水面の蝶(9)

 こんにちは。


 前回の記事に、まあなんてことでしょう、約一名の方を除いて、「青木さんのおバカさん☆」というニュアンスのコメントいただいちゃったんですけど。(笑)
 えー、青木さん、可哀想じゃん、痛い思いして。(すみません、わたしが書きました)
 たしかに自業自得なんですけど~、青木さんならこれくらいしでかしそうだわ。(暴言)

 青木さんて基本的に、目の前にすごく困ってる人がいたら、後先考えずに行動しちゃう人ですよね? それで薪さんに迷惑かけちゃったりもするんですけど、でもわたし、青木さんの魅力はこういうとこだと思います。
 その上、バカがつくほどお人好し。 あんな目に遭わされて、それでもなお彼女を心配する、そういう青木さんがわたしは好き、てか、きっと薪さんはこういう青木さんが好きなんだと思うの。
 青木さんの、共感性の高さや思いやりの心、真っ直ぐな気性と奥ゆかしさを持ち合わせながら、時に周りを瞠目させるほど大胆な行動に出る、そんなとこが好きなんだと思うの。 それは薪さんが、意識して切り捨ててきたものだと思うから。 だから青木さんのそういうところ、守りたいんじゃないかな。

 なので、このシーンの薪さんは青木さんを許すとか許さないとかじゃなくて、もう、
「ずぎゅーんっ、ばぎゅーんっ」てな具合にハートをぶち抜かれてるんじゃないかと想像するのです。

 と、今読み返して思ったんですけど。
 書いた当時(2010年12月)に何を考えていたのかはまったく覚えてません。 残念な脳ですみません。(^^;
 






水面の蝶(9)






「ここに来れば、あなたに会えるんじゃないかと思ったの」

 思い出の公園で、何度も戯れた噴水の側、太い樹木の陰から現れた彼女は、ゆっくりと青木の方へ歩み寄ってきた。
 彼女の姿は記憶のまま。まるであの別れが昨日であったかのように。
 何も変わっていない。彼女も自分も、この公園も。
 美月は青木の腕に自分の手を添え、そっと額を持たせかけた。彼女の広くて賢そうな額が、青木は大好きだった。

「一行。わたしを助けて」
 そう囁いた彼女は、弱々しく、それでも気丈に微笑んで見せた。青木の記憶の中の彼女は、いつも弾けるように笑っていた。その落差が痛々しかった。
「わたし、やってない。何もしてないの」

 見た目は普通の恋人同士のように、さりげなく人目を避けるようにして、ふたりは公園を出た。通りの少ない道を選んで、止まらずに歩き続ける。
「警察に行って、ちゃんと話すんだ。オレが一緒に行ってあげるから」
 青木は小さな声で、しかしはっきりと言った。彼女を説得して、自分から出頭させる。それが彼女の疑いを晴らす一番の近道だと、青木には分かっていたからだ。
 しかし、美月は頷いてはくれなかった。
 美月が尻込みする気持ちは分かった。一般人にとって、警察の取調室と言うのは紛れもなく恐怖の対象なのだ。
 自分に関わりのないときには、さして気にも留めない。それどころか、興味を持って見たがる者もあるかもしれない。しかし、これが一旦容疑者の立場になると、途端に怖くなる。身に覚えがあるなしに関わらず、本能的な恐怖が芽生えるのだ。
 それは多分、自分が侵されることに対する恐怖感。私生活の細部まで調べ上げられ、知られる必要のないことまで白日に晒され、さらには身体的な苦痛も加わるかもしれないとなれば、逃げ腰になって当たり前だ。

 青木はなおも彼女を説得したが、彼女はどうしても首を縦に振ってくれなかった。力で彼女を拘束し、所轄に引き渡すことは簡単だったが、青木はそれはしたくなかった。どうしても彼女の足で、警察に行って欲しかった。
「美月。オレは美月を信じてるよ。でもこのままだと、君が犯人にされちゃう」
 だから一緒に警察に行こう、と青木は何度も繰り返した。通報によって逮捕されるより、自分から出頭したほうが印象は良くなるし、その分嫌疑も晴れやすいはずだ。青木は彼女の素直でやさしい性格を知っている。彼女は最終的にはいつも、青木の願いを叶えてくれた。だから今回も、もう少し時間をかけて説得すれば、きっと。

 彼女は頑なに青木の忠告を拒んでいたが、青木の熱心な説得に感じ入ったのか、意外なことを言い出した。
「わたし、犯人が誰か知ってるの」
「えっ。本当に?」
 青木は驚いたが、少し考えればすぐに納得の行くことだった。横領事件が絡んでいることからも、同じ支店内の行員が真犯人である可能性は高い。銀行業務に精通する美月が、その豊富な経験ゆえに犯人の正体を察しても、なんら不思議はない。

 当然、青木は犯人の名前を聞き出そうとした。美月は迷った末に顔を上げ、しかし行き交うひとの姿にまた口を閉ざした。
 道の往来では人目がありすぎる。突っ込んだ説得をしようにも、道端ではできない。どこか、二人きりになれる場所を探さないと。それに、美月の疲れもピークに達しているはずだ。ならば、安全な場所で休ませてやりたい。休んで疲れが取れれば、彼女だってもっと冷静な判断ができるようになる。
 青木は、一時的に彼女を自分のアパートへ避難させることにした。あくまでも彼女の休息と、その説得が目的だった。

「ここなら誰もいない。話してくれるね?」
 青木のアパートで二人きりになると、美月は明らかに肩の力を抜いて、青木が公園の自販機で買ってきたペットボトルのお茶をゴクゴクと飲んだ。ため息と共に緊張を吐き出し、小さな声で下を向いたまま、美月はとつとつと話し始めた。
「玲子、篠田玲子って言う同僚なの。出納係をしてるわ。彼女は副支店長と不倫してて、副支店長の言いなりだったの。横領も、副支店長が株で作った借金のために、彼とグルになって顧客の口座から勝手に預金を引き出していたの」
 美月がもたらした新情報は、貴重なものだった。このことを所轄に伝える事ができれば、すぐにでも美月の疑いは晴れると思った。

「どうしてすぐに言わなかったの。そのことを警察に話せば、警察がきちんと捜査をしてくれる。君の無実は証明されるよ」
「だって、玲子はわたしの親友だもの。友だちを売るなんて、わたし絶対にできない」
「美月……」
 やっぱり彼女は変わっていない。やさしさと愛情から生まれたような美月。その彼女のやさしさを利用して、自分が犯した罪を逃れようとする篠田という女性が、青木は心底憎らしかった。

 それでも、と青木は再度説得を試みようとして、言葉を止めた。
 一欠片の罪もない、自分が窮地に立たされてまで友人を庇おうとする彼女のようなひとが、容疑者扱いされて警察の取調べを受ける。その状況に、青木は自分が昔、殺人事件の容疑者として取調べを受けたときのことを思い出した。
 思い出して、震撼する。
 男の自分でさえ、気が変になるかと思った。あんな場所に、こんなか弱い女性を放り込むなんて。
 青木は必死で考えた。警察官としての良識と、彼女を守りたいと思う気持ちと、かつて経験した取調べの苛烈さが、青木の中でせめぎあう。
 長考の末、青木が出した結論は。

 美月は出頭させる、それは変わらない。だけど、それは所轄に篠田の情報を流し、彼女の調べがある程度進んでからでもいいのではないか。ちゃんと調べれば、証拠は必ず出てくる。完全犯罪など、この世には存在しないのだ。

「美月。2、3日、ここで我慢できる?」
 青木は彼女の眼を見て、真剣な口調で言った。
「篠田玲子の情報は、オレから所轄に伝える。もちろん、出所が美月だってことは秘密にする。捜査が進めば、彼女が犯人だって事が必ず明らかになる。携帯電話やパソコンを調べれば、不倫の証拠も出ると思うし。
 そうしたら美月は警察に行って、自分が逃げた理由を説明するんだ。そうしないと、容疑は完全には晴れないよ」
「でも、玲子は……玲子はどうなるの」
 美月の友情に、青木は涙ぐみそうになる。自分がこんな目に遭っているというのに、罪深き友人の身を案じるとは。
「罪を犯したら、償わなきゃいけない。罪を償って、やり直すんだ。美月は彼女が人生を立て直す手助けをするべきだ。本当の親友なら、そうするべきだとオレは思うよ」
 美月はしばらく考え込む様子だったが、やがてコクリと頷いた。

「お願い、一行。それまではわたしがここにいること、誰にも言わないで」
「もちろん、誰にも言わない。でも、薪さんにだけは連絡させて。美月のこと、すごく心配してたから」
「薪、さん?」
 鳶色の瞳が訝しげな光を宿し、きれいな額に薄く横皺が浮かんだ。

「オレの上司。オレ、そのひとのボディガードやってて、一緒に住んでるんだ。
 薪さんは今、美月の無実の証拠を探すために所轄の資料を見直してくれてる。オレに心当たりの場所を探すように言ってくれたのも薪さんなんだ。オレが美月と会えたのも、彼のおかげなんだよ。
 美月が真犯人に捕まっていたら大変だって、そこまで考えてくれてるんだ。だから」
「いや!」
 今まで穏やかだった美月の顔が、急に険しくなった。何かに怯えたように、細い肩をぎゅうっと自分の手で抱き、必死にかぶりを振る。

「『薪さん』にだけは、絶対に言わないで」

 縋るような眼をして、美月は青木を見た。
 無理もない、と青木は思う。美月はいま、身に覚えのない罪で指名手配という状況下にある。青木以外の人間が誰も信じられない状態なのだろう。ここで彼女を突き放すことはできない。
「お願い。必ず一行の言う通りにするから」
「わかった。薪さんにも言わない。秘密にするから」
 青木が首を縦に振ると、美月はすっと右手の小指を出した。
「約束」
 公園で、アパートの部屋の中で、ベッドの中で、彼女と何度も行った儀式が、その時の甘酸っぱい感覚と共に青木の中に甦る。青木は自然に迷いなく、彼女の小指に自分の小指を絡め、軽く上下に振った。

――――― 軽く振っただけなのに。

 次の瞬間、絡めていた指の感覚がなくなって、青木は驚愕した。見ると、美月の手と自分の手から、小指が無くなっていた。不気味さに怯えつつも視線を下に移すと、そこにあったのは男の骨っぽい指と、女の細い指。
 床の上でふたりの小指だけが、いつまでも約束の儀式を続けていた。




テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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No title

こんばんわです!しづさん!
連日の更新ありがとうございますっ!!!…うう!(><)(><)
(発売日が近づいてきて、また情緒不安定なので…!)


青木さんいい人!
そうですね!

原作でも、7巻で、青木さんがヘリで救出に向かう時の、
薪さんのモノローグの時の青木さん映像なんて、
“ベストオブ青木一行セレクション”でした!(かっこいいよ青木さん!)

そういう時いつも薪さん怒鳴ってるけど、(こちらの薪さんも…)
だからこそ、大切で、大好きで、たまらないんですね……
……「鈴木のように…」ってなっちゃっうけど……薪さんも力もらってましたもんね。

続き楽しみにしてますっ!!!!!(最後の所…映像がありありと浮かんできて…!展開がドキドキですが…!ぅぁぁ…)
薪さんの反応も!(←エス?)☆


以前しづさまから頂いたお返事の中で、
「青木一行成長物語」と言われていたことに「???」となってしまっていたのですが、(←暴言!?)
エピローグで青木さんが、突然、
鈴木さんばりの 爽やかイケメン頼れるおっとこまえ!(←私的鈴木さん認識)にはなっていて…
ほしくはないと思ったり……(成長の意味がわかってない…w)

青木さんはやっぱり、青木さんらしく
突拍子もない男っぷり(どんなww)を見せてほしいですー!(薪さんに対して!次こそ!)


しづさまの所は台風は大丈夫そうですか?
お気をつけくださいですー!

Aさまへ

Aさま、こんにちは。


> 青木が容疑者として取調べを受けた経験がなければ美月を匿うことはなかったのかな!?

そうですね。 一応伏線になってます。
書いたのは『緋色の月』の方が後ですけど、原作で青木さんが誤認逮捕された時点でどちらも考えてました。


> あのう・・最後の指切りの場面は夢ですよね?

そうです、夢です。
美月に刺されて不安定な青木さんの心情を表わしてみたんですけど、ごめんなさい、キモチワルイですよね。(^^;
お仕置きは腹だけで充分、というAさまのお言葉、やっぱりAさまはやさしい方ですね~。


> 美月の「『薪さん』にだけは」という言い方が気になります。

はい、これ、今回の話のポイントでございます。
彼女には彼女なりの理由があって、まあ単なるやっかみなんですけど、うん、先をお楽しみに☆

こたさまへ

こたさん、こんにちは!

今月のエピローグで最後ですからね~。 せめて最後くらいは、根性出しませんとね☆
がんばって更新します。(^^


> 青木さんいい人!

ですよね!
こうして振り返ってみると、やっぱり薪さんが惚れるだけのことはあるのか。 
あそこまで他人の為に自分を投げ出せる人、なかなかいませんものね。 考えなしの無鉄砲に見えますけど、彼の精神はとても高潔ですよね。


> 続き楽しみにしてますっ!!!!!(最後の所…映像がありありと浮かんできて…!展開がドキドキですが…!ぅぁぁ…)
> 薪さんの反応も!(←エス?)☆

ありがとうございます。(^^
薪さんの反応は、これ、今回イチオシのギャグになってますので。 お楽しみにっ。


> 「青木一行成長物語」と言われていたことに「???」となってしまっていたのですが、(←暴言!?)

あ、なんかこれ、読書会のレポート読んだらそう言ったことが書かれてたので、そうなんだと思ってたのですけど。
他のブロガーさんのコメント欄で、最近ちょっと疑問に思うことがあったので、すみません、よく確認してから再度お答えしますね。


> 青木さんはやっぱり、青木さんらしく
> 突拍子もない男っぷり(どんなww)を見せてほしいですー!(薪さんに対して!次こそ!)

そう!
鈴木さんが爽やかイケメンくんの皮を被った冷静な男だったなら、青木さんはその逆を行く男であって欲しいですよね! 
熱く、いっそ暑苦しく! 
薪さんの涙一つで少女をヘリで助けに行っちゃう、威嚇射撃をものともせずに薪さんに突っこんでいく、それが九州男児青木一行だと思います。 別れ間際に何も言えずにウジウジしちゃう、そんな男ではないと信じます。
てなわけで、エピローグ、期待してるからね、青木さん!

台風のご心配もありがとうございます。
こちらは何の被害もなく。 庭掃除が大変なくらい。(^^;
こたさまの所は大丈夫でしたか? 何もありませんようにとお祈りしてます。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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