破滅のロンド(6)

 こんにちは。 

 今ね、わたしの大好きな人が新しい環境でがんばってるの。 遠いところにいるから彼女の健闘を祈ることしかできなくて、それがとっても歯痒い。
 自分では手の出せないことをあれこれ心配して、不安になって、そうすることに意味はない(直接彼女の役には立たない)と分かっているのに考えてしまうの。
 合理的でもない、建設的でもない愚かな思考、でも、
 こんなに他人のことを大事に思えるの、幸せなことだよね?
 今までも彼女はわたしにたくさんの幸せを与えてくれたけど、こうして彼女からのアクションが無いときでも、ちゃんと幸せは感じられる。 人を好きになるのって、本当に素敵なこと。
 今度はそういう話を書きたいなあ。


 あ、すみません。
 お話の続きはCさまとAさまの予想通り、めちゃくちゃひっくり返ってます☆
 どうか広いお心で~。





破滅のロンド(6)






 室長室で青木は、手に盆を下げたまましばらく立ち尽くしていた。
 約束を反故にされた件について、当然薪の方から詳しい説明があるものと思っていたのに、薪は何も言おうとしなかった。薪はとても潔い性格をしているから、事情を説明することは言い訳になると考えているのかもしれない。だから自分からは言い出しにくいのかもしれない、と青木は彼の立場を思いやり、譲歩する意味合いで尋ねた。
「昨日は、どんな用事だったんですか?」
「夕方、滝沢が此処に来て。飲みに行こうって誘われたから」
「それだけですか?」

 少々、咎めるような口調になってしまったかもしれない。それも無理からぬことだった。
 ものすごく素っ気ない断り方をされたから、急な仕事でも入ったのかと思い、姉にはそう説明した。もしも緊急の事件だったらと気になって折り返したが、薪は電話に出なかった。姉と別れてから何度も電話をしたのに、薪は一度も応えてくれなかった。幾度となく意図的に切られた携帯電話を見つめて、青木は眠れぬ夜を過ごしたのだ。

「オレ、昨夜何度も電話したんですけど」
「朝まで滝沢と一緒だったから。出られなかったんだ」
「朝まで?」
「久しぶりにロックなんか飲んだら足に来ちゃって。滝沢の部屋に泊めてもらったんだ」
 薪はそれを何でもないことのように告げたが、受け取る青木の方は到底平静ではいられなかった。滝沢は薪の昔の部下だと聞いているが、再会したその晩に部屋に泊まるほど仲が良かったのだろうか。
 薪が、朝のコーヒーを飲もうとしないのも気になっていた。薪はコーヒーが大好きで、だから青木は懸命に努力してドリップ技術を磨いたのだ。いつもなら飛びつくはずの室長専用ブレンドの香りにも、今日の薪は無関心だった。

「カンチガイするなよ? 別に何もないぞ」
 そこまで気を回したつもりはなかったが、恋愛の機微には鈍い薪がフォローを入れてくれたところを見ると、泣きそうな顔になっていたのかもしれない。
「安心しろ。世の中おまえみたいなヘンタイばかりじゃないから」
 薪さん、フォローになってません、と心の中で突っ込むが、これがこの人の気の使い方なのだ。このトゲの付いた鞭のようなフォローを有難く受け取れてこそ一人前だ。

「あの……姉は、薪さんに会えるの、とっても楽しみにしてたんです。オレ、姉には薪さんのこと、けっこう話してて。日本一の捜査官だからって、だから姉も薪さんのファンみたいになってて」
「青木。僕たち、距離を置こう」
 青木の言葉を遮るように、薪は唐突に宣言した。
「しばらくの間、プライベートでは会わない。職場でも仕事の話だけにしてくれ」
「何故ですか」
 反射的に飛び出した青木の問いに、薪は答えなかった。昨夜の電話と同じように、意図的に青木の気持ちを黙殺し、
「これは命令だ」
 冷たい声だった。まだ薪が遠い存在だったころ、彼の人となりを知らなかった頃の青木の耳に親しんだそれは、戦慄する過去からの呼び声のようだった。

「長居は無用だ。さっさと仕事に戻れ、青木警視」
 薪が階級を付けて部下を呼ぶときは、理性が吹き飛ぶほど怒っているか、命令に背くことは絶対に許さない、という強い意志が込められているかのどちらかだ。今回は、後者だ。
 青木は黙礼し、室長室を辞した。

 いったい、何があったのだろう。薪の気紛れには慣れているが、ここまで何の前触れもなく、直接的な言葉で遠ざけられたのは初めてだ。
 夕食を断った理由も、到底納得できるものではなかった。もしかしたらヤキモチだろうか。せっかくの週末だったのに、青木が姉を優先して、彼をほったらかしにしたから拗ねたのだろうか。だから自分も旧友を優先したと、そういうことか? しかし一昨日、「日曜の夜に姉と3人で食事を」と誘った時に彼は、「それは楽しみだ」と快諾してくれたのだ。多少緊張した声ではあったが、それが原因とはとても思えない。あるいは、自分の姉に会わせようなんて、結婚が決まった男女の段取りみたいなことをさせようとしたのがまずかったか。青木に深い考えはなかったが、薪にとっては重荷だったのかも。

 思わずドアの前で考え込んでしまった青木は、ふと、自分に向けられた視線に気付いた。
 興味、好奇心、それから、向けられる覚えのない敵意。じっとりと湿気を含んだ悪意に、ぞっと背筋が寒くなる。

 ハッとして顔を上げると、そこにはいつもの職場風景が広がっていて、自分を見ている者は誰もいなかった。ごく近い距離からの目線のように感じたのに、気のせいだったのだろうか。
 二日間、姉に引っ張り回されて疲れているのかと思った。まったく、我が姉ながらちゃっかりしている。舞が生まれてから初めての独り身だ、弟と時間は有効に使わなきゃ、と身勝手な理屈で土曜は夜中まで、翌日は朝の6時から東京中連れ回された。解放されたのは日曜の夜の9時過ぎだった。
 今週はしんどい週になりそうだ、と青木は思い、薪の笑顔が見られれば疲れなんか吹っ飛ぶのに、こんな時こそ癒して欲しいのに、と無い物ねだりの子供のように、つれない恋人のきれいな横顔を恨めしく思い出した。


テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんばんは。

そうですね、薪さんが青木さんを遠ざけようとする、この状況は「ラブレター」と似てますね。
Aさまのご推察どおり、
> 薪さんは滝沢から青木を守ろうと素っ気なくしてる
のですけど、
「ラブレター」の頃とは違って、この話は2065年の10月なので、付き合い始めて4年目、『スキャンダル』の少し後の頃なので、二人の仲も完全ではありませんがかなり完成形に近くなってます。 青木さんはちょっと泣くかもしれませんが、薪さんは泣きませんので。 安心してくださって大丈夫です。


> 本当に和歌子さんは薪さんに会ったら原作でもファンになってたと思うなあ・・(;;)

生きてて欲しかったですねえ……。
個人的な見解ですけど、あの事件があったから、青木さんは薪さんの心の闇を真の意味で理解して、そんな青木さんの言葉だから薪さんは思い留まることができたのだと思います。 だからあの事件は物語上必要だったと解っているのですけど、単純に、いい人が亡くなるのは悲しいですよね。

Sさまへ

Sさま、こんにちは。
コメントありがとうございます。


滝沢さんの話は胸が痛い、ですよね~。
滝沢さん、4月号でお亡くなりになっちゃいましたものね。 わたしも、彼が生きているうちでないと書けないと思って、2月号の段階で急いで仕上げました。 読み直すと、滝沢さん死んじゃったんだよなあ、と寂しくなります。


>青木くんありがとうと言える日が来るのでしょうか…

……えっ。
言われてみれば、そういうシーン、書いてないです。 薪さんの行動は青木さんや第九の皆を守るためだったと分かるときは来ますが、それに対してお礼は言ってない…… こ、心の中では感謝してますから!
ていうか、
薪さんにお礼を言うべきなのは原作の青木さんだと思うんですよ!
あの人、薪さんを叩いて詫びも入れてないじゃないですか。 まずは謝れ、次に礼を言え。 そして愛してますって言うんだ! ←飛躍し過ぎ。


その後、お身体の具合はいかがですか?
このところ寒暖の差が激しいですよね。 Sさまこそ、ご自愛なさってくださいね。 って、このコメントの時間 v-12
ちゃんとお休みになってくださいねっ。


ありがとうございました。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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