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告(10)

告(10)






「薪さんに特訓受けてるんだって?」
 揶揄するような口調で、小池が話しかけてきた。まったく、ここの先輩たちは本当に情報が早い。
「ほんと、おまえは薪さんに気に入られてるよな」
「そういうんじゃないです。オレがあんまり出来が悪いから」
 訓練の間は怒られてばかりで、とてもそんなふうには思えない。室長と自分の実力の差をはっきりと思い知らされて、落ち込む日々が続いている。相手が薪でなかったら、とっくに逃げ出しているところだ。
 
「そんなことないだろ。おまえは着眼点がいいし、粘り強さもある。薪さんはおまえに期待してるんだよ。そりゃ、おまえは少し不器用で機械操作はいまいちだけど、経験をつめばもっとうまくなるさ。それより」
 一旦言葉を切って、小池はためらいがちに言う。
「薪さんが心配してるのは、おまえが視覚者や被害者に感情移入しすぎるってことだろ。MRIってのは、視覚者の主観に沿った画像なんだ。事実とは違うこともある。偏った状況証拠みたいなもんだ。そこから真実を見極めるのが大切なんだよ」
 少々皮肉屋ではあるが、小池は良き先輩だった。青木の良いところ足りないところをきちんと把握した上で、的確なアドバイスをくれる。
「室長の目は特別だ。どんな小さな情報も見逃さない。たった5分のMRIで、犯人を突き止めてしまったこともある」
 そんな凄い人がつきっきりで教えてくれるんだから、感謝しろよ―――― そう言った小池の口調には、明らかな羨望が現れていた。
 普段はわりと薪に対して辛辣な陰口を叩いている小池だが、本当のところは薪に憧れている。そうでなければ、唯我独尊を地で行く室長の部下ではいられない。

 時間外の訓練も今日で4日目。
 さすがに疲れを隠せない青木だったが、小池の励ましのおかげで元気が出てきた。とにかく単純な男である。
 今日こそ頑張って画像を解き明かし、室長に褒めてもらいたい。
 その一心で青木は、マウスを操る。大好きなひとのため、役に立つ人間になりたい。その思いがあるから青木は努力を続けられる。
 割り当てられた報告書をいち早くまとめ上げ、室長室に持参する。他に仕事がなければ、少し早いが訓練に入らせてもらえるよう薪に頼んでみよう。

 最近の第九の仕事柄、室長の机にはうずたかく報告書の山が築かれている。左端に置かれた飲みかけのコーヒーはすっかり冷めてしまっているようで、淹れ直しが必要だった。
 書類を読みふける室長の顔は、いつも通りに冷涼で平然としているが、いくらか目が赤い。連日青木に付き合ってくれているのだから、疲れも溜まっているだろう。

「室長。今日の夜食、何がいいですか? うなぎでも買ってきましょうか」
 華奢な指で報告書をめくりながら、薪は首を振る。亜麻色の髪が左右に揺れて、卵形の輪郭を彩った。
「今日は休みだ。おまえも疲れているだろう」
「いや、大丈夫ですよ。まだ若いですから」
 薪さんと違って、と言ったら殴られるかな、と心の中で舌を出す。青木の心を読んだように、薪の眉がぎりっと吊り上がった。
 睨まれる。
 沈黙。
「……すみません」
 このひとは自分の心が読めるのかもしれない。謝るのが勝ちだ。

「週末は、おまえにも予定があるだろう」
 そういえば、今日は金曜日だ。今夜なら薪を食事に誘えるかもしれない。
 雪子からの情報で、薪のお気に入りの店を何軒かチェックしてある。定刻で帰れるなら時間に余裕があるから、料亭で懐石料理もいいかもしれない。部屋を取って2人きりで、酒はもちろん薪の好きな吟醸酒を用意して――― そこで気持ちを伝えよう。

 誰よりもあなたを愛しています。何よりもあなたが大切です。
 あなたのすべてが好きで好きで愛しくて。

「あの、薪さん」
「今日は全員、定時退室だ。電話していいぞ」
 再び書類に目を落とす。青木の顔を見ずに、薪は言葉を継いだ。
「雪子さんを誘ってやれ」
 ……どうしてここで、雪子の名前が出てくるのだろう。どうして自分に彼女とのアフターを勧めるのだろう。自分は薪と一緒にいたいのに。

「ハンバーガーはやめとけよ」
 前言撤回だ。このひとは、自分の気持ちなど全然わかっていない。
「だいたい女性を食事に誘うのに、ハンバーガーはないだろう。今日はちゃんとしたレストランにしろよ。そうだ、雪子さんの好みは中華だぞ」
 薪の耳に入らないように細心の注意を払ったつもりなのに、いつの間にか誤解を受けている。他の者たちにはどう思われようと構わないが、彼だけは別だ。何とか誤解を解かなくては。
「どうして三好先生なんですか? こないだから薪さん、何か誤解してませんか?」
 つい口調が激しくなるのを、青木は止められなかった。普段ならそれほど怒りっぽい方ではないが、いい加減連日の疲れも溜まっている。

 薪は答えない。黙って書類をめくっている。
 腹が立った。
 いつもなら高潔な印象を与える薪の冷静な態度も、今は意地悪としか思えない。自分の主張をわざと聞かない振りで、この場をやり過ごそうとしている。

「オレと三好先生は、そんなんじゃありません」
 冷静な無表情。
 薪は黙って書類をめくる。
 青木の中で激しい感情が渦を巻いて、堰を切ったように溢れ出した。

「オレが好きなのは、あなたです」


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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きゃー、告ったー!!

って、え、しづさん、ここで更新停めますか?
きゃー、生殺し(><)

あ、次でエントリー数100ですね♪

キターーーーーーー!!!

て、やっぱり焦らしプレイですか・・やっぱりしづさんドSですね・・

てかブログ初めて一週間でエントリー数100って(@@;
今日、明日抜かれるなコレ・・・orz

青木の玉砕楽しみにしてます♪♪♪

ここで切るとは・・・

ここで切るとは・・・ドSですね!!(T_T)
人のこと言えないですがね・・・・。でもいぢめるのは好きやけど、いぢめられるのは嫌・・・。

ううん・・・色々な事情でしゃあないとはいえ、食事に誘いたい相手に「別の人とデートしてこい」って言われるのって空しいでしょうね・・・。(@_@;;)
でもちょっぴり自業自得のような・・・。誤解されないように上手い言い訳を考えとけばよかったのに青木・・・。
「俺たちMMR(マガジンミステリーサークル)同好会なんです」とかさあ。・・・・まあ誤解はとけても、ドン引きされそうですが・・・・・・。

それにしても雪子さん、薪さんの美肌を不思議がってましたが中華だのフレンチだのミートピザだの好んで食べまくって、太らないあんたもたいがい不思議ですよ・・・?

>前言撤回だ。このひとは、自分の気持ちなど全然わかっていない。

・・・何を今更・・・・。裸エプロンの時だって、マッサージの時だって・・・。

青木は多分この次で地獄の底の底のドンドコ底まで突き落とされると思いますが、以前より脈はあるんじゃないでしょうか(^_^;)
少なくとも嬉々として青木と雪子さんをくっつけようとしていた頃の、薪さんを考えれば!!!
「女なんかやっちゃえば」とか言ってたのを考えれば!!!

でも青木には落ちていただかないと・・・・v
          (^∇^ ドs)

NoTitle

やっとやっと・・・娘のピアノレッスンが終わって、買い物して、帰宅して、犬の散歩して、母屋で夕食の支度して、食べて片付けて、離れに戻って即パソを立ち上げて・・・・

・・・・・・・・・・

ここで止まってるんですか・・・・(TT)

薪さん・・薪さんの反応は・・・・・・・?

冷たくあしらわれたとしても、せめて「本気」だということだけは、しっかり伝えるんだよー、青木!

ドSでいいです・・。

みなさまへ

こんなダラダラした小説の続きを求めてくださって、感謝にたえません。
ありがとうございます。

レス、遅くなりましてすみません。
まさか一日に二度もこんな腐れた世界を覗きたがる酔狂な方がいらっしゃるとは思いもせず、コメの確認を怠っておりました。
これからは気をつけます。


■めぐみさんへ

> きゃー、生殺し(><)

ち、ちがいます。
単に、だんなの妨害をかいくぐってるだけです。(うちは自営業なので、昼間もだんなと一緒)

でもこれ、めぐみさんにだけは言われたくないです・・・。
SLIPの続き・・・ううう、はやく薪さんを、あの地獄から救ってあげてください。

といっても、28日までは創作活動にも身が入らないですよね。わたしも昔書いた話のUPはできますけど、新作のほうは全然進みません。ホント、待つ身はツライです。

> あ、次でエントリー数100ですね♪

あ、ほんとだ。
めぐみさんに言われて初めて気付きました。
記念すべき100番目の記事は・・・ぶはは!図らずも、この小説にぴったりの節です!


■コハルビヨリさんへ

> て、やっぱり焦らしプレイですか・・やっぱりしづさんドSですね・・

・・・みなさんの誤解が哀しいです・・・。

> てかブログ初めて一週間でエントリー数100って(@@;

1年前から書き溜めてましたから。
去年はずーっとこればっかりやってましたから。
現在、34話まで書いてあるんですよ。キチガイですね、我ながら(笑)

> 青木の玉砕楽しみにしてます♪♪♪

あはは!
ストレートなご意見、ありがとうございます。
ご安心ください、コハルさんの期待は裏切りません!(それでいいのか?あおまきとして・・・)


■わんすけさんへ

> ここで切るとは・・・ドSですね!!(T_T)

・・・・もういいです、ドSで(開き直った)

> 「俺たちMMR(マガジンミステリーサークル)同好会なんです」とかさあ。・・・・まあ誤解はとけても、ドン引きされそうですが・・・・・・。

いや、これ案外、「僕も入れてくれ」って言うかも。
うちの薪さんはミステリー大好きですから。

> それにしても雪子さん、薪さんの美肌を不思議がってましたが中華だのフレンチだのミートピザだの好んで食べまくって、太らないあんたもたいがい不思議ですよ・・・?

大食漢が好きなんです。
自分があまり食べられないので、自分にないものを求めるんですね。だから、高身長のひとにも憧れます。(作者の身長は148cm)
作中で薪さんが低身長を気にしているのは、そういうわけです(笑)

> 青木は多分この次で地獄の底の底のドンドコ底まで突き落とされると思いますが、以前より脈はあるんじゃないでしょうか(^_^;)
> 少なくとも嬉々として青木と雪子さんをくっつけようとしていた頃の、薪さんを考えれば!!!
> 「女なんかやっちゃえば」とか言ってたのを考えれば!!!
> でも青木には落ちていただかないと・・・・v
>           (^∇^ ドs)

だーれも青木の告白がうまく行くと思ってないんですね。(笑)
わたしも考えてませんけど!

ところで、こんなところでなんですが、わんすけさんにリンクの許可をいただきましたので、張らせてもらいました。前回、失敗してるので、おかしかったら連絡ください。よろしくお願いします。



■かのんさんへ

拍手コメもいただいてたんですね。
何度も覗いてくださって、ありがとうございます!

> やっとやっと・・・娘のピアノレッスンが終わって、買い物して、帰宅して、犬の散歩して、母屋で夕食の支度して、食べて片付けて、

おつかれさまです。
日常の雑事って、ほんとうに多いんですよね。

>離れに戻って即パソを立ち上げて・・・・

即!
あはは、目に浮かぶようです。

> ・・・・・・・・・・

あ、あれ?
かのんさん、どうなさいました?


> ここで止まってるんですか・・・・(TT)

あわわ、かのんさんを泣かせちゃった・・・。
どーしよー、どーしよー。

・・・・・。
ドSですから!

> 冷たくあしらわれたとしても、せめて「本気」だということだけは、しっかり伝えるんだよー、青木!

『か、かのん姉ちゃんまで。オレが振られること、確定なんだ・・・』BY青木

プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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10万拍手ありがとうございます!
いつの間にか9歳になってました。( ゚Д゚)
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