パンデミック・パニック(12)

 先月くらいから、
 昔のお話にたくさん拍手いただいてて、とってもありがたいです。
 同じ記事に複数入ってるから、何人かご新規の方がいらっしゃってると思うのですけど。 コメントいただかないと直接はお礼が言えないので、こちらで返させていただきます。
 
 すみませんっ!!
 薪さんのイメージ壊してすみません、原作無視のストーリーですみません、オリキャラばんばん出してすみません、青木さんがストーカーで (あり得ねえ)、雪子さんと薪さんが仲良くて (もっとあり得ねえ)、薪さんにカンチガイ大王とかあだ名ついててすみません! (これが一番あり得ねえ)
 どうか寛大なお心で! 怒りを鎮める練習だと思って! いっそ精神修行だと思って!! 大目に見てやってください。

 ↑↑↑ ……お礼じゃなくて、お詫びじゃね? 

 本人は真剣です。
 追放しないでください。






パンデミック・パニック(12)





 O市の小さな公園で、山岡宏は指定されたベンチに座り、腕時計を確認して幾度目かの深呼吸をした。
 土曜日の昼間、しかもこんな場所を指定されるとは、山岡には全くの予想外だった。こういうことは夜中、怪しげなバーとか路地裏とかで秘密裏に行われるものだとばかり思っていた。ろくな遊具施設もない公園に人気はなく、それだけは今日の取引にプラスの要因だと思えたが……いや、逆にこういう場所の方が怪しまれないのかもしれない。多くの闇取引は日中、衆目の中で行われているものなのかもしれない。
 山岡は商品の入ったケースを鞄の上からそっと押さえ、その存在を指先で確かめた。鞄の生地に遮られて見ることは叶わないが、それは2週間ほど前、第九研究室のモニタールームで白煙を吹き上げた黒い小型ケースと寸分違わぬものだった。

 谷島とは、闇の賭博場で知り合いになった。

 ギャンブルは、この世の何よりも刺激的な遊びだ。山岡がこの味を覚えたのは2年前。親が死んで、それまで手にしたことがないような大金が転がり込み、軽い気持ちで買った馬券が大当りして、その金がさらに増えた。数時間で、元金が数倍に膨れ上がる。それも、山岡が夜中まで働いて手にする一ヶ月の給金の何倍もの額だ。真面目に働いているのが馬鹿馬鹿しくなった。
 山岡の最初の大当たりはビギナーズラックと言うやつで、それからは勝ったり負けたりを繰り返していたのだが、賭け事に夢中になる人間の心理と言うのは不思議なもので、勝った時の快感しか心に残らない。大きく負けた時はがっかりし、落ち込んだりもするのだが、そちらはすぐに忘れてしまう。

 時が経つうち、山岡は次第に強い快感を求めるようになった。
 賭け事の快感は、勝ち金の大きさに比例する。普通のレートでは、高額の勝ち金は得られない。そこで彼は、闇賭博に手を出した。
 科警研勤めの山岡が、何処から賭場の情報を、と思われるかもしれないが、これはちっとも不思議ではない。一般の競馬場や競輪場に、闇賭博の入り口は開かれている。闇賭博の主催者は殆どが暴力団で、その目的は資金集めだ。少しでも多くの顧客を集めるため、彼らは、競馬場で外れ馬券をばらまいている集団の中に賭場への案内人を紛れ込ませている。
 負けた者同士、妙な連帯感をうまく使って相手の勤め先や家族構成を聞き出す。特に公務員は眼を付けられやすい。給与が保証されているから、定期的な資金源になる。

 闇賭博へ出入りするようになって、あっという間に山岡の貯金は底をついた。主催者に言われるがままに借金を申し込み、その借金を返すため、という矛盾した目的のために賭博に精を出した。自分でもどうしようもない状態だと分かっていたが、抜けられなかった。抜けるためには一億近い金が必要だった。

 似たような境遇にあった谷島とは、話が合った。二人の職業には共通点が多く、それは益々彼らの親交を深めた。
 谷島はT大の研究室で細菌の研究をしていた。自分が培養した細菌を売って金に換える気でいたが、上司に仕事以外の研究をしていたことが知れて、研究を進めるのが難しくなってきた。既にサンプルは完成し、ワクチンもできている。これを捨てるなんて事はできない。かくなる上は、どこかの実験室を借りて細菌を増やし、ある程度の量を揃えたら賭場の暴力団を介して外国に売る。そこまで話が決まっていた。

 培地と設備を提供するから、うちの研究室で増やせばいい、と山岡は彼に持ちかけた。
 科警研とは灯台下暗しだ、と谷島は笑った。山岡の案を気に入ったようだった。

 決行の夜、細菌と研究資料を抱えて約束の場所に来た谷島を、山岡は歓迎し、自分の仕事場へと導いた。途中、これからすぐ培養に入るのだから腹ごしらえだと言って、用意しておいたパンと牛乳を彼に食べさせた。
 その後、ビタミン剤だと偽ってCメピジウムという薬品を飲ませた。
 自分も同じ瓶から出したタブレットを噛みながら、パンだけでは栄養が偏る、科学者は健康に気を使わないと駄目だ、と山岡が言うと、谷島は笑いながら錠剤を口に含んだ。
 警視庁のお膝元の科警研で殺人細菌を培養する。それを作る科学者が健康に留意する。谷島はこういう皮肉なシチュエーションを好む性癖があった。

 夜の科警研を訪れて、細菌だけを先に研究室へ運ぼう、と山岡は言った。
 研究データは段ボール2箱もある。これは研究室には置いておけない、もしも誰かに見られたら困る。だからこの場は山岡の車に残して行こう。これからは自分も細菌の世話をすることになるから資料は読んでおきたい、自宅に持って帰ってもいいか、と言葉巧みに資料を自分のものにする算段を付けた。

 正門を潜ってすぐ、山岡は急な腹痛を訴えた。
 牛乳を飲むと必ずこうなるんだ、先に行っててくれ、と目的の建物の方向を指さし、谷島に細菌の入ったケースと自分のIDを差し出した。どうして腹を壊すのが分かっていて牛乳を飲むんだ、と呆れ顔の谷島に、健康にいいからだ、と返すと、谷島は楽しそうに笑って黒いケースを受け取った。

 ケースには、眼に見えないくらいの小さな穴を開けておいた。中に入っているのはAラセプリルという薬液を注入したドライアイスだ。時間が経てば、薬もろとも気化して消える。
 様々な食物の中に危険な食べ合わせがあるように、ある種の薬物も、重ねて摂取することによって毒性を発揮するものがある。先に谷島に飲ませたCメピジウムという薬物は、それだけでは何の毒性も持たない。しかし、それを摂取した状態でAラセプリルから発生したガスを吸い込むと、肺の中でアルカイロイド系の劇薬に変化するのだ。

 谷島に多くの証拠を残して欲しくなかったから、できるだけ正門から遠い建物を選んだ。山岡が第九を指さしたのは、それが理由だった。
 計算外だったのは、ドライアイスの溶ける速度が意外と遅かったことだ。山岡の計画では、建物に到達する前、科警研の中庭で彼は死ぬはずだった。そうしたら彼からIDを回収して、死体は放置すれば良いと思っていた。細菌は、谷島の代わりに自分が売ってやる。もちろん、彼が得るはずだった報酬も。

 ところが、谷島はなかなか死なず、とうとう第九の建物に入ってしまった。
 これはまずい。IDカードから、自分との関係が露呈する可能性がある。

 咄嗟に山岡は管理棟に走って、谷島に襲われた風を装った。管理棟を選んだのは、ここだけがID無しで入れる唯一の建物だったからだ。
 谷島にIDカードを奪われた、と主張した山岡の証言は、あっさり認められた。なんでも、谷島は第九の室長相手にメスを振り回す暴挙に出たらしい。危険な人物との印象を捜査陣に植え付けてしまったのだ。
 以前から、科警研のことは少しずつ谷島に話していたから、冷酷無比な第九の室長と知って過剰防衛に走ってしまったのか、誰もいないと思っていた研究室に人がいて取り乱してしまったのか。詳細については不明だが、いずれにせよ、谷島の取った浅はかな行動が山岡に有利に働いたことは確かだった。

 第九が感染パニックに陥ったと聞かされて、山岡はひどく驚いた。谷島が細菌のことについて他人に話すとは思えなかったし、話したところで何故細菌がばら撒かれたという誤解が生まれたのか、見当もつかなかった。第五まで出動して、第九の室長は入院したというし、いったい何がどうなったのか、しかしその騒動に紛れて、山岡は単なる被害者の一人になりおおせた。
 谷島が死んだ後、山岡は直ぐにでも細菌を金に換えたかったが、あまり焦ってはいけないと考えた。証拠固めのため、捜査一課の人間が研究室をうろついている今、危険な行動は避けた方がいい。少なくとも事件解決までは賭場へも行かないようにしよう。
 山岡は何食わぬ顔で今まで通り日々の業務をこなし、平常の生活を続けた。そうこうするうち、事件は谷島の自殺で決着がついたという情報が入った。科警研をうろつく刑事の姿は消え、山岡はいよいよ大金を手にする時が来た、とほくそ笑んだ。

 そんなとき、山岡の携帯に一本の電話が掛かってきた。
『三億出しましょう』
 電話の相手は、いきなり言った。山岡がかろうじて理性を保ち、何の話だ、と返すと、相手は含み笑いをして、
『おや、これは失礼。てっきり谷島君から話が通じているものと思っていました』
 谷島の名前を出したところを見ると、細菌の取引に間違いない。しかし、谷島は賭場を開催している暴力団を介して売却するつもりだと言っていた。報酬も一億という話だった。買い手から直接連絡が来たうえ、報酬額が三倍に跳ね上がった。怪しい。

 谷島とは誰です、と山岡は惚けた。もう少し、相手のことを探った方がいいと思った。
『そう警戒されずとも。あなたにとっても悪い話ではないでしょう? 我々としても、間に彼らを入れたくないのです。我々は革命軍の指揮下にありますが、一研究所として社会活動を営んでいる。暴力団とのつながりなど、作りたくはない。
 あなただって、彼らを間に挟めば損をする部分も出てくるはずだ。研究資料を見せてもらった上でわたしが彼らに提示した額は五億。しかし、谷島君が受け取るはずだった金額は、もっと少なかった。違いますか? でなければ、彼はわたしに『三億欲しい』という交渉はしてこなかったはずだ』
 電話の相手は、谷島と山岡が通っていた賭場を経営している暴力団のことにも詳しかった。もちろん、山岡の勤め先や研究についても。これは谷島から情報が渡っていたものと判断し、山岡は相手を信用することにした。

『引き渡しは一週間後。O市にある××公園に、午後二時に来てください』
 一週間とは時間のかかる。早いところ証拠品を手元から離して、金を手に入れたいのに。もう少し早くならないのか、と山岡が問うと、三億となると用意するのに相応の期間がいる、と尤もな答えが返ってきた。なるほど、と山岡は考え、その日に指定された場所に赴くことを約束したのだ。
 
 そんなわけで山岡は、土曜日の公園に一人きり、ベンチに座っている。他人から見たら、妻に掃除の邪魔だと追い出された亭主のようにも見えるかもしれない、と心の中で苦笑する。ここが面白みのない公園でよかった。

「おじさん、山岡さん?」
 名前を呼ばれて顔を上げると、いつの間に現れたのか、2メートルほど離れた樹の傍に見知らぬ少女が立っていた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

Rさま、こんにちは。(^^

「べるぜ」 明後日で最終回ですね。(;;) 
原作はまだ続いてるんですよね? パート2に期待します。


> 山岡が噛んでいたとはやられました。

はい、こいつ、悪い奴でしたね~。


> この少女は、もしや大騒ぎしたお詫びに愛でる会会員の幹部の方へのサービスでは?
> 薪さん、麻疹治ったんですね。良かった、良かった。

ぶはははは!!!
幹部へのサービスって!
そうか、薪さん自身は愛でる会の存在を知らないけど、周りの人はみんな知ってるから、円滑な職務遂行の為に中園あたりに強要されたんですね。(笑)

快気祝い、ありがとうございます~。
ていうか、「少女」という言葉だけで、どうして薪さんだと分かってしまうのでしょうか?! Rさまが鋭いのか、わたしがワンパターンなのか、ええでも、
期待は裏切りませんことよ☆


> 青木くんは怒りそうですけど、これくらいのサービスは仕方ないだろうな、ねっ男爵。

サービス……(>m<) ←ツボったらしい。
青木くんは、嫉妬とかじゃなくて、別の意味で怒るかも~、
そして怒られても仕方ないのは薪さんの方だと思います。


コメントありがとうございました。
引き続き、読んでいただけると嬉しいです。(^^


Nさまへ

Nさま、こんばんは~。


> あぁっ!この少女はもしや・・
> いや、もしかしなくても「ツインテールにゴスロリファッション」の
> 薪さんなのでは・・?

Nさまにもバレちゃいました~! てか、これが薪さんだと思ってない読者さん、いないような気がしてきた~。(笑)
どうして女装の仕様まで? と思えば、そんな予告文を載せたことがあったような。 ←年のせいか、すぐに自分がやったことを忘れる。
細かいところまで読んでくださって、ありがとうございます。(^^


> 薪さん初めは女装嫌がってましたけど回を重ねる度にノリノリになってきた気が

そ、そうなんですよね、
このひと、最初は室長室のキャビネットをボコボコにするくらい嫌がってたはずなのに、
今回なんて相手がゴスロリ好きという理由だけで大した抵抗もなくミニスカート穿いてたような……薪さんの男のプライドはいずこ?


> そしてそんな薪さんの麗しいお姿にまたもや鼻血ブーな青木さんを期待する私。
> そういえばいつぞやの「猫耳プレイ」を青木さんはしてもらうことが
> 出来たのでしょうか・・?

青木さんは、今回は割と冷静だったような……なんでかしら。 見慣れちゃったとか? 
てか、うちの青木さんの場合、薪さんは何も着てないのが一番きれいです、とかいけしゃあしゃあと言いそうで怖いです。

「猫耳プレイ」ですか?
どどどどどどどうだったんでしょう? ←なんだ、この狼狽え方。
わたしの場合、書いてみないとどうなるか分からないんですけど、きゃー、そんなの書けませんー。(//_//)



拙作に対するお言葉、ありがとうございます~。
わたしが必死で謝ってたから、フォロー入れてくださったんですね。 ありがとうございます、Nさん、やさしいです。(〃∇〃)

登場人物が生き生きしている。
何度読んでも同じところで噴き出してしまう。

どちらも最高の褒め言葉です。 嬉しいです。(^^
喜んでくれる人もいると分かると、公開しても大丈夫かな、って思います。 (書くのは書いちゃうんですよね、楽しいから、自分でも止められないし) 


> 以前、アカデミーの壇上でメリル・ストリープが「芝居の中でコメディが一番ハードだ」と言ってました。
> 人を笑わせることが一番難しいと。

おおー、真理かもー。
小説や映画で笑ったり泣いたりするのって、ストレスの緩和になるんですってね。 拙作も、そういう癒しになれたら、と夢見て止まないのですが。

声を出して笑う、涙を流す、と言うのが大事らしくて、だから「笑った」「泣いた」と感想をいただけると、すごく嬉しいです。
特に涙を流すのは、笑いの倍もストレス除去の効果が高いらしいのですけど、
原作は苦しすぎて泣けないときが多くて~。(^^;) 


> (来月、どうかとんでもラストだけは~それだけは~~・・)

わたしも不安になってきちゃって!(><)
だってなんか、まだ敵が残ってるかもしれないって……警備局長で終わったんじゃないの?!
最終回まで、最後の1ページまで気を抜けない、
『秘密』はやっぱりスゴイ作品だと思います!!


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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