言えない理由 sideB(3)

 最近、あちらこちらですずまきさんがイチャイチャしてますが。(嬉) 
 拝見するたびにきゃーきゃー騒いで、迷惑掛けてホントすいません。 あおまきすとのくせにねえ。 どうしてこんなにワキワキしちゃうんでしょうねえ。

 おかしいんですよね。
 ツーショットのお相手が青木さんだと、ほっこり幸せな気持ちになります。 その気持ちは伝えますが、無意味に叫んだりして、管理人さんに迷惑を掛けるようなことはしてないつもりです。 なのに、どうして鈴木さんが相手だと 『きゃーー!!!』 って叫びたくなっちゃうんでしょう?

 わたし個人の場合ですが、こういうことだと思うんです。

 あおまきさんは鈴木さんの死を背負っているけれど、すずまきさんには背負うものが無い。
 
 唯一無二の存在だった鈴木さんをその手で殺めてしまった薪さんには、重い重い十字架が架せられてしまった。 もう二度と、誰も愛せない。 彼の心はそのとき、親友と一緒に死んだも同然だった。
 その薪さんが、青木さんに出会って愛する心を取り戻し、結ばれて、ああ、よかったねえ、って、しみじみと思う。
 薪さんが失ったものと取り戻したものの大切さを思えば、涙さえ滲んできそうな幸せな光景です。 嬌声が上がるようなものじゃないの。 むしろ泣く。
 
 すずまきさんには、まだそれがないから。
 きゃーっ、薪さんたら薪さんたらっ!! ってなるんじゃないかな?

 だからみなさん、しづのこと、「エセあおまきすと」とか言わないでねっ。 ←最終的には自己弁護。






言えない理由 sideB(3)





 結局、鈴木は薪に、カモフラージュの必要性を説くことはできなかった。
 恋人同士になって初めてのこの諍いは、ふたりの絆を強めた。薪は一層想いを募らせ、鈴木は出来る限り薪の傍にいるようになった。

 ふたりで過ごす時間が重なるほどに、この世でふたりだけしか知らない秘密が増えるほどに、薪はどんどんきれいになった。造作の麗しさだけでなく、愛されているもの特有の色気というかフェロモンというか、何とも言えない雰囲気を漂わせるようになった。
「鈴木」
 上目遣いの艶を含んだ眼で見上げられ、あどけなさを残す口唇で名前を呼ばれると、彼を抱きしめたいという衝動が即座に湧き上がった。本能と恋情から来る情動に逆らうことは難しく、鈴木は薪に溺れた。
 若い鈴木の身体は飽くことなく薪の肌を求め、薪は痛々しいまでに懸命に、それに応えた。薪の身体は華奢で体力も無く、鈴木が我を忘れると、翌日は起き上がれないことも多かった。

 その日、薪が一限目の講義に出席しなかったのは、そんな理由からだった。
 講義の後、提出しておいて欲しいレポートがある、と薪に頼まれてきた鈴木は、託ったものを教授の葛西に渡した。葛西は眼鏡の奥の細い目で鈴木を見ると、ため息混じりにレポートを受け取った。
 葛西教授はレポートをざっと捲り、ううむ、と低く唸った。
 きっとレポートの出来に感心しているのだ、と鈴木は思った。先刻、鈴木も目を通したが、いい内容だった。切り口も斬新だし、起点からの論理展開も――。

「書き直せと伝えてくれ」
 白くて節の細い学者の手につき返されたものが、鈴木には信じられなかった。
「ちょっと待ってください。オレにはこのレポートは、完璧に思えますけど」
「べつに、君に言ってるわけじゃない。薪くんに伝えて欲しいだけだ」
 そういえば、と鈴木は、以前薪のレポートに不可を付けたのもこの教授だったことを思い出した。あの時は、『薪ならもっといいものが書けるはずだと思って、教授はわざと不可をつけたんじゃないか』などと言った鈴木だったが、ある事情を薪から聞いた今は、他の疑念も抱いていた。

 この教授が薪に肩入れしていることは知っていた。犯罪心理学の権威である教授は、大学生とは思えない薪の優れたプロファイリング能力に多大な期待を寄せていた。大学院に進んで自分の研究室を手伝って欲しいと、2年生のうちから言われていたそうだ。
 1年半前、鈴木と知り合ったばかりの頃の薪は、度重なる警察の不祥事に、自分の将来をその腐敗した場に定めるべきかどうか、迷いが生じていた。葛西教授のことは尊敬していたし、このまま大学に残り、学者としての道を追及するのもまた意義のある仕事だと考えていた。さらには自分を引き立ててくれる教授への恩義もあって、曖昧に返事を濁していたのだと言う。
 しかし、3年生になった薪はそれをキッパリと断った。警察官になりたいと言う薪の夢に、鈴木が自分の未来を合わせてきたからだ。
 だから教授は僕には異様に点が辛いんだよ―― そうぼやきながら、薪はこのレポートを書いていたのだ。

「手を抜くのもいい加減にしろ。こっちも我慢の限界だ。そう言っといてくれ」
 これは完全に教授の意地悪だと思った。薪が自分の誘いを断って、研究室に入る事を拒んだから、その腹いせにこんな陰険な方法で仕返しをしているのだ。
「待ってください。薪がこれを書いているとき、オレは彼と一緒でした。薪は真面目にやってました。手抜きなんかしてません」
 銀縁の眼鏡の向こう側で、葛西の灰色の瞳が冷たく光った。心理学を極めたものの、それは心の奥底まで見透かされそうな視線だった。
「君は彼の何を知っている? 彼の論文を、一度でも読んだことがあるのかね?」
 金属めいた響きを持つ声音で問われて、鈴木は何も言えない。薪が去年、論文コンクールでグランプリを獲ったことは知っていたが、その詳細な内容までは把握していなかった。
 
 ついてきたまえ、と葛西教授は背広の裾を翻し、鈴木を自分の研究室にいざなった。
 書物が天井まで届きそうな見知らぬ部屋で、鈴木は左端を閉じ紐で留められた紙の束を渡された。『暴力的映像が攻撃行動に及ぼす影響と実態について』と銘打たれたその論文は、鈴木がこれまでに読んだどの文献よりも濃密で、かつ大胆な理論展開をしていた。参考文献のリストを見ると、50を超えている。その膨大な文献と近年の新聞記事、及び関連する事件の資料をすべて理解し、それらに自らの手で一本の芯を通し、再構築する。どんな頭脳があれば、そんなことが可能になるのだろう。どれだけの労力と時間を要しても自分には不可能だ、と鈴木は思った。

「これがグランプリを獲った論文なんですね。さすがにすごい」
 鈴木が感心した声を出すと、葛西教授は何とも冷たい眼差しをこちらに向けて、
「それは単なる課題レポートだ」
「へっ?」
 思わず、呆けた声が出てしまった。
 課題レポート? これが? 鈴木が今日預かってきたレポートと、同じものだというのか?

「グランプリを獲った論文は、ドイツ語で書かれた文献を多く参考にしてるから、内容が掴みにくいと思ってね。そっちも読んでみるかい。これの3倍は分量があるが」
「いえ、結構です」
 英語ならなんとかなるが、ドイツ語は自信が無い。
 身の程を悟って鈴木が辞退すると、葛西教授はそれを馬鹿にする様子もなく、軽く頷いて鈴木の手から紙の束を取り上げた。それを無造作に机の上に置き、机の前に置かれた背もたれつきの回転椅子に深く身を沈めた。

「わたしとて普通なら、ここまでのものを隔月提出の課題レポートに求めたりはしない。法学部の彼にとって、心理学は一般教養の一科目に過ぎん。それはよく理解しているつもりだ。
 だが、彼は将来のために犯罪心理学を学びたいという理由でわたしのゼミに入り、去年まではこれだけのものを作り続けてきた。それがここ1年の間に、急に堕落した。
 どの学生にも、中だるみの時期は訪れる。しかし、これはひどすぎる。まるで人が変わったようだ」
 厳格で、怒ると怖いと陰で学生たちに囁かれている教授は、ただ悲しげに言った。

「君は薪くんの友だちなのか?」
 はい、と鈴木は頷いた。
「だったら、彼に忠告してくれたまえ。いくら素晴しい頭脳を持っていても、使わなかったらただの肉の塊に過ぎないとな」
 教授が薪のレポートに不可をつける理由が解った。同じ人間が書いたレポートにあれだけの差があったら、首を捻りたくなるのは当然だ。しかし。

「わたしの手元に彼を置くことができたら、必ず学会に名を残す論文を仕上げさせてやるのに」
 本人が望まないことを無理矢理させる権利も無いはずだ。薪には薪の人生があり、それを選ぶのは彼だし、その過程で何を身につけるべきか取捨選択するのも彼の自由だ。
「葛西教授のお誘いを断ったのは申し訳なかったと、彼は言ってました。でも、警察官になるのは、薪の昔からの夢なんです」
「それは彼から直接聞いたよ。彼の人生は彼が決めるものだ、わたしに詫びなど必要ない。が、堕落は許さん」
 葛西教授が繰り返し使う、「堕落」という言葉が鈴木の心に引っ掛かった。
 薪のレポートの質が下がった理由は明らかだ。時期的にも、自分たちが特別な付き合いを始めた頃とぴったり符合する。

「わたしは口惜しくてたまらん。あれだけの才能が腐っていくのを、指を咥えて見ているなど……とても黙っておれん」
「でも教授。学問を究める他にも、人間には大事なことがあると」
 弱々しく、鈴木は反論した。教授の憂鬱に、自分も一役かっていたからだ。
「すべてを犠牲にして学問に打ち込め、などと言うつもりは無い。逆に、そんな学生はろくな人間にならん。人生経験は大事だ。若い頃にしかできないこともある。しかし、それで学術をおろそかにするのは本末転倒だと思わんか、と一般の学生には諭すところだが。
 彼は特別だ。この学び舎にいられる間に、彼の才覚に見合う結果を出すべきだ」

 理解ある大人の意見を述べて鈴木を安心させた教授は、その意見を『特別』という一言で潔く撤回して見せた。不意をつかれた鈴木の黒い瞳と、葛西教授の目が合う。
 鈴木の目をじっと見据える、薄い灰色の瞳。そこには学問に生涯を捧げた男の、計り知れない壮絶が宿る。

「それが天才に生まれたものの宿命だ」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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