言えない理由 sideB(4)

 鈴薪強化月間は1月19日まで。 あと1週間ですね。
 なんか寂しいな。

 
 ……えっ? あと1週間?
 あれ? この話、残り何章あるんだっけ?  
 ひーふーみー、全部で11章? 毎日公開しないと間に合わない?!
 いや、でもそれは無理。 明日は現場で役所の立ち合いがあるし、入札も2件掛かってるし、施工計画書の直しもあるし。

 
 お正月休みにだらけてるからこんなことに~~、計画性のない奴ですみません~~!!
 ということで、今のうちに期日超過のお詫びを。(^^;) ←仕事なら契約不履行で罰金。

 新春からルーズですみません。 見捨てないでください。
 





言えない理由 sideB(4)





「ええー、またあ? 本っ当に意地悪なんだから、あの教授」
 仕上げたはずのレポートを戻されて、繰り返されるダメ出しに募る不満を隠そうともせず、薪は盛大に嘆いて見せた。
「そうふくれるなよ。教授も悪気があるわけじゃないんだからさ」
「絶対にただの嫌がらせだと思うけど」
「オレも手伝うからさ。さっさと片付けちゃおうぜ。今から図書館に行ってさ」
「え、鈴木、今夜大丈夫なの? 昨日うちに泊まったばかりで、塔子さんに怒られない?」
「薪と一緒だって言えば大丈夫」

 鈴木が請合うと、薪は少しだけ困った顔になった。相も変わらず、その言い訳は鈴木家において最高の免罪符だったが、薪にしてみれば複雑なのだろう。息子とその親友の本当の関係を知ったら、彼らがどんな反応を示すか――― 優しい彼らのこと、息子の選んだ人なら、と笑って許してくれるはず、などと考えられるほどお気楽な性格はしていない。
 それでも、鈴木と一緒にいられる時間が増えるのは、薪にはどうしようもなく嬉しいことで、自然と口元に浮かんでくる微笑を抑えることはできない。不名誉な不可マークのついたレポートと筆記具を携えて、デート気分で夕暮れの図書館へ向かった。

 大学内の図書館は、熱心な学生と、逆に不真面目のツケが回ってきた学生とで7割の席が埋まっていた。
「鈴木が付き合ってくれるなら、ちょっと頑張っちゃおうかな」
 天井まで届く大きな本棚の間を軽い足運びで行き過ぎながら、薪は次々と本を抜き取り、鈴木に手渡した。その種類は多岐に及び、さらには言語を問わなかった。レポートの表題は『視覚障害者の証言能力の可能性について』だったはずだが、この『世界の香辛料』という本は何の役に立つのだろう。

 20冊目を渡されたところで、その量と重みに、鈴木はとうとう抗議の声を上げた。
「薪。もう5時過ぎてるぞ。閉館時間までに、こんなに読みきれないだろ?」
 この親友が、異様な早さで本を読むことは知っている。それでもあと3時間で読破できる分量だとは思えなかった。それに、目的はレポートを書くことだ。ただ読むだけではない、途中でメモを取ったり、証明の展開を組み立てる作業も必要になるはずだ。
 ハタ、と気付いて振り返り、薪は鈴木が抱えた本の山を見て軽く小首をかしげた。何か言おうとして口を開くが、そのくちびるはすぐに微笑みの形に変わり、鈴木の顎につきそうなほど重ねられていた本を上から7、8冊受け取ると、空席を探して室内に目を走らせた。

「そうだね、鈴木の言うとおりだ。これくらいにしておこう」
 6人掛けのテーブルがひとつ空いているのを見つけて、ふたりはそこに腰を降ろした。両側に積まれた本の山、間に置かれたレポート用紙と筆記具、インターネットと清書の為のノートパソコン。それらを確認し、鈴木はあるものが足りないことに気付いた。
 資料の中には、日本語以外のものが混じっている。まずは辞書を用意しないと。

 鈴木は席を立ち、数冊の辞書を携えて席に戻ってきた。薪の向かいに腰を降ろし、早くも一冊の文献を紐解いている彼に声をかける。
「薪。わからない言葉があったらオレが」
「うん、ありがと」
「遠慮するなよ。ドイツ語でもフランス語でも」
 鈴木は口を噤んだ。ピリッと緊迫した空気を感じる。

 最初、薪は目次から目的のページを探しているのだと思った。それくらいの速さでページを捲っていたからだ。しかし、彼の手は最後まで止まらず、メモも取らずPCにも触れず、閉じられた本を重なった本の向こう側に置いただけだった。
 2冊目も、その調子だった。3冊目も、4冊目も。
 最後の本を置いたのは、1時間後だった。薪はその間一言も発せず、読む以外の行為をしなかった。結局、辞書は一度も使わなかった。

「鈴木。本を戻すの手伝って」
 にこっと笑って立ち上がる薪に、鈴木は驚いて言った。
「返しちゃっていいのか? だって今からレポート書くんだろ?」
「レポートは家で書くよ」
「……どうやって?」
 メモも取らず、下書きも作らず、グラフの数字さえ転記していない。この状態でどうやってレポートを書くというのだろう?

 鈴木の不思議顔をどう取ったのか、薪は再び腰を降ろすと、「じゃあ、ここで書いちゃうね」とノートPCの電源を入れた。
 滑らかにキーボードの上を走りだす細い指先に、鈴木は目を丸くする。信じられない思いで薪の背後からPC画面を覗き込んだ彼は、息をすることも忘れて絶句した。

 画面には魔法のように文字が打ち出されていくが、それは練習さえ積めば誰にでも習得できる技だ。しかし、文章を組立てながらこの速度で、しかもその文面に先刻彼が眺めていた本の内容が参考文献として明示されていくのを見ると、もはや人間業とは思えない。
 あれだけの量の書物の内容をすべて記憶し、論文の裏付けとし、いくら自分が書いた論文の手直しといえど以前のレポートを見もせず、ひたすらキーボードを打ち続ける。そんな薪を、鈴木は見知らぬ他人のようにまじまじと見直した。
 自分が止めなければ、参考文献はもっと多くなっていたはずだ、と鈴木は思った。何か言おうとして止めた、先ほどの薪の表情が鈴木の脳に甦った。鈴木の抗議は的外れだと、でも敢えて薪は鈴木の言に従った。

 自分と同い年の、一緒にバラエティ番組を見て笑ったりする、時には自分よりもずっと年下の印象さえ受ける親友。彼の頭脳がとびきり優秀なのは知っていたが、現実に見せ付けられたのは初めてだった。親友になって久しいが、薪は鈴木の前で自分の勉強をしたことはなかった。鈴木が期限ぎりぎりのレポートを薪の家に持ち込むことは多かったが、自分のレポートはとっくに終わっていることが常だった。
 せっかく鈴木といるのに、そんなつまらないことはしたくない。ふたりでいるんだから、ふたりでできることをしようよ。
 そう主張して、鈴木のレポートを手早く片付けると、後は他愛もないお喋りやテレビゲームに興じた。恋人同士になってからは、そこにふたりきりの特別な時間が加わって、ますます勉強会からは遠ざかり、だから鈴木はこんな薪は知らない。

『鈴木が付き合ってくれるなら、ちょっと頑張っちゃおうかな』
 ちょっと頑張る。薪にはこれが「ちょっと」なのか。

 天才、という言葉が鈴木の脳裏を過ぎった。
 呆然とする鈴木の視界の中で、薪は静かにキーボードを叩き続けていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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非公開コメント

薪さん、素敵。

このエピソード好きです、とっても^^
鈴木さんがそう思った瞬間が、原作でもきっとあったはずです。
今のお話が終わって、過去編が描かれたら、出てくるんじゃないかなあ。
それとも清水センセはそういうことにはもう興味無い(漫画にしたいとは思わない)かしら…?

このお話、数話で終わってしまうのかと思っていたら、何と全部で11章もあるとのこと。
やったー!それだけ、長く楽しめるのですね^^
…何か私、すずまきすとみたいですか?w

めぐみさんへ

めぐみさん、こんにちは!


> 鈴木さんがそう思った瞬間が、原作でもきっとあったはずです。
> 今のお話が終わって、過去編が描かれたら、出てくるんじゃないかなあ。

原作で描かれたら踊り狂うと思います♪
過去編、読みたいな~。 
鈴木さんが雪子さんの前で薪さんの話ばっかりしてたら笑える☆


> このお話、数話で終わってしまうのかと思っていたら、
 
薪さんが鈴木さんに振られたところで終わるなら、あと2回で終わりなんですけどね。
その辺は sideA にも書いてあるので、こちらではその後日談を書いてみました。 蛇足かもしれませんが、お楽しみいただけるとうれしいです。(^^


>  …何か私、すずまきすとみたいですか?w

いいえっ!
めぐみさんはあおまきすとですよっ!!
そしてわたしもあおまきすとです! 
薪さんを生かすのは青木さんだと信じています!!

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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法医第十研究室へようこそ!
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『ヒカリアレ』
書いてます。
60Pを超えました(笑)
7/18 推敲やってます。
あと20ページ。
7/20 推敲の結果、70Pになりました。←バカじゃないの。
2回目の推敲に入りました。
こんにちは(^^
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