クエスト(1)

 雑文、その2です。 (さっさと本編に戻れ? もうちょっと待って~、読み直し、あと5章だから~(^^;))

 薪さんの時計は 『ヴァンクリーフ&アーペル』 という高級ブランド品だそうですね。 一本、100万円以上もするそうじゃないですか。
 すごい、薪さん、お金持ち。(@@)

 うちの薪さんはめっちゃ貧乏で、通帳残が254円といういつ破綻してもおかしくない経済状況なのですけど、それはあるだけ使っちゃう乱費癖が原因なんですけど、
 原作薪さんも案外浪費家だったりして。 自宅のマンションの家賃、50万くらいだったりして。 あのスーツも全部、オートクチュールだったりして。
 だからきっと通帳残はうちと一緒で3ケタだと、あ、すみません、石を投げないでください、銃も下ろしていただけるとわたしのノミの心臓が落ち着きます。


 と言うわけで、雑文です。
 雑文なので商品の相場とか色々いい加減です、あ、いつもですね、すみません。

 時期は、二人が一緒に暮らし始めて半年くらい? 春だから、1年経ってるのかな? ←適当過ぎ。
 あんまり深く考えないで、かるーく流していただけると助かります~。
 





クエスト(1)





 その形状は、縦9センチ横15センチの薄い冊子。本のように横に開くのではなく、上下に開いて見る。
 頁のベースカラーは薄い黄緑色。白抜きの白線で6列に区切ってあって、一番左に日付が、その隣に文字が、あとは数字が並んでいる。

 青木は長いこと、それを見ていた。
 人が長時間同じものを見続けるにはそれなりの理由があると思うが、その対象が散文的な書類に限られた場合、そこに浮かぶのは主に2つの可能性だ。
 書類の内容が難解で、なかなか理解できない場合。そしてもうひとつは、書類に記された内容が信じがたいものである場合だ。今回は、疑いようもなく後者。

「なんですか、これは」
 その衝撃的な内容に固まってしまった首と肩を無理に動かして、青木は恋人を見る。ソファに座った青木の横で、ディーラーからもらってきた新車のパンフレットを眺めていた彼は、目を丸くして青木の問いに答えた。
「知らないのか? それは預金通帳と言ってだな、銀行に預けてある預貯金の出し入れの明細と残高を記したもので」
「それは知ってます。オレが訊いてるのは」
 いささか乱暴に相手の言葉を遮り、青木は通帳の最後のページを彼の目の前に突き出す。右手で通帳を開き、左手で右から二番目の欄を指差して、
「この残高欄の数字のことです!」

「ああ、おまえにはちょっと難しかったかな。
 いいか? ここが百の位で、次が十の位、その下が一の位。それぞれの数字に単位を当てはめて」
「わあ、さすが薪さん、わかりやすい、って、オレは入園前の幼稚園児ですか!!」
 やさしい口調と笑顔なんかでごまかされませんよっ! ここがベッドルームで薪さんがパジャマ着てたら喜んでごまかされますけど、て、そんな呑気なことを考えられる数字じゃない。
「なんなんですか、この892円て!」

 事の起こりは3日前。
 この春、青木が前々から欲しがっていた車のニューモデルが発売された。昨年秋の展示会で一目惚れして、この車に薪を乗せて走りたいと思った。
 発売の情報を得て、早速ディーラーに足を運び、実物を見てますます欲しくなり、でも一応は薪に相談してからと思って、パンフレットとオプション品のカタログをもらってきた。
 以前から車両購入に関する同意は得ていたし、車選びは車オタクのおまえに任せると一任されていたとはいえ、安い買い物ではない。一緒に暮らすことになった以上、青木の預金も薪との共有財産だ。相談するのは当然だ。
 新車のパンフレットを見せると、薪は軽く頷いて、
『これ、使っていいぞ』
 そう言って、この通帳を差し出したのだ。
 ……その残高が892円て!!

「ありえないでしょ! 入庁して何年になるんですか!?」
 青木が強い口調で言うと、薪はそれに押されたように上半身を後方へ引き、持っていたパンフレットで顔の下半分を隠した。亜麻色の大きな瞳が困ったように青木を見て、細い眉毛が寄せられて、普段強気な薪さんがたまにそんな表情をすると、そのギャップで萌え死にしそう、て、だからごまかされませんてば!
 
 何かの間違いだとしか思えない。
 薪は今年で44歳、勤続年数は20年以上になるはずだ。しかも、上層部の仲間入りを果たしたのが27の時、ということは16年も高給取りの立場にあって、なのに貯蓄額が3桁なんて。こんなことが現実であるはずがない。
 畳み掛けるように青木が怒ると、薪は、うなだれると同時に右手を口元に持って行き、しおらしく膝を揃えて斜め方向に身体を向け、目元に涙まで浮かべて、
「ひどい……青木、僕のお金が目当てだったんだ」
「ちがいますっっ!!!」
 相も変わらず、薪の冗談はシュールすぎて笑えない。

「違いますけど、いくらなんでもこの残高はないんじゃないですか? 六桁の月給と七桁の賞与もらってて、三桁の残高しか残らないって。どんなお金の使い方してんですか!?」
 一撃必殺の上目遣いも、究極奥義『ツンデレの涙』も効果がないとわかって、薪は背もたれにそっくり返った。いつもの尊大な態度になって腕を組み、命令口調で言い返す。
「青木、落ち着け。ここをよく見ろ」
 細い指が差した場所は日付欄。そこには、3年以上前の日付が記載されていた。
 言われてみれば青木だって、銀行の窓口に行く機会は滅多にないから通帳の記帳なんか何年もしていない。現金はコンビニでだって引き出せるし、買い物も食事も、殆どがクレジットカードだ。

 薪は流れるような動作でソファから降り立つと、リビングの一角に設けた仕事用のスペースに向かった。立ったまま机に左手を付き、右手でPCのマウスを操る。
 何桁かのパスワードを入力して、取引銀行のNETサービスにログインすると、彼は自分の口座の残高を調べ始めた。
「僕は警視長だぞ? 警察官僚の通帳残が、三桁のはずがないだろう」
 でも事実、3年前にはこの残高だったわけで、薪はそのとき警視長になって3年目。それだって常識から言うと、かなりありえないと思う。
「毎月確認してるわけじゃないけど、車の頭金くらいは軽く貯まってると思……」

 不意に、薪の手と言葉が止まった。
 そこに何とも不吉な間を挟んで、薪の不思議そうな声。
「あれ?」
 青木は薪の肩越しに、パソコンを覗き込む。液晶画面には最近の日付と入出金の摘要、金額、そして。

 残高 254円。

「減ってるじゃないですか!!」
 それもキャッシュカードで引き出せないような細かい金額、よく減らせましたね!?

 勢いよく突っ込む青木を、薪は手のひらでいなした。細い眉を優雅に吊り上げ、片方の手を腰に当てると、左肩だけをそびやかすように上げて、
「青の字、よーく聞きな。男ってぇ生き物は、宵越しの金は持たねえもんさ。あの世に金は、持って行けねえからな」
「ま、薪さん、カッコい、って、昨日見た仁侠映画の台詞なんかでごまかされますか!」
 仁侠映画は薪の趣味ではないのだが、たまたま彼の好きな女優が姐さん役で出演してて、て、そんなことはどうでもいい。

「いったい何につぎ込んでるんですか? まさか、ギャンブルとか」
「僕は警察官だぞ。賭け事なんかすると思うか」
 よくお昼ご飯を賭けて、岡部さんとオセロゲームしてますよね? てか、8年前、第九に入ったばかりのオレが1週間で辞めるほうに薪さんも賭けてたって岡部さんがバラしてましたけど。
「じゃあ、何に使ってるんですか? 服とか、時計とか?」
「わかんない。気がつくとなくなってて」
 典型的な濫費家だ。何に使ったか覚えていない、一番改善策の講じにくいパターンだ。

「預金が無かったら、生活に困るでしょう。もし月の途中でお金が無くなったら、次のお給料までどうやって過ごすんですか?」
「べつに。無けりゃ無いで、何とかなる。物を買わなければいいんだ」
 最悪だ。
 このひとはアレだ、あればあるだけ使っちゃうタイプだ。贅沢な暮らしに憧れているわけでもないのに、お金が手元にあると必要の無いものを買い込んだり、周囲の人たちにご馳走したり、つまりお金に執着が無い。基本が贅沢に慣れた人間ではないから、無ければ無いで平気、よって貯める必要を感じない。だから貯金をしない。
『貯金ができない人間』の王道だ。

「今はそれでいいかもしれませんけどね、年を取って働けなくなったらどうするんです? お金が無かったら、ごはんも食べられないんですよ」
「青木。僕、そんな先のことを考えてもいいのかな」
 亜麻色の瞳が、ふっと遠くを見た。
 薪の人生に陰を落とした過去の事件、その罪に慄くように、長い睫毛がそっと伏せられる。
「僕に、そんな権利があるのかな」

「薪さん……って、ごまかされませんからねっ!! そんな殊勝な気持ちがあるなら、慈善事業に寄附のひとつでもしてるはずでしょ! この通帳の明細、全部クレジットカードの引き落としじゃないですか!!」
「ちっ、目ざとい奴だ。だけどな、僕は寄附はしないぞ。行き先や使われ方を確かめようのないお金は払いたくないんだ。怪しげな団体に寄附するくらいなら、おまえらの飲み代にした方がいい」
 たしかに。第九の一員として、薪にはずい分タダ酒を飲ませてもらった。
 事件解決後の打ち上げに始まって、新人の歓迎会、暑気払いに忘年会。同僚同士の個人的なアフターにまで、一声掛ければ「僕は行けないけど、おまえらは楽しんで来い」と気軽に軍資金を出してくれる。
 太っ腹で金離れのいい室長はカッコイイと青木も思っていたが、残高254円の通帳を見せられては、幻滅を通り越して怒りが湧いてくる。

「とにかく! これからは、無駄遣いは慎んでもらいますからね。人並みの貯金はしてください」
 年下の立場から言うのは憚られる言葉だが、このままだと彼の未来が心配だ。薪が警察を退職したあと自分が彼を養うのはいいとして、今のうちにこの浪費癖を直しておかないと、消費者金融を渡り歩くハメになりそうだ。
「人並みって、どれくらい貯めればいいんだ?」
「そうですね。一般的な日本人の平均貯蓄額が400万くらい、でも薪さんの場合は収入額を考慮して、最低でも1千万」
「そ、そんな天文学的なお金……やっぱり青木、お金目当てで僕のこと」
「違いますってば!」
「じゃあ、カラダ?」
「それはちょっとだけ、って、何を言わせるんですか!!」
 可愛らしく小首を傾げたりして、たどたどしく言葉を継いだりして、顔が顔だけにロリ系MAX、たまんない、何でも許してあげたくなっちゃ、
 いーや、騙されないぞっ!

「どこが天文学的なんですか! 薪さんの場合、ボーナス3回使わなきゃ達成できる数字ですよ!? 扶養家族がいないんですから、定例給だけで充分生活できるはずです」
「そんなこと言われたって。ここの家賃、高いし。お給料だけじゃ、食べていくだけで精一杯で」
「あれ? 薪さん、時計替えました?」
「いいだろ、オメガの新作。冬のボーナスで買ったんだ」
「ステキですね。高かったんじゃないですか?」
「そうでもない。百万はしなかった、たしか86万」
「へえ、いい買い物しましたね。でも、いい時計を買うと、それに合わせて服や靴も凝りたくなるんですよね」
「そうなんだ。時計のイメージに合わせてオートクチュールで3着仕立てたら、150万もかかっちゃってさ。靴とカフスとネクタイピン買ったら、ボーナス全部なくなっ……」
 やっと気がついたか。
「僕を誘導尋問にかけるとは。おまえも成長したな」
 こんなグダグダの誘導で褒められても。

「まずはその、壊れた金銭感覚から直さなきゃダメですね」
「壊れてるとは何だ、失礼な」
「なくても困らないものにお金をつぎ込むのは、金銭感覚が壊れてる証拠ですよ。薪さん、時計たくさん持ってるじゃないですか。わざわざ新しいのを買わなくたって」
「これは、必要なものだ」
 薪は、開き直ったように腕を組み、長い睫毛を重ねて鷹揚に頷いた。つんと顎を上げ、得意の高慢な口調で言い訳を始める。

「想像してみろ。僕がこの時計だけを身につけて、ベッドにいるところ」
 それはぜひ見た……いや、引っかからないぞ。
「な? 時計だけだと、ちょっと間が抜けてるだろ。だから次は、このネックレスだ」
 シャツのボタンをひとつ外して、薪はそこから細い鎖を引き出す。スミレみたいに可憐な人差し指と白鳥のように優雅な首に渡された銀色の輝きは、まるで彼の肌の色に合わせて調合されたかのようだった。金よりも銀よりも、薪にはプラチナが似合う。
 真珠色の肌にプラチナのリストバンドとネックレス……は、鼻血が出そ、いやいやいや! これは大切なことだ、うやむやにしてはいけない。

「でもって、これは不要かとも思ったんだけど。おまえの耳の側に僕のくるぶしが来るときのことを考えると、やっぱり必要かなって」
 すい、とズボンの裾をまくると、裸足の足首にプラチナのアンクレット。
 薪の膝が自分の肩に乗って、ベッドが軋むたびに、彼の細い足首を飾るプラチナのチェーンが揺れ――。
「必要ですねっ!! アンクレットは絶対に必要っ……!」
 じゃなくて!

 ロリロリ攻撃の次は、お色気作戦で来る気か。青木が自分に夢中なのを分かっていて、その気持ちを利用して自分に都合の良い結論を導き出そうとしている。なんて狡猾で非道い人だろう。

「今夜、このアクセサリの必要性を確認してみようか?」
 騙されない、絶対にだまされないぞ。耳元にかかる甘やかな息とか、艶っぽい囁き声とか、そんなものに乗せられてたまるか。付き合って6年になるのだ、耐性だって少しはできて……。
「それとも、今から?」
 耐性……たい……。
「ここでしちゃおうか?」
 で、できて…………。
「ね? あ・お・き?」
「……薪さんっ!!」

 あとは野となれ。



*****

 色々あり得なくてすみません、怒らないで。




 

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Lさまへ

Lさま、こんにちは。


> とってもナイスな男爵さまのお話をありがとうございます!

ナイスですか? いいの?
自分では「やっちまったな」感がアリアリだったんですけど……Lさまに呆れられなくて良かったです。(^^;


> 青木くん、耐えてる、すごいよ…!なんて思っていましたら、最後のアンクレットで陥落しましたね。

青木さん、耐えてましたねえ。
自分たちの老後がかかってますからねえ。
青木さんが陥落したポイントも、そこかよって感じですが。(笑)


> 薪さんの魅力に抗える人間はこの世にいない!

ねーっ!
いませんよねー!
本当はみんなメロメロなんですけど、警察官と言う職業柄、必死に耐えてるんですよ、きっと。 一皮剥けばうちの連中と一緒です☆


楽しいコメント、ありがとうございました。(^^ 

Kさまへ

おおおおおおおっ!!!
Kさん、お久しぶりです!!
きゃーきゃーきゃー、コメントありがとうございますー!
お元気にしてらっしゃいますか? 

3月は残念でした。
ホント、血の涙を飲みましたよ……!(;;)
次の機会には、絶対にお会いしましょうね!


> この薪さん、最高ッッ!!d( ̄▽ ̄)

いいの!?
あははー、さすがKさん。 お心広いですー!
笑ってくださって、うれしいです。 何度も言いますけど、ここはギャグ小説サイトですから。 笑っていただけるのが一番うれしいです。(^^


またお暇があったら立ち寄ってくださいねっ。
コメントもお待ちしてます。
ありがとうございました!
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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