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破滅のロンド(24)

 おはようございますっ。

 今日は人間ドックなんですよ。 
 5/1の予定だったんですけど、旅行から帰ったら組内のお葬式があって、延期してたのが今日。
 イヤだなあ、胃の検査したくない~、肩に注射するの、痛いしー。 台の上で回るのはいいとして、バリウム飲むのがイヤ。 だってアレ、牛乳みたいな色してるし(しづは牛乳が超苦手)、温くておいしくないし、量が多過ぎていつも全部飲めません(><)
 みなさんはバリウム平気ですか?


 わたしのことはどうでもいいとして、事件の方はやっと決着つきました。
 終章まであと4章、宜しくお付き合いください。
 
 




破滅のロンド(24)






 薪はその報告を、青木から聞いた。西野を連行して行った青木は、その一部始終を見ていたのだ。
「西野は銃を2丁持っていました」
 最初からそのつもりだったのだろう。若い青木なら隙多しと見て、わざと素直に連行される振りをした。
「滝沢さんが助けてくれなかったら、オレも今ごろ……」



***



 西野を警備部に連行するように指示を受けていた青木は、彼の左腕をがっちり掴んだまま、科警研の中庭を歩いていた。西野に手錠を掛けなかったのは、彼に逃げる様子が無かったことと、彼が右手に怪我をしていたからだ。彼の右手に血を流させたのは自分だと思うと、青木はこれ以上の苦痛を彼に与えることができなかった。
 足を引きずるように歩いていた西野は、うう、と呻いてそっと右手の甲を押さえた。そこには青木が巻いてやったハンカチが、滴る程の赤い血を含んでその色を染め変えていた。

「痛みますか。先に、救急の先生に診ていただいた方がいいですか」
 西野は大事な身体だ。彼にはこの後、検察側の証人として羽生の有罪を確定させる証言をしてもらわなければならない。羽生の下で数々の悪事に手を染めてきたと思われる西野の証言は、とても重要だ。
「やさしいねえ、青木くんは。ありがとう。でも、それより先に行かなきゃいけないところがあるんだ」
「え? あ、ちょっとすみません」
 ポケットに入れておいた受信機が音を立て、青木の注意はそちらに向けられた。この受信機は、薪の救難信号を受信するためのものだ。しかし、いま薪には滝沢がついているはず。誤作動の可能性が高いが、念のため確認しておきたい。

「すみません、薪さんに電話を、――っ!」
 いきなり腹を固いもので殴られて、青木はその場に膝をついた。込み上げてきた胃液にえづいていると、頭に銃口が付きつけられた。どうやら青木を殴ったのは、この銃尻らしい。
「服部、いえ、西野さん!」
 西野の中ではすべてが終わった、と青木は思っていた。まさか彼が、こんな行動に出るとは予想していなかった。
「これ以上、罪を重ねないでください。あなたは羽生氏に唆されただけなんでしょう? 罪を償って、これからの人生を、ひっ!!」
 耳元で銃声が轟き、青木の脳はその音量に痺れた。射撃訓練の時は、必ず耳にガードを付ける。実戦ではそれもないのだ、と本物と模擬の違いを改めて教えられ、青木は固まった。
 怖い。怖くて動けない。

「勝手におれの人生を語るなよ。唆されてなんかいない、おれはおれの意志でここに立ってるんだ」
 西野の言うことは、青木には信じられなかった。親にもらった顔を変え、友を裏切り仲間を殺し、自分の存在を殺してまで、闇で汚れ仕事を続ける人生を? 自ら望んで?
「どうして」
「世の中にはな、おれみたいな仕事をする人間が必要なんだよ」
 青木の疑問に西野は平然と答え、両手で銃を握り直した。
「羽生先生は、おまえらみたいな腐った警察官僚を撲滅するために尽力なさってるんだ。おまえら第九の人間は室長ともども官房長の小野田に傾倒しているみたいだけどな、知ってるのか? あいつが官房長になるために、これまで何をやってきたのか。そのために代議士の娘と結婚して、警察と議会に利権と金を通すぶっ太いパイプを作っちまったんだぞ。第九は謂わば、その象徴だ」

 憎々しげに歪んだ西野の眼には、一片の迷いもなく。怒りで濁ることも後悔で淀むこともない、それはいっそ清冽なまでの輝きだった。こんな瞳をどこかで見たことがあると、それは青木にとってとても好ましい輝きだったことを、青木は疼くような感情と共に思い出す。
 事件解決に向けて形振り構わず少々の反則には目をつぶる、人命を守るためには手段を選ばない。青木の尊敬する上司が捜査に挑むとき、いつもこんな眼をしている。
 彼もまた、自分の信念に従って生きている。

「小野田は警察を腐敗させている。あいつには天誅が下るべきだ。それに付き従うおまえたちにもな」
 青木はようやく、自分の勘違いに気付いた。羽生と言う男と西野は、雇用者と非雇用者の関係ではなく、同志だったのだ。利用されただけの滝沢とは立場がちがう。彼を危うくする証言など、するはずがなかったのだ。
「おれはこれから小野田を殺しに行く。その前に中園だ、あいつが小野田を肥え太らせた張本人だからな。いや、その前に」
 冷酷な声と共に、銃口が青木の頭にあてがわれた。
「おまえだな」
 青木はぎゅっと眼をつむった。自分はここで死ぬのだ。

 最後に薪のことを思い出そうとして、それが為せないことに驚いた。死ぬ直前には絶対に薪剛オンリー総天然色肌色多めの走馬灯が回るものだと思っていたのに。いざとなると頭の中は真っ白になって、薪のマの字も浮かんでこない。人間の生に執着する本能は思いのほか大きくて青木は、「あなたのためなら死んでもいい」などと口にすることはできても、現実にはそう簡単にできることではないのだと思い知った。

 つうっと頬を流れる冷たい汗が顎から芝の上に滴り落ちた時、青木は二度目の銃声を聞いた。
 続いて、どさっという物音。自分の体が倒れた音かと思ったが違った。青木は地面に正座したままだった。恐怖でカチカチと音を立てる口元から、ハッハッ、と短い呼吸がこぼれている。自分はまだ、生きている。

「寝てるのか?」
 ぎこちなく首を回し、視線を上げるとそこには尊大な新人が立っていた。
「滝沢さん……あっ?! 西野さん!」
 地面を見ると、西野が倒れていた。胸から血が流れている。
「西野さん、しっかりしてください! 西野さん!」
 青木は西野の耳元に口を近付けて、大声で呼びかけた。銀縁眼鏡が外れて、薄い目蓋が閉じられていた。細い眉は僅かな苦悶を浮かべ、しかしそれが痛苦によるものなのか断ぜられた志の無念さによるものなのか、青木には判別がつかなかった。

「西野さん、目を覚ましてください! どんなに高尚な理念をもってしても、羽生氏がやってきたのは悪いことです。あなたは彼のしてきたことについて、法廷で証言してください。生きて、真実を」
「無駄だ。もう死んでる」
 滝沢の手が西野の首に当てられ、残酷な事実が告げられた。先刻、青木が滝沢にしたことを今度は滝沢が為して、でもこれは芝居じゃない。青木は自分でも手を伸ばし、西野の首に触れてみた。そこには無機質な静かさだけがあって、青木は叫ばずにはいられなかった。

「滝沢さん、どうして!」
「撃たなきゃおまえが死んでたぞ」
 滝沢に当たるのは筋違いだ。滝沢は自分の命を救ってくれたのだ。感謝すべきだった、でもできなかった。何もかも自分の未熟が原因なのに、それを認められない自分に腹が立った。

「……親友だからな」

 滝沢の呟きに耳を塞いで、青木は唇を噛んだ。青木の視界の隅で、滝沢はいつもの尊大な頬に微かな憂いを浮かべ、西の空へ移ろい行く月を仰ぎ見た――――。



***



「すみません……オレのせいで、大事な証人を死なせてしまいました」
「僕の責任だ」
 病院のベッドに座ったまま、薪は静かに言った。
 薪は患者衣を着ていた。気を失っているところを警備部の人間に発見されて、病院に運ばれた。薪の救難信号は、官房室でも受信できるようになっている。警備部に連絡を取ってくれたのは中園だった。
「予想すべきことだった。僕の手落ちだ」
 あの時薪は、西野に撃たれた滝沢のことで手一杯だった。目の前の、失われるかもしれない命に心が囚われて、判断を誤った。
 薪はそんな自分が許せないようですらあったが、青木には薪の行動は当然のことに思えた。誰かが自分を庇って銃弾に倒れたら、その人の安否以外のことをどうして考えられるだろう。人間ならそれが当たり前だと青木は思い、それでも自分を責める薪の厳しさに切なくなった。薪は多くの人間に対して優しくなれるのに、どうして自分にだけはそれができないのだろう。

「滝沢の様子は?」
「それが、思ったより傷が深くて」
 薪が収容された病院のオペ室で、滝沢の緊急手術が行われていた。病院に運び込まれた時、彼は虫の息だった。
「動いたものだから、出血も」
 薪が発見された場所から西野が死んだ場所へと至る道は、万遍なく滝沢の血を吸いこんでいた。滝沢は、激痛に耐えながら連行される親友を追った。西野が何を考えているのか、彼にはきっと分かっていた。
 止めるには、ああするしかなかった。

「滝沢さん、オレに『このまま死なせてくれ』って」
 多量の出血による貧血で、滝沢は意識を失いながらも、救護班を呼ぶ青木の携帯を取り上げようとした。余計なことはするな、やっと終わりにできるんだ、と呟いて、気を失った。青木がいくら呼びかけても、滝沢は答えなかった。
「恋人が事故で死んで、それを長年の親友に利用されて騙されて。殺人まで犯して、最後にはその手で親友を殺してしまった」
 そんな凄惨な人生に、人は耐えられるのだろうか。青木には想像も付かなかった。滝沢の絶望が、悲しみが、痛みが憎悪が。事件被害者の無念と同じくらいの切なさで、青木の胸に迫ってきた。
「オレ、滝沢さんが可哀想で」

「何を甘っちょろいこと言ってんだ。おまえはそれでも警察官か」
 薪は下半身を覆っていた毛布を払い、ベッドから降りた。患者衣の紐を解き、サイドスペースに置いてあった新しいワイシャツに着替える。
「犯罪者は捕まえて、法の裁きを受けさせる。それが僕たちの仕事だ」
 青木が第九のロッカーから持って来ておいたスーツに袖を通し、紺青色のネクタイをきりりと締める。スーツの襟を両手で正して、薪はしゃんと背中を伸ばした。

「何が『やっと終わりにできた』だ。あいつは僕の部下を二人も殺した男だぞ。満足した死なんか与えてやるものか」
 苦々しく吐き捨てると、彼は病室を出て行った。
 薪は法を犯した者には厳しい。彼の主張は明確で、どんな事情があろうと殺人は殺人、罪は罪。だから彼は、いつまでも自分に厳しい。

 俯くと、薪の靴が目に入った。急いて履き替えるのを忘れたのか、外に出るなら必要だろう、と靴に手を伸ばせば、その横には病院のスリッパが。裸足で駆けて行ったのか。どんだけ急いでたんだ、あのひと。
 慌てて後を追うと、ナースステーションでオペ室の場所を尋ねる彼の姿。青木は苦笑して薪の隣に立ち、彼の足元にスリッパを置いた。



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

5/15に拍手コメントいただきました Aさまへ


Aさまは胃カメラですか~。
あれもキツイですよね。(^^;) 
その病気はオットがなったことがあります。 緑色のどろっとしたお薬をたくさんもらってきてました。 胸の辺りがジリジリするんだそうですね。 完治して良かったですね。


> 青木は薪さんに撃たれそうになった時、舞ちゃんのことが浮かんだのですね。 雪子じゃなくてよかった!

あの時の青木さん、夢中で突っ込んだように見えましたが、ちゃんと覚悟決めてたんですね。 少し見直しました。
雪子さんのことは思い出さなかった。 と言いますかね、
青木さんて、雪子さんと会ってる時しか彼女を見ていない気がするんですけど。 あんなに好き好き言ってる割りには、会えない時間に彼女を思っている事が少なすぎるような?? 引き換え、薪さんのことはしょっちゅう考えてるように見えるのは、わたしの腐目ですかね?

いつまでも拘っててすみません。
でもなんか納得できないの~。(^^;
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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