タイムリミット(2)

 こんにちは~。

 何日か前から過去作品を読んでくださってる方々、毎日拍手をありがとうございます。
 おかげさまで16000を超えました。 ありがとうございます。

 みなさまの温かいお気持ちに支えられて、しづはPCに向かっております。
 感謝の気持ちを込めまして、2番目のプロローグです。
 ええ、恩を仇で返すとはこのことで……すみません……。 

 




タイムリミット(2)



          プロローグ2 ~2066.秋 カウントダウン~





 残暑と言うにはあまりにも強い日差しが肌を焼く、文月も半ばを過ぎたある日のこと。薪は所長の田城に呼び出され、流麗な飾り台紙に挟まった若い女性の写真を手渡された。
 中身を見なくても、薪にはそれが何だか一目でわかった。見合い写真だ。
 この世には、他人の結婚を世話したがる人種がいる。彼らの気持ちは、薪にはさっぱり分からない。どうして彼らは人の人生を左右するような重大時に軽々しく口が出せるのだろう。誰かの人生を変えるきっかけを自分が生み出すかもしれないことに、懼れはないのだろうか。対象者の人生を背負う気もないくせに、無責任に出会いを押し付けてくる彼らを、薪はどうしても好きになれなかった。

「総務部長のお嬢さんなんだがね。先日、部長を訪ねてきたときに見かけて、どうやら一目惚れらしい。部長の方から是非にとのことでね」
「縁談ならお断りします」
「いや、あのね薪くん」
 二つ折りの台紙を開こうともせず、薪は冷ややかに切り捨てた。田城には普段から世話になっているし、特に追加予算の認可の件では感謝している。でも、それとこれとは別だ。

「以前にも申し上げたはずです。僕は誰とも結婚する気は」
「君じゃなくて、青木くんにだよ」
「もっとお断りします!」
 思わず反射的に返してしまった。だって、予期していなかった。どうして青木の見合いの件で自分が呼び出されるのだ。
 ぽかんと口を開けて薪を見ている上司の前で、薪は必死に平静な顔を取り繕う。恋人の見合い話なんてぶち壊して当然だけど、それをここで暴露するわけにはいかない。

「いえその……ほ、本人に訊いてみませんと」
「もちろん話したよ。でも彼、聞く耳持たなくてねえ。青木くん、普段はあれだけ気配りのできる男なのに。写真も見てくれないどころか、話だけでも物凄く迷惑そうな顔されたよ」
 ソファを勧められて、座面に腰を落ち着けながら、薪は緩みそうになる頬を意識して緊張させる。
 田城には悪いが、青木が迷惑がるのは当然だ。彼には意中の人がいるのだから。

「三好くんに振られたこと、かなり引きずってるみたいだねえ」
 青木の想い人は、法一の三好雪子。世間的にはそういうことになっている。真実を知る者は、片手ほどしかいないはずだ。
 雪子の結婚式から、3ヶ月が過ぎていた。
 結婚相手が相手だけに心配は尽きないが、今のところは平和にやっているようだ。薪としてはあんな不誠実な男とは一刻も早く別れて欲しいのだが、肝心の雪子はとても幸せそうで、薪も迂闊には手が出せないでいる。

「三好くんも酷いよね。青木くんと竹内くん、両天秤に掛けて顔がいい方取るなんて」
「田城さんまでそんな噂を信じてるんですか? 雪子さんがそんなこと、するわけないじゃないですか」
 竹内のファンクラブから相当の悪意を持って発信されたその流言は、薪の耳にも届いていた。大切な親友の風聞に薪は腹を立てたが、しかし当の本人は『薪くんの悪女伝説に比べたら何てことないわ』とケラケラ笑って……男の自分が悪女伝説って、いったいどんな噂になってるんだか、もう怖くて質すこともできない。

「雪子さんは素晴らしい女性ですよ。誠実で、やさしい人です」
 雪子が沈黙を守っているのは自分たちのためだと、薪には分かっている。その噂に心を痛めないはずはないのに、竹内の耳に入ったら自分の立場も悪くなるだろうに、それでも青木との間には何もなかったと彼女が誰にも言わないのは、薪が彼と恋人関係にある事実を隠すため。人の妻になってからも、彼女は薪を助けてくれているのだ。

「そうか、君たちは長年の親友だったね。いや、悪かった」
 薪の剣幕に押されたように、田城は流言に乗った自身の軽挙を謝罪し、改めて薪に青木を説得してくれるように頼んできた。
「青木くんが他の女性と付き合うようになれば、彼女の不名誉な噂も下火になると思うんだがね」
 雪子のためと言われては断ることもできず、薪は写真を受け取ってしまった。彼女の悪評は、元はと言えば自分たちのせいなのだ。

「まあ、見合いしたからと言って必ず結婚しなきゃいけない訳でもないから。一度会うだけでも、って薪くんから説得してみて」
「わかりました。青木は今日は非番ですから、明日にでも」
「そんなに急がなくていいから。週末にでも、一献傾けながらゆっくり話してみてよ。よろしく頼んだよ」
 そう言われて所長室から追い出されて、薪は大きなため息を吐いた。押し付けられた写真と薪を信じて疑わない田城の実直に、ずん、と心が重くなる。

 何年か前にも、薪は青木に見合いを勧めたことがある。
 青木の叔父がセッティングしたとかで、相手は青木と同郷の女性だった。薪は青木の母親に「必ず見合いに行かせる」と電話で約束し、彼に休暇を与え、見合いをするように命令した。ところが青木は薪の命令を無視して自ら母親に電話を入れ、好きな人がいるからと、直球で見合いを断ってしまった。
 きっと今度も同じだ。だったら言わない方がいい。

 所長室から第九へ帰る僅かな間に、薪の気持ちは口を噤む方向へと向かっていた。
 青木が首を横に振るのは、火を見るよりも明らかだ。結果が分かっているのだから、言うだけ無駄だ。写真を見せる必要もないだろう。田城には「説得したが、青木の気持ちは変わらなかった」と報告すればいい。
 嘘じゃない、僕が何を言おうと青木の気持ちは変わらない。それは事実なのだから、嘘を吐いたことにはならないはずだ。

 卑劣な理論武装を固めて、薪は拳を握りしめる。
 何が正しいかなんて、もうわからない。

 雪子が結婚したことで、青木と過ごすたび頭の片隅に浮かんでいた憂い顔のひとつは減った。それだけでも薪の心は軽くなったのだ。
 軽くなった心は浮遊して、彼の元へと自然に流れた。これ以上嵩を増やすことは危険だと分かっていた、後戻りできなくなると恐れていた。しかし、その流れを堰き止めることは薪にはできなかった。日に日に流量と勢いを増していくそれに恐れ戦きながら、有効な手立てを講じるどころか思考すらまともにできず、自分が流されていくのを感じていた。

「お帰りなさい、薪さん。所長の話って何だったんですか?」
 定時をとうに過ぎているのに、第九には部下たちが全員残って薪の帰りを待っていた。田城からの呼び出しは仕事関係ではないと言ってあったのに、暇な連中だ。
「おまえらには関係ない」
「もしかして、また縁談ですか?」
 小池の核心を付いた指摘に、薪は眉をひそめる。仕事の時にもこれくらいの鋭さを見せて欲しいものだ。
「それ、お見合い写真ですか? 見せてくださいよ」
 薪の沈黙を肯定と取って、曽我が無邪気に手を伸ばす。脊髄反射もかくやの勢いで、薪は右手に抱えた茶封筒を彼の手から遠ざけた。
「詮索好きも大概にしろ。プライバシーの侵害だぞ」

 薪が叱ると、曽我を初めとした全員が眼を点にして、
「どうしたんですか? 薪さんいつも、『僕の代わりに誰か行って来い』って見合い写真を放り投げてきたじゃないですか」
 ……そうだっけ?
「それから『縁談をスムーズに断るために、この女の過去を洗い出せ』って」
 それは違法だよね? 警察官がやっていいことじゃないよね?
「どうしても汚点が見つからないときは、宇野が彼女のイケナイ写真を捏造して」
 犯罪だよね!?

「ちょっと待て! 確かにその考えは一瞬頭を掠めたような気もするけれど、警察官の良識に懸けて、それを実行に移したことはなかったと」
「それはほら、実行に移す前に、薪さんの悪女伝説を聞いた相手の方から100%断ってきたからですよ」
 だからどんな悪女伝説なんだよっ!!

 本人の与り知らぬところで想像を絶するほどに成長する、噂という怪物に助けられたり落とされたり。迷惑極まりない。これも無責任に他人の噂話に興じる人間が多すぎる証拠だ。無駄口叩く暇があったら仕事しろ、給料ドロボーめ。

 破談に向けての作戦会議を始めようとしない薪に、予想を違えたか、と部下たちは思う。定時過ぎにプライベートの用事で呼び出されて、薄いA4の茶封筒を抱えて帰ってきたからてっきりそうだと思ったが、早とちりだったのか。
「とにかく、おまえらの手は必要ない。さっさと帰れ」
 薪が厳しく言い渡すと、部下たちは顔を見合わせて、「じゃあお先に失礼します」と次々に帰って行った。最後に残った副室長の岡部が「送りましょうか?」と声を掛けてくれたが、薪は仕事があると言って断った。どうしても今日やらなければいけない仕事ではなかったが、家に帰る気にはなれなかった。

 モニタールームの明かりが消され、研究室全体が静かになると、普段は気にならないパソコンのファンが回る音さえ耳につく。そんなものにまで苛立ちを覚える自分を発見して、呆れ気分でパソコンの電源を落とすと、自分以外は何も動かなくなった部屋の静寂に、薪の耳は痛みを覚える。
 ようよう諦めて薪は、田城からの預かりものを手に取り、中を確認してみた。
 華やかなパーティドレス姿の、愛くるしい女性だった。写真で見る分には中肉中背、童顔だが胸は大きい。年下の可愛い娘がタイプの男には好かれそうだ。

 写真を見て、薪は想像する。
 この女性の隣に、青木を立たせてみたら。彼の大きな手に、彼女の柔らかそうな肩を抱かせてみたら。なんてしっくりくるんだろう。自分と青木では、こうはいかない。年は離れているし、男同士だし、違和感だらけだ。
 この世は男と女で成り立っているのだ。男女が対になった姿が絵になるのは当然だ。それが自然なんだ。

 じりっと胸が焼ける。
 嫉妬した。
 会ったこともない、名前も知らないこの女性に。

 羨ましい。雌雄の蝶が戯れるように、自然に青木の傍にいられる彼女が。誰もが微笑ましい眼で見てくれる、その約束された幸福感が。なにより、彼に安定をもたらすことのできる彼女の性そのものが、妬ましかった。
 自分が夢見ることすらできない未来を、彼女は彼に与えることができる。自分では未来どころか、現在のことだって。

 青木は今日は非番で、今頃は家で薪からの電話を待っているはずだ。時計と電話を代わる代わる見ながら、今か今かと恋人からの誘いを待っている。
 自分に有益な情報を握り潰そうとしている恋人のことを疑いもせず――――― そうだ、これは青木にとって貴重な情報だ。いくら頑張っても、自分たちは一生を共にすることはできないのだから。

 パソコンをオフにして、写真を片付けて、もう薪がすべきことはこの部屋には何ひとつ残っていないのに、彼は席を立とうとはしなかった。あまつさえ、仕事中には滅多につかない頬杖までついて。今夜は此処に籠城を決めたというように、肩の力を抜いて背中を丸め、沈痛な面持ちで眼を閉じた。

 忘れていたわけじゃない。僕たちは期限付きの恋人同士。
 執行猶予の最長期限は5年、それを限度として関係は解消する。小野田にそう約束したのは、他でもない自分だ。

 でも。
 あの時と今では事情が違う。あの頃は、青木が自分をこんなに長く愛してくれるなんて思わなかった。夢に浮かされたような時間が過ぎれば、彼は自然に自分から離れていくだろうと考えていた。決してネガティブになっていたわけではなく、過去の経験から冷静に未来を予見しただけだ。

 どれだけ愛し合っても、男同士には未来がない。何も生み出せないし、自分たち以外誰一人として喜ばない。たとえ青木と自分の間に最上級の愛を育む事ができたとしても、それを周りに広げることはできない。
 愛というのは、広がっていくものだ。
 愛し合うふたりがいれば、それを微笑ましく思う家族や友人がいて、ふたりの間で毎日生まれ続ける愛は彼らに伝播していく。愛しい子供に、父母に、大切な人々に。ふたりから愛情のお裾分けをもらった彼らはそれを更に周囲に分け与え、数多くの人々を幸せに導く。だから愛は素晴らしいのだ。

 だけど、僕たちの愛は閉塞する。
 秘密厳守の閉じられた世界。その狭い閉鎖空間の隅っこで、ふたりぼっちでコソコソ愛し合って、それが何になる。青木の未来に、一片の光すら差せないではないか。

 頬杖をついた右手に濡れた感触があって、薪は肘を机上から外した。つっと顎に流れる一筋の涙。この年になっても泣き虫のクセが直らない自分にガッカリだ。

 青木の未来を幸多きものに。たくさんの祝福と笑顔の真ん中に、彼の人生を据えてやりたい。
 何よりも重視すべきその一点に於いて、僕は彼女に勝てない。青木と4年も関係を持っている自分が、彼が未だ顔も知らない女性に負けるのだ。
 青木は子供好きだし、自分の子供も欲しいだろう。親思いだから、親の喜ぶ顔も見たいだろう。さらに総務部長の娘なら、彼の将来にどれ程の光を投げかけてくれることか。

「……潮時か」
 ひっそりと呟いて、薪は涙を止める努力を放棄する。水滴が、ぱたぱたと机面に不恰好な円を作る。いくつかの円は融合してアメーバーのような不定形体になる。
 アメーバーは口々に、嫌だ嫌だとダダを捏ねている。彼に捨てられるのは嫌だと、身勝手なことを口走る。

 手のひらでエゴの集合体を拭って、薪は自分を叱咤する。
 なにがそんなに悲しいんだ。
 おまえの大切な青木一行に訪れた、千載一遇のチャンスだぞ。おまえが尻込みしてどうする。自分の目的を、もう一度思い出してみろ。
 彼を幸せにしたい。そのためには何でもする、彼を本当に愛しているなら、何でもできるはずだろう。自分の気持ちを殺すことくらい、今までさんざんやってきたはずだ。

 そう言い聞かせるのに、涙は止まらない。
 自分も弱くなったものだ。青木に別れを告げたことは何度かある。悉く失敗に終わったものの、自分から別れを切り出すまではできたのだ。以前はできたはず、それが今はどうにも為せそうになくて、薪は自分の惰弱に唾を吐く。

 だって、年々、好きになる。
 付き合いが長くなればなるほど、好きの度合いが大きくなる。離れなければ、と思うが先に、絶対に離れたくないと叫ぶ自分がいる。下手したらこれ、青木の方から別れてくださいって言われたら、泣いて取り縋っちゃうんじゃないか。

 これ以上好きになれない、今までに何度もそう思った。でも。
 今日の好きは昨日の好きを易々と超えて、きっと明日の好きはもっと上を行く。天井知らずに育った想いはやがて僕の自我を潰し、青木に重荷となってのしかかる。その一歩手前まで来ている。

 僕が、青木の未来を潰す。それだけは、あってはいけないことだ。

 ぐいっと手の甲で涙を拭く。肺の中の空気を全部吐き出して、気持ちを落ち着ける。
 携帯電話を取り出して、いつものようにメールを打つ。「帰宅時間 20:00」。たったこれだけの文面に、彼が飛び上がって喜ぶことを薪は知っている。
 満面に笑みを浮かべ、自分の所にやって来るであろう彼。彼の顔が悲哀に歪む様を見たくはないけれど。
 でも、早い方がいい。延ばせば延ばすほど辛くなる。夜を一緒に過ごしたら、明日の朝は今よりもっと彼を好きになっているに決まってるんだから。

 ぱたりとフラップを閉じ、色気のない茶封筒を右手に抱える。これが、今夜の自分の武器になる。効果的な使い方を幾通りかシミュレーションして、そのどれもが不成功に終わる気がして、だけどこれは完遂させるべきミッション。
 いつの間にか残り半年に迫った約束の日に向けて、カウントダウンを始めなければ。

 正門を出ると、きれいな円形の月が見えた。
 青白く、小さく、美しく。
 それは薪の背中を押すように、いつでも薪に勇気をくれる。何故か分からないけれど、薪は昔からこうなのだ。月の光を浴びると気持ちが落ち着くというか、頭の中が整理されるというか。
 大きな自然の理の中、人間の憂いなど些末なことに過ぎないと、その永遠とも思える雄大な営みが、卑屈に萎縮した自分の世界を広げてくれる。酷暑を引きずる昼間とは打って変わった夜の清涼な空気に包まれれば、この痛みも克服できるような気分になって、薪はそのしなやかな背筋を伸ばした。

 なのに、その直後。
 彼は悲しいくらいに人間で、それもどうしようもなく卑小な存在であることを、残酷にも思い知らされる。

「すみません、待ちきれなくて。お迎えに来ちゃいました」
 第九の正門から歩いて2分、科学警察研究所と刻まれた門の影から現れた長身に、薪は一瞬棒立ちになる。予期せぬ出会いは薪の胸を高鳴らせ、やっと固まりかけた決意をあっけなく突き崩した。
「お荷物、お持ちします」
 自分が今なにを壊したのか、青木は知る由もない。薪から鞄を受け取って、ニコニコと悪意のない笑いを振りまきながら、ただただ恋人に会えた喜びを全身から溢れさせている。
「それは?」
 薪が右手に抱えた茶封筒に目を留めて、青木は無邪気に尋ねる。薪は一筋の乱れもなく、平然と応えを返した。
「預かりものだ。おまえには関係ない」

 答えたら、腹の底が氷を飲み込んだみたいに冷たくなった。
 嘘だ。大有りだ。
 本来なら青木にこそ関係するもので、自分には口を出す権利もないものじゃないか。

「そんなことより、夕飯、なに食いたい?」
「今日は魚が食べたいです」
「じゃあ、季節から言って秋刀魚かな」
 意識して話題を逸らそうとする、なんだ、この醜い生き物は。こんな卑怯なことをしてまで、彼を自分につなぎとめておきたいのか。彼の愛を失うのがそんなに怖いのか。彼の幸せと自分の欲望を天秤に掛けて、それが後者に傾くからと、どの面下げて言えるんだ、このエゴイストが。呪われろ。

「薪さん? 眼が赤いような?」
「モニターの見過ぎでな」
 濁った、薄汚れた眼をしているに違いない。眼は心の鏡とか言うし、内面の醜悪さが滲み出てしまっているのだろう。
 汚い自分を彼に見られるのが耐え難くて、薪はふいと横を向く。右隣の青木を見ないように、彼に自分の真実を気付かれないように、左手にあるプリペットの生垣に注意を向ける振りをして、ひたすらに己を匿う。

「だから休み取るの嫌なんですよね。薪さん、オレがいないとぶっ続けでモニター見ちゃうから」
「おまえがいても、僕の職務内容は変わらんが」
「そんなことないですよ。オレ、ちゃんと2時間にいっぺんは薪さんの様子見に行きますもん」
「様子見? 嫌がらせされてるのかと思ってた」
「ええ~……」
 青木の不満顔に、クスクス笑える自分に、吐き気がした。

 結局、薪は青木に田城からの預かり物を渡さなかった。茶封筒の中身は一度も青木の目に触れることなく、発信者に返されることになった。
 
 その晩、薪が握り潰したのは青木の縁談だけではなかった。薪がずっと守ってきた大切なもの、自分を守って死んだ親友が最期まで守ろうとしてくれたもの、それを自分は己が手で潰してしまったのだと、だからこんなことになったのだと。
 気付けたのは、ふたりの恋人関係が解消されて2ヵ月後。薪の結婚式のひと月前のことだった。







*****


 こちらは、『ゲスト』というSSに書いてあった「青木さんの縁談を薪さんが潰した話」です。
 薪さんが青木さんに見合いを勧める話は、『運命のひと』の中のエピソードです。
 


 

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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危うく通勤電車の中で泣くところだったじゃないですか――っ
薪さんの結婚式ってなにっっ
どんな展開でそんなことに――っ(◎Д◎;)


ところで、、、(1)につけたコメント
誤:チェックすれ
正:チェックされ
でした。後で誤字脱字をみつけても携帯からコメント入れた場合、修正することが出来ない様です
スイマセン携帯の予測変換機能は便利なんだか不便なんだか

まきまきさんへ

きゃー、ごめんなさいー!!
なんだこれ!?って感じですよね、すみませんーーー!!!

ま、まずい、
まださわりを書いただけなのに、ツッコミがキビシイぞ。(^^;
本編はもうちょっとだけイタイかもしれませんけど、でも大丈夫ですから~~、信じて~~。



携帯電話の予測変換機能は、便利だと思います。
しかーし、パソコンは困りますね。 
わたしの事務所のパソコン、特殊な予測変換ばっかり出てくるから、他の人が使うと大変なことになる・・・・!! ←事務所でSS書いてるのがバレバレ。
こんなことで困ってるの、わたしだけ?

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
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