言えない理由 sideB(8)

 鈴薪強化月間は今日までの予定でしたね。
 
 …………終わらなかった……にに子さん、ごめんなさい……。
 すみません、ダラダラ続いて。(^^;
 残り3回、よろしくお付き合いください。




言えない理由 sideB(8)






「薪が柔道? まさか」
 偶然一緒になった構内の廊下で、鈴木は雪子から友人の近況を聞いた。聞いて、開いた口が塞がらなくなった。何を思ってそんな、似合わないことを始めたのだろう。
 薪に柔道を教え始めたという三好雪子は、柔道二段の実力者。取っ組み合いのケンカになったら確実にのされる。だから鈴木は出来るだけ、彼女を怒らせないように心掛けている。

「嘘じゃないわよ」
 鈴木が驚いたことに驚き、次いで彼女は怪訝な表情になった。
「ふざけ半分に絡んでくる男子を撃退したいからって。知らなかったの?」
「友だちだからって、毎日一緒にいるわけじゃない。知らないこともあって当然だろ」
 鈴木は薪のことなら何でも知っている。そんな刷り込みが彼女の中から消えていないことに気付いて鈴木は、彼女の思い込みを否定した。彼にしてはぶっきらぼうな口調だった。
「雪子だって、友だち全員の習い事を把握してるわけじゃないだろ。それと同じだよ」
 要注意人物に対する普段の心掛けも忘れて、鈴木は理論で雪子の言葉を封じた。弁護士希望の鈴木にとって理詰めの会話は実は得意とするものだったが、彼は今まで討論会以外で友人相手にそんな会話を仕掛けたことはなかった。

「そうね。じゃあ、これは知ってる? 講師の中田と教育学部の三島洋子、デキてるって噂」
「あ、知ってる。子供できちゃって、堕ろしたのが奥さんにバレて、先生の奥さん実家に帰っちゃったって」
「それはデマ。でも奥さまとの修羅場は本当」
 賢明な雪子は週刊誌のページを捲るように話題を変え、廊下を歩きながら二人は学内の噂話に興じた。
「馬鹿だなあ、中田のやつ。でも、三島はいい女だからな~。オレももう少し付き合っとくんだったな~」
「あんた、洋子とも付き合ってたの? 一体、何人食ってんのよ」
「オレの知り合いの女で寝たことないのって、おまえくらいだな」
「ったく、みんな見掛けに騙されちゃって」
「女性に一時の夢を見せるのは、イイオトコの使命だからな」
 ドンファンを気取った鈴木のセリフは、もちろんフェイクだ。そのことを雪子はちゃんと知っている。嘘の上に嘘を重ねる虚構の会話の楽しさを、二人は一緒に楽しんだ。

「あたしは永遠にごめんだからね、あんたなんか」
「永遠にって、先のことは分からないっしょ」
「絶対に嫌。ゴキブリと寝たほうがマシ」
「おまえ、マジでゴキブリと寝てるもんな。掃除しろよ、女の部屋なんだから」
「苦手なのよ、掃除って。やればやるほど散らかっちゃうのよね、不思議なことに」
 そこで雪子は足を止め、思い出したように口元に手を当てた。
「明日、ゼミの後輩が遊びに来るんだっけ。お願い、鈴木くん。掃除手伝って。本棚とかベッドとか、重いものはあたしが動かすから」
「普通それ、逆じゃね?」

 笑いながら建物を出て、正門に向かう途中、法文の4号館から出てきた顔見知りの集団に出会った。
 先刻話題に上った柔道を習い始めた友人と、そのゼミ仲間だった。男ばかりが7人、何ともむさくるしい眺めだ。
「よ、鈴木」
 サークルで一緒の学生が一人いて、彼は鈴木に声をかけてきた。鈴木も軽く手を上げて、それに応える。
 葛西ゼミの人間ではないものの、薪の我が儘に付き合わされる形で、鈴木は彼らとも交流を持っている。みんな気のいいやつらだった。
「これから吉田の家で勉強会。おまえもどう?」
 吉田の家には、家事見習い中の姉がいる。このお姉さまがかなりのナイスバディで、お菓子作りも上手かったりして、こいつらの勉強会の目的はもっぱらそっちの方だ。レポート用紙は白いまま、大抵はお姉さまの妄想談義になってしまう。
 それはそれで楽しいし、鈴木も久しぶりに彼女の神々しいまでのFカップを拝みたくはあったが。

「あー、悪い。これからオレ、雪子んちの掃除の手伝いに」
「はあ? なにそれ」
「早くも尻に敷かれてるのか?」
 反論しようとする雪子を、眼で止める。雪子には悪いが、ここは役割を演じてもらおう。
「ジャマしちゃ悪いよ。行こう」
 揶揄するように責めるように笑う友人たちを促して、薪は彼らの輪からひとり、抜け出した。
「じゃあね、鈴木。またね」
「ああ」
 スタスタと歩いて行ってしまう薪を、友人たちが追いかける。「待てよ」と一人が呼びかけるのに、「早く淳子さんに会いたいだろ?」と返す声が聞こえて、「僕、お腹空いてるんだ」と彼の急ぐ理由に皆の笑い声がかぶさった。

「あれで良かったわけ?」
「だって今、約束しただろ」
 雪子はふっくらと赤い下唇を突き出し、ひとのせいにしないでよ、と不満げに吐き捨てた。
「もしかして、あれからずっとこの調子なの?」
「べつに、ケンカしてるわけじゃないよ。ただ、前みたいに四六時中一緒にはいない。オレにだって薪の知らない友人はいるし、薪は薪で、ゼミ仲間と楽しくやってるみたいだし」
「薪くんのゼミになら、あんた今まで平気で顔出してたじゃない。コンパも顔パスだったでしょう?」
 それは昔の話。今は今だ。

「薪には薪の付き合いがあるんだよ」
 鈴木は携帯電話を取り出して、母親の携帯にメールを打つ。今日は雪子と夕飯を摂ることになりそうだから、断っておかないと。この連絡を怠ると、いつもはやさしい母親が鬼になる。夕飯くらい、と思うが、女って不思議な生き物だ。

「友人も恋人も……そういえば、麻子ちゃんて、おまえの友だちだよな? あのふたり、付き合ってるの知ってた?」
「まあね。付き合い出すときに相談受けたわ」
「こないだコンパで一緒になったんだけどさ、いい感じだったぜ。あんなにやさしい眼で女の子を見る薪、初めて見たよ。よっぽど麻子ちゃんのこと」
「理学部のアユミが薪くんと寝たって、自慢げに言ってたけど」
 面白くなさそうに、雪子は言った。
「えっ。マジ?」
 麻子は雪子の友人だ。彼女がないがしろにされて、腹立たしいのだろう。しかし、さっき雪子は薪に何も言わなかった。これが鈴木だったら一本背負いを決められているところだ。この差はなんなのだろう。人前だったから遠慮したのかもしれないが。
「他にも何人か、同じような噂を聞いたわよ。真偽のほどは不明だけど」

 雪子の言葉がとても哀しそうな響きを持っているのに気付いて、鈴木は薪を責めない彼女の気持ちが、解ったような気がした。
 彼女は知っている。薪の本当の気持ちを、知っているのだ。

「あのね、鈴木くん。余計なお世話かもしれないけど」
 鈴木の大きな手が、雪子の口を塞いだ。普通の女の子ならくちびるで塞ぐところだけど、こいつにはそういうことはしたくない。雪子は大切な友だちだ。失いたくない。
「これでいいんだよ」
 雪子は目を瞠ったが、すぐに平静を取り戻し、鈴木の手を穏やかに退けた。それきり、何も言わなかった。
 遠ざかっていく彼らの姿を、彼らの合間に見え隠れする小さな亜麻色の頭を、鈴木は見えなくなるまで見送っていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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