水面の蝶(10)

 毎日更新しようと思ってたんですけど、明日、出張入っちゃいました。
 ので、
 今日、2つ更新しておきます。 褒めて♪ (3歳児?)






水面の蝶(10)






 何度か足を運んだことがある友人の家のドアを開けて、竹内誠はその場に立ち竦んだ。
 狭い玄関の床に女がうつ伏せに倒れていて、靴箱の足に手錠でつながれている。顔を上げると、リビングの床に仰向けに寝ている青木の姿と、彼の頭を自分の膝に乗せて座り、彼の左の腹をタオルで押さえている薪の姿が見えた。
 竹内は静かにドアを閉めると、玄関の女性は無視して友人たちに駆け寄った。
 華奢な右手が押さえているタオルは、血で真っ赤に染まっていた。横たわる青木の顔は青白く、意識はない。出血によるショック状態だとしたらかなり深刻な状態だが、タオル2枚分くらいの出血なら命の心配はないと思われた。薪の頬にも血がついていたが、こちらは既に止まっていた。

「何があったんですか」
 お願いします、という言葉と同時に、小さな頭が深く下げられたことに、竹内は少なからず驚いた。長い付き合いになるが、このひとが自分にまともに頭を下げたのは初めてじゃないだろうか。
 しかし、薪の頼みごとの内容にはもっと驚いた。

「本部に報告するなって……これは明らかに傷害ですよ? しかも、彼女は指名手配犯じゃないですか」
「彼女の身柄はお渡しします。でも、青木のことはどうか内密に」
 必ず一人で来てくれと電話があったときから、おかしいとは思っていたが。事件隠蔽の片棒を担がせる気だったとは。
「お願いします。頼める人が、竹内さんしかいないんです」
「……この貸しは高いですよ、室長」
「分かってます。僕にできることなら何でもします」
「うちの先生、いま二人目がお腹にいるんですけど。つわりがひどくて何も食べられない状態なんですよ。一人目の子のときみたく、料理を作りに来てくださいませんか?」
 青白い顔に冷や汗と緊張を浮かべていた薪は、竹内の言葉にようやく微笑んで見せた。
 理由はどうあれ、青木が指名手配犯を匿っていたことは事実だ。だから公にしたくない。それは警察官としてどうかと思ったが、青木は竹内の大切な友人だ。それに、普段あれだけ自分を目の敵にしている薪がこうして頭を下げてくる、その健気さにほだされなかったら、それは人間じゃなくて鉄の塊だと竹内は思う。
 
 意識を失っていた青木を薪とふたりで協力して何とか車に乗せてから、山本美月を人目につかぬように部屋の外へ連れ出した。ここは青木のアパート。ここから彼女が出てきたのを目撃されるだけでもまずいのだ。
 山本の手錠に、薪が自分のジャケットを脱いで掛けてやるのを、竹内は複雑な思いで見ていた。
 竹内は、薪と青木の本当の関係を知っている。その彼を刺した女性に、どうして薪は理性を失わずに接することができるのだろう。それとも、薪が狭量なのは竹内に対してだけで、他の人間に対しては寛大なのだろうか。

 途中、薪が指定した病院にふたりを降ろした。薪が事前に電話をしておいたらしく、病院の救急入り口に車を停めると、すぐに数人の看護師が出てきて、青木の身体をストレッチャーに載せて走り去っていった。竹内に一礼し、薪も後を追いかけて行く。
 竹内は、山本美月を連れて捜査本部のある渋谷南署へ向かった。彼女を何処で確保したか、どういう経路でその場所に辿りついたのか、それらしい報告書を捏造しなくてはならない。まあ、それは後でゆっくり考えよう。今はこの女の取調べが先だ。
 
 署に戻った竹内は、本部長に山本を確保したことを報告すると、捜査本部の人間が唖然とする中、即行で取り調べに入った。取調べは犯人を確保した人間に優先順位があるのだ。
 取調室で美月と差し向かいになり、彼女を観察する。細面の美人だが、何処となく薄倖の影がある。とても辛い恋をしてきた、そういう女性が漂わせる独特の雰囲気を持っている。

「言っとくけど、俺に嘘は通用しないよ」
 低い声で、竹内はそう切り出した。
「女の嘘は何千回と見破ってきたんだ。絶対に騙されない」



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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