破滅のロンド(1)

 こんにちは。
 春一番も吹き荒れまして、やっと春ですね。

 本日から公開しますお話は、心浮き立つ季節に相応しく~。
『破壊のワルツ』の続編、滝沢さんリターンズのクライムサスペンスでございます。
(おやあ? ふざけるな のお声があちこちで……)

 えっとね、
 話はハードかもしれないけど、この話は基本的にあおまきさんだから、根っこは明るくて、だから『破壊のワルツ』みたいに後味の悪い話ではないと思います。 「べるぜバブ」の主題歌をBGMに書いたくらいだし。
 ただクライムサスペンスなので、死んじゃう人はいるし、怪我をする人もいます。
 本誌が最終回を迎えようとしているこの時期、秘密ファンはみんな精神的に不安定になってると思う、ので、強くお勧めはできないのですけど。 うちの滝沢さんの決着として、原作とは切り離して楽しんでいただけたらと思います。

 なお、前作『破壊のワルツ』は、カニバリズム事件がメロディ本誌で飛行機事故だった頃に書いたものなので、続編のこちらもその設定が継続しています。 ご了承ください。




 

破滅のロンド(1)



 空港のロビーから一歩外へと踏み出した彼は、焼け付くような日差しに眼を細めた。
 今まで暮らしていた南国に比べれば故郷の太陽は春先の木漏れ日のように優しいはずだと予想していたのに、なかなかどうして、厳しい出迎えだ。彼がこの地を離れた6年前より、東京の温暖化は確実に進んでいるとみえる。

 タクシー乗り場へ向かうと、行列ができていた。一列に並び、雑誌や新聞を片手に大人しく順番を待っている人々を懐かしい思いで眺める。相変わらず行儀のよい国民だ。礼儀正しさと愚かしい従順を持ち合わせている。
 郷に入っては郷に従えだ、と自分に言い聞かせ、彼は列の最後尾に付いた。順番待ちの退屈な時間、彼は周りの人々のようにそれを紛らわす事を敢えてしなかった。
 彼にとって、無為な時間はとても貴重だ。こんな風にぼんやりとできて、かつ、命の危険を感じなくていいなんて。

 この数年、彼は異国の地で絶えず生命のやり取りをしてきた。工作員としての基礎を一から叩き込まれ、強制的に危険な任務に就かされた。
 平和な祖国に帰って来ることができて、彼は運が良かった。
 はずなのに。

 安息に満たされようとする彼の心に、それは唐突に投げ込まれる。水面に投じられた細い針のような、よって広がる波紋もさほど大きくはない。だが、その切っ先は鋭い。針は真っ直ぐに彼の一番深いところを目指して、その姿に似合わぬ威力でもって彼を切り裂いていく。
 乱れ破れた記憶の狭間から浮かび上がってくる雑多な映像。その多くはこの手で殺した人間の顔だ。新しいものから古いものへ、風景は南国の砂漠から都会のビル群に移り、やがては彼が最初に人を殺めた記憶へと行き着く。

 壁一面の大型スクリーンと、端末モニターだらけの部屋。スパコンのファンが回る音と、薄気味悪いくらいリアルな音の無い画。そこにいるのは4人の仕事仲間で、うち二人は彼が殺した。残る二人のうち、一人がもう片方の男を殺して、部屋にはたった一人が残された。
 独り生き残った男をこそ、彼は仕留めたかったのに。

 自分が未熟だった頃に仕損じた仕事を、そのターゲットの姿を、彼は鮮明に思い出すことができる。ターゲットは、一度会えば忘れられないような姿形をしていた。性別を超えた美しさとでも言うのか、見ようによっては人間ですらないような。
 でも、彼は知っている。あの綺麗な顔の裏には穢れきった脳みそが詰まっていて、その中には沢山の秘密が隠されている。彼が暴きたかった真実も、他の誰かの密事も、入り乱れて腐敗している。取り澄ました顔をして、でもその本質は吐き気を催すほどに汚らしい。

 その男を思い出した途端、鮮やかに甦る若い女性の姿。彼女は再び彼の名前を呼び、彼に手を振る。せっかく故郷に帰って来たのに、記憶の中の彼女は、やっぱり泣き顔しか見せてくれなかった。
 彼女の泣き顔を見ると、ポケットに忍ばせたナイフを己が胸に突き立てたくなる。
 彼女が泣くのは当然のことだ。6年前、必ず帰って真実を暴くと決意したものの、なかなかその機会は訪れず。生き残るだけに精一杯の毎日が、彼を当初の目的から遠ざけた。彼の中で次第に大きくなって行ったのは、事実の究明よりも失われてしまった命に対する罪悪感。
 彼女の死の真相を、自分は暴くことができなかった。悲しかろう、悔しかろう、すまないすまない。おれもそちらへ行くから。行っておまえに詫びるから。

 でも、生き残ってしまった。

 生きさらばえてこの国に帰ってきて、ならば必ず成し遂げて見せる。そのために、おまえはおれを彼の地で守ってくれたのだろう?

 彼の深慮は、上着ポケットの微震によって遮られた。携帯の着信を見ると、自分を母国に呼び戻した雇い主からだった。
「滝沢です。今ですか? まだ成田に着いたところですよ」
 雇い主の相変わらずの気短に、彼は苦笑する。
「ええ、そちらに着くのは午後になるかと。え、今日中に研究室へ? 今日は日曜ではなかったですか?」
 公休日にも関わらず、新しい職場へ行けと雇い主は言う。明日から彼が勤務する研究室の責任者は日曜日でも職場に出ている予定だからと、電話の後ろからは明るいモーツァルトが聞こえてきて、彼の雇い主は余暇を満喫している様子だ。
 いいご身分だ、と彼は皮肉に唇を歪め、しかし言葉は丁寧に承諾の意を示した。
「解りました。おれも早く、懐かしい顔に会いたいですし」
 そう、彼が赴くのは新しい職場ではなく、古巣だ。そこでは6年前と変わらず、壊し損ねたブラックボックスが室長を務めている。

 ―― 今度こそ、壊してやる。

 徹底的に破壊して、跡形もなく消し去ってやる。そうすれば、きっと。彼女は笑ってくれるに違いない。

 携帯のフラップを閉じ、薄く微笑みながら彼は思う。そのことを考えると、銃撃戦の最中に弾丸が耳の際を掠めたときのように、身体中の血が逆巻いた。

 そうだ。これが、生きるということだ。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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No title

しづさんちのたっきー、お帰りなさい。

(夢中で読んでいて、ごみ出しを忘れました。(苦笑))

原作で幻となった飛行機事故のSSの続編、楽しみです。
登場人物の誰が死傷しようと、最後までしづさんについていきますよーっ。

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サンショウウオさんへ

おおお、サンショウウオさん、お待ちしてました!!
もうこの話、サンショウウオさんにしか読んでもらえないと思ってたので~、
来ていただいて嬉しいです!!


> 原作で幻となった飛行機事故のSSの続編、楽しみです。
> 登場人物の誰が死傷しようと、最後までしづさんについていきますよーっ。

あははは、コミックス派の方には何のことやら、ですよね。(^^;
この話は『破壊のワルツ』を書き終える前(2011年2月頃)に思いついてたんですけど、3月に大変なことが起きて、ハードな話は書けなくなってしまって。 そのまま機を逸してしまいました。
だけど4月号で滝沢さんはきっとお亡くなりになる気がして、そうなったらもう書けなくなってしまうと思い、頑張って書いてみました。
サンショウウオさんに読んでいただけるなら、頑張った甲斐があります!
よろしくお願いします!


ゴミ出し忘れるほど夢中になっていただいて、
サンショウウオさん、本当に滝沢さん好きなんですね。(^^

わたし、あんまり緻密な事件とか書けないので、サンショウウオさんにご満足いただける自信はないのですけど、一生懸命に書きました。
どうか生ぬるい目で見てやってください。

Mさまへ

Mさま、こんばんは~。(^^

おかげさまで、竣工書類は見通しが付きました。 週末には更新できると思います。
身体はね~、年々、夜の仕事が辛くなりますね~。 昔は毎日11時まで書類してても大丈夫だったんだけどな~、今は9時過ぎるとキツイです~。 やってもミスが増えて、結局手戻りになるし。 
年を取るのは嫌いじゃありませんけど、体力と集中力が減退するのが悲しいです。


Mさんも、お忙しかったんですね!!
それも、すごく神経を使うお仕事で。 特にクライアントのお宅に伺って仕事をされるときには、緊張しまくりだと思います。 お疲れさまでした。
でもっ、
パートさんなのに持ち帰りで仕事するんですか!? きゃー、信じられないー!
わたし、昔銀行に勤めてたんですけど、パートさんの仕事は時間まで、やり残した仕事はすべて正社員が仕上げる、が鉄則でしたけど!? ううー、社長さん、ちゃんと残業代払ってくださいねっ。←余計なお世話。
包装1000個とか、反物カット延々とか、めっちゃ疲れそうです。(><) 聞いただけで肩凝っちゃいました☆

でもって、
………………………いる。 横で見てる。 ←!!!

無事にラッシュが終わってよかったですねっ。



> パンデミックですが、長丁場おつかれさまでした!!!

ありがとうございます~。
長編の方がスキ、とのお言葉、うれしいです。 内容的にはこんなにページ数要らないはずなんですけど、あちこちで笑いを仕込んでいるうちに、いつの間にか長く……(^^;


それから、
なんと!! Mさまの旦那さまも麻疹に!!

> びっくりしますよね、ほんとに。 あれは実際に見た人間しかわかりません!

そうそうそうそう!! まったくその通りです!
分かってくださる方がいらしたわー、そうなのよ、本当にびっくりするのよー、お気持ち分かるわ―、
でも、 

> 実家に送り返そうかと思いましたよ。 

旦那さまっ……!!!(爆笑)
Mさま、ほんっとうに面白い方ですねっ。

薪さんのお身体には、痕は残ってませんのでご安心ください~。
残したら青木さんにぶたれます☆


> 青木さんとのちょっぴり甘いシーンも垣間見れて満足です☆

ほんのちょっとでしたね。(^^;)<甘いあおまきさん。
この先も見たかったですか? もちろん衣装はゴスロリですねwww。
ゴスロリもそうですけど、以前の猫耳プレイはしてもらえたのか? という質問も来ています。(笑)

言われてみれば最近、R書いてないんですよねー。 
いつから書いてないんだろう、と思って見直してみたら、『緋色の月』が最後でした。 あれ書いたの23年の6月だから、もう10ヶ月前ですね。 ……書けるのか?(汗)


> 防護服のこととか、薬品名とか、色々調べられて書かれているのですね。

あ、いえー、わたしのはネットでチラッと調べただけなので。
一応、薬品は実在のものです。 両者を同時に摂取すると命にかかわることがあるって書いてありました。 でも本当に死んじゃうかどうかはやってみないと分からないです。(^^;
ちゃんとした二次創作者さんは、図書館でがっちり調べるみたいですよ。 かのんさんとか、資料をしっかり集めて時代考証されてるって、ブログに書かれてました。 偉いなー。


Mさんには、いつも過分なお褒めの言葉をいただいて~、(恥ずかしくて引用できません~)
薪さんにゴスロリ服を着せた人間が何を書いてもアレだと思うんですけど~、
ありがとうございます。 うれしいですけど恥ずかしいです。 



> 前回の私のコメ、しづさんを椅子から蹴落とし、死の淵にまで追いやってしまったそうですが…

はいっ! 思いっきり笑わせていただきました!!

Oさんのとこ、読破されたんですね。 わー、わたしも早く行かなきゃ。
そうなんですよね、すっごくよく練られてるの。 本当に頭いい人が書いてるんだなー、て思う。 憧れちゃいます。

メッセージは、
ぜひ送って差し上げて下さい! 喜ばれますよ~。
それと、例の件を伝えても、たぶん、大丈夫だと思います。
わたしも一度しかお会いしたことはないのですけど、Oさんはとっても明るくて楽しい方なので! きっと笑い飛ばしてくれると思います。



> 今月はいよいよ最終回ですね。

はい。 緊張しますね。

Mさんは、残念な最後を予想されているのですか?
そうなんですか……。

残念ながら「バナナフィッシュ」は読んでなくて、Mさんの想像が正確には掴めないのですけど、
> 『夢のような人と夢のような時間を共有した、でもそれは夢ではなく確かに彼は存在していて、その薄れゆく確かな記憶と消えることの無い悲しみと共に僕達は今を生きている』

こ、これは~~! 悲しすぎる~!!
確かに薪さんは夢のような人ですし、死んだらその存在は永遠になるって気持ちも分かりますけど~、その展開はないと思いますよ。
鈴木さんの死から始まったこの物語が薪さんの死で終わったら、「死が受け継がれる物語」になってしまうでしょう? 秘密はそういう話ではないと、あ、いや、青木さんが残るからいいのか、いやダメ、死で始まって死で終わるなんて無常すぎる話、少女マンガで許されるはずが、え、「バナナフィッシュ」もアッシュのお兄さんの死で始まってアッシュの死で終わるの?

……………… ←怖い考えになってしまった。

でも大丈夫! 薪さんは死なないですよ!
4月号で、「まだしばらくそちらへは行けない」と生きることを決めた薪さんが、次の回で死んでしまうのは悲劇を通り越して間抜けだと思います。(暴言)  青木さんの告白(?)も意味がなくなってしまうし。
何よりも、薪さんの屍を超えて新生第九がスタート、というのは、
それ、わたしが最初に立てて没ったプロットだから! 原作でやるわけない! ←どんな理屈だ!



> 今回の滝沢サンにも期待しています!!

ありがとうございますー、ででででもー、あんまり期待しないでくださいー、裏切りそうで怖いー。(^^;

萌えポイントは、
あ、やっぱりズレてますか?(・∀・)

> 苦しむ薪さんも良いのですが、そんな薪さんを取り巻く人間が彼を巡って必死になっている様に萌えるのであります!!

みんなに愛される薪さんに萌える、ってことですね。
原作の薪さんも、みんなに愛されてますよね。(^^) 
薪さんが姿を消したときのトイレ会議、うれしくなっちゃいましたよね。 だーれも薪さんを疑わないんだもん。 「憤懣やるかたない」と零した山本さんも、薪さんのこと超好き、ってハッキリ伝わってきましたものね。


> なので、どうぞ滝沢さん、薪さんを死なない程度にいたぶってください。
> そして、第九の方々、存分に滝沢さんに絡んでください。萌えセリフ満載で。
> え~~~、萌えセリフ満載でぇ!!! ・・・お願いします・・・。

そ、それが~、今回は滝沢さんが薪さんを苛める話じゃなくて、どっちかというと薪さんが攻めで滝沢さんが受け的な配役と言うか……。
ほら、この話は「破壊のワルツ」の続編だから。 前作が滝沢さんのターンだとしたら、今回は薪さんのターンなんですよ。
第九メンズは、もっと絡ませたかったんですけど~、やっぱり数人は蚊帳の外になっちゃいました。 秘密裏に事を運ぶ場合、事情を知らない人がいた方がバレにくいんですよね。 原作もそうだったでしょう? 
萌えセリフは~、ごめんなさい、ありません。 だって、うちの第九でヘンタイって青木さんだけだもんっ。(笑)



> それから、小野田さん

小野田さんは、相棒の小野田さんなので、岸部一徳さんのイメージで……あ、Mさま、怖いお顔。
うちの小野田さんは痩せ形なので、あれを(天下の官房長をアレ呼ばわり) もっとスラッとさせて、身長は薪さんより少し高くて170くらい、オールバックの髪は白髪が目立ち始めてて、ロマンスグレーと言えなくもないけど、美形ではないです。 
基本的にうちって、美形が少ないんですよ~。 薪さんの美しさが際立つように、周りのひとはみんな引き立て役なので。
でもほら、小説は漫画と違って読む人の想像に任せるものだから! Mさまのお好みの俳優さんを当てはめていただけたら、と思います。


レスも長くなっちゃいました~。(^^;
コメント、ありがとうございました。
引き続き、気長にお付き合いください。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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