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「とりあえずは、デートに誘ってみたら?」
 雪子のアドバイスは続いている。
 何のかんのと言って面倒見のよい彼女は、この若い捜査官を放っておけない。彼が少し、鈴木に似ているせいかもしれない。が、本心は『おもしろそうだから』だ。

「昨日手伝ってもらったお礼に、何かご馳走したいとは思ってるんですけど」
「薪くんの好みは知ってる?」
「フランス料理に赤ワイン、てカンジですよね」
 ブブー、と雪子は胸の前に指でバツマークを作って見せた。
「薪くんの好みは日本食よ。パンよりごはん、パスタより蕎麦。ワインより日本酒よ」
 似合わない。が、雪子が言うのだから本当なのだろう。そういえば昨日は、おかかのおむすびを食べていた。

「克洋くんがよく言ってたわ。薪くんは見た目と中身のギャップが大きいって。自分がどういう風に人から見えるのか、分かってないからだって」
「じゃ、寿司屋ですかね。騒がしいところは嫌いだって言ってましたから、居酒屋とかは避けたほうがいいですよね。三好先生たちとは、どんなお店に行ってたんですか?」
「ん~、たいていは薪くんの家で飲んでたわね、あの頃は。薪くんが料理を作って、あたしと克洋くんは食べるの専門。美味しかったなあ、薪くんの手料理」
 本当に何でもできるひとだ。
 青木も自炊はしているが、人に食べさせるほどの腕はない。それに、まだひとりで自宅を訪ねるほど、親しくなっていない。

「薪くんの好物は、お刺身かな。白身の淡白な魚。平目とか、鯛とか」
「それから?」
「お酒は冷酒ね。吟醸酒みたいなやつ。口当たりのいいのをガンガン飲ませると、面白いことになるわよ」
「酒癖が悪いんですか?」
「やってみればわかるわよ。でも、2人きりのときにしなさいね。周りに迷惑だから」
 なんだか詳細を訊くのが怖いような気がする。

「あ、それと。これはとっておきのネタ」
 そういって、雪子は青木の耳元に唇を寄せる。小さな囁き声。
「薪くんの性感帯。ここ攻めれば一発だから」
 それはぜひ聞きたい。

 今までも雪子は、薪に関する様々な情報を青木に提供してくれた。
 背が低いことを気にしていること。女みたいな顔をからかわれるのが大嫌いなこと。(自分では充分男らしいと信じている) 色の好み、服の好み、好きな作家―――― 他愛もないことだが、薪のことなら何でも知りたい。

 薪に憧れて、第九に入ってきたのだ。
 憧れはすぐに尊敬に変わった。傍で仕事をすればするほど、薪の凄さが分かる。畏怖と憧憬―――― 気がつけば、彼の後ばかり追うようになっていた。
 真摯な態度で事件に取り組む凛々しい姿に心を奪われる。決して妥協しない、真実を探る瞳。どんな画像にも顔色ひとつ変えない、見かけによらない豪胆さ。
 氷の室長などと噂されているが、実際はそうでもない。ときおり垣間見せる激情家の片鱗は、強い正義感に裏打ちされている。平和な社会を創るため、第九を、自分についてきてくれる部下たちを守るため、自分のすべてを捧げる―――― その潔さが好きだ。

 雪子には、感謝している。
 出会ってすぐに青木の気持ちを見抜いた彼女は、なにかと相談に乗ってくれる。頼りになる姉のような存在だ。

「じゃ、がんばるのよ」
 昼休みが終わりに近づいて、雪子は先に席を立つ。ごちそうさまと手を振って、さっそうと歩いていく。聡明で美しい女性。
 薪と出会っていなかったら、好きになっていたかもしれない。
 しかし、自分の心の中はすでにあのひとのことで一杯だ。他のものが入る余地はない。
「はい。がんばります」
 雪子の後姿に返事を返して、青木はすっかり冷めてしまったハンバーガーを口に放り込んだ。



テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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