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『青木の奴、三好先生とデートなんですよ』
 モニタールームから、曽我の声が聞こえた。
 薪の手が、一瞬こわばる。あやうく書類を取り落としそうになった。

 なぜか、不意に報告書の内容が理解できなくなる。
 胸がざわついて、息苦しい。

 前々から気付いてはいたのだ。
 なんだかんだと理由をつけて、青木はしょっちゅう雪子の所に行きたがる。解剖所見を取りにいくのも、いつも青木の役目だ。
 青木は鈴木の脳を見ている。鈴木の脳内に残っていたであろう雪子を見ているのだ。惹かれるのも無理はない。雪子にしてみても、少し年は離れているが、鈴木の面影を残す青木のことを憎からず思っているに違いない。近頃のふたりの様子を見ていれば、だれにでも察しがつくことだ。
 だいたい、自分は雪子を託す男として、青木のことを候補に入れていたはずだ。
 忙しさに取り紛れて忘れていたのか、それとも鈴木に似ている青木を雪子に取られるのが嫌になって、わざと忘れた振りをしていたのか。後者だとしたら……また雪子に頭が上がらなくなってしまう。

 椅子の背もたれに寄りかかり、天井を見上げる。なんだか書類が見たくない。
 机の一番下の引き出しから、眠るときの必需品である本を取り出す。中を開けると、一枚の写真が出てくる。

 親友の笑顔。
 自分が殺した―――― 自分が雪子から永遠に奪った、その笑顔。

 雪子には幸せになって欲しい。きっと鈴木もそれを望んでいる。

「よかったな、鈴木。雪子さんに恋人ができたぞ」
 頬杖をついて背中を丸め、写真に話しかける。ちいさな声。
「青木はまだ若くて頼りないがいい奴だ。きっと雪子さんを幸せにしてくれる」
 写真の笑顔はほっとしたようにも見えるし、いくらか寂しそうにも見える。
「これで安心だろ。後は僕がそっちに行くまでもう少し待ってろ。そっちに行ったら……何回でもおまえに殺されてやるから」
 そう呟いて自虐的に微笑むと、薪は写真を元通りにしまいこみ、仕事に戻った。散逸しようとする意識を必死に掻き集めて。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
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2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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