パンデミック・パニック(11)

 お彼岸ですね。 
 今日は実家のお父さんに、お花を手向けに行ってきます。 オットはどうしても仕事が抜けられないので、今年はわたしだけ。 母も祖母も、えらくオットを気に入ってるので、がっかりされちゃうかも。(笑)

 本当にね~、特に祖母はオットにメロメロなんですよ。
 オットとわたしと祖母の3人で旅行に行った時、車の運転代だと言って、ティッシュに包んだお札をオットに差し出して、
「まーくん (オットの愛称) にだからね。しづのじゃないよ」
 ……孫と婿とどっちが大事なんだか。
 そしてわたしにはこの一言。
「おまえ、取り上げるんじゃないよ?」
 あんたの孫でしょうが! 信用せんかいっ!!


 祖母は93歳。 現在は韓流ドラマにハマってるそうです。 





パンデミック・パニック(11)






 倒れ掛かった点滴スタンドを雪子から譲り受け、きちんと立て直した後、岡部は問答無用でベッドに手を入れて、薪の身体を仰向けにひっくり返した。これ以上面倒かけんでください、と腹心の部下に睨まれれば、昨夜の自分の失態に恐縮する気持ちでいっぱいの薪には、返す言葉も失われる。

「犯人の身元が分かりました。と言っても、調べたのは捜一の連中ですがね」
 壁際に立てかけてあったパイプ椅子を持ってきて雪子の反対側に腰を下ろし、岡部はこれまでの捜査で分かったことを薪に教えてくれた。さすが岡部だ。薪が一番気にしていることが何なのか、ちゃんと分かっている。
「T大学医科学研究所在籍の助手で、谷島史郎、28歳。こいつのやってた実験てのが俺にはさっぱり意味が分からんのですが、ソラなんとかって細菌を遺伝子操作して、微生物による病気の治療薬を作る事だったとか。今朝になって研究所の職員が確認したところ、彼が実験中だった細菌と研究データが持ち出されていたそうです。彼の仕業と見て間違いないでしょう。
 動機は金ですね。谷島には多額の借金がありまして、金が必要だったらしいです。その細菌を売って、金に換えようとしたんでしょう」
 岡部の口から事件の顛末について聞かされ、結局自分が犯人に踊らされたことを再確認する。底なし沼のような自己嫌悪に落ちかける自分を止めつつ、薪はかろうじていくつかの疑問点を口にした。

「科警研には、何の目的で?」
「谷島は、必要以上に毒性を高めた細菌を開発していることが上にばれて、今後、目的以外の研究を続けるなら研究所を辞めてもらうと言われたそうです。それで、彼は研究中の細菌をどこかへ移す必要があった。
 研究所の話では、谷島の作った細菌は微生物が発生する毒素によるもので、元が微細な生き物だけに、保温ケースから出すと半日で死滅してしまうんだそうです。衝撃や振動にも弱いとか。だから、自分の大学から一番近いこの研究所に眼を付けたんじゃないかと。
 保温ケースと一定の設備があれば、細菌は自宅でも育てられるそうで。設備を盗むつもりで侵入したというのが妥当なところかと」
 犯罪に使う細菌を培養する設備を調達するのに、警視庁の隣に建っている科警研を選定するのはどうかと思われたが、科警研への侵入目的は納得がいった。
 しかし、どうしても納得がいかないのが谷島の死だ。

「薪さんから事情聴取をすれば見解は変わるかもしれないとは言ってましたが、今のところ捜一は自殺で見ています」
「違うな。あれは死を覚悟した人間の態度じゃなかった」
「しかしですね、谷島の死因はアルカロイド系の毒物なんですよ。即効性の毒ですから、自殺じゃないとなると、犯人は薪さんてことになっちまいます」
 そこは薪にも謎だ。すでに薪の中でひとつの解答は導き出されているが、決定的なピースがいくつも欠けている。
「僕的には『薪剛犯人説』の方が、まだ賛同できるが」
「冗談は止してくださいよ」
 慌てて両手を振り回す岡部の好ましい愚直にクスクス笑いを洩らして、薪は質問を続けた。

「自殺の動機は」
「谷島はあまり質の良くないところから金を借りてまして。職場にまで押しかけられて、かなり追い詰められていたようです。ただでさえ取り扱いの難しい細菌を研究室から持ち出して、結果駄目にしてしまって、ヤケクソになってあんな真似を―― 納得してませんね?」
 長年の部下は、薪の微細な表情の変化を読み取ることなど造作もなくやってのける。薪はたった一度長い睫毛を瞬かせただけなのに、それだけで分かってしまうのだ、この男には。

「いいですか、薪さん。気持ちは分かりますが、あなたは病気を治すことに専念してくださいよ。どちらにせよ、この事件は捜一に渡ったんです。俺たちに口を挟む権利はありません」
「そんな常識のないことはしないさ。捜一の連中に、早く事情聴取に来いと言ってくれ。その場で覆してやるから」
「……挟む気満々じゃないですか」
 クスッと笑って薪は、自分の頬に手をやる。普段なら剥き身のゆで卵のようにつるんとした皮膚には、身体と同じ発疹の凹凸が感じられる。先刻、青木がこの頬に頬ずりしたことを思い出して、薪は何だか申し訳ないような心持ちになった。

 室長不在で忙しい岡部は、報告を済ませると第九へ帰らねばならなかった。薪の身体が心配でたまらない彼は、病室を出るまでに3回も振り返って、雪子を失笑させた。
 岡部がいなくなると、雪子は「何か喉越しのいいものでも買ってきましょうか?」と薪の希望を聞いた。食欲は無かったが、口の中が乾いてザラザラしていたので、アイスクリームを頼んだ。
 雪子はカップアイスを二つ買ってきて、一つを薪にくれた。秋のアイスもイケるわ、と大きくアイスを掬いながら雪子が笑う。本当に、雪子は何でも美味しそうに食べる。

「雪子さん。山岡さんてどんな人なんですか?」
「有能な職員よ。研究熱心で、職務態度も真面目」
「研究課題は?」
「今やってるのは大腸菌の培養と経過観察かな。でも、培養に興味を持ち出したのは今年になってからで、去年までは薬品の競合による相乗効果と拮抗効果について論文を書いてた覚えがあるけど……いずれにせよ、とても優秀」
「上司としての評価じゃなく、雪子さんの眼から見て、いい男ですか?」
 上司として、という条件が消えた途端、雪子の顔は苦々しく歪んだ。

「ゴスロリ好きのヘンタイ。机の中に、写真がいっぱい入ってた」
「彼の女性の趣味はどうでもいいです。性格的にはどうですか?」
「友だちにはなりたくないわね。優秀なんだけど、自分に自信を持ちすぎてて、他を見下してる感じ。あ、薪くんと一緒ね?」
 悪戯っぽく笑った雪子に、薪は大仰に顔をしかめて見せる。
「ひどいですよ、僕はそんな」
「あはは、冗談よ」
 雪子がそんなことを思っていないのは百も承知だ。薪は誤解されやすいタイプだが、何人かの人は自分の真実を分かってくれて、信じてくれる。それで十分だと思う。

「それにしても、本当にこれ、ハシカなんですか?」
「そうよ。発疹が出た時点で気が付かなかった?」
 不自然だとは思った。犯人には発疹が出なかったのに、自分には現れた。でもまさか、こんなタイミングで発症するなんて。
「ハシカって、子供が罹る病気じゃないんですか? それに、ハシカの発疹って、こんなに大きくないですよね?」
「麻疹ウィルスさえ取り込めば、大人も子供も関係ないわ。あんまりバカにしない方がいいわよ、麻疹って大病なんだから。大人になってから罹ると余計大変なのよね。発疹も大きくなって、熱も続くし。完治には2週間くらい掛かる人もいるわよ」
「でも僕、子供の頃に予防接種を」
「予防接種だけだと、身体の中にできた抗体が消えてしまうことが多いの。実際に罹病していれば抗体が消えることはないんだけど」
 そうなのか。知らなかった。

「それにしても、ハシカなんて一体どこで」
 宇野の見舞いに行ったとき、夜遅い時間だったから正面玄関が開いてなくて、救急センターから病院へ入った。急な発熱で親に連れてこられた子供の中に、麻疹に罹った子がいたのかもしれない。
「救急センターはね、本当に色んなウィルスがうようよしてるから。できるだけ避けたほうがいいわよ」
 肝に銘じます、と薪は神妙に言って、アイスをもう一匙口に含んだ。口の中が高温になっているから、冷たいものは心地が良い。風邪の菌が胃腸に悪さをしている時は別として、発熱時の栄養補給はだいたいこれだ。

 薪が熱を出すと、青木は必ず薪の好きなアイスクリームを買って見舞いに来る。それから頼みもしないのにおかゆだのスープだのって家政婦の真似事をして、それをものすごく楽しそうにされるものだから、僕が熱を出して寝込むのがそんなに嬉しいか、と皮肉の一つも言ってやりたくなる。
 熱を出した時とばかり限らない。青木は薪がほんのちょっと疲れを感じて休んでいるだけでも深刻な表情になって、あれやこれやと世話を焼きたがる。健康なときでさえ、風呂で髪を洗ってやるだの着替えさせてあげるだの、まあアレは下心てんこ盛りの親切心なのだろうけど、とにかく、薪が病魔に苦しんでいるのに、あんな捨て台詞を吐いて背中を向けてしまうような、冷たい恋人ではなかったはずだ。

「……青木のやつ、一体どういうつもりなんだろう」
 事もあろうに病人に対して「もう長くない」なんて、言っていい嘘と悪い嘘がある。許されていいことじゃない。病気が治ったら説教だ。エントランスの打ちっぱなしコンクリートの上で二時間、正座で説教聞かせてやる。
「まあ、あたしは薪くんのこと20年も見てるからね。仕方ないなって思うけど、青木くんは許せなかったんじゃないのかな」
「許せなかったって……騙されたのは僕ですよ?」
「その前に騙したのは薪くんじゃない」
「だってあれは」
 青木の命を守るためだった。あの時点で、薪は本物の細菌が播かれたと信じ切っていたのだ。止むに止まれぬ嘘だった。

 薪が不機嫌に押し黙ると、雪子は空になった紙製のカップをくしゃりと潰し、
「青木くんが薪くんの口からどんな言葉を聞きたかったのか、薪くんなら分かるでしょう?」
「分かりませんよ。言ってくれなきゃ分かりません」
「相変わらずズルイのね」
 ひょいっと雪子が放り投げた紙くずは完璧な放物線を描いて、見事ゴミ箱に落下した。フリーになった両手を彼女は豊かな胸の前で組み合わせ、いつものハキハキとした口調で遠慮なく言った。
「自分の気持ちは決して言わないくせに、相手には理解して欲しいと思ってる。そのくせ、相手の気持ちは『言ってくれなきゃ分からない』。
 大したものだわ。学生時代とちっとも変わらない。それがあなたのスタイルだものね」

 何故だろう、と薪は思う。
 どうして今日は、みんな自分に冷たいんだろう。病気だからってやさしくして欲しいわけじゃないけど、青木といい雪子さんといい、自分は何か彼らを怒らせるようなことをしただろうか。
 考えるが、まったく心当たりがない。
 確かに、自分のカンチガイでとんだ迷惑を掛けた、だけどそれで怒るような彼らじゃない。自分たちの労苦などどうでもいい、ただのハシカでよかったと喜んでくれる、彼らはそういう心根の人たちだ。

「雪子さん、あの」
「薪くんは正しいわ。薪くんの嘘も正しい。でも、青木くんに嘘を吐かせたのは、薪くんのその正しさだと思う。て、あたしが口出すことじゃないわね」
 座るときと同じくらいのオーバーアクションで立ち上がり、雪子は背筋を伸ばした。ひらひらと手を振って、そろそろ仕事に戻るわ、と笑う。笑うと目尻に皺が出来るようになったけれど、彼女は結婚して益々美しくなったと薪は思う。
 大分温んできた水枕に頭を預け、薪は扉の向こうに消える白衣の背中をじっと見ていた。





*****


 と言うわけで、薪さんの病状は麻疹によるものでした~。
 いやん、怒らないで、だからギャグだって言ったじゃん☆

 実はですね、2年前にオットがまんまこの状態になりまして。 
 実家の父が入院してたので、現場が終わってから2人でよくお見舞いに行ってたのですけど、当然のように玄関が閉まってて、救急から出入りしてました。
 ある日、いきなりオットが熱(39度越してた)を出したと思ったら、2時間くらいのうちに身体中に発疹が!! これが本当に大きなブツブツで、気持ち悪いのなんのって、すごく怖かった。 
 高熱と湿疹から直ぐにハシカを疑ったのですけど、お義母さんに訊いたら「子供のころ、予防接種はちゃんとした。それに麻疹のブツブツはこんなに大きくない」って言われて。
 とりあえず近くの内科に連れて行ったら、「うちじゃ手に負えないから大きな病院で検査してもらって」と紹介状を書かれました。 内科の先生、診察だけじゃ病名が判断できなかったんですね。
 見た目だけでは医者にも診断が下せないなら、素人には分からなくて当たり前ですよね。

 大きな病院で診察してもらって、「どうも麻疹っぽいですね」と先生に言われたのですけど、血液検査をしてみたら、
「麻疹の抗体はありますね。じゃあ、麻疹に似た別のウィルスかな? それともアレルギー反応かな?」
 結局、分かりませんでした。

 検査を重ねれば突き止めることはできるけど、それにはお金も時間もうんと掛かりますよ、症状が治まれば大丈夫ですから、と先生に言われて、そのままにしちゃいましたけど。 本当に、なんだったんだろうなー。

 みなさんも、救急センターの出入りの際には十分注意して、必ずマスクを着用してくださいね。






テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

コメントの投稿

非公開コメント

Aさまへ

Aさま、こんにちは。

はい、わたしも墓前にお線香をあげてきました。
実家には母しかいなくて、久しぶりにゆっくり話しました~。 


> 薪さんは捜査官魂が疼くようですが。

仕事が第一の人なので~。
青木さんのことは2の次3の次です。 命に関わるようなことでもなければ、基本、放ったらかしですね。 ケンカなんか珍しくもないので。(笑)


> 三度も振り返る岡部さん、かわいい(^▽^)

岡部さんはねえ、本当、見た目に依らず心配性ですよねえ。
他人の気持ちの分かる人だし、気配りも細やかだし、ああ、やっぱり旦那にするなら岡部さんだな♪


> 薪さんは原作もそうだけど周りに甘えようとせず、自己完結しちゃう。迷惑かけたくないとか、自分の命をないがしろにする傾向がある。それが周りの人間を悲しませることがわからないのですね(´`)

2月号の薪さん、投げやりでしたものね~。(><)
いつ殺されてもおかしくない状況で、あの横柄な態度。 ここで死ぬならそれでもいい、と思ってたんでしょうね。 

自分が惜しくないから、周りの人も同じだと思ってるんでしょうね。 けっこうあからさまに大事にされてると思うんですけど、なんで分からないのかなあ? 薪さんて鈍いよね?(笑)
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
文字サイズをお選びください
最新記事
最新コメント
拍手のお返事
いつもありがとうございます!

最新拍手コメのお返事はこちらです。

過去の拍手レスの確認は、該当記事の拍手欄を押してください。
鍵拍手コメのレスは、記事のコメント欄にお返しします。
月別アーカイブ
カテゴリ
詩 (1)
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

リンク
QRコード
QRコード
FC2カウンター
こんにちは(^^
現在の閲覧者数: