水面の蝶(5)

 今年はお義母さんに習って、梅干し作りにチャレンジしてます。 梅の木は庭に何本かあるのですけど、毎年、落ちた実を捨ててました(^_^;) ←ダメ嫁。
 お義母さんが漬けたものが大瓶3つも残ってて(10年越しのもので誠にウマイ)、まだ10年分くらいはありそうだから失敗しても大丈夫だよね? とやる前からしくじる気マンマンです。

 みなさんの中にも主婦の方、多いと思うのですけど。 みなさん、手作りされてるのかしら。
 漬けるのは手間が掛かるけど、美味しいですよね(^^)






水面の蝶(5)





「というわけです。分かっていただけましたか?」
「ああ、よーくわかった。彼女は素晴らしい女性だな」
 薪の賞賛の言葉に、我が意を得たりとばかりに青木は大きく頷いた。
「性格もいいし、天使みたいにやさしいし」
「まさにその通りです」
「しかも家庭的で料理上手。大人でおまえの仕事への理解もある」
「はい」
「生涯を共にするなら彼女以外は考えられないと、おまえは思っていたわけだ」
「はい……え」

 なんか風向きが怪しくなってきた。
 美月がこんな犯罪を起こすはずがないということを主張しようとして、必要以上に彼女を褒め称えてしまった。それは青木が彼女の無実を信じる根拠ではあったが、薪にしてみれば不愉快だったに違いない。
 忘れていたが、薪は意地悪で性格が悪い。それをしょっちゅう青木に指摘されて、その度に逆切れしている。なのに青木が以前の恋人のことを「天使みたいにやさしかった」と言ったら、現在の恋人である薪は面白くないに決まっている。

「そのメールの内容から判断するに、彼女とは、相手が嫌いになったとか他に好きなひとができたから別れたわけじゃないんだな。ほんのちょっとのすれ違いだったわけだ」
「それはそうです、でも」
 自分の不安が的中しそうになって、青木は慌ててフォローに入ろうとする。が、論説家の薪が青木の釈明を許すはずがなかった。薪は確かに青木の意見をちゃんと聞いてくれる、でもそれは仕事のときだけ。プライベート、特に恋愛関係になると薪のコミュニケート能力は幼児にも劣る。
 ひとの話は聞かないし、自分の思い込みで突っ走るし。青木の気持ちを確かめもせずに行動を起こすし、周りの人間まで巻き込んで大迷惑を掛けるし。本当にこのひととの恋愛には大変な苦労が必要なのだ。

「今回彼女を助けることができれば、彼女ともう一度やり直せるかもしれない。そう考えているわけだな」
 ほーら始まった。言葉尻を捕らえて、根も葉もない言いがかりをつけて、ネチネチと青木をいたぶるつもりなのだ。
「僕はかまわないぞ。縁りを戻したらどうだ」
 亜麻色の眼が氷みたいに冷たい。薪はすっかりおかんむりだ。

 どうやってフォローしよう、と美月の非常事態も忘れかねない勢いで青木が薪のご機嫌取りを考えていると、薪はにやっと底意地の悪い顔になって、青木のシャツの胸元を摑んだ。ぐん、と強く自分の方に引き寄せて、
「なんて、しおらしいことを僕が言うとでも思ったか」
 傲慢に、薪は言い放った。
「おまえも知ってのとおり、僕は性格が悪いんだ。おまえの喜ぶことなんか、絶対にしてやるもんか」
 開き直りの極地に立った彼は、自分の欠点を引け目に感じる様子もなく、ふてぶてしく笑った。それは自分の特権であるとでも言うように、青木の前では何をしても自分は許されると思い上がっている愚かな子供のように、高慢かつ蒙昧な言葉の選び方だったが。

「僕はもう、おまえに遠慮しない」
 その亜麻色の瞳は情熱を秘めて燃えるように、好戦的な冷笑は彼の美貌を嫌というほど引き立てる。
「僕は何度も警告した。僕と別れるチャンスは何度もあったはずだ。それを逃したのは、おまえのミスだ」
 薪はシャツを持っていない方の手で、青木の頬をつかんだ。やさしく手を添えるのではなく、爪が食い込むほど容赦なく力を入れ、これは自分のものだと全世界に知らしめるかのように誇らしげな眼をして、
「いいか、覚えとけ。おまえは一生涯、僕の恋人だ。よそ見は許さない。死ぬまでつきまとってやるから覚悟しとけ」
「はいっ」
 
 うれしさに矢も盾もたまらず、青木は薪の身体を抱きしめる。長く強い両腕で彼を囲い込めば、先刻までの暴君は一夜にして城を追われた亡国の王のように萎縮して、青木の腕の中で身を固くした。
「な、なんでおまえはそう……どうして普通の反応をしないんだ?」
 心から愛する恋人に、死ぬまで一緒だと言われた。これが普通だと思うが。
「よく考えろ。こんな中年オヤジに死ぬまでつきまとわれるんだぞ? 若い女の子と遊ぶことも許されず。僕だったら絶対に嫌だ」
「オレの人生にはあなただけいればいいです。他のひとは要りません」
 薪のやわらかい頬に、彼の爪痕が残る自分の頬を擦り付ける。唇を滑らせて頬に接吻すれば、愛くるしい口元からはキリマンジャロの馨。唇に伝わる熱に気付いて青木が目を開けると、ぼっと濃い桜色に染まった薪のきれいな頬が見えた。
 この期に及んで、まったくこの人は。
 あんなに傲慢にひとを私物化しておいて、いざとなるとこれだ。薪は直球の愛情表現にはひどく弱くて、自分が素直にそれを表わすことにはいっそ臆病で、でも青木はそんな薪が可愛くて仕方ない。

「ったく。どうしようもないバカだな」
 必死に虚勢を張って青木を手で押しのけるが、彼は恥ずかしそうに俯いたまま。あれだけ火照っていれば、自分の顔が真っ赤になっていることも察しがついて、青木に見られないうちに顔色を元に戻そうと必死なのだろう。クールを気取るのも楽ではないのだ。
 しかし、そこはさすがにポーカーフェイスと切替の速さが売りの警察幹部。たった一度の深呼吸で平静を取り戻し、すっと上げた顔はいつもの澄まし顔。

「まずは情報収集。それから彼女の身柄の保護だ。居所が不明というのが一番まずい」
「自分が犯人ですって叫んでるようなものですからね」
「それもあるけど、一番怖いのは真犯人に拘束されている可能性があるということだ。彼女が犯人でないのなら、その線もありうる」
 咄嗟に浮かんだ恐ろしい想像に、青木は身震いする。そうだ、薪の言うとおりだ。彼女が姿を消したのは、自分の意志ではないのかも。美月の聡明さを知る青木にとってそれは、彼女が置かれた今の状況を理解するのにもっとも納得のいく仮説だった。

「おまえ、彼女の行きそうな場所に心当たりはないのか」
「あの頃よく行った公園とか、美術館くらいしか」
「彼女が頼っていきそうな相手は? その、キャバクラで一緒にバイトしてた友だちとか」
「知らないです。他の友人も何人かは紹介してもらった記憶もありますが、顔もおぼろげです。連絡先や家を教えてもらうほど親しくなりませんでしたし、第一、8年も前の情報ですから。有力とは言いかねます」
 自分から言い出しておきながら自信のなさそうな青木に比べて、薪の決断は速かった。仕事用のスーツに着替えて、身分証明書とIDカードを内ポケットに落とし込む。
「二手に別れよう。僕は渋谷南署に行って、状況を聞いてくる。おまえは彼女が行きそうなところを当たってみろ」

 ふたりは一緒に部屋を出て、マンションのエントランスで別れた。
「もしも運よく彼女に会えたら、分かってるな?」
「え? 何をですか?」
「……まあ、いくらおまえがバカでもそこまではしないか。じゃあ、気をつけろよ」
 もしかして、万が一彼女が罪を犯していたとして、青木が彼女の逃亡を手伝うとでも思ったのだろうか。いくら何でもそんなことはしない。青木は警察官だ。彼女が自分の罪を認めれば、自首させる。それが彼女にとって一番いいことだと分かっている。
 それは太陽が東から昇るのと同じくらい、当然のことだった。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Lさまへ

Lさま、こんにちは。


> きゃーっ!女王様な薪さんカッコいい!

ありがとうございます!
こういう薪さんを書くの、実はとっても楽しいんです♪
高慢で、上から目線の薪さんが好きなんです。 楽しそうに部下を苛める薪さんが好き。 あれは愛情表現ですものね。 例え、受け取る方の胃に穴が空こうと。(笑)


> …これ最高の愛の告白ですよね!

本人はいつものイジワルのつもりだったらしいですけど。 青木くんにしてみれば、そうですよね。(^^
50歳になっても「この世の奇跡のようにお美しい」薪さん。 ええ、なんかそういう感じします。

エピローグでは、3年後の薪さんが出てくるのかしら? 39ですよね?
再会して、ちっとも変わらない薪さんに驚いて、「あの人、来年40だよな?」って青い顔で会話する第九メンズが浮かんじゃいました☆


『秘密』が終わってしまうの、本当に寂しいですよねえ。
最終回でかなりの部分が燃え尽きた感がありますが、それでもエピローグがある、ということが、大きな支えになっていました。
わたしの場合、「秘密ファン」と言うよりも「薪さんファン」、しかも、「青木さんに恋をしている薪さんを応援したいファン」だったので、薪さんと青木さんがペアで出てこない話は今ほど夢中になれないと思います。 そう思うと、本当に悲しいです……。

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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書いてます。
60Pを超えました(笑)
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あと20ページ。
7/20 推敲の結果、70Pになりました。←バカじゃないの。
2回目の推敲に入りました。
こんにちは(^^
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