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告(7)

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 昼休みの間に、薪は街に出ていた。
 右手に、電気店の買い物袋をぶら下げている。中には仕事で使うCDが500枚ほど入っている。
 もちろん、買出しなどは室長の仕事ではない。が、ここのところずっとデスクワークばかりだったので、少し外の空気に当たりたいと言って出て来たのだ。買い物は、そのついでである。
 いつの間にか、秋もすっかり深まったようだ。
 銀杏並木も鮮やかな黄色に色づいて、薪の目を楽しませる。秋風が冷たいが、普段室内にこもってばかりいる身には快い刺激だ。道行く人々のように身を縮込めたりせず、ゆっくり歩いて職場へ戻る。

 あと100mほどで研究所の敷地に入るというところで、薪は足を止めた。

 ガラス張りの店の中で、顔見知りの男女がハンバーガーを食べている。顔を近くに寄せ合って、いかにも親密そうだ。
 赤く縁取られた唇が動いて、何事か男に耳打ちした。男はびっくりしたような顔をするが、すぐに笑顔になる。なにやらしきりに納得して頷いている様子だ。
 別に珍しい光景ではない。ただ男女で話をしているだけだ。キスをしているわけでも、抱き合っているわけでもない。
 しかし、何故か足が動かない。
 冷たい風の中で、立ち竦むことしかできない。
 時刻はもうすぐ1時を回る。午後の仕事が始まる時間だ。このCDがなくては困るだろう。
 ――― でも、動けない。

 携帯電話の呼び出し音で、薪は我に返った。
 着信画面を見る。岡部からだ。薪の帰りが遅いのを心配してかけてきたのだろう。
「薪だ。あと3分で着く」
 いいタイミングだ。おかげでわけの分からない呪縛が解けた。

 電話の向こうで、岡部がアイスを買いに行くが食べますか、と聞いてくる。
「え? アイスクリーム?……パシリか、僕は」
 わざと聞き違えた振りをして、絡んでみる。岡部の慌てる様子がおもしろい。
「はは。いい、出たついでだ。僕が買ってくる」
 ご注文は? とおどけると、室長にそんなことさせられません、と真面目な答えが返ってくる。
「じゃ、適当に買って帰るぞ」
 相手の返事を待たずに電話を切る。今頃青くなっているだろう。
 生真面目な部下の姿を想像して、薪はくすりと笑い、もう一度店の中を見た。

 相変わらず楽しそうに話す2人。
 だが、今度は大丈夫だ。さっきのおかしな感覚は襲ってこない。

「女性を誘うのに、ハンバーガーはないだろう、青木」
 後で女性の口説き方を教えてやらなくては、と余計な老婆心を携えて、薪は向かいのアイスクリームショップに入っていった。


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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