水面の蝶(1)

 こんにちはー。

 今日から公開しますこのお話は、『タイムリミット』の後、一緒に暮らし始めた新婚あおまきさん、でございます。 
 新婚と言ってもうちの二人なので、恋人漫才が夫婦漫才になっただけです。 甘いあおまきさんを期待されてる方、すみません。(^^;

 このお話、一昨年の12月に書いた話なんですけど(古いの持ち出してすみません~、こないだの『クエスト』も1年前だったけど、まだそういうの幾つか残ってて~。)
 2万拍手のお礼にさせていただきます。
 楽しんでいただけるとうれしい、でもなんか始まる前から肩透かしの予感が、特に新婚さんが……まあいいか。<よくない。

 毎度恐れ入ります。 今回も広いお心でお願いします。






水面の蝶(1)




 水面の蝶は、飛び続けなければならない。
 水に浸かれば羽根の鱗粉が落ちて、飛べなくなってしまう。蝶にとって空を飛べなくなることは、そのまま死を意味する。だから飛び続けなければならない。
 羽が折れても、破れても。ひたすら羽ばたき続けなければならない。
 例え何を犠牲にしても。




*****



 こんがり焼いたトーストと冷たい牛乳は、朝の身体を目覚めさせる。どちらも朝のマストアイテムだと青木は思う。
 コップ1杯の牛乳を胃に収めて、壁の時計を見る。時刻は午前8時。彼を起こす時間だ。オーブントースターの余熱をしてから、青木はキッチンを出る。
 広いリビングを過ぎり、寝室へ入る。ダブルベッドの真ん中には、成長期の子供のようにすくすくと眠っている彼の姿がある。

 彼はこの家の主で、職場の上司。そして、青木の人生のマストアイテム。

 彼のボディガードとして、青木はここで彼と寝食を共にしている。彼は警察庁官房室付の次席参事官で、警視長という高い階級にある。加えて第九の元室長でもあり、重大事件が起こると今でも現場に駆り出される立場であることから、常時警護を必要とすると上層部が判断し、その命に従って彼が自ら部下の中から青木を選んでくれた。 こう見えても青木は、剣道4段、柔道初段、AP射撃5段の腕前を持っている。彼の盾になれるだけの強さはあると、自分でも自負している。
 というのは、表向きの理由。
 実は、彼と青木は相思相愛の恋人同士。他人に大っぴらに言える関係ではないが、仲間内の殆どは彼らの関係を知っていて、その上で容認してくれているし、青木の親まで公認だったりする。そう聞くと、彼らの周りには大らかな人間ばかりが揃っているようだが、そんなことはない。まだお互いの気持ちが通じあっていなかった頃から障害はたくさんあったし、やっと両思いになった彼らが付き合いだしてから同じ家に住むようになるまでには、6年もの月日が流れている。その間に、ゆっくりと時間をかけて理解を得、段々に祝福されるようになって行ったのだ。自分たちの心情も含めて、決して平坦な道ではなかった。

「薪さん、朝ですよ。起きてください」
 彼を夢の世界から現実に引き戻そうと、青木は眠るひとの細い肩をゆさゆさと揺さぶる。つられて揺れる亜麻色の髪が、さらりと青木の手に触れた。
 心地よい感触に青木は思わず、自分が何をしに来たのかも忘れて彼の寝顔に見入る。
 なんてかわいい寝顔だろう。安らかに閉じられた目蓋、長い睫毛。つんと澄ました形に閉じられたさくらんぼみたいなくちびる。
 王子さまのキスを待っているオーロラ姫もかくやの美しさ。朝、彼の寝顔を見るだけで寿命が延びる気がする。
 すうすうと寝息を立てるひとのくちびるに、青木はそっと自分のそれを重ねる。舌で割って中に入り、やわらかく熟した彼を舌先でつつき――――。

「――――― っ、たあい!!」
 突然、青木の後頭部に固いものがぶつかった。ゴトリと床に落ちたものを見れば、なんと目覚まし時計。もう少しで『オーロラ姫撲殺事件』の出来上がりだ。この場合、犯人はオーロラ姫そのひとで、王子を撲殺するオーロラ姫なんか聞いたことがない。
「なにするんですか、いきなり」
「……それはこっちのセリフだ」
 彼は地獄の底から聞こえてくるような掠れた声を洩らすと、不愉快そうに眉を寄せ、汚いものでも口にしたかのようにチッと舌打ちした。ここが自宅の寝室でなかったら、ツバを吐きかねないくらい苦々しい表情だ。
 もしもこれが逆の立場だったら、恋人からのキスで目覚めるなんて、青木ならうれしくてたまらないシチュなのに。喜んでくれない彼がちょっとだけ憎らしい。

「起こしてあげただけじゃないですか。薪さん、いくら揺すっても起きないから、わっ!」
 飛んできた2つ目の目覚まし時計を避けて、青木は乱暴な同居人を非難の眼差しで見る。恋人にお目覚めのキスをして、どうして殴られなくてはならないのだ。
「牛乳飲んだ口で僕にキスするな。何度も言っただろ」
「あ、すいません」
 忘れていた。薪は牛乳の匂いが大嫌いだった。昔はちゃんと気をつけて、飲んだ後は必ず歯を磨いてから彼に近付くようにしていたのに。
 一緒に暮らすようになってから、こういう瑣末なことはよく忘れてしまって、薪を怒らせることが多くなった。でも、ちょっとくらい大目に見て欲しい。一緒に暮らし始めてまだ3ヶ月。舞い上がったまま降りて来られない状態なのだ。

「ごめんなさい、これから気をつけます。お詫びに朝のシャワーのお手伝いしますから」
「いらん」
「そんなこと仰らず。髪を洗って差し上げますから」
「親切そうなおまえの言葉に騙されて、今まで僕が何回被害に遭ったか。日時と被害内容を列挙してやろうか」
「何もしませんよ、朝ですから。見るだけ、あ、でも、見たら触りたくなっちゃうんですよね。でもって触ったらキスしたくなっちゃうし、キスしたら最後までしたくなっちゃ、おごっ!!」
 3つ目の目覚まし時計は見事に青木の顎にヒットして、あまりの痛さに彼は、負傷部を押さえて床にうずくまる。外敵から薪を守る前に、薪に殺されそうだ。
「ヘンタイ」
 冷たい口調で蔑んで、薪は気だるげなため息を吐く。彼は筋金入りの低血圧。朝はいつも機嫌が悪い。
 だけど、これくらいで怯んでいたら薪の同居人は務まらない。青木は悪びれもせず彼に近付くと、仰向けになったままの彼の身体を起こし、ベッドの上に座らせた。こうしてしばらく座っていないと、彼は真っ直ぐに立てないそうだ。

「うー……寝覚めが悪い……ウシの匂いで吐き気がする……」
 ウシの匂いじゃなくて、ミルクの匂いですね。突っ込んだら絶対に殴られるから言いませんけど。
「おまえ、息するな。クサイから」
 そこまで命の危険に直結する命令を受けたのは初めてです。しかも、そんな個人的嗜好が理由で。
「あー、ダメだ。今日は一日、憂鬱な気分で過ごすことになりそうだ。おまえのせいだからな」
 言い掛かりと嫌味が始まった。不都合なことは何でも青木のせいにする、このひとは昔から責任転嫁が得意で、おっとりした性格の青木はしばしばその標的にされていた。
 
 そんな理不尽な仕打ちを受けても、青木は何も言わない。ただ、じっと待っているだけだ。
 こういうときは、黙って聞いていればいい。薪との付き合いも8年になる。彼が本当はどうして欲しがっているか、青木にはちゃんと解っている。

「青木」
 薪は尚もぶつくさと文句を言っていたが、やがて青木を見上げて彼の名前を呼んだ。はい、と青木が顔を寄せると、薪は両手を青木の首の後ろに回し、
「だっこ」
 青木は噴き出しそうになるのを必死で堪える。どうやらまだ寝ぼけているらしい。
 はい、と真面目に応えを返して、青木は我が儘な上司の身体を抱き上げた。




*****


 お、おかしい……新婚さんのはずなのに、ぜんぜん甘くないぞ?
 いや、これからこれから! ←そしてどんどんキビシイ展開へと落ちていくいつものパターン。(笑)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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