恋人のセオリー その5

 祝!!!
『秘密』過去編、スタート!!



 個人的には不安もたくさんあるのですけど、(鈴木さんとか鈴木さんとか鈴木さんとか)
 新しい薪さんに会えるのは、やっぱり嬉しいです。
 それも、こんなに早く会えるなんて。 先生、長期連載終了後でお疲れでしょうに、本当にありがとうございます!
 白状しますと「過去編」とのお言葉、読書会のお愛想かと思ってました。<こらこら。
 気が向いたらね、くらいのニュアンスだと思ってたんです。 それに、描いてくれたとしても事件中心になるって話だったし、薪さんじゃない第九室長が主役になるんだと思ってた。 だってほら、薪さんが主役になったら彼の美貌に心を奪われて、読者はみんな事件なんかどうでもよくなっちゃうじゃん。←おまえだけじゃ。

 コミックスも加筆がたくさんあるみたいだし。
 10月末はお祭りですねっ!!



 で、今日のお話ですが。

 予告とも妄想とも違う話ですみません。 さらに勝手な都合で、予告の『パーティ』は次の話の後になります。
 うーんとね、クリアファイルがいけないの。 モロ「明日に向かって撃て」なんだもん。 ちょうどその話書き上がったとこだし、こっちを先に公開したくなっちゃうんじゃん、ねえ。(←誰に同意を求めているのか)
 それにしても、このファイルの青木さん、カッコいい。 薪さんじゃなくても惚れるわ。

 ということで次のお話は、法十版『明日に向かって撃て』(原題 「たとえ君が消えても」)でございます。 よろしくお願いします。


 こちらはその前座なんですけど~、
 うちの青薪さんは、片方が死んでももう片方が後を追うようなことはございません。 相手と別れたら生きられない、ということもありません。 べつに冷めてる訳じゃないと思うんですけど、あ、やっぱり冷めてるのかしら? ううーん。
 ぬるいカップルですんません。





恋人のセオリー その5





『青木。僕はもう、青木が傍にいてくれないとダメなんだ』
「薪さん……」
『青木がいないと、生きていけない』
「薪さんっ! オレもです、愛してます!」
『青木っ!』
「薪さ、痛ったいっっ!!」
 ゴイン! と言う派手な音と共に青木の後頭部を直撃したのは、あろうことかフライパン。このひと、本気でオレのことコロス気じゃ。

「なにを気色悪いことやってんだ」
 絶対零度のオーラをまとってキッチンから姿を現した青木の恋人は、冷ややかに言い放った。その出で立ちは白地に小さな野菜柄のエプロン姿で、彼の険しい表情にはまったく合っていないが、やっぱりかわいい。

「気色悪くないですよ。むしろ、これが本来の姿かと」
「いい年した大男が不気味なセリフを呟きながら自分で自分の肩を抱きしめるのが?」
 薪はローテーブルの上のリモコンを操作して、青木が見ていたコテコテの恋愛ドラマを止めると、容赦なくテレビの電源を切った。それから明らかに青木をバカにした目つきで、
「こんなドラマばっかり見てるから、脳に虫が湧くんだ」
 薪は恋愛もののドラマが苦手だ。見ていると、身体中痒くなってくるらしい。引き換え青木は、ロマンチックなラブストーリーが大好きだ。自分がドラマの主人公になって、ヒロインのセリフを薪に言ってもらえたら、と妄想するのはとても楽しい。
 青木の妄想の中の薪は恥じらいに頬を染めて青木を見つめ、亜麻色の瞳をうるうるさせながら愛の言葉をそっと囁く。青木がそれに応えて同様の言葉を返すと、感極まって青木の胸に飛び込んでくる。ふたりは熱い抱擁を交わし、それから甘いキスを――――。

「なにが『愛してます』だ。くだらない」
「他所さまの青薪は、みんなこうなんですよっ! うちは薪さんが協力してくれないから、オレがひとりでやるしかないんじゃないですか!」
 空想と掛け離れた薪の言葉に、青木は強い口調で言い返した。恋人に愛を伝える大事な言葉をくだらないなんて、いくら薪でも許せない。
「あん? 『他所さまのアオマキ』って、なんだ?」
「いや、そこは突っ込まないでください。色々あるんで」
 薪は首を傾げ、呆れ果てたというよりは困惑した口調で独り言のように呟いた。
「やるしかないって……そこまでして遂行する必要があるミッションなのか?」
 床に落ちたフライパンを拾い上げ、ちらりと青木を見る。薪の身体からケチャップの匂いがするから、きっと今日の昼食はオムライスだ。

「勿論です。だってオレたちは恋人同士で、身も心も離れられない関係でしょう?」
「ふうん。そうなんだ」
 ここでめげてはいけない。このぐらいで引いてたら、『秘密』の世界では生き残っていけない。

「恋人同士ってのは百歩譲って認めるとして」
 ちょっと待って! 譲るとこですか、そこ!!

「身も心も離れられない関係というのはどうだろう。これまでも仕事の都合で何日も会えなかったりしたけど、お互い命に別状は無いようだが?」
 そんな、冷静に分析されても……。

 折れそうになる心を必死に立て直して、青木は懸命に言葉を紡ぐ。言語能力に些かの不具合がある薪に、恋愛における特殊な比喩表現を理解させるには、根気強く説明するしかない。
「それは短い間だからですよ。これが長期に渡ったら、オレは確実に健康を害します。真面目な話、オレ、薪さんがいないと食欲がなくなるし」
「腹八分目は健康に良いそうだぞ」
 ……負けないもんっ!!

「夜は眠れないし、やる気は出ないし。でも、何日か後には薪さんに会えると思って頑張るんです。薪さんがオレの原動力なんです。それが叶わないとなれば、何もする気が起きません。離れられないってのはそういう意味です。
 だから絶対に別れられないんです。薪さんだって、そうでしょう?」
「僕は別に、おまえと別れても平気だけど」
 うわああああんっっ!!

「ひどいですよ! オレは薪さんがいなかったら生きていけないのにっ!」
 本当は分かっている、薪の人生の最優先事項は仕事だ。事件が起これば青木の恋人としての立場なんか、地平線の彼方にポイだ。今まで何度もそんな目に遭ってきたから、薪の本音は分かっている。だけどそれを彼本人の口から聞きたくはない。
 床に突っ伏してオイオイ泣き始める青木を見て、薪は肩を竦める。フライパンを右肩に担いで、冷めた口調で、
「誰かがいなきゃ生きられないなんて。それは依存症という立派な病気だ。精神科に行ったほうがいい」
「どうしてそんなに冷たいんですか?! 恋人に向かって『別れても平気だ』なんて!」
「僕はおまえに失恋したくらいで、ダメになったりしない」

 キッパリ言い切った冷酷なセリフの、『失恋』という言葉に青木の涙が止まる。
 もしも自分たちが別れるとしたら、失恋するのは自分の方だと薪は思っているのだろうか。そんなことはありえないが、言葉尻を捕らえて逆説を辿れば、薪は自分を好きだと言ってくれていることになる。
 そのことに思い至って、青木の心は地獄から天国にワープする。
 こんな方法でしか相手の気持ちを測れない恋人関係ってどうなんだろう、なんて普通の人間が考えるようなマイナス思考が欠片でもあったら、薪とは付き合えない。舞い上がりそうな心地で、遠回しな言い方ながらも愛情を表してくれた薪に笑いかける青木を哀れと捉えるかバカと見るかは個人の自由だが。

「別れたとしても、おまえは生きてるんだから。絶望したりしない」
 薪は呆れた表情を崩さずに、だが青木は彼の微細な変化を見逃さない。微かに亜麻色の瞳に浮かんだ苦味。青木は、かつて薪を襲った絶望を思う。
 薪の壮絶な過去を顧みれば、その考えは無理もない。薪には実際に、生きること自体が難しい時期があったのだ。死の誘惑と戦う日々が。自分の身体を傷つけて、ようやく正気を保っていた日常が。
 愛するひとの命を亡くすことに比べたら、恋を失くすことなんか大したことじゃない、という理屈は、青木にも納得できる。
 過去の経験が、今の薪を形作っている。そんな当たり前のことに気付いてみれば、彼の言葉は決して薄情なものではなく、深遠な意味を内包していると青木は考え、ありきたりの言葉を彼から聞きたがった自分の愚かさを罵倒したくなる。

 うなだれた青木の目の高さに合わせて薪は膝を折り、下らないことを言うなと言わんばかりの乱暴な手つきで、青木の頭髪をつかんだ。そうして髪の毛ごと年下の恋人の顔を上げさせると、
「おまえが僕から離れても、僕は死なない」
 言い切った薪の瞳には、苦悩も悲しみもなく。いっそ清冽に輝いて、青木は一瞬で彼の擒人になる。
「例えおまえが死んでも、後を追ったりしない」
 それは最初に青木が求めた言葉とは正反対のはずなのに、何故かとてもうれしくて。彼のたくましさに心の底からの喜びを感じている自分を自覚して、青木は自分が彼に与えてもらいたかった言葉を忘れそうになる。

「おまえの言葉を借りるなら、僕の命は鈴木が守ってくれた命なんだろ?」
 右手で持ったフライパンを青木の左頬の近くに構え、脅しつけるような目つきで冷笑していた薪は、一筋の怯えも含まない黒い瞳に出会って、ふっと頬を緩めた。暗い朝闇の中に最初の光が差し初めるように、瞳の色合いを温かなものに変えると、中段に構えた右手をそっと床に下ろして、
「鈴木の遺志を掬い上げて、僕に見せてくれたのもおまえだろ。だから僕は」
 そこで薪は言葉を切り、その先を続けようかどうしようか、しばらく迷う素振りを見せた。青木には薪が言いたいことは分かっていたし、薪がそれを口にしづらいことは察しが着いたが、敢えて何も言わずに薪の言葉を待った。
 やがて薪は、しっかりと青木の眼を見て口を開いた。

「僕の命は鈴木に守ってもらった命で、僕の人生はおまえがくれた人生だと思ってる。だから、自分から捨てたりしない。何があっても、絶対にしない」

 青木は息を呑んだ。声は出せなかった。薪の発言の意外性は、青木の声を失わせるに充分だった。
 青木の予想は、半分だけ当たっていた。鈴木に守られた命を粗末にはできない、そこまでは的中していたが、その先は晴天の霹靂だった。薪が自分の人生をそんなふうに捉えていたなんて、想像したこともなかった。

「悪かったな。冷たい恋人で」
 片手に青木の髪をつかみ、もう片方の手にはフライパンを持っている薪の姿は、他人から見たら言い逃れようのない恋人虐待の場面だが、そこには彼らにしか分かり得ないパルスがあって、それはひっきりなしにふたりの間を行き来している。言葉にしたくてもできない、表しきれないその想いを、曖昧な夢のように伝え合っている。
 それを言葉にすることが愚かだとは思わないし、時には必要だということも解っている。でも、いまは。

「大丈夫です、オレが今から薪さんのカラダを熱くして差し上げま、痛っ!!」
 自分を抱き寄せようとした青木の腹に鋭い蹴りを入れて床に転がすと、薪はさっさとキッチンに戻ってしまった。
「もう。乱暴なんだから」
 蹴られた腹を擦りながら青木は笑い、薪の後を追ってキッチンへ入った。



(おしまい)



(2011.1)


テーマ : 二次創作(BL)
ジャンル : 小説・文学

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Aさまへ

Aさま。


> 私も付録のイラストを見た時、「明日に向かって撃て」!?とすぐ思いました~(^▽^

ですよねー!
あれは正に、そのシチュエーションでしたよ♪

ラブいのを期待されてたんですか?
わたしはこっちの方がいいな~(^^) 青木さん、超カッコいいし!
ねえ、本当にカッコいいよね? 青木さんに見惚れたのって、わたしこれが初めてかもしんない。


> 次号より、リアル鈴薪が見られるのか!?

正直、怖くもあります。
鈴木さんのことは薪さん以上に理想を被せてしまっているので、それが崩れるのが怖いのと、もう一つは、
青木さんがまったく出てこないとなると、自分の気持ちが鈴薪に移って行きそうで怖いです。(^^;
自分さえしっかりしてればって思いますけど、あのワインシーンみたいのがバンバン出てきたら、引き摺られてしまいそう。 あおまきすとの根幹に関わる大問題です。(笑)


> でも、青木がもし、先に死んだら薪さんは後を追うわけでなくても病気になって2年後くらいには亡くなる気がします・・(;;)

そうですか? わたしは薪さんは生きると思います。
だって、「どんなに絶望してもまた生まれてくる」って分かったから。 何があっても生きていくと思います。

うちの二人もそうです。 どちらかが死んでも、残った片方は強く生きていきます。 わたしはそれが本当の愛だと思っています。 死んでも終わらない。 
今度の話はそれがテーマです。 よろしくお付き合い下さい(^^


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

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