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水面の蝶(14)

 こんにちはー。

 昨日、たくさん拍手くださった方、ありがとうございます。(毎日いっぱいいただいてるんですけど、昨日は特に多かったので)
 お一方ではないと思うのですけど、昨日みたいにお天気の良い休日に、あんな不健全なもの読ませてしまって申し訳ありませんでした~。
 そして今日のシーンもまた、取調室と言う日当たりの悪い場所で。 青木さんの元カノVS薪さんと言う構図で。 
 毎度、心臓に悪いSSですみませんです。 





水面の蝶(14)





 昨日、自分を警察に連れて来た刑事に取調べを受けたときと同じように、美月は俯いて口を閉ざしていた。貝のようにただじっと、時が過ぎるのを待とうと思った。
 こんなに朝早くから取調べにくるなんて、部下を刺されてよほど頭に来ているのか。何が何でも白状させてやると息巻いてきたのだろうが、自分は絶対に喋らない。
 自分は悪くない。悪いのは、あの男だ。

「青木は大丈夫ですよ」
 思いがけないことを言われて、美月は面食らった。身構えていた緊張が、僅かに崩れる。
「傷は浅くて、内臓には届いていませんでした。よく切れる刃物でしたから、傷口もすぐにふさがるでしょう。2,3日すれば、退院できますよ」
 亜麻色の瞳は真っ直ぐに美月を見ていた。美月はやっと顔を上げて、薪の方を見た。
「心配だったでしょう?」
 やさしげな声だった。慈しむような瞳だった。昨日の刑事の威嚇するような声、眇めた鋭い眼とはまるで違っていた。

「青木がね、ずーっとうわ言であなたのことを案じていました。だからきっと、あなたも青木のことを心配してるんだろうなって」
「……相変わらず、お人好しなのね。一行は」
 自分を刺した女のことを心配するなんて、お人好しを通り越してただのバカだ。
 まったくです、と笑った薪の顔は、何故かとても誇らしくて。美月は薄々気がついていたふたりの関係を確信する。それは意外でもあり、ある意味当然かと思われた。だって、一行は昔から――。

「事件のことを、話してもらえますか」
 穏やかに切り出されて、美月はガードを固める機会を逃す。世間話の続きみたいに言われたら、意識を浮遊させる暇もない。
「添田さんを許せなかったあなたの気持ちは、よく分かります。添田さんが横領を指示していたんですよね? あなたは彼を愛していたから、彼の言いなりになってしまった。でも彼は」
 添田の言いなりにならざるを得なかった美月の苦しさを、まるで自分が味わっているかのように、辛そうに眉をひそめて薪は言った。
「あろうことか篠田玲子に横恋慕し、横領の罪を全部あなたに押し付けて、銀行から追い出そうとした」
 ちょうどその事実を知った時の自分のように、薪は長い睫毛を伏せた。それから再び顔を上げ、しっかりと背筋を伸ばした。

「一時の感情を制御できず、あなたが彼を殺めてしまったことはあなたの罪です。でも、あなたは悪人ではありません。あなたはとてもやさしい人だと、青木は言ってました。僕は彼の言うことを信じます」
 刑事のくせにずい分甘いのね、と美月は心の中で呟く。
 昔青木から聞いた限りでは、『薪さん』は凄腕の捜査官だという話だったが、とてもそうは見えない。女みたいにきれいな顔をして、身体も華奢で……ていうか、このひといくつ? わたしより若いわよね? なんか計算合わないような気がするけど。

「ひとは、過ちを犯す生き物です。誰にでもその可能性はある」
 薪はそう前置きしてから、美月がぎょっとするようなことを言った。
「僕は部下を射殺した事があります」
 美月はそれを知らなかった。青木から薪の話を聞いたとき、そんな話は出なかった。
「正当防衛が認められて、僕は裁かれませんでしたが。僕自身はあれを不可抗力だとは思っていない。自身の過ちであったと認識しています」
 悔恨でもなく、懺悔でもなく、それは単なる述懐に聞こえた。それは仕方のないことだった。彼が事件のことを感情に溺れずに口にできるようになるまでの道のりを、美月は知る術もなかった。
 しかし、次に彼が語った言葉は、美月の胸に重く響いた。

「償いのチャンスを与えられることは、決してあなたの人生にとって不利益なことではありません。本当に辛いのは、罪を認められないことです。
 罪を認めない限り、あなたはそこから一歩も進めない。釈明することもできず、償うこともできず、許しを請うことも忘れ去ることもできない。あなたの人生は、そこで止まってしまうんです。
 あなたの時間は止まり、身体だけが年老いていく。空っぽの人生を消化するだけの日々を過ごして、やがて天に召されるとき、あなたの中にいったい何が残るのでしょう。
 僕は、そんな人生をあなたに歩んで欲しくない」
 美月は、自分の身体がひとりでに震えだすのを自覚して、それを抑えようと自分で自分の腕を抱いた。
 薪の言うことは、真実味があった。人を殺めたことがある彼の言葉だからこそ、こんなにも自分の身に迫るのか。

「どうしてそんなことを、わたしに?」
 美月は不思議だった。薪の言葉も態度も、自分を恨んでいるようには思えない。彼を傷つけられて怒り心頭に発している筈なのに、その様子は心から自分を心配してくれているように見える。
「何故わたしの未来を、あなたが心配してくれるの?」
「僕があなたに感謝しているからです」
 薪の応えは、美月を驚愕させた。我知らずぽかんと口を開け、大きく開いた鳶色の眼で、目の前の美しい顔が美しい言葉を紡ぐのを見つめる。

「あなたは確かに、彼を形作った一片です。僕の大事な人の人生を豊かにしてくれた。僕が好ましいと思う彼に至る一縷の流れは、あなたから発せられたものだ。だから僕はあなたに感謝している」
 机に拳を乗せ、少し身を乗り出して、薪は熱心に語りかけた。その口調は熱く、彼のクールな外見を裏切って、青臭くさえあった。
「あなたには、実りある人生を歩んで欲しい」
 そう結んで、薪は口を閉じた。

 それきり、薪は事件に付いて一言も訊かなかった。部屋には静けさに満たされ、ふたりの呼吸の音すらしなかった。沈黙に耐えるため、美月は再び顔を伏せた。
 長いこと、薪は美月が口を開くのをじっと待っていたが、その時はとうとう訪れなかった。腕時計を見やり、他の職員が出勤してくる時間が近付いたのを確認して、薪は立ち上がった。
 最後に、薪は美月の傍に歩み寄り、彼女の横に優雅に片膝を付いた。俯いてしまった彼女の顔を下から見上げるようにして、
「今でも青木の中に、やさしく美しいあなたが息づいているように。あなたの中にも彼が残したものがあるはずです。それを思い出してもらえませんか」

 懇願されて美月は、胸を締め付けられたように息を殺した。
 やさしく美しいわたし。一行は、自分のことをそんな風に話したのか。

「彼なら、あなたがこれから生きていくのに必要なものを残してくれているはずです。僕は彼からそれを受け取りました。だから今も生きていられる」
 吸い込まれるような亜麻色の瞳に見つめられて、美月はますます胸が苦しくなる。

 なんてきれいな瞳。わたしが失ってしまった光を、彼はずっと持ち続けている。他人を殺めた者同士、でもこんなにも違う。
 それは彼が、一行が傍にいるから? 彼が一行に選ばれて、わたしは一行を手放してしまったから? その違いだというの。

「あなたにも、きっと残されている。彼は、そういう愛し方をする男だったはずです」
 すっと立ち上がり、真っ直ぐに歩いて薪は部屋を出て行った。きれいに伸ばされた細い背中が、美月の瞳に鮮烈に焼き付いていた。





テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは。


> 「僕の大事な人の人生を豊かにしてくれた」。こんな風に元カノに感謝できるのは薪さんしかいないのでは・・

そうなんですよ、うちの薪さん、作者の思惑と全く違ったことを言い出しまして。(笑)

元々、薪さんが青木さんの元カノに会ったらヤキモチ妬くかな、どうかな、と思って書いた話なんですけどね、まさか感謝するとは。(@@)
何言い出すんだ、こいつ、訳分からん、と思いながら書いてました。 
でも今になって思うに、
青木さんが雪子さんを結ばれることを心から望める薪さんなら、これくらいは思うかもー。


> それにしても、「僕の大事な人」・・青木が聞いたら涙を流して喜びそう!
> 本人には絶対、言わないのでは(笑)

言わないですねえ。
青木さんも、知らないままでしょうねえ。
歯痒い気もしますが、こういうの、好きです。 
同じ伝わらないにしても、この二人はしっかり恋人関係になってるからいいけど、原作のように愛する女性が他にいる状態ですれ違ってしまうと、歯痒いとかもどかしい以前に、悲しいです。 
しかも薪さんは、青木さんが雪子さんと一緒になることを本心から望んでるように見えるし。 それが薪さんの意志なら、受け入れるしかないですけど……。


Lさまへ

Lさま、こんにちは。(^^


> 「僕の血を全部彼にあげてください」
> 薪さんがどれだけ青木のことを大切に思っているかが分かる究極の一言でした。

はい、わたしも薪さんの愛は究極だと……、、、、、
ごめんなさい、ウソは苦手なので白状します。 これ、ギャグのつもりで書きました。(←!!!)
いや、だって……あんな小さなナイフでちょっと刺されただけなのに、どんだけ狼狽えてんの、こいつ、って感じで、すみません……。

ででででも、
本人は大真面目だったので!
傍から見たら本当にバカみたいですけど、本人は心配で堪らなかったんですー。 やっぱり愛してるので。


> 今回、取調室で薪さんが、鈴木さんを殺めてしまった過去を美月に語る場面を読んで、ふと“エピソード・ゼロ”を思い出しました。

「エピソード・ゼロ」から「ラストカット」まで……薪さんがどん底から這い上がってきた過程を思い出してくださったんですね。 
ありがとうございます。 そんな風に、過去の話から思い起こしてくださって感激です。(;▽;)

やっぱり、経験が言葉に重みを添えると思います。
4月号で青木さんの言葉が薪さんの胸に響いたのも、青木さんへの好意だけじゃなくて、青木さん自身、地獄を見てきたから。 だから受け入れることができたのかな、って思ってます。


> 薪さんにとって青木は“救い”というだけでなくもう自分の人生、命そのものなのでしょうね。
> しづ様の青薪さんは本当に深い絆で結ばれてる…!

青木がいなかったら今の自分はいない、そう考えていると思います。 うちの薪さん、ずっと死にたがってましたからね。(^^;
まだまだ齟齬も多く、あちこちですれ違ってて、ラブラブアツアツの熱愛カップルには程遠いのですが~、色んなことを一緒に乗り越えてきたので。 その経験が彼らの絆になってるのかもしれませんね。
うちみたいに、ズッコケた青薪さんを気に入ってくださって、ありがとうございます。 大好きと言っていただけて、本当に嬉しいです♪


> もうすぐ8月号が発売…

うちの方は明日ですけど、そうか、Lさまの処は来週になっちゃうんですね。
分かります、焦燥感半端ないですよねっ! わたしなんか、関西地区は1日発売が早いことを知った時、新幹線で買いに行きたいと思っちゃいましたもの。
今回はおまけのエピローグと言うことで、心配事はそう多くないと思いますが(個人的に、一つの懸念を除けば)、やっぱり早く読みたいですよね~。
Lさまのお手元に、早く8月号が届きますよう。 さらにはLさまにとって、楽しいお話でありますよう。 お祈りしてます。(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
おかげさまで8歳になりました(^^♪
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