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告(5)

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 自宅の寝室で、薪は親友の写真と再び向かい合っていた。
 どこか公園のようなところで撮ったバストショット。頭上の木の枝に手を伸ばし、若い男性がこちらに微笑みかけている。背景は、青い空。
 彼の写真は、数え切れないほど持っている。一冊のアルバムがまるまる彼の写真で埋められているくらいだ。その中でもこの一枚は秀逸で、彼のあたたかい人柄が伝わってくるようだった。

「お祝いだから、シャンパンか何かのほうが良かったか?」
 ベッドの枕元に大判の写真立て。その中から、亡き親友が笑いかけている。
 写真に向かってベッドの上に胡坐をかき、ぐい飲みの冷酒を飲む。薪はその日本人離れした外見にそぐわず、食事も酒も日本のものが好きだった。
「いいよな。おまえ、焼酎が好きだったもんな」
 写真の傍には、麦焼酎がロックで置いてある。こうしてたまに、薪は鈴木と差し向かいで、しんみりとグラスを傾ける。
「青木かあ。もう少し仕事ができれば安心なんだけどな、雪子さんを任せても。まあ、僕がビシビシしごいて、早く一人前に仕上げてやるよ」
 焼酎のグラスを振って、氷を揺らす。カランと音がして、彼がそこにいるかのようだ。
 気安い口調で薪は喋り続ける。くすくすと笑ったり、え? と聞き返してみたり、他人が見ていたら気狂いのような行動だが、薪の耳にはきっと鈴木の返事が聞こえているのだろう。
「そうだよな。雪子さんも、もう35だもんな。焦ってるよな、きっと。早いとこ結婚したいだろ」
 
 口ではそう言うものの、しかし。
 なんだろう、この気持ちは。
 あの2人のことを考えると……なんだかイライラする。
 これは鈴木の心が、僕に下りてきているのかもしれない――――。

「なんだよ、やきもちか? おまえには僕がいるだろ。僕は一生、おまえだけだ」
 そっと、写真にくちづける。
 久しぶりに飲んだアルコールのせいか、ざわりと欲望が首をもたげる。別に誰が見ているわけでもないのだが、薪は顔を赤らめて目を泳がせた。
 「……鈴木。おまえ少しあっち向いてろ」

 写真立てを伏せて、ベッドに横になる。頭から布団をかぶって、パジャマのズボンの中に右手を滑り込ませた。
 35にもなってひとりエッチもどうかと思うが、これが一番てっとりばやい。女を口説いている暇も、ホテルに連れ込む時間もない。
 そういえば、最後に誰かとセックスしたのっていつだっけ?
 元来、性欲は薄いほうだ。自慰行為もせいぜい月に1回。仕事が忙しくなると3ヶ月くらいしなくても全然平気だ。結局、これはただの排泄作業に過ぎない。
「んっ……」
 扱いて出すだけなら5分もかからない。いつもならそんなものだ。だが、今夜は酔いも手伝って、少し乱れてみたい気分だ。

 親友の貌が、目蓋の裏に浮かぶ。
 鈴木とそういうことをしていたのは、もう10年以上も前のことだ。

 ……あれは僕の、一生に一度の恋だった。

 僕は鈴木が好きで好きでたまらなかったけれど、彼が選んだのは雪子さんだった。
 結局、僕は彼とはただの友だちに戻ることを望んだ。雪子と両想いの鈴木を傍で見ているのは辛かったが、彼を見ることもできない生活はもっと嫌だった。
 目で追うだけでもいい。友人として笑いかけてくれれば、それでいい。
 あの頃はずいぶん泣いた。それでも、鈴木を見ることもできなくなってしまった今より、ずっと幸せだった。

「あっ、あっ……鈴木っ……!」
 あの頃もこうして、何度かれを想いながら自分を慰めただろう。

 右手だけでは物足りず、両手でそこを弄り始める。いつもならこのへんで、ティッシュが必要になる。
 でも……なんだか今夜は。
 鈴木とのことを思い出したせいか、後ろのほうも疼いてきてしまった。自分でそこを慰めるのはかなり恥ずかしい。
 でも。
 ためらうが、やはり欲しい。

 左手の中指を自分の口に含み、唾液で濡らす。赤い舌がまんべんなく細い指をしゃぶり、行為に必要な準備をととのえる。
 そうっと、バックに手を伸ばす。鈴木にしてもらったことを思い出しながら、つぷりと内部に指を入れる。
「ふっ、くっ……!」
 たがが外れたように、淫らに腰が動き始める。からだに纏わりつく、シーツもパジャマも邪魔だ。無意識のうちに脱いでいく。
「あふっ、あ……あっ」
 一糸まとわぬ姿になって快楽に身を任せる。こんな夜は本当に珍しい。

 白い肢体が弓なりにのけぞる。すべらかな頬には朱がのぼり、いつもの冷たい美貌とはかけはなれた艶かしさを醸し出す。追い詰められた小動物のような、気弱な切ない表情。両目を固く閉ざし、昔の情事をなぞって自分を慰める。
 自分のこんな姿は、この世の誰も見たことがない。死なせてしまった親友以外は。
 息をつめて堪える。まだ、終わりたくない。

「いっ、いいっ、あっ」
 いつもは声もほとんど出さない。時間もかけない。服も着たまま、局部だけを露出させて行うか、後始末が楽なように風呂場で済ませる。
「す、ずきっ……!」
 昔の恋人の愛撫を思い出して、バックを犯す指の動きが早くなる。奥の方までまさぐって、引っかくようにしてぎりぎりまで引き出す。激しい抽出が薪の理性を剥ぎ取った。
 「あっ、あああっ!」
 悲鳴のような歓喜の声。まざまざと甦る、自分のからだに施された親友の―――― 恋人の手による愛技。
 それはもう、ぜったいに落とせない。
 ただでさえ身体の奥深い部分に刻まれて、何年も忘れられなかった。それがあの事件で、永久に消せなくなった。薪は、そのすべてを鈴木に囚われた。

 がくがくと痙攣し始める身体に、慌ててティッシュを探る。熱を持ったそこにあてがって包み込み、中に受けとめる。
 やがて静かになった室内に、自分の荒い息だけが聞こえる。
 現場で犯人を追いかけて全力疾走した後のように、全身が激しく脈打っている。優雅な手足を投げ出して、ゆっくりと呼吸を整える。
 ふと涙の跡に気づいて、薪はもう一度ティッシュを取る。伏せておいた写真を手に持ち、親友の笑顔を見つめる。

 ふいに、慟哭がこみ上げてくる。
 それは失くしたものへの愛惜なのか、行為の後の虚しさなのか―――― 写真を掻き抱くようにして、薪は泣いた。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。

きゃ、読んでしまわれたのですね★
恥ずかしいです~(//_//) ←Aサイトのクセにとか言わないで。


Aさまは、薪さんにそういうお友だちがいてもOKなんですね。
>あんな美しい薪さんを誰も愛でる人がいないのがもったいない
なるほど~、そういう考え方もありますよね。
でも、相手は男限定なんですね?(笑)

わたしは、ちょっとそういうのは苦手で・・・・・・
鈴木さんと青木くん以外の男は、薪さんに触れて欲しくないです。
うちの薪さんはノーマル設定なので、女の子とのエッチは大好きなんですけど、わたしが書きたくないので、結果、
10年以上誰ともしてないという枯れ果てたアラフォーに(爆)

カワイソウな薪さん(笑笑)

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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