破滅のロンド(5)

 こんにちはっ。
 すっかり春ですね~。 
 大好きな季節です。 お花もきれいだし、緑がやわらかくて、ほっこりします。 何より、
 仕事がヒマだから怠け放題。 ←そこか。

 さてさて、滝沢さんリターンズのこの話、覚悟していた 「薪さんにヒドイことしないで」 というお声が聞こえてこなくて、ホッとしてます。
 いつもやさしく見逃してくださってありがとうございます。
 本当は心配で 「やーめーてー」 と言いたいのを我慢されてる方も、決して泣くような話じゃないので、どうか気を楽にしてくださいね。 でもって、最後まで読んでくださるとうれしいです。 この話がないと、薪さん負け犬のままだし、滝沢さんも可哀想なままだから。


 ではでは、お話のつづきです。




  


破滅のロンド(5)






 翌日。岡部と同い年の新人の来訪は、第九に波紋を起こした。
 朝礼の際、室長の隣に立った新人は、その風貌だけで職員たちをざわめかせ、次いでその雰囲気で言葉を失わせた。静寂を見定めて、薪が「おはよう」と朝礼開始の挨拶をする。

「今日から一緒に働くことになった、滝沢幹生警視だ。6年ほどブランクはあるが、元々2課の生え抜きだった男だ。MRI捜査にも精通している。6年の間に更新されたシステムの操作法さえ習得すれば、即戦力になれる実力を持っている。しっかり指導してやってくれ」
「滝沢です。先輩方、よろしくご指導願います」
 職員たちの心に広がった波紋は、薪が新人の肩を持つような紹介の仕方をしたことも理由の一つだったが、一番の原因はやはり本人にあった。
 鋭い目つきと大柄な体躯。尊大な雰囲気と上から目線の態度は、新人と言うにはあまりに威圧的で、人の好い曽我などは思わず敬語で挨拶を返してしまったくらいだ。

 こちらが先輩なのだから気を使う必要はない、と岡部が経験年数を盾に曽我の立場を守ろうとすると、滝沢は、
「岡部副室長のおっしゃる通りです。年は行ってますし、MRI捜査の経験もありますが、普通の新人として扱ってください」
 と、慇懃無礼に返してきた。言葉と雰囲気が全く合っていないのは、わざとか無意識か。悩むところだが、彼が長い間入院していたことを考慮すると、コミュニケーションは不得手だろうと察せられた。
 薪は朝礼が終わると直ぐに室長室へ引っ込んでしまったし、フォローするのは事情を知っている者の役目だ。岡部は、細い眼に不満を浮かべた小池の肩を叩き、
「ここでは新人だが、滝沢は現場経験が長い分、捜査官としてはおまえらよりも上だ。階級もな。敬語の必要はないが、学べるところは学ばせてもらえよ」

 滝沢の実力を勘案して、指導員は宇野に担当させることにした。本来なら新人の指導は青木の仕事なのだが、いかんせん若すぎる。自分より一回り以上年下の職員に教えを乞うのは、滝沢のプライドにも障ると思われた。
 指導と言っても、滝沢は既にMRI捜査の基本は押さえている。必要なのは、この6年の間に新しくなったシステムの使い方、つまり操作方法の説明だ。システムに一番詳しいのは宇野で、様々なショートカットを効率的に使いこなせるのも彼だ。そんな理由から、宇野に白羽の矢が立ったのだ。

「よろしく。言っときますけど、俺、二回同じこと教えませんから」
「はい。心して聞きます」
「青木に当たれば優しく丁寧に教えてもらえたと思うけど。残念ながら、俺はやさしい人間じゃないんで」
 好戦的な会話が耳に入って来て、岡部は焦る。これは選択を誤ったか。
 宇野は意外と気分屋だ。人の好き嫌いもはっきりしているし、IT人間ならではの合理的精神で多少言いにくいこともズケズケ言う。しかし、曽我では滝沢の雰囲気に呑まれてしまうだろうし、小池では絶対に喧嘩になる。今井なら適当にあしらうと思われたが、指導内容がシステムのことに限られるなら、捜査の中心たる今井を取られるのは避けたかったのだ。

「どのくらい使えるか見たいから。とりあえずこのテストデータ、ラーニングしてみてください」
 CDを渡してあっさり言うが、6年前とはシステム起動の方法も変わっているのだ。いきなりは無理だろう、とまたもやフォローの必要性を感じて岡部が二人のところへ足を向けると、盆に載せたコーヒーの馨しい香りと共に、宇野曰く「やさしい男」がやって来た。
「すみません、滝沢さん。明日から、ご自分のカップを持ってきてもらえますか?」
 二人の机にコーヒーを置きながら、にこやかに話しかける。何人新人が入って来ても、一番年若い捜査官として雑事をこなしている青木は、業務開始前にこうして全員にコーヒーを配って歩く。強制されているわけではないが、日課のようなものだ。皆もそれに慣れてしまって、彼が出張の日など、青木のコーヒーを飲まないと一日が始まらない、と嘆く職員もいる。

「カップ、ですか」
 太い首を訝しげに捻り、滝沢は低い声で訊いた。ニコリともしない新人に向かって、青木はあくまで友好的に、
「ええ。今日はお客さん用のカップに淹れましたから。はい、どうぞ」
「普通は紙コップを使うのでは?」
「そうしてる部署もありますね。でも、カップの方がエコだし、コーヒーの味が引き立ちますから」
「しかし、瀬戸物のカップを使ったら、いちいち洗わなければいけない」
「流しに置いといてください。オレが後でまとめて洗いますから」
 にこっと笑いかけられて、滝沢が黙った。人を和ませる青木の笑顔は、彼の最大の武器だ。あの顔に向かって正面から毒づけるのは、薪くらいのものだ。

「そうだ、宇野さん。渋谷の放火事件で見て欲しい画があって。ちょっと機械借りていいですか?」
 宇野の返事を待たず、青木はシステムを起動させた。と、宇野がセットしたテストCDが自動的にセットアップされ、選択の画面が現れる。
「あれ、何か入ってました? すみません、邪魔しちゃいましたね。オレのは後でいいです」
 焦った振りのクサイ演技を織り交ぜて、青木は身を引いた。選択画面まで行けば、取っ掛かりができる。青木らしいフォローだ。
 余計なことを、と宇野は眉根を寄せたが、宇野は青木を気に入っている。肩を竦めてコーヒーカップを持ち上げ、「今日も美味いな」と青木の特技を褒めた。

「呑気にカップを洗える職員がいるとは。今の第九はよっぽど暇なんだな」
 ぼそりと、だがしっかりと相手に聞こえるように洩らした滝沢の言葉に、青木は苦笑し、会釈でその場を去った。真っ直ぐ室長室へ向かって行く。薪のカップを最後にしたのは、昨夜受けたドタキャンの理由でも説明してもらう気でいるのか。
 その背中を、滝沢はずっと目で追っていた。
 青木の気遣いを彼はちゃんと分かって、しかし素直になれなかったのかもしれない。精神を病んだ経験がある人間は、人の好意に甘えることが怖いのかもしれない。岡部は滝沢の心中を慮り、彼を皆に溶け込ませるためには肌理細やかなフォローが必要になると考えて、少しだけ憂鬱になった。面倒だが、職員同士の調和を図ることは副室長の仕事だ。

 青木が室長室に入った後も、滝沢はじっとドアを見つめていた。まるで中で起きていることを見透かすように、彼はとても鋭い眼をしていた。
「滝沢サンもどうぞ。青木のコーヒーは絶品ですよ」
 しばし無言でいた滝沢に宇野はコーヒーを勧め、すると滝沢は思い出したようにコーヒーカップを口に運び、馨しい液体を啜った。
「ね。美味いでしょ」
「さあ。わかりませんね」
 無感動で平坦な声だった。コーヒー好きにはたまらない味と香りも、好みが違えばさほど感じ入ることもない。まるで水でも飲むように滝沢は残りのコーヒーを飲み干し、空になったカップを給湯室へ持って行った。戻ると直ちに画面に向かい、マウスをクリックして一つのデータを選択した。

「オーケー。じゃあ次、ここ、拡大してみてください」
「はい」
「へえ、やり方覚えてるんだ。滝沢サン、記憶力良いですね。でも今は、ワンクリックで出来るようになって、こう」
「素晴らしい。便利になりましたね。MRIシステムも進化しているんですね」
「まあね。じゃあ、今度はこの画像をこちらへ移動してみて」
 スムーズに指導が行われていくのを見て、岡部は胸を撫で下ろした。
 青木のやつ、なかなかやる。職場の融和と勤労意欲を増進させる雰囲気作り。あいつには副室長の素質がある、と岡部は青木を評価し、しかし同時に彼は、青木の行動はただ一人の人物のためのものであることを知っている。職場の人間関係が悪くなれば、職務に影響が出る。そうなったら困るのは室長の薪だ。青木の行動規範は、薪のためになるかならないか、だ。
 青木の副室長としての才覚は、薪が室長でないと発揮されないかもしれない。それも、二人の関係が友好的であるという条件付きで。何とも限定されたアビリティだが、今のところ、岡部はずい分助けられている。

 青木は室長室に入ったまま、まだ出て来ない。職務中にプライベートの話を長々とする薪ではないが、昨夜のフォローをしているのだろう。薪が一言謝れば、青木がそれを快く許すであろうことは眼に見えている。とにかく、青木は薪に心底参っている。それは薪だって。
 青木のコーヒーを一番楽しみにしている人物が、愛用のマグカップを手に眼を細めている姿を思い浮かべて、岡部は穏やかな気持ちで朝礼の記録簿を閉じた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Cさまへ

Cさま、こんにちは~。


> 青木が室長室に入って中々でてこない、、、
>
> この情報で不穏な空気を察したのは私だけではないはず、、。

やーん、「8割方めちゃめちゃに覆される」 なんてそんな~、
どうしてわかっちゃうの~。(笑)
さすがCさま、優秀な学習機能をお持ちで☆

でも、この話は色恋は絡まないので、薪さんや青木さんが恋愛で泣くことはないです。 ご安心ください。 生死は絡みますけど。 ←安心できるか。
あ、今、面白いこと考えた。 今回のお話、
「二人の生死は絡みますけど精子は絡みません」

なんてレスを返してるんでしょう、わたし。 春ですね~。

Aさまへ

Aさま、こんにちは。


> 昨夜は何事もなく別れたのね。薪さん、普通だし・・きっと!(自分を納得させる)

大丈夫ですってばー。 
うちの設定では、薪さんも滝沢さんもノーマルなんですよ~。 だからこの二人、一晩中一緒にいても何も起きません。 お互い相手が大嫌いなので、殺し合い始まっちゃうかもしれませんけど。


> 滝沢のマイカップはやはり、真っ黒かしら!?
> 岡部さんのカップにクマの絵がついてるのが浮かんだ(笑)

こういう小物も、それぞれのイメージで想像すると楽しいですよね。
今井さんはオシャレなブランドもの使ってそうな気がするし、宇野さんは幾何学模様のモノトーンとか。 そして岡部さんは、雛子さんの趣味全開のクマちゃんカップを持たされてしまうのですね☆


> 室長室の中の様子が岡部さんの思うとおりならいいけどなあ・・(^^;)

やーん、Aさままでー! 
不穏な展開を読み切ってますね~。
みんな、どうして解っちゃうんでしょう。 エスパー?

冗談はともかく、今回はどろどろした話にはならないので、どうかご安心を。
ハラハラドキドキを楽しんでいただきたいです。(^^

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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