辺りで予算が余ったのだろうが、要は税金の無駄遣いだ。余ったら返せばいいのだ。使わなかった予算は来年削られる傾向にあるとは言え、これは国民の血税だということを忘れてはいけない、ていうか、こんなものを作る金があるなら第九のメンテ費用に回して欲しい。
 落し物を警視長に預けるのは気が引けたのだろうが、この警官は、薪を県警本部の人間だと思い込んでいる。捜査本部は、今回の事件に県警が介入しないことを末端の警官にまでは知らせていないのだろう。彼の意識の中で、県警と自分の繋がりは薪しかおらず、それで遠慮しながらもこれを差し出したのだろう。
「僕から渡しておくよ」
 軽く請合って、薪はそれを受け取った。かなり苦しいが、後で捜査本部に顔を出す言い訳にはなる。刑事の習性で、薪は警官から受け取った遺失物をハンカチで包んでからコートのポケットに入れると、公園の周囲を歩き出した。

 注意深く辺りを観察しながら、ゆっくりと歩を進める。
 一般人には旅行者が桜を楽しみながら散歩をしているようにしか見えないだろうが、彼の亜麻色の瞳は、どんな些細な異変も見逃さない観察者のそれになっている。
 何気ない風景に、この日常に、違和感を見出そうとしている。不自然な点はないか、異質なものは残されていないか。それが真相への道しるべになる。

 いつの間にか事件のからくりを解こうとしている自分に気付いて、薪は首を振った。
 ちがう、ここで自分が為すべきことは、犯人の痕跡を探し出すことではない。青木がここに来なかったことを立証することだ。青木が殺人を犯したという本部の見解を覆す証拠を、矛盾点を見つけ出すことだ。
 青木がここに来たと仮定して、宿から公園までは、歩いて30分くらいかかる。徒歩以外の交通手段は、この場合考えにくい。土地勘のない場所で、夜ふらりと外出するのにタクシーを呼ぶならフロントの助けが必要だ。そのくらいは連中も確認しているだろう。
 ということは、現場まで往復1時間。いや、帰りは犯罪を犯したものの心理として早く現場から遠ざかりたいはずだから、走って帰ってきたとして20分。犯行に要した時間を30分程度と見積もると、最短でも1時間20分。目撃証言のおかげで犯行時刻は明確になっているから、10時から11時20分の間に、彼を旅館で見た人物を探せば良い。
 
 昨夜は、9時過ぎに宿に戻った。
 それから風呂に入って、上がったのが9時40分ごろ。10時には……もう布団の中で手首縛られてたような。
「あのバカ」
 そういえば、と薪は昨夜のことを思い出す。いや、本当は恥ずかしいからあんまり思い出したくないんだけど。

 1回目が終わった直後、青木は少しだけ部屋からいなくなった。ような気がする。
 薪は行為のあとすぐに眠ってしまうクセがあるからその時もうつらうつらしていたのだが、「お待たせしました」とか何とか言って起こされて、2ラウンド目が始まったのだった。でも、そんなに長く眠っていたわけはないし、12時の時計の音は聞いているのだから青木のアリバイは崩れない。

 ――― 否。
 12時の柱時計の音は聞いたが、11時のものは憶えがない。となると、青木のアリバイで確実なのは10時と12時前後の何分かだけで、あとは薪の主観によるもの、ということになる。これでは例え薪の証言が採用されたとしても、ちょっと気の利いた検事なら簡単に無効化できる。
 確かに、タイムテーブルだけを追うと理屈では犯行は可能かもしれない。でも、青木は人を2人も殺した後に、恋人を抱けるような人間じゃない。
 それは薪にとっては世界の真実ですらあるが、警察にとってはこれまた薪の主観に過ぎない。証拠としての価値はない。

 薪の感覚では、青木が部屋を出ていたのは20分程度のものだったと思うが、その20分に賭けるしかない。宿の誰かが、青木の姿を目撃していれば。
 まずは、宿の泊り客の聞き込みからだ。

 警察の地取り捜査の結果を待つのは、時間の無駄だと思われた。
 DNAが一致した以上、警察は青木が真犯人であることの証拠を探すことに重点を置くはずだ。公園の目撃証言の補足には熱を入れるだろうが、宿への聞き込みは後回しになるだろう。
 捜査経験のある薪には分かる。今は、犯罪の証拠を一つでも多く挙げて、それらを武器に被疑者を攻めるときなのだ。証拠がひとつ重なるたびに、被疑者の鎧は薄くなっていく。被疑者の絶望を煽り、もうこれまでだと観念させるには、言い逃れのできない証拠を積み上げていくことが一番効果的なのだ。

 宿へ帰ろうと、薪が脇目も振らずに道を歩いていると、後ろから声を掛けられた。この町に知り合いがいるわけはないのに、と振り返れば、そこには一人の男がにこやかな笑顔で立っていた。手に、黒い往診カバンを持っている。彼は医師なのだ。
「東条先生」
 驚いて立ち止まり、振り返って彼の名前を呼んだ。

 彼は東条学。薪が週1で通わされているカウンセリングの先生だ。
 年若い精神科医だが、彼は実に優秀だ。警視庁には専属のカウンセリング機関があり、彼はそこのチーフを任されている。精神分析医としての資格を持ち、いくつもの優れた論文を著し、病院の中でも腕の良いカウンセラーだと評判だが、薪にはあまり実感がない。正直な話、彼の治療を受けた時より青木と一緒に週末を過ごしたときの方が元気になれるような気がする。
 これは東条の腕が悪いのではなく、自分がカウンセラーを必要とする精神状態ではないからだと薪は判断している。警視総監に義務付けられているだけで、薪自身は無駄だと思っているせいもあるかもしれない。その結果、週一の約束が月一くらいになってしまうこともしばしばあって、最近彼のカウンセリングを受けたのは2ヶ月くらい前だった気がする。

「驚いた。きみとこんな所で会うなんて」
 職業柄か本来の性質か、東条は人を安心させる笑顔になって、薪の傍に駆け寄ってきた。真ん中分けにした短髪を揺らして、縁なし眼鏡をかけた彼は、白衣を着ていないと大学生くらいに見える。年は5,6歳下だと思ったが、研究者のような人種は世間を知らないところがあるから若く見えるものだ、と実年齢より20歳は若く見える自分の外見は棚上げにして薪は勝手なことを思い、自分よりやや高い位置にある彼の暗蒼色の瞳を見返した。
 東条の身長は、それほど高くない。薪より10センチ高と言ったところだから男子の平均身長には達しているのだが、薪の周りには大柄な人間が多いため、彼には親近感を持っている。太り過ぎてはいないが、痩せてもいない。医師だけに、理想的なウェイトコントロールが為されているようだ。

「東条先生こそ、どうしてここに?」
「親に顔を見せにね」
「先生のご実家はこちらでしたか」
「うん。今朝は始発電車に乗ってきたんだよ。おかげで眠いったら」
「そうでしたか。僕は出張で、昨日この町に」
 春の風がふわりと薪のコートの裾をはためかせ、桜の枝をさわりと揺らした。薪の髪に舞い降りた花びらを医師らしい清潔な指先でつまんで、東条はにこりと笑い、
「じゃあ、これから仕事かい?」
「ええ、まあ」
「少しでいいから時間取れない? 僕とお喋りしようよ」
 彼がお喋りと言えば、それはカウンセリングのことを指す。診察室で向き合うと、彼は必ず薪に向かってこう言うのだ。

 彼の薪に対するカウンセリングはちょっと変わっていて、5分くらい世間話をした後は、いい匂いのする香を炊いて寝心地のよいリクライニングシートでまったりする。つまり、単なるリラクゼーションに過ぎないのだが、精神的に何の問題もない患者に対して何かしらの治療記録を付けなければいけないとなれば、こんな方法を選ぶしかないのだろう。みんなあのタヌキ親父が悪いのだ。
 とある理由による疲れもあって、と言うのも東条のカウンセリングを受ける前日は必ずと言っていいくらい寝不足になるので、薪は大抵シートの上で眠ってしまうのだが、1時間くらいすると東条が起こしてくれる。そこへ丁度、岡部や青木が迎えにくるという具合だ。

「すみません、先生。今日はちょっと忙しくて」
「夜でもいいよ。僕は特に何をしなきゃいけないわけでもないから、君の都合に合わせる」
 東条は一歩薪に近付き、苦笑いの顔で、
「最近、診察証明書に書くネタを探すのが大変なんだよ。2ヶ月も前のお喋りの内容じゃ、季節も変わっちゃってるし」
 言われて、薪はバツが悪そうに右手を自分の後ろ首に当てた。
 カウンセリングの指示は警視総監から出ており、薪は、確かに診察を受けた、異常がなかった、という報告書を毎週総監宛に提出しなければならない。が、繁忙を極める薪には、病院へ赴く時間を取ることができないことも多い。そんな時には、東条が適当な一文を添えて総監に報告を出してくれているのだ。
 東条は、薪の精神が既に回復しているにも関わらず、強制的にカウンセリングを受けさせられている裏事情を知っている。だから薪に協力して、嘘の報告書の片棒を担いでくれているわけだが、それらしい文章を添えるには薪の近況に関するデータが必要だと、これまた尤もな言い分だった。

「君の談話記録(カルテ)には、『朝の気温が氷点下だと起きるのがとても辛い』と書いてあってね。4月で氷点下って、薪警視長の自宅は北海道にあるのかって」
 茶化しながらも東条が食い下がるのは、薪の仕事内容を知っているからだ。第九の職務は重篤な精神的負担を強いる。室長ともなれば尚更だ。加えて薪には過去のこともあるし、1月に1回程度のカウンセリングは必要だと、精神科医の立場から考えているのだろう。彼の心配は重々分かって、だから薪は精一杯の譲歩をする。
「わかりました! 時間が取れ次第、必ずこちらから連絡しますから」
 本音では今は、一時でも惜しい。ここで立ち話をしている、この時間すら惜しいのだ。
「必ずだよ」
 薪の余裕のなさに気づいたのか、東条はあっさり引き下がってくれた。さすが精神分析医、相手の気持ちを察するのはお家芸だ。

 失礼します、と頭を下げて、薪は早足に歩き出した。すでに彼の頭の中は、犯行時刻における旅館での青木の目撃者を探すことでいっぱいで、背にした精神科医を振り返ることもしなかった。
 ベージュ色のスプリングコートが風に靡きながら小さくなっていく、東条はそれをじっと見送っていた。その姿が角を曲がって見えなくなると、彼はジャケットのポケットからシステム手帳を取り出し、先刻自分が小さな亜麻色の頭から取ってやった桜の花びらを大事そうに、透明ポケットの中に落とし込んだ。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Mさまへ

Mさま、こんにちは~。

そうそう、こいつです。
って、こういうのバラしていいのか? いや、でも分かるように書いてるからいいよね?


>治療にかこつけて

いやん、そんな可哀想なこと、わたしが薪さんに、するに決まってるじゃありませんか。(笑)

わたし、たまにやってしまうのですけど、薪さんの髪とか睫毛とか唇とか、ついつい指でなぞったりしてしまうのですよ。 (気持ち悪いですか、そうですか・・・)
画の薪さんはそれを拒否することはできないけれど、本当は青木さん以外の手に触れて欲しくないはずで、つまりその行為を現実に移すと、このモノローグのようなことになるんだろうな~。
だからこの男はわたし自身と言うことで。
我ながらキモチワルイです★ 
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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