天国と地獄8 (5)

 日曜日の夜、オットと一緒に『平成教育委員会』というクイズ番組を見てましたら、『亜麻色ってどの色?』という質問がありまして。 
 
「あ、うちの薪さんの髪の色だよ! とってもきれいなんだよ! 答えはDだね!」
 と、わたしが自信満々に言い放ちましたら、しっかり間違ってて。(笑) 答えはCでした。

 ええーーっ、亜麻色ってあんなに薄いの?!
 と驚くくらい、殆ど白に近い茶色で。うちのテレビ映りの問題かもしれないけど、こんなんだったよ?
 ↓↓↓

 『こんな色』  

 しかも、映像で見たら全然キレイじゃないんですけど。(←これ、モデルさんに失礼かもだけど、後姿だったから)
 おかしいなあ、ネットで調べたときはもっとずっと濃い色だったんだけどなあ。

 『亜麻色の色見本』 

 まあ、字面がいいので使ってた部分も大きいのですけど。 亜麻色は栗色の表現に用いられることも多いので。
 実際、ネットで調べた亜麻色より、薄茶色の方が見た目もキレイだったし。
 でも、『こんな色』で『亜麻色の髪の乙女』を想像しても、ちっともキレイじゃないわ、と思うのはわたしだけ? 金髪と言うより白髪だよね? ……痛くね?

 テレビの映像を見たオットが、
 「そうか、薪さんは白髪なのか。しづは老け専か」 と何事か呟いておりましたが、そんなことはどうでもよろしい。(いいの?)


 疑問に思った時のWiki頼みで調べてみたのですけど、
「こんな色」は エルクベージュ と言って、これも亜麻色と称されるんだそうです。 
 つまり、亜麻色って2色あるんですね~。 まぎらわしいな~~。

 テレビでやるなら、ここまできちんと放映して欲しいもんです。 おかげでオットに老け専だと誤解されました、ってクレームつけたら、意味分かってもらえるかしら。(笑笑)
 






天国と地獄8 (5)




 梅雨が明けたばかりの日本列島は、その日快晴に恵まれていた。
 
 アイスコーヒーのグラスを片手にすっかり薄くなった頭を自然の風に晒して、山本は休日の午後の一時を過ごしていた。
 山本がいるのはヨーロッパの街中によく見られるような路上にまで席を置いたオープンカフェで、周りにいるのは派手な恰好をした若者たちばかり。山本が実年齢より20歳老けて見えることを差し引いても、彼がその場所で浮いていることは否定できない。その証拠に、「あのオジサンさあ」という苦笑紛れの声が風に乗って聞こえてくる。見た目で判断されて耳も遠いだろうと思われているのかもしれないが、残念、山本は耳はいいのだ。
 山本自身、自分の外見については自覚しているから、本音を言うとお洒落なオープンカフェは苦手なのだが、合流に便利だからこの席で待っていてくれと頼まれたのだ。そうでもなければ、こんな気取った店の金属製の椅子になど座るものか。

 不愉快な囁きには耳を塞ぎ、文庫本のニーチェをめくりながら連れが迎えに来るのを待っていると、カフェから少し離れた路上でちょっとした騒ぎが起きた。公共の場所には相応しくない女の大声が聞こえて、何事かと顔を上げると、ちょうど山本の席の方へ向かって、大胆に腕と足を露出させた若い女性が歩いてくるところだった。

「ちょっと待てよ」
 後ろから、彼女よりは大分年上と思われる男が追いかけてくる。その男の顔を見て、山本は慌てて文庫本で自分の顔を隠した。
 山本の目前で女性の腕を掴んで彼女を引き止めている30前後の小太りな男、それは山本と同じ研究室で働く先輩職員だった。

 偶然にも同僚の修羅場を目撃する羽目になって困惑する山本の前で、若い女性は強気に彼の手を払い、苛立った口調で、
「話なんかないって言ってるでしょ。あんたがあたしに未練たらたらなのは分かるけど、あたしたちはもう終わったの!」
 脱色したストレートの長い髪を左右に振って、そうすると彼女は戦いの女神ミネルバのようで、傲慢なまでの我の強さは彼女の魅力のひとつとして立派にその役目を果たしていることが分かる。女性に従順を求めつつ、こういう女性に惹かれる男性もまた多い。
 青みがかった大きな瞳も、それを縁取る睫毛を強調した今時の化粧も、彼女の魅力を引き立てている。季節的にはまだ早いかと思われる二枚重ねのタンクトップにホットパンツという彼女のいでたちも、その眩しいまでの若さ溢れる肢体にはよく似合っていた。

 男はしかし、そんな彼女の迸るような激しい美しさに惑わされることなく、強い口調で言い放った。
「おまえに未練なんかない。だけど、おまえがしたのは悪いことだ。それをきちんと認識して謝罪しろって言ってるんだ。そうしなかったら、おまえはまた同じ間違いを繰り返すだろ」
「何よ、あんただってスケベ心があったからあたしに宝石やらバックやら買ってくれたんでしょ。お互い様じゃない」
「ちがう、おれはちゃんと結婚まで視野に入れて」
「それはあんたの勝手でしょ?! 冗談じゃないわよ、あんたみたいな冴えない男と結婚なんて! あんた、あたしに釣り合うとでも思ってんの!?」
 詳しいことは分からずとも、彼らの間でどんなトラブルがあったのか、凡その予想はついた。それはカフェの他の客も同様だったらしく、しかし客の殆どは自分たちに年の近い女性側の味方で、「あの男じゃ、あの娘はムリっしょ」などという失礼な言葉が、また風に乗って山本の耳に入ってきた。

 腹が立った。
 男が山本の同僚だったから、だけではない。曽我のことを何も知らない連中が、彼の価値を勝手に決めつける、その行為が許しがたく不愉快だった。

 が、公共の場で騒ぎを起こすほど、山本は非常識ではなかった。腹立ちは胸の中に押し留め、第三者の素振りでその場をやり過ごそうと思った。ここにいたのが自分でなく、第九の他の誰かでもそうするだろう。下手に騒ぎ立てたら曽我にも迷惑が掛かる。
 しかし、彼らは山本の一つ隣の空テーブルの前で揉めているのだ。会話はイヤでも耳に入ってくる。繰り返すが、山本は耳はいいのだ。

「ひとの外見にばっかり捉われてると、そのうち痛い目見るぞ」
「あんたみたいな男に言われてもね。これくらいイイ男が言うんだったらサマになるけど」
 そう言って彼女はすらりと長い腕を後方から現れた男の首に回し、これ見よがしに彼に擦り寄った。
 彼女の言うとおり、男は若く、なかなかの美男子だった。彼氏の出現に、曽我が思わず後ずさる。
 彼は彼女と同じような表情をして、自分の正当性を心から信じる十字軍の戦士のように強く曽我を非難した。

「オッサン。おれのアカネに何か文句あるの?」
「ヒロシはケンカ強いわよ。謝っちゃった方がいいわよ」
 ヒロシとやらが殴りかかればいい、と山本は思った。警察官と言う立場上、自分から手を出すことはできないが、曽我は柔道は初段だ。こんな優男を地面に叩きつけることなぞ、片手でやってのける。

 しかし、曽我は彼氏が出てきた途端に弱気になった。
 曽我の表情を見て取って、女は勝ち誇ったように彼を嘲った。
「女には強く出られても、男には引いちゃうのね。情けない男」

 曽我はぎゅっと唇を引き結び、その拳は怒りに震えて、でも決して一歩を踏み出そうとはしなかった。何も知らない者たちにとって、その様子は曽我が男の出現に恐れをなしたように受け取られ、か弱い女相手でなければ啖呵も切れない、なんと情けない男よと、カフェのあちこちで沸き起こる失笑に、思わず山本が立ち上がりかけたとき。

「曽我さん」

 鈴を転がすようなアルトの声が響き、軽やかなヒールの音が山本の席に近付いてきた。白い日傘を差した彼女は、亜麻色のふわふわした長い髪とほっそりした体つき、胸元にフリルのたくさんついたチュールワンピースを着ていた。開いた胸元にはシンプルなプラチナのネックレスが奥ゆかしく輝き、華奢な両肩を慎ましく覆う短い袖から伸びた腕と、品の良い長さのスカートから伸びた脚の白さは驚くばかり。それらのアイテムと彼女の優雅な身のこなしを併せれば、どこからどう見ても良家の子女に間違いない。間違いないが、山本の観察眼も間違いではなかった。

「室……!!」
 カフェの客たちが騒然とする中、突然現れたお嬢さまは満面に浮かべた笑顔をそのままに、ちらりと山本の方を見て、しかし立ち止まることなく、細い人差し指を自分のくちびるに当てただけで山本の横を通り過ぎた。

 ふんわりしたスカートの裾をひらめかせ、無邪気な笑顔をその美しい顔に浮かべて彼女は、「お会いできて嬉しいわ」と、曽我の手を取った。
 その場で呆然としていないのは、日傘を差したお嬢さまだけだった。誰もが自失していた。彼女に手をとられた曽我でさえ。

 曽我の顔を見上げる彼女の、前髪の下の秀麗な眉とその下の大きな瞳。長い睫毛はその色合いと形から、人工的なものではなく生まれつきのものだと分かる。女の子らしい小さな鼻と、桃の花色に彩られたくちびる。笑うと、真珠のような前歯が少しだけ覗いて、さっきの彼女がミネルバならこちらはフレイアだな、と山本は思った。俗に言う「愛と美の女神」ってやつだ。
 亜麻色の豊かな髪は彼女の華奢な背中を覆い、その美しい曲線を日傘と協力して隠していたけれど、品よく晒した腕と脚の造形から、服に隠れた部分の麗しさは十分に推し量れる。本当に美しいものはどれだけ巧妙に隠匿しても、その輝きを自然と滲ませるものだ。何より、彼女の全身から発せられる気品と清涼感は付け焼刃で身につくものではない。タンクトップにホットパンツという若さに任せたアカネの姿が、何故だかとても薄っぺらく、いっそ下品に見えてくる。鑑定書つきのダイヤモンドの隣にキュービックジルコニアが並んだみたいだ。

 曽我は自失から戻り、若い彼女との諍いのときより遥かに多くの耳目を集めていることに気付いたようだった。焦った顔で深窓の姫君を見やり、
「ま、薪さん……どうしてここに」
『あの娘、マキって言うんだ』という呟きが聞こえる。マキは苗字ですよ、と突っ込みたくなるが、それをしたら只では済まないことを山本は経験から学んでいる。

「車から曽我さんのお姿をお見かけして、はしたなくも追いかけてきてしまいました」
 彼女は自分の軽率さを恥らうように、でも嬉しくてたまらないといった様子で曽我の手を握った自分の手に視線を落とした。
「曽我さん。よろしかったらこれからわたくしの家に……あら。そちらの方、どなた?」
「あ、彼女は」
 曽我がアカネを振り返ると、そこにいたのは何故か彼女の本命の彼氏の方で、後ろを向いていた曽我は知らないが、マキの姿を見た途端に彼はアカネの肩に回していた手を解き、殆ど彼女を突き飛ばすようにして前に出てきていた。

「ちょ、ちょっと待って。君、こいつと付き合ってるの?」
 ヒロシと呼ばれた若者は無遠慮にマキに顔を近づけ、我知らず赤くなって何とも下卑た笑いをその口元に浮かべた。言われてマキは、長い睫毛を瞬かせ、口元を右手で隠すと、恥ずかしそうに首を振った。
「いいえ、そんな。とんでもない」
「だよね、君みたいな可愛い娘が、こんな冴えない男と」
 うんうんと頷いて、それは山本を除いたギャラリーたちも同じ気持ちだったのだろう。何となく安心したような空気が流れて、場の緊張は幾らか和らいだように見えた。
 が、山本には分かっていた。本番は、ここからだ。

「ねっ、よかったら、おれとこの後」
「あんた、なに言ってんのよ!」
 自分の本命彼氏が図々しくマキに声を掛けるのにマジギレして、アカネがヒステリックに喚き立てる。先刻、彼女の啖呵はとても気風よく感ぜられたのに、今はなんだか雌猫がぎゃんぎゃん鳴いているみたいだった。
 対照的に、涼やかに透き通ったアルトの声が、せっかく落ち着いてきた観衆に再び爆雷を落とす。

「わたくしの方が一方的にお慕いしてて。曽我さんには、きっとご迷惑だと思うのですけど」
「「「ええ~~~~!!!」」」
 そこで一緒に驚いてはダメだろう、曽我!!
 しかし、無理もなかった。カフェの客の中には思わず席を立つものもいたし、店員は客のコップに注いだ水が溢れているのにも気付かない。

 薪がその気になれば、帝国が築けるのではないかと山本は思う。カリスマ性があるというか自然と人の憧憬を集めてしまうというか。普段から衆目を攫う美貌のひとではあるけれど、意識してそれを操ることができたら、警察機構なんか簡単に牛耳れる気がする。

「お嬢さま。探しましたよ」
「今井」
 半袖シャツの人ごみを背景に、ダークグレイのスーツに白い手袋をはめた、いかにも執事然とした男が姿を現した。きっちりと撫で付けられた髪は、主の髪より幾分薄めのブラウン。見目良く品良く、洗練されたその物腰に、うっとりと見ほれる女性もちらほら。
 ……今井さんて、こういう人でしたか?

 交通課の彼女に連絡してやろうか、と山本が余計なお世話を焼きたくなるくらい、堂に入った執事っぷりだった。つまり、ノリノリということだ。
「突然いなくなられては困ります。ボディーガードもつけずに。私が旦那さまに叱られます」
 咎める口調で諭されうつむいて、しかし彼女が気にしているのは執事の機嫌ではなかった。

「ごめんなさい、曽我さん。わたくしのこういうところがお嫌なのでしょう? でもマキは、あなたの為なら家なんかいつでも捨てる覚悟がございますのよ」




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Kさまへ

Kさま、こんにちは。
ご無沙汰してます~。


あら、Kさまのお考えのシチュ、面白いわ。 
こっちの方がドラマティックです、さすがKさま!!
でも、そうですね、振られた上に殴られちゃうのでは、青木さんが可哀想ですね。(^^;


>皆が曽我の為にひと肌脱いだり、山本も曽我の良さを認めてたりと、普段目立たない曽我が信頼されてる第九の絆が読んでいてホッとします(^^) 

Kさまのお心が、少しでも和らいでくださったなら、公開した甲斐がありました・・・!!

第九のみんなは、絶対に仲良しだと思うのです。
これ、書いたの6月なんですけど、10月号を読んで、
ああ、やっぱりみんな仲がいい、そしてみんなが薪さんを信じている、とうれしくなりました。


レビューは、重いですよね・・・・・
薪さんが向かっている先のことを思うと、本当に辛いです。 清水先生が、ご都合主義に丸く収めてくれる作家さんなら良かったのに、でも多分、それだったらこんなにハマってないんですよね・・・・・因果だなあ(苦笑)
頑張ってください、と気軽には言えない今の状況ですが、でも、
お待ちしております。
充分に心が元気なってからでいいですから。
4ヶ月もあるのですもの、気長に行きましょう。(^^
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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