今日もジーンは道に迷う

 こんにちは。

 「シングルズ」に於きましては、クリスマス企画とか言いつつ、ぜんっぜんロマンチックじゃなくてすみませんでした。 お読みくださった方にはご承知の通り、完璧にギャグでしたね。 せっかく変えたクリスマス仕様のテンプレートと、話の内容がまったく合いませんでしたからね。

 クリスマスの甘いデートを期待していた方々に、肩透かしの罪滅ぼしといっては何ですが、
 つい最近書きました糖度高め (←あくまでも当ブログ比) の雑文でございます。
 よろしければどうぞ。(^^
 
 
  

 


今日もジーンは道に迷う







 薪とは意見が合わない。
 感じ方も考え方も違う。頭のデキも違うし、年も大分離れているから、そのせいもあるのかもしれない。でも一番の原因はきっと、薪の天邪鬼な性質によるものだと思う。

 例えば、合わせた肌から伝わる熱が互いの体温を奪い合い且つ与え合い、温度を等しくしていくのと同じにその感覚すらも共有していると感じ。相手への愛しさで溺れ死にしそうな気分を味わう、こんなとき。
 青木はいつも思うのだ。
 地球上に生命が誕生したのがおよそ40億年前、気が遠くなるほど長い時流の果て、正にこの時代、この国に生れ落ち、世界の人口75億人の中でたった二人巡り合えた幸運とか、互いにその性癖を持たなかったはずなのに男同士愛し合えた奇蹟とか、これはもう神さまが定めた運命だったと、青木は本気でそう思っているのに。

 青木がそれを言葉にしようものなら、薪は心底呆れ果てた溜息と共にやや乱れた前髪を指で梳き上げて、
「なんかヘンな宗教でも始めたのか」
 それがベッドの中で恋人に言うセリフですか?

 ちょうど一回目が終わって、小休止のピロートークの時間。二回目につなげるためにも愛情を高める会話がしたかったのに、この切り捨て方。薪さんが二度目したくないのは知ってますけど、ちょっとヒドくないですか?

 これで青木は、けっこうなロマンチストだ。もともとドラマティックな恋愛に憧れる傾向があった彼は、薪という恋人を得て、ますますその憧憬を強くした。薪は見た目、ドラマの主演女優が霞んでしまうような麗人だったからだ。
 しかし、それはあくまで見た目だけ。中身はものすごくシビアなひとで、恋に酔うことなんかあり得ない。それもそのはず、彼の中では恋愛はさして重要なものではなく、譬えるなら夏の夜を彩る花火のようなもの。あれば楽しむのはやぶさかではないが、なくても一向に困らない。
 青木は愛する人のいない人生なんか生きる価値もない、とまで思っているが、薪にとって人生の最重要課題は仕事だ。それは青木との数少ない逢瀬の時を狙いすましたかのように掛かってくる所長からの緊急呼び出しに、薪が微塵の躊躇もなく応じる姿に表れている。部屋でのんびり過ごしている時ならまだしも、こうして身体をつなげている最中でさえ一瞬で仕事モードに切り替われるのだから恐れ入る。青木には絶対に無理だ。

「薪さんて、どうしてそんなにドライなんですか?」
 青木の肩に頭を乗せて呼吸を整えていた薪に、いささか尖った青木の声が掛かる。薪は眼を開け、青木の憤慨をいなすように苦笑いした。
「おかしいのはおまえだろ」
 心外だ。熱愛中の恋人に運命を感じる、それの何処がおかしいのだ。
「運命の相手が男って、どう考えてもヘンだ。そんなんがまかり通る世の中だったら、とっくに人類は滅びてる」

 それはあくまで生物学的見地によるものであって、恋愛の教義ではない。恋愛は精神的なものでしょう、と青木が意見を返すと、薪は人を見下す眼になって、
「恋愛感情なんか、遺伝子に組み込まれた信号に過ぎない。感情を伴った生殖行為の方が、そうでない行為よりも成果を上げやすいことは知ってるだろ? いつだったかおまえも言ってた、オーガズムを感じると女性は妊娠しやすくなるって、あれだ。つまり恋愛感情も、種を繁栄に導くために遺伝子が仕掛けた戦略の一つに過ぎないってわけだ」
「だったら、オレが男のあなたに恋をするのはおかしいでしょう? 子孫は望めないわけですから」
「よくそこに気が付いた」

 よしよし、と薪は青木の頭を撫でてくれた。完全に馬鹿にされているのは分かったが、薪の手を払うなんてもったいないことは青木にはできない。プライドなんかとっくに捨てた。

「その通りだ。おまえの遺伝子はエラーを起こしてる」

 断定されて、青木はつむじを曲げる。
 何年も捧げた恋心をタイプミスみたいに言われて、面白いわけがない。命に代えても惜しくないと思うくらいなのに、この気持ちが遺伝子のエラー?

「薪さんが運命論者じゃないのは知ってますけど」
「勘違いするなよ、僕は運命の相手の存在を否定してるわけじゃない。でもそれは異性に限られる、って言ってるんだ」
 恋愛感情さえ種族保存の本能に基づいた遺伝子の為せる業だと考えるなら、運命の相手は必然的に異性になる。理屈は分かるが、青木は納得しない。

「じゃあ、1億歩ほど譲って、オレに運命の女性がいたとしてですね」
「地球二回り半か」
「地球の外周は約4万キロだから1歩を1mに換算すると譲った距離は地球二回り半、ってそういう意味で言ったんじゃないですっ!」
 日本語って難しい!

「嫉妬してくれないんですか? その女性に」
 薪の小さな頬を手で包んで彼の顔を覗き込むと、薪は森の奥の湖面のように澄んだ瞳をしていた。先刻からの薪の言葉は、青木をからかっているわけでも意地悪を言っているわけでもない、本気でそう思っているのだと分かって、青木の背中を冷たいものが駆け下りる。
 自分は薪以外の人なんか考えられないのに、薪はそうではないのだろうか。何度抱き合っても、それは一時の感情。そんな風に思っているのだろうか。

「オレは、薪さんに自分以外に運命の相手がいると思ったら、ものすごく悲しいです。悲しくて、腹立たしい。薪さんは違うんですか?」
「悲しくもないし、腹も立たないけど」
「どうしてですか!?」
 訊いたけれど、聞きたくないと思った。
 薪がさらりと答えるものだから思わず尋ねてしまったけれど、理由は分かってる。分かっているから聞きたくない。しばらく聞かなかった薪の得意のセリフ、『おまえが望むなら、いつでも別れてやる』。できれば二度と聞きたくなかったのに、一緒に暮らし始めてからは聞かされたことはなかったのに。不用意な質問を悔いてももう遅い。
 薪の唇が開くのを見て覚悟して、だけど青木の耳に届いたのは、聞き慣れた薪の憎まれ口ではなく、初めて聞く言葉だった。

「だって、僕が勝つから」

 勝ち負けの意味が分からなくて、青木はぱちくりと目を瞬く。青木の闇色の瞳の中、鱗粉を纏ったように仄かな輝きをもって、薪は傲慢に言い放った。
「世界中の女性を集めて、一人一人おまえに引き合わせたとしよう。その中には絶対に、おまえの運命の女性も混じってるはずだ。それでも、おまえは僕を選ぶに決まってる。
 何処の誰だか知らないけど、おまえの運命の女性に僕は勝った。そういうことだろ?」
 分かりきったことを訊くな、というように、薪の顔つきは普段通りの澄まし顔。驚きに瞬く青木の黒い瞳を自分の瞳で縫いとめて、余裕の確認作業に掛かる。
「ちがうのか?」
「いえ、違いません」

 運命より強い何かで。
 自分は彼に愛されている。

 人生に於いて恋愛感情などさして重要ではない、まったく重要ではないと繰り返す彼の愛はきっと、もっと大きな何か。地球規模だか宇宙レベルだか、それは青木には想像もつかないほど大きな何か。
 薪への恋愛感情に囚われているうちは永遠に見えてこないであろう彼の真意は、決して複雑でもなく屈折してもいない。彼の曲がりくねった性格とは対照的に、それはそれはイノセンスな波動。

 絶対的な信頼と一欠片の疑念もない未来観。
 相手を信じるって、こういうことじゃないのか。

「薪さん」
 青木はやにわに薪を抱き寄せ、腕の中に閉じ込めた。唐突な拘束にもがく細い身体を更なる強さで封じ込め、やがて諦めた薪が青木の背中に腕を回してくるのを心地よく感じる。
 薪が自分に預けてくれた信頼が、どんな愛の言葉よりも嬉しい。

「薪さんも同じですよね」
 腕を緩めて、薪に自由を返し、青木は彼の肩に手を乗せた。この方が、薪の顔がよく見える。
「世界中の女性を集めて、その一人一人と会ったとして、それでもオレを選んでくれますよね?」
 分かりきっている答えを聞きたがる青木を、見上げた薪の顔は意地悪そうな笑い顔。嫌な予感がする。

「さあ。それはどうかな?」
 裏切られて呻く青木に、ははは、と笑って薪はベッドから抜け出した。




(おしまい)


(2011.11)



 あれっ、やっぱり甘くならない……?
 いいやもう。 早いとこテンプレ戻そう。(笑)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。


>原作の薪さんも仕事第一というイメージですが・・

仕事のできる男、いいですよねっ! 特に薪さんは、仕事に生涯を捧げている感じがします。 きっと鈴木さんのこともあって、だから余計に仕事にのめり込んでいるのでしょうね。


>「だって、僕が勝つから」薪さん、最強!(笑)
>思わず両手を上げて降参!て感じです。

いやー・・・・・
何と申しましょうか、『タイムリミット』からこっち、うちの薪さん、すっかり強気になっちゃいまして。 以前なら、「青木には僕よりも相応しい女性が」なんて常に思ってたんですけど、これからは青木と一緒に生きる、と決意してしまいましたので。 実際に女性の影がちらついても、微動だにしないんですよね。 書いてて面白くないったら。(笑)


ところでAさま、メロディ読まれました?
わたし、滝沢さんのアレ(銃の改造)はブラフじゃないかと思ってるんですけど。 
滝沢さんの「むしろ」に続く言葉って、「薪に殺されたい」ですよね? だから、あれは薪さんの殺意を自分に向けさせるためのブラフ。
だって~、正当防衛で処理された事件とはいえ、警察官が死んでるのに、(しかも貴重なキャリア) 鑑識が線状痕も調べないで凶器確定なんて、あり得るの~? 
とはいえ、秘密は少女マンガですからね。 あんまり拘らないのかな。(^^;

まあ、どちらにせよ、滝沢さんが薪さんに殺されたがっているのは明白なので。 薪さん、のせられちゃだめよ! とみんなで念を送りましょう。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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おかげさまで8歳になりました(^^♪
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