破滅のロンド(14)

 お話はここから中盤です。(長い……)
 本当はメロディ発売前に終わらせたかったんですけど、ちょっと無理っぽい、てか、絶対ムリ。 やっとこさ半分だもん。(^^;
 最終回の後に公開の気力が残ってるといいな、と不吉なことを考えつつ~、
 お話の続きです。 よろしくお願いします。




破滅のロンド(14)






 尊大な新人が第九に入って、3週間が過ぎた頃。第九に新たな爆弾がやって来た。

「監察官主査の服部です。こちらは副査の米山。これから1週間、みなさんには監査に協力していただきます」
 監査課の人間らしくきっちりと撫で付けた黒髪に銀縁眼鏡を掛けた服部は、見るからに神経質そうな男だった。中肉中背でやや猫背気味、額は狭く、垂れ気味の眉は細い。もう一人の監察官、米山はシニア職員らしく、頭頂部が禿げ上がった小柄な老人だった。陰気で気弱そうな眼をして、黒い額縁眼鏡を掛けていた。
 薪のらしからぬ振舞いに、諦めという手段を用いて職員たちがようやく慣れてきた、ちょうどその頃合を見計らったかのようなタイミングだった。岡部は監察官に敬礼しながら、次の休みには神社に厄落としに行こうと心に決めた。

 監査とは、職員たちに不正がないか、職務が規則を逸脱せずに行われているか、公費の無駄遣いがないか、など、正しく職務が遂行されているかどうかを調べるものだ。監察官は帳簿や議事録を精査するため、1週間ほど対象部署に滞在する。捜査一課にいた頃、岡部も監査を受けたことがあるが、実に仕事がしづらかったのを覚えている。間違ったことはしていなくても、自分が為した仕事の正否を判断する人間にいつも見られているというのは、何となくソワソワするものだ。

 第九に監査が入るのは初めてだった。
 それは捜査の特殊性に因るものと思われた。人間の脳を見るという、人権擁護団体の槍玉に挙げられる捜査法。情報漏洩には最大限の注意を払う、そのため、MRIシステムが作動している間は防犯カメラも動かないし、他部署の人間は基本的に出入り禁止になっている。
「監査課としても、第九の特殊性は心得ています。よって我々は、捜査を行っている間は執務室には入りません。別室で、職員の皆さんから個別の聴取と、帳簿、記録簿等を見せていただきます」
 おそらく、その条件で薪が監査を受け入れたのだろう。監察官もたった2人、それも一人はシニア職員だ。普通よりもかなり緩い監査体制に岡部は、もしかしたらこれは形だけのものかもしれないと考える。
 監査を受けるのは誰だって苦痛だ。忙しく職務をこなしながら、監察官の命じる書類を揃え、聴取に応じ、大抵は何かしらの注意を受ける。ところが、第九は職務の特質性から監査を逃れている。不公平だ、と他部署から非難の声が上がるのは必至だ。それを抑えるため、簡易的監査で実績を作るつもりなのかもしれない。

「では、早速監査に入ります。最初に鍵類の保管状況を確認しますので、室長の立会をお願いします。次に皆さんの机の中も確認しますので、それまでは机に触れないように」
 金庫室や捜査書類を収納するキャビネットの鍵類は差し込み式のキーボックスに収納されており、室長または副室長のIDがないと取り出せないようになっている。職員達の机の鍵も毎日職務終了時に金庫室の中にしまわれ、個人が持ち帰ったりすることは許されない。

 2人の監察官と室長が金庫室へ入ると、職員たちは目に見えてうろたえ始めた。どうしよう、あれが見つかったら、などと小声で囁き合っているところから、保管場所は鍵の掛かるキャビネットと定められた捜査資料等を、自己の机に放置していたらしい。本当はいけないことだが、翌日もまた同じ資料を使う時にはついやってしまいがちなショートカットだ。こういうのは見つかる前に申告してしまうに限る。監察官も鬼ではない。隠し立てせずに正直に謝れば、減点せずに勧告だけで済ませてくれることも多い。
「おまえら。机の中にヤバイもんがあるなら、今のうちに俺に言え。こっちから報告したほうが、減点が少なくて済む」
 自分たちのミスを話しやすいよう副室長が穏やかに告げると、部下たちはわらわらと岡部の周りに集まり、
「昨日俺、机の中にゲーム機忘れて行っちゃったんですよ!」
「黒木メ○サの写真集が!」
「ガ○ダムのプラモが!」
「「「監察官に没収されちゃうんですか!?」」」
「…………おまえら、中学生か」

 ひときわ青い顔をしていたのは、一番年若い後輩だ。岡部を部屋の隅まで引き摺っていくと、誰にも聞こえないよう耳に口を寄せて、
「どうしましょう、岡部さん。オレ、あれがないと仕事にならなくて、だからつい」
 深刻そうに話すが、どうせ青木の「ヤバイもの」は食べ物だ。身体が大きい分食欲も旺盛な彼は、休み時間に栄養補給をしないと夜まで腹が持たないのだ。嫌味くらいは言われるかもしれないが、掠り傷ほどの失点にもならないはず。
「デートの時に撮った薪さんの超ビューティフルな写真が」
 致命傷だ。
「おまえ、そういうものを職場の机に、……あっ」
 言いかけて岡部は、自分の机の中のバクダンを思い出す。見る見る青くなる岡部の耳に、金庫室の確認を済ませた監察官が職員たちの机の施錠を解除する音が聞こえてきた。

「薪室長。これは」
 次々と出てくる玩具や雑誌を見て、薪の額に青筋が立った。中学生の持ち物検査ではあるまいし、いい恥さらしだ。
「申し訳ありません。私の指導不足で」
「まあ、息抜きも必要です。良しとしましょう」
 話の分かる監察官でよかった。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、3人の傍らを通りざま、薪が低い声で「没収」と呟いた。さめざめと泣き始める3人を哀れと思うが、岡部と青木は自分のことで手一杯だ。

「おや、これは」
「!! こ、これは宴会の余興でっ!」
 青木の机を開けた服部主査が、中の写真を手に取って感心したように眺めた。遠目に見えた、それは薪の女装姿だった。デートのときに撮ったとか言ってたけど、この二人、何をやってんだか。
 薪は必死で言い訳したが、主査は少し厳しい口調になって、
「研究室の宴席にコンパニオンを? それは公費の無駄遣いではないですか」
 監察官の眼をも欺くとは、さすが薪。服部の眼が節穴なのではなく、薪の女装が完璧過ぎるのだ。よほど彼に近しい者でなければ、目の前にいるスーツ姿のきりりとした男と、妖艶に微笑む写真の美女が同一人物だとは気付くまい。
「あ、いや、あの……こ、これは友人でして。謝礼等は払っていません」
「ふむ。まあ、今回は注意に留めておきましょう」
 はああ、と安堵の溜息を洩らす青木の傍らを通り過ぎた薪が、小声で「焼却」と囁いた。そんな、と情けない顔になった青木に同情している余裕は岡部にはない。次は自分の番なのだ。

「おや、こちらの机にも写真が」
 問題の写真は、引き出しを開けて直ぐに目に付く所に置いてある。見逃しようが無かった。主査に随行している薪も、それは同様だ。
「この机は誰の?」
「岡部警視です。副室長を務めています」
「さすが副室長ですな。モチベーションの上げ方を知っている。恋人の写真を見て意欲を増進させるというのは、実に有効な方法です」

 余計なことを言わないでくれ! と心の中で叫んでも、現実には何の効力も無い。岡部が一旦吸った息を吐き出さない間に、彼の周囲にはドッと部下たちが詰め寄り、
「「「恋人の写真!? 岡部さん、見せてくださいよ!!」」」
「ち、違う! 恋人じゃない!!」
「「「またまた、照れちゃって! どんな女性なんですか? どこで知り合って?」」」
 監査中だということも忘れて、タブロイド記者のように質問を浴びせる部下たちに聞こえるように、薪がフォローを入れた。

「服部主査、ひとつ訂正を。岡部警視のそれは、恋人ではなく母親です」
「「「なーんだ」」」
 母親と聞いて途端に興味を失くし、それぞれの机に戻っていく部下たちの背中に、岡部が心底助かったと室長に感謝したのも一瞬のこと。すれ違いざま薪に、
「雛子さんが服を着ている写真でよかったな?」

…………監査なんか大っきらいだっ!!




*****


 一応注記しますが、
 監査課による定例監査は創作上の作り話ですから信じないでくださいねっ。
 実際は内部告発でもない限り、監査課は動かないと思います。 警視庁は都警察ですから東京都の定例監査(会計検査)は受けますが、監査課が調べるのは基本的に問題を起こした職員とその事実関係ですから、業務内容そのものを確認をすることはまずないでしょうね~。
 でもほら、あったらあったで面白いでショ?<おい。
 
 何処の会社にも社内検査制度はあるんだし、科警研にあってもヘンじゃないと思うな~。 検査って気分的に嫌なもんだし、第九に検査が入ったらみんなどんな反応するかな~。
 竣工検査で検査官にイジメられながら、しづがこんな妄想をしていたのは、監督員にはナイショです☆

テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

Rさま、こんにちは。

近付いてまいりましたね~!
あと5日ですよ!!

GWはお仕事なのですか?
Rさまが、気持ちよくお仕事ができる内容であることを祈ります。
わたしもせっかくのGW、しかも1日が人間ドックなんですよ。 健診結果に悪影響が出るんじゃないかとマジで心配です☆


> 監査は本当にいやですよね。

Rさまも経験がありますか?
昔、銀行に勤めてた時は年に1回行内検査がありまして。
これがすっごくイヤでした~。(^^;
この時ばかりは1日15時間労働になりましたからね。(・∀・)/  朝の7時から夜の10時まで、もう夢中で書類の見直しをしてました。 緊張で食事も喉を通らないし。


> 薪さんのビューティフルな写真ほしいです。

わたしも欲しいです。
欲しくない薪さんファンはいませんよねっ。
羨ましいぞ、青木くん!

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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