GIANT KILLING (1)

 あんまりアホな話ばっかり公開してると本物のアホだと言うことがバレそうなので、薪さんのお仕事の話をひとつ。
 
 みなさん、『GIANT KILLING』てご存知ですか?
 スポーツ用語、主にサッカーに使われる言葉で、直訳すると「王者殺し」。 弱小チームが強豪チームを倒すことを言うんだそうです。 サッカーは得点するのが難しいスポーツなので、それが起きる確率が高いとかで、だからサッカー用語みたいになってるんですね。
 この題名のサッカー漫画もあって、アニメにもなったんですけど、観てた人いないだろうなあ。(^^;


 書いたのはアニメがBSでやってた頃だから、2年前の7月です。 
 第九が解体された今となっては賞味期限が過ぎてる気がしますけど、しかもカテゴリは雑文なので意味もないんですけど、よろしかったらどうぞ。






GIANT KILLING (1)






「釈放だ」
 警視総監の剣呑な声が響いた。
 予想はしていた。それに対して自分が反論するであろうことも、この男は予想していると知っていた。

「総監。もう少しだけ、時間をください。せめてあと1日。必ず証拠を掴んで」
「確実に証明されるかどうかも判らないMRIの画に、現役の大臣を拘束する力があるはずがないだろう。拘束中の秘書は釈放。この件に関して、これ以上の捜査は不要だ。下がりなさい」
 相手が悪いのは解っている。しかし、これは殺人事件なのだ。被疑者の職業が捜査に影響を与えるなど、あってはならない。薪は食い下がった。

「これを見て下さい。画面右下の男、顔は映っていませんが、この服は当日の朝、被疑者が着用していたジャケットと同じものです。今はここまでですけど、もう少し解析が進めば」
 年若い警視長が机に広げた何枚かの写真を、総監は押しのけた。これ以上、話を聞く気はない、ということだ。
「こんな不確かな証拠で、現役の外務大臣を引っ張れというのか」
「責任は僕が取ります、僕の首を懸けてでも」
「思い上がるな」
 警視庁の頂点に立つ男が、厳かに言った。それは静かな恫喝だった。
「君が警視長に昇任したところで、第九の地位が向上したことにはならない。あくまで第九は研究室、警察庁の出先機関に過ぎんのだ」

 その気になればいつでも潰せるぞ―――― 声にならない脅迫を受けて、薪は口を噤む。引き下がるしかなかった。
 今まで、何度こうして煮え湯を飲まされてきたことだろう。正義の名の下にあるはずの警察機構、しかしその実態は、出世と保身にまみれた汚い裏取引がまかり通る世界。自分が警察を離れた後も利用できる有力なツテには決して捜査の手を伸ばさない、それが上層部の意思だ。

「……っ!」
 上からの圧力に屈して膝を折るしかない自分の存在が、とてもちっぽけなものに思える。ここまで捜査を続けてきた部下たちの努力を、室長の自分が摘まねばならない、屈辱に震えるこの口唇で、捜査中止の命を告げなければならないのだ。
 これまでにも何度か、薪はこの耐え難い職務をこなしてきた。自分ひとりのことなら決して譲らない、しかし第九を、部下を守るためには必要なことだった。

 過去に幾度も試みたように、薪は研究室に帰る前に中庭に出た。第九の建物が見える場所に大きく枝を繁らせた、一本の樹。そこはかつての親友と、自分たちの未来について語った思い出の場所だ。

 ―――― すごいよな、第九だぜ。最先端の捜査方法だぜ。

 薪の脳裏に、いつか親友と話した会話が甦る。懐かしい声に涙腺が緩みそうになり、薪は俯いた。

 ―――― 被害者が死んでも「おしまい」じゃない。今までヤブの中だった犯行動機や犯人が。

 黒い瞳を輝かせて、未来の捜査に夢を馳せていた親友の姿。やさしい彼が望んでいたのは、非業の死を遂げた被害者の無念を晴らし、その遺族たちの未来にほんのわずかでも寄与できればと。
 自分の大切なひとの命の鼓動が誰の手によって止められたのか、遺族には知る権利がある。知ったところで亡くなった人は還らない。だが、それを受け止めることができれば、前に進める。どんなに深い悲しみからも、前に進む気概があれば抜け出せる可能性が生まれる。
 しかし、闇に埋もれた事件の被害者には、その活路は見出せない。何故死んだのか、誰がこんなことをしたのか、どうして彼が被害に遭わねばならなかったのか、何も分からず何も知ることができず。被害者の無念は残り、遺族の時間は止まる。

 神のごとくすべてを見通すMRIは、それを防ぐ最終兵器だったはずなのに。そう信じたからこそ、倫理や道徳を乗り越えて、この職務に身を投じてきたのに。

 ―――― これからはわかる。何でもわかる。

「分からないよ、鈴木」
 昔こんなとき、親友の胸に額を預けたように、薪は固い樹皮に額をあてた。そこには当然、今の薪に必要なぬくもりも労わりもなく。物言わぬ静かな生命が、彼の慟哭に関係なく端座しているだけだった。
「見ることすらできない……被害者の視界さえ、藪の中なんだよ」
 かつては親友の温かい胸に吸い込まれた涙が、風に散った。彼を失ってから薪はたったひとり、この痛苦に耐えてきた。薪の涙を拭いてくれるひとは、もういないのだ。
「鈴木……ごめん。ごめんな……」

 僕はおまえの理想を叶えてやれない。
 おまえの人生を奪っておきながら、おまえの夢ひとつ実現できない。おまえが自分で成し遂げたかっただろう、MRI捜査による被害者の魂の救済を、せめて僕が代行しようと思ったのに。

 僕の手は小さくて、あまりにも小さくて、ほんの一握りの人々の最期しか掬うことができない。
 そのわずかな成果でさえ、この手から零れ落ちていく。意志とは裏腹に大きく開いた指の狭間から、落ちて落ちて落ちて。
 
 落ちて行く彼らを見送りながら、薪は自分の無力を嘆く。
 許して欲しいと願うことすらおこがましい。ならば、自分は最下層に堕ちよう。そこに落とされた彼らの痛みを知ろう。
 闇に葬られた事件の犠牲者たちの、せめてもの慰みに。
 



テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Nさまへ

おおおおお!!!!
Nさま、よかったですね!!!
いやー、本当に良かった!!!



> 真面目な話はまとまってから読みますね!

あ、これ、雑文なんで。 さらっと読めると思うんですけど……言われてみれば、始まりの部分重いですね。
でも大した話じゃないんですよ~。 だって書いたきっかけが、
「ジャイアントキリングの主題歌が気に入ったから」 ←なにそれ。

Nさんは、ジャイキリ、お読みになったんですね。
わたしはサッカーはあんまり興味なくて。 原作は読んでません。←なにそれ2。
だからキャラのお名前言われてもよく分かんない、あ、タツミだけは知ってます、監督さん。←なにそれ3。

アニメの主題歌がね、応援歌になってて、凹んだときに聞くとすごく元気が出たの。 
こんな風に薪さんのことも励ましてあげたい、元気付けてあげたいと思って書きました。 歌詞も、MRI捜査の理想と現実に悩みながらも前進する薪さんに合ってたし。 雑文なんてそんなものなんです、大目に見てください。(^▽^;


男爵は、ええもう、
何も考えずに読んで、ていうか、あれで何かを考えろと言う方が無理☆
笑ってもらえたらそれが一番幸せですwww。

Rさまへ

Rさま。

きゃー、ジャイキリ観てたんですかー。
ええ、地上波でもやってましたね。 NHKで。 再放送もしてたから、好評だったのかな?
しかーし、
実はわたし、サッカーにはとんと興味が持てませんで……理由は、人数多過ぎて覚えきれない。←バカ。

このお話は、あのアニメの主題歌に影響されて書きました。
すっごく元気の出る曲だったから、お仕事する薪さんを応援するつもりで。


> お話は、薪さんが自分の考える正義との矛盾に苦しみながら、題名とおり相手を追い詰めていくんだろうなと楽しみです。

そ、それが~~、
雑文カテゴリであることからお察しいただけるように、内容はそんな立派なものではありません。(^^;) 事件の概要も考えてないし。<こら。
ちゃんとした事件は今書いてるので(とは言っても所詮は素人、穴だらけ☆)、しばらくお待ちください。

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しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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