クエスト(2)

 こんにちは~。

 先月の末あたりから過去記事にずーっと拍手をくださってる方々、ご新規さんかな、ありがとうございます。
 どの辺でドン引かれるのかなー、とビクつきながらも(←罪悪感はもはや習性)、とっても嬉しいです。(^^
 この話の薪さん、「ありえねえ」のオンパレードなんですけど~、すみません、そこは最後まで読んでも改善されないので、
 あと、話に無理があるとか訳が分からないとかも筆者の限界なので早々に諦めていただいて、
 それから話がつまんないとか長さの割りに中身が無いとかくだらないとかバカ丸出しとか、……ぐすん。(自分で言ってて悲しくなった)

 どうか広いお心でお付き合いくださいっ!!!

 

 そんなわけで、(??)
 お話の続きです。
 よろしくお願いします。






クエスト(2)





「おっ、エルメスの新作。次の給料で買っちゃおうかな」
「いいんじゃないですか」
 空になったコーヒーカップを回収しつつ、青木が軽く応じると、薪は驚いたように青木を見やり、次いでつまらなそうに眼を逸らした。
 
 もう、このネタでは青木をかまえない、と判断したらしい彼は、インターネットのブラウザを閉じるとパソコンの電源を落とし、青木の後について台所へ入ってきた。ダイニングの椅子の背に掛けてあるエプロンを手に取って、
「夕飯、何が食いたい?」
「炊き込みご飯がいいです」
「うん。じゃあ春らしく、筍とエンドウ豆でいくか」
 はい、と返事をして、青木は冷蔵庫から灰汁抜き済みの筍とグリンピースを取り出す。風味付けのシイタケと鶏肉は分量を控えめに、その方が筍の香りが引き立つ。シイタケの隣に慎ましく立てかけられていたオレンジ色の根菜は、グリンピースの緑をいっそう鮮やかに引き立てると思ったけれど、見ない振りで扉を閉めた。

「青木。ニンジン忘れてる」
………ばれたか。
「炊き込みご飯の彩りに、人参は基本だろ。料理は見た目も大事だぞ」
「グリンピースの緑だけでも、充分きれいだと思ったんです」
「朱が加わったらもっときれいだ」
 薪はそう言って、野菜室から青木の天敵を取り出すと、青木の手のひらにポンと載せた。

 筍を薄く切り、シイタケの表面を固く絞った布巾で軽く拭う。きのこ類は流水で洗うと旨味が抜けてしまうことを、青木は薪から教えてもらった。
 下拵えをしている青木の隣で、薪は出し汁の準備をする。長さ約10センチの昆布の両側に、互い違いに鋏を入れ、水を満たした鍋に放す。10分ほど置いたら火に掛け、沸騰する寸前に昆布を引き出す。そうしないと、だし汁が海草臭くなる。鰹節はたっぷり入れて、3分間煮出して濾す。それから人参や玉ねぎなどの甘みの強い野菜をその汁で煮る。そうすると、だし汁に甘みがつく。
 料理は薪の趣味で、だから手間は惜しまない。特に高級な食材は使わないけれど、どんな高級料亭にも負けない味だ。個人的には、薪が絶賛する山水亭より美味だと思う。

 腕まくりしてだし汁のアクを掬う薪の手首には、普段使いのミュラー。デフォルメされた数字が踊る特徴的なデザインは、くだけた休日を演出するのに相応しい。
「その時計、いいですね。オレも同じの買っていいですか?」
「え? ……欲しけりゃやるぞ。バンドだけ替えれば使える」
「お揃いでしたいんですよ。いいでしょ?」
「おまえ、ひとに無駄遣いはダメとか言っておいて」
 茹で上がった人参を鍋から取り出して、まな板の上に置き、薪は訝しそうに青木を見ている。薪の注意が他所に向いている今のうちに、人参をディスポイザーに入れてしまえば……さすがにバレるか。
「薪さんとのペアウォッチは、無駄じゃありません」
 にっこり笑ってそう言うと、薪は大きく眼を開き、2回続けて瞬きをした。

 薪にまんまと誘い込まれて、青木の決心も薪の身体も、ソファの上でわやくちゃになってしまったあと。
 落ち着いて検証してみたら、薪の供述には無理がある。現物との収支が合わないのだ。
 20年もの間、収入のすべてを全部買い物につぎ込んでいたら、クローゼットには物が溢れかえっているはずだ。でも、薪の収納スペースはいつもきちんと整理されていて、充分な余裕がある。リサイクルショップという手もあるが、その類の店に足を運ぶ彼を見たことはない。今までの彼を思い起こすに、頭のてっぺんからつま先までブランド品で固めている様子もなかったし、365日違うスーツで出勤してきたわけでもない。
 何よりも薪の性格からして、「自分が稼いだ金の使い途をおまえにとやかく言われる筋合いはない」と怒るなら自然だが、こんなことで誤魔化そうとするなんて。そこが一番、らしくない。青木には知られたくない何かがある証拠だ。
 画面に表示された銀行口座の引き落としは、すべてクレジットカード。その中には公共料金から家賃まで、生活に係る殆どのものが含まれている。
 そう思って青木はやっと、クレジットカードでも募金はできると気がついた。

 その後は必ず眠くなる薪が、ソファの上でうとうとしている隙に、いけないと思いつつもこっそりと、薪のクレジットカードの明細を調べた。
 青木の予想通り、そこには『日本学生支援機構』『交通遺児育成基金』の二つの財団法人と6桁の数字が並んでいた。
 この二つを選んでいるのは多分、薪が昔世話になったことがある基金だからだ。自分がしてもらったことは返そうと、彼の律儀さの表れなのだろう。
 正面からお金の使い途を聞いた自分がバカだった。考えてみれば、このひとが素直に自分の善行を認めるわけがないのだ。

「車、欲しいんだろ? 貯めておいた方がいいんじゃないのか?」
「買いますよ。それくらいは持ってます」
「えっ、本当か。おまえって、セコセコ貯めるタイプだったんだな」
「普通です、普通」
 そう、青木は普通だ。普通の人間は、通帳残が3桁になるまで寄附はしない。
 おそらく薪も、始めからそんなことをしていたわけではないと思う。家族もいない自分の老後より、子供たちの未来のために、なんて、薪はそんな殊勝な人間ではない。ずっと彼を見てきた青木には、彼の収入に合わない寄附の背景を容易に想像することができる。
 多分きっかけは、あの事件だ。そうでなければ、このマンションには入れなかっただろう。一定の収入があることはもちろん、ある程度の残高が銀行口座に残されていないと、この手のマンションは入居を断られるからだ。

 おそらくそれは、高潔な精神から生まれる純粋な善意ではなく。
 明日が来なければいいと思いながら、それでも生きなければならなかった日々の中で、罪を贖うことすら許されなかった彼の、代償行為に過ぎなかったのかもしれない。あるいは、長く生きる予定もない自分が持っていても仕方ない、という投げやりな気持ちから始めた自虐的な行動だったのかもしれない。それは青木には判断しかねるが、彼の重ねてきた行いは確実に多くの子供たちの役に立っているはずで、大事なのはそこだ、と青木は思う。

「車買ったら、僕にも運転させろ」
「いいですよ」
「半分は僕が払ってやる」
「お願いします」
 残高三桁がどうやって? などという、嫌味は言わないことにした。
 薪は一瞬、何かに気付いたようだったが、素知らぬ振りで料理の続きに戻った。青木が研いだ米をザルに上げると、後は自分がやるからいい、と青木を台所から追い出した。
 
 リビングと風呂の掃除を終えた青木が、薪に呼ばれて再び台所に入ると、ダイニングテーブルには春の食卓が用意されていた。
 筍とエンドウ豆の炊き込みご飯に、鰆の塩焼き、菜の花のおひたし。蛤の吸い物に、高野豆腐と野菜の炊き合わせ。高野豆腐の器に盛られた絹さやの緑と、人参の朱がとてもきれいだ。
 薪が茶碗によそってくれた炊き込みご飯を見て、そこに自分を少しだけブルーにする朱色が混じっていないことに気付いた青木は、「あ」と声を上げたが、
「なんだよ」
 と、低い声で薪が凄むので、慌てて口を噤んだ。
 でもやっぱり薪の気遣いはうれしくて。だから青木は、そのことを言いたくてたまらなくなる。
「炊き込みご飯の彩りは、グリンピースだけでも充分きれいですよね」
 緑茶を淹れる薪の横顔は、つんと澄ましたポーカーフェイス。応えは返って来ないが、その肩は穏やかに開かれている。

 薪はいつも本当のことを言わないから、青木は懸命に彼を観察して、彼の真実を見つけようとする。その過程には数々のトラップやミスリードが張り巡らされており、そうまでして彼が何を守りたいのか、青木にはよく分からない。
 でも。
 やっとの思いで開けてみた宝箱の中身は、一度も青木を裏切った事がない。
 
 それは、永きにわたる壮大なクエスト。
 彼の中に隠された数多の秘密。ひとつ箱を開けるたびに、青木は彼をもっと好きになる。
 どんな困難が行く手を阻もうと、ドロップアウトは絶対にしない。制覇の可能性は限りなく低いけれど、コンティニューはプレイヤーの意志に任されている。
 毎度、正解に辿り着くには苦労するのだけれど、そこには必ず青木を嬉しくさせるものがあって、だから青木はこのクエストから抜けられない。

「いただきますっ」
 薪が席に着くのを待って、青木は吸い物に手を伸ばした。
 やわらかく火が通った蛤と、その香りを邪魔しない昆布ベースの澄まし汁は絶品で、旬のサワラは滑らかに舌の上でその身をほどく。
「やっぱり、旬の魚は美味しいですね」
「サワラが美味いのは冬だぞ」
「え、そうなんですか?」
「サワラは魚編に春って書くけど、回遊魚だからな。1年中獲れる。サワラが春に旬を迎える地方っていうと、瀬戸内海辺りになるかな。関東じゃ、冬の方が脂が乗ってて美味い」
 毎回、薪の雑学には舌を巻く。青木が薪に勝てることと言ったら、車の運転と乗り物に関する知識だけだ。
「薪さんて、そういう知識をどこで身につけるんですか? 料理もやたら詳しいですよね。誰かに習ってたんですか?」
「さあな」
 軽くはぐらかされて、薪の謎がまたひとつ増える。コンプリートへの道は遠い。

 まあいい。ずっと一緒に暮らしていくのだ。時間とチャンスはたっぷりある。

 翡翠を散らした餐の、春の息吹で炊いたようなやさしい味わいに目を細めて、青木は新しいクエストへの第一歩を踏み出した。




(おしまい)



(2011.4)

テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま、こんにちは!
コメントありがとうございます。(^^


> まさか薪さんて実はギャンブラーで、週末毎にパチンコや競馬につぎこんでいたらどうしよう…。

といただいいて、
「競馬新聞に赤鉛筆」の薪さんを想像してしまいました!(>∇<) ←いつの時代のイメージ?!
や~ん、さすがギャグマシーンのAさまだよ~~。 いっそ、そうすれば良かったよ~。(笑)


FXや株は、いかにもエリートっぽいですね。 カッコいいです。
薪さんは天才だから、ずばずば上がり株を読んじゃうかも?


> そしてこれからは薪さんは未来に向かって、青木と一緒に生きるための資産をコツコツ築いていかれるのでしょうね。
> ほのぼのしていて、なんだか幸せな気持ちになりました。

とりあえず、この二人の財布は青木さんが持つことになりそうです。 奥さんが財布持つの、一般的でしょ?(笑)

Aさんに幸せな気持ちになっていただけたの、うれしいです。 公開してよかった。
ありがとうございました。
プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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