パンデミック・パニック(13)

パンデミック・パニック(13)





「おじさん、山岡さん?」


 高校生くらいの女の子だった。栗色の髪をツインテールにして、それが彼女にはとてもよく似合っていた。前髪はふわりと額に落ちかかって眉毛を完全に隠し、丸みを帯びた頬のラインと協力して彼女のあどけなさを強調していた。
 彼女の格好は特徴的で、それは山岡の好みにぴったりと合っていた。白くて薄い布地に、黒のレースラインが縦に三本入ったフリルだらけのワンピースを着て、頭にはドレスと同じデザインのヘッドドレスを付けていた。短いスカートから覗く太腿は彼女が身に着けている服と同じくらい白く、膝から下は編上げの黒いロングブーツに覆われていた。

 山岡は思わず席を立った。
 見たこともないくらい可愛い娘だ。山岡はゴスロリファッションの娘たちには多大な興味を持っていて、時々、その系統の店にも足を運んでいるが、ここまで人形みたいにかわいい娘には出会ったことがない。それも当たり前で、ああいう店は成人女性が客の趣味に合わせて商売用の衣装を着けているだけ、やはりゴスロリは少女にだけ許されたファッションなのだ。

「そうだけど、君は?」
 山岡が答えると、彼女は妖精みたいに歩いて山岡の傍に寄ってきた。
 近くで見ると益々かわいい。
 こういう服を着こなすには必須条件だと思われる小柄で華奢な体つき。亜麻色の瞳は文句なしの大きさ、しかも黒目がちで、びっしりと生えた睫毛に覆われていた。重量感のある睫毛は瞬きにすら支障をきたしそうだったが、逆に、彼女の軽やかな足取りは、重力の影響を微塵も感じさせなかった。

「シロヤマって言えば分かるって」
「えっ。君が城山さんの代理人なの?」
 鈴を転がすような美声が語った言葉に、山岡は驚愕した。予想だにしなかった、この娘が犯罪に加担するような娘だなんて。
 しかし、それは山岡の早とちりだった。
「代理人て何のこと? ミホ、知らない。この鍵を山岡って人に渡して、代わりの物をもらって来ればお小遣いくれるって言われて、それで」
「鍵?」
「滑り台の処にトランクが置いてあるって、あ、あれかな?」

 ミホが指差す先を見れば、公園の奥まった場所に古ぼけた滑り台が置いてあって、その陰に銀色のトランクが置いてあった。言われなければ分からないような置き方で、ミホが現れた方向とは全く別の場所であるし、彼女はトランクの中身をまるで知らないと思われた。
 ミホは鍵を持ったまま、やっぱり妖精みたいに重さを感じさせない歩き方で滑り台に近付いた。前を歩く彼女の短いスカートが揺れ、白い太腿が露わになるたび、山岡は今日ここに来た目的を忘れそうになった。

「わあ、大きなカバン。重いわ、持ち上がらない。中に何が入ってるの?」
 君には関係ない、鍵を渡してくれ、と言おうとして、山岡は言葉を飲み込んだ。言葉と一緒に、多量の唾液が喉に流れ込んできた。
 ミホは鞄を持ち上げようと、前かがみになって両手で取っ手を持った。力を込めると自然に内股になった彼女のスカートが上がり、下着が見えそうになる。そのギリギリのラインの色っぽいこと。
 お小遣いをくれるから、とミホは言った。彼女はお金が欲しいのだ。このトランクいっぱいの金を見せたらどうだ、彼女は自分の言うことに応じてくれるのではないか。何でも好きなものを買ってあげる、と言えば、どこまでも付いてくるに違いない。

「開けてごらん」
 山岡はトランクを地面に倒して、その前に屈んだ。一緒に膝を屈めたミホに、にこりと微笑みかける。
「え? わたしが?」
「うん、いいよ。君が開けて。きっと君の大好きなものが入ってるよ」
 ミホは不思議そうな顔をして(それがまた何とも愛らしかった)、でも従順に鍵をトランクの鍵穴に差し込んだ。その素直さも好ましい、と山岡は思った。

 パチン、と鍵の外れる音がして、トランクが開いた。わあ、とミホの驚く声が聞こえる。山岡も一緒に覗き込むと、大量の紙幣がぎっしりと詰まっていた。咄嗟に数えきれる量ではなかったが、一見して百枚の束が横に6列、縦に5列。下方を探って一束抜き出し、中身が本物かどうか確かめる。すべて本物だ。
 一瞬、金だけ奪おうか、と思ったが、それは得策ではないとすぐに考え直した。この細菌は犯罪の証拠。処分した方がいいに決まっている。それに、この娘。ここで別れるのは惜しい。

「じゃあこれ。君がお使いを頼まれた人に渡してもらえるかな」
「うん」
 黒い小箱と研究データを入れたUSBメモリを、ミホの手に握らせる。華奢で美しい手だった。ネイルアートはパールを散らした白とピンクの天使系で、彼女の雰囲気にぴったりだった。
「ねえ、君」
 彼女の手を握ったまま、山岡は言った。
「そのお使いが済んだら、またここに帰ってきてくれないか」
「……どうして?」
「お小遣い、欲しいんだろ? 見ての通り、ぼくは大金持ちだ。好きなもの、何でも買ってあげるから僕と」

 ミホは、山岡から預かったケースを慎重に地面に置き、スッと立ち上がった。つられて山岡が立ち上がると、驚いたことに山岡の腕に自分の腕を絡めて、もう一方の手を山岡のシャツの襟元に添えた。
「お金は要らないけど、山岡さんのことはもう離さない」
 何と言う幸運だ。金の力は偉大だと思うが、それでもこんなにかわいい娘が自分なんかに。
 身を寄せると、髪から身体から、とても良い匂いがする。我慢しきれなくなって、山岡は彼女のスカートから伸びた太腿に手を伸ばした。

 ぎりり、と強い力で手首を握られた。痛い、と思ったときには少女は山岡の後ろに回り、もっと強烈な痛みが山岡を襲った。
「いっ、痛い! 何をするんだ!」
 腕を捻じり上げられている。関節をおかしな方向へ曲げられて、山岡は悲鳴を上げた。痛いなんてもんじゃない、折れる瞬間の痛みがずっと続いているみたいだ。

 ちっ、と舌打ちする音を聞いた後、山岡の足を編み上げブーツの足が攫った。強い力で蹴られてバランスを崩し、山岡は正面から地面に突っ込んだ。硬い地面が山岡の顔にいくつもの傷を作り、山岡はその痛みに呻いた。
 次の痛みは背中だった。右腕の関節を決められた上、背中に膝頭を打ち込まれた。そのまま押さえつけられ、痛苦に喘ぐ山岡の耳に、澄んだアルトの声が聞こえた。
「雪子さんが言ってたとおりだ。とんでもない変態だな、こいつ」
 彼女の声を合図に、数人の男が茂みや木の陰から出てきて、山岡の身体を拘束した。山岡を男たちに預けると、少女はトランクの蓋を閉め、それを片手で持ち上げた。

「き、君はいったい」
 男たちに両側を挟まれて身動きの取れなくなった山岡が問うと、彼女はトランクを持ったまま、ヘッドドレスの顎紐を解き、それを髪の毛ごとむしり取った。
 ツインテールの下から現れたのは、亜麻色の短髪。この髪型なら彼だと分かる、幾度か仕事場で見かけたことがある。山岡が所属する研究室の副室長と仲の良い、科警研一の美人。

「そんな……」
 信じられないと呟く山岡を、ゴスロリ姿の麗人は、大きな亜麻色の瞳にゾッとするほど酷薄な光を浮かべて見下していた。





*****

 そしてまた謝罪の種がひとつ増えると☆ ←反省の色が見えない。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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誘惑

薪さんのお姿、想像しただけで、鼻血出そうです、ブハッ!
いくらお仕事の為とはいえ、そんな可愛いお姿の薪さんを他の警察官達の目にさらしたら、さらに性犯罪の誘惑になっちゃいそうですね(笑)。
そして隠し撮りされた可愛いお写真が庁内に出回り、さらにファンが増え、ますます薪さんは困ったことに…(笑)。
こんな可愛い薪さんを毎日見ている青木がうらやましいです。

あずきさんへ

あずきさん、こんにちは~。


> 薪さんのお姿、想像しただけで、鼻血出そうです、ブハッ!

ミニスカートに編上げブーツですからね~。
ゴスロリならロングドレスとかもあったはずなんですけどね、
薪さんの脚、きれいだから。 隠すのもったいないかなって。 ←書いてる人間が一番のヘンタイ。


性犯罪を誘発しそうとのお言葉、
まさに!
愛でる会の会員がまた増えそうです。(笑)


ところで、いただいたコメント拝読して、驚きました。

タイトルに 「誘惑」 といただきましたが、
次の章で山岡が「見事な誘惑でした」って思うシーンがあるんです。 おおー、あずきさん鋭いー、と思ったら、

> そして隠し撮りされた可愛いお写真が庁内に出回り、さらにファンが増え、ますます薪さんは困ったことに…(笑)。

なんで隠し撮りの事実を知ってるんですかー?!(・∀・)
ていうかきっと、あずきさんとはギャグ回路が合うんですよね♪ うれしいですー♪

薪さん本人は知らないんですけどね、陰でどんどん蔓延していくと言う……うちの薪さんは本当に不憫な人だと思います☆
そして、可愛い薪さんを毎日見ることができる、さらにはエロい薪さんは独り占めの青木くん。 羨ましい限りですね。(^^


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このコメントは管理人のみ閲覧できます

Sさまへ

Sさん、こんばんは~。(^^

そうなんですよ、雨のやつにイジワルされてしまって~。 でも何とか舗装の日取りも決まって、今月中には現場から上がれそうです。 土木業界の名言に、「終わらない工事はない」って言うのがあるんですけど、本当ですね☆


> さて、薪さんの女装を愛でる会部外者枠特別会員の私としては(きゃー、勝手に登録してごめんなさい!)、

いつの間にか特別枠が!! げらげら☆
いいなあ、わたしも入れてください♪


> 今回の薪さんのゴスロリ、さすがにちょっと無理があるんじゃないかと思ったの。

そうなんですよね~。
わたしもゴスロリと言えば黒のフリルワンピ、というイメージがあったんですけど、なんか薪さんの透明なイメージには合わない気がして~。 しっかりメイクで黒ワンピより、ナチュラルメイクで姫系ワンピの方が似合うかなって。


> それがね、PCのそばに付録のカレンダーがあって、3,4月の薪さんの画を見て眉毛隠してみたら・・!
> そこにフリフリのフリルだらけの白いワンピとヘッドドレスをつけてツインテールの髪型を想像したら・・・!
> や~ん、少女になったよ(≧∇≦)

なりましたかーーーー!!!
3,4月と言うと、第九の集合写真ですね。 あの薪さん、お目めぱっちりですものね。 すまし顔で人形っぽいし、ゴスロリ服を当てはめるには最高のショットでしたね。(^^ 


> というわけで、ヅラで眉毛を隠すあたりさすがしづさんですねー。

基本、薪さんはヅラが無くても眉毛隠れたら普通に女の子だと思います。(笑)


> この薪さん40歳くらいでしたっけ。はしかにはなるわ、ゴスロリ似合うわ、太ももきれいだわ、ってどんな40歳男性?(笑)
> 清水先生、絶対計算してますよね、読者がそういう妄想するの。

そんな40歳男性、本当にいたら気持ち悪……ごほごほ。
清水先生の計算は、あははははーー!!! 
あおまきさんの恋愛はちょっと計算してるかもー、でも、女装はない! でしょうwww。 
薪さんの女装と言えばアニメが最初だと思いますが、あのとき、先生どう思われたんでしょうね?


衣装調達を誰がしたのか、ですか?
考えてなかったんですけど~(^^;) Sさんの他にも雪子さんという意見が多いです。 ……うちの雪子さんて。(笑)

> で、そういう情報はもはや光の速度でもれてしまう組織なので(あれ?守秘義務は?一応囮捜査ですよね?)、栄誉会員の第五の室長を筆頭にもうちゃんとみんなの携帯やらPCに写真がはいっちゃってるよね、きっと。

光の速度でもれるって!!(爆) それはもはや囮捜査ではなく、イベントですよね!? 恐るべし、愛でる会の連絡網!


> 会報の表紙を飾るかも・・・(会報、あるかな)

どなたかも会報の存在を仄めかされてましたが、Sさんまで!
作者が考えなかったことまで考えていただけるの、とっても光栄です、でもっ、会報だの女装写真が配布されるだのって、笑いが止まりません~~。(>∇<) 



> 今、「緋色の月」を読んでまして、そういえば今回のお話の最初のほうで、中園さんが「緋色の月」事件の顛末というか事後処理を語ってましたね。

再読ありがとうございます。 (うぎゃ、そんな何度も読むほど価値のあるものでは~(>_<;) でも嬉しいです、ありがとうございます)
そうそう、あれはですね、『緋色の月』の公開終了後に何人かの方に「裁判であおまきさんの関係が明らかにされてしまうのでは?」と突っ込まれまして、あ、本当だ、それは困るなってんで、中園に圧力かけてもらったんです。(笑)


> 「緋色の月」の時は、薪さんてばあの地方警察の人たちに見下されて恥ずかしい思いして、読み直すとけっこう可愛そうです。でも青木くんが釈放された時の、薪さんの毅然とした態度はとてもかっこよかった。

ありがとうございます。(^^
元々あの話は、警察署の庭で抱き合うシーンを書きたくて考えたので、そう言っていただくと嬉しさもひとしおです♪ 
うちの薪さんは別れることを前提として付き合い始めているので、未来に悪影響を残さないように、青木さんとの関係を隠そうと躍起になっているのですけど、そんな薪さんが人前で青木さんに愛情を表すシーンを書いてみたいな~って思って、それには相当追い詰めないとダメだなと思って、(←ドSの理屈) けっこう可哀想な話になりました。


過去作に拍手してくださってるの、Sさんなんですねっ。 ありがとうございます!
ベスト3は、きゃー、光栄ですーー。 わー、なんかすごく気恥ずかしいのですけど、嬉しいです。


> しづさんの中でも、気に入ってるのとそうでないのってあるの?

自分が書いた作品でですか? 
えー、みんなアホみたいな話ばっかりで~、アホベストなら『秘密の森のアリス』と男爵シリーズで決まりなんですけどwww。

逆に、気に入らないと言うなら全部が気に入らないです。(^^;
書いてるときは楽しいのですけど、終わってみると、書き表しきれない、伝えきれない、という不満が必ず残ります。 薪さんはもっと賢くてやさしくて愛情深くて健気で……それを明確に示せるストーリーや言葉を常に模索してます。 難しいです~。


コメントありがとうございました。
『Sさんのベスト』 決まったら、ぜひ教えてください。(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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