たとえ君が消えても(3)

 図面描き終わったー♪
 腕を回すと肩がバキバキ言います。

 変更設計書ができてくるまで、2,3日手待ちになります。 その間に更新しますね。
 書類が来たら、また少しおヒマいただくことになるかも~。
 不定期更新ですみません、よろしくお願いします。





たとえ君が消えても(3)






「薪さん、怒るだろうなあ。困ったなあ」
 ガムテープで拘束された手首のだるさを両肩の上げ下げで緩和しつつ、青木はため息交じりに呟いた。
 何故こんなことになってしまったのだろう。藪を突いたら、蛇どころか竜が出てきてしまった。青木が探していたのは小さな蛇、せいぜいがヤマカガシくらいのものだったのに。

 事の始まりは、神戸のちょっと高級な洋食屋だ。
 昨夜、青木の接待係に付いた職員が、自分が妻子に持ち帰る土産代も合わせて領収書を切ってくれと会計係に要求しているのを聞いてしまった青木は、持ち前の正義感からそれを咎めた。青木も入庁6年になるから、この程度の小さな流用は多かれ少なかれ何処の組織でも行われていることだと知っている。だからわざわざ穿り返すことはしないが、自分の耳で聞いてしまったからには仕方ない。
 青木が眉根を寄せると、職員は苦笑いして、
「いやあ、すみません。うちの娘、ここのエビフライが大好物で。家族三人になると結構な金額になるから、私の給料じゃ中々連れて来てやれなくて」
「そうですか。でもそんな、ごまかしたお金で買ったフライを食べても娘さんは喜びませんよ。何なら、娘さんへのお土産はオレがプレゼントしましょう。桐谷さんには神戸を案内していただきましたから、そのお礼もしたいし」

 第四研究室の桐谷吾郎と言うその職員を、青木は穏やかに諭した。
 桐谷は青木よりも10歳くらい年嵩に見えたが、年長者の故の居丈高さは何処にもなく、青木の言葉に素直に耳を傾けてくれた。彼の垂れ気味で小さな目は、その人柄を物語るようだった。彼は斜め下に視線を落とし、そうすると生え際が後退して広くなった額が店の照明に照らされて光った。彼の髪は年の割には大分薄くなっており、透けて見える頭皮に汗が滲んでいた。
 青木の説諭に深く感じ入ったらしい彼は、もともと真面目な性格だったのだろう、自首する、加えて自分の上司がやっている横領も告発すると言い出した。
 青木は困惑した。桐谷の行動を咎めておいて何だが、それは止めた方がいいと思った。本当はこういう考えはよくないのだが、飲食費数千円程度の水増しでいちいち内部告発なんかしていたら組織は回らない。そんなことをしたら、桐谷も職を失うことになるだろう。

「そこまでしなくても。桐谷さんは、これからはなさらないでしょうし。上役の方には、こういったことは慎むよう桐谷さんからお話しされてはいかがですか」
 青木が保守的な意見を述べると、桐谷は頑固に首を振った。
 自分がしたことがあるのは接待ついでの飲み食いくらいだが、第四研究室の経理決裁を任されている小坂課長は、自分とは比べ物にならないくらいの大金を懐に入れている。と言うのも、小坂は腕時計マニアで、限定品の高級時計をいくつも持っているらしい。一本買っただけでも一年分の給料が吹っ飛びそうな代物を何本も、あれは絶対に使い込みをしている。確たる証拠はないが、どうも怪しい。
 証拠となる二重帳簿は小坂のパソコンに入っていると思われるが、ロックが掛かっていて見られないからハードごと持ち出して警察に駆け込むのだ、と酔った勢いもあったのか、桐谷は息巻いた。

「いやあの、こういうことはできるだけ水面下でその」
「ありがとうございます、青木さん。あなたのおかげで目が醒めました」
「いえ、ですからその、騒ぎ立てることばかりが最上の策とは限らなくてですね、桐谷さんの場合は立件されるかどうかも微妙、てかこの程度のことでいちいち事件にしてたら警察パンクしちゃうんじゃないかな……小坂さんの事にしても、証拠もないのに」
「私が証拠を掴みます。これは私の使命です。青木さんも応援してくれますよねっ」
 青木は、事を穏便に収めようと言葉を選んだ。が、桐谷は前々から考えていたことだと言い張って譲らず、成り行き上青木は、桐谷の上司、小坂直継のパソコンのデータを抽出する手伝いをすることになってしまった。
 話が決まり、晴れ晴れとした顔をして新しい仕事を探すと笑った桐谷と別れ、青木はホテルに帰った。翌朝になって酔いが醒めれば桐谷の気持ちも変わると期待したが、そうはならなかった。研究所の一室で、桐谷は再度、自分の決意を青木に繰り返した。これは協力するより他にないと、青木も腹を括った。

「あの、余計なお世話かもしれませんが」
 控えめに、青木は言った。
「桐谷さん。お金の方は大丈夫なんですか?」
 青木の気がかりは、桐谷の今後の生活費のことだった。内部告発をしておいて、その職場に居座ることはできないだろう。桐谷は中途採用3年目で、大した貯金もないはずだ。家族三人で外食もままならない生活だと言っていたし、この先、どうする心算なのか。
 金のことになると、桐谷も困った顔になった。自分のことはともかく、妻子に惨めな思いをさせたくないのだろう。

「用立てて差し上げたいのは山々なんですけど。オレも今、持ち合わせがなくて」
「いや、けっこうですよ、青木さん。そこまで気遣ってくださって、返って申し訳ないです」
 桐谷の奥ゆかしさに、青木は涙をそそられる。謙虚な態度を取られると、余計にどうにかしてやりたくなるのが人間というものだ。
「桐谷さん、オレは警官ですよ。勇気を出して内部告発して、その挙句に家族三人路頭に迷うなんて、正しい人がバカを見るなんてこと、絶対に見過ごせません」
「いえあの、大丈夫ですから」
「桐谷さんがそんな目に遭うなら、この話はなかったことに」
「ですからその、青木さんのお気持ちは嬉しいですけど、私は本当に大丈夫ですから」
 昨夜とは逆の力関係になって、青木は昨夜の桐谷の気持ちを理解する。そうだ、此処まで来たら後には引けない。

「桐谷さん。オレを人質にして、身代金を要求するってのはどうです?」
「はあ?」
 突拍子もない青木の提案に、桐谷は目を剥いた。桐谷の反応は無理もないが、青木にはこれが最上の策だと思えた。
「オレを誘拐したって、その人に電話を掛けてください」
「何を言い出すんですか?」
 青木は苦笑いして、種明かしに掛かった。

「お金を出してくれそうな人に心当たりはあるんですけど、その人、物凄く規則に厳しい人で。正直に事情を話したら、自業自得だ、ってソッポ向くと思うんです。でも、根はすごく優しい人だから。後で事情を話せば必ず許してくれます」
「だったら最初から本当の事を」
「それはダメです。一応、桐谷さんも横領犯なんですから。横領犯にお金を渡すんですから、形だけでも取り繕わないと……あ、でもすみません、要求金額は20万円くらいでお願いします。通帳残3ケタの人なんで」
「いやあの、青木さん。身代金を要求した時点で私、犯罪者になるんじゃ」
「なりませんよ。オレが証人になるんですから」
 狼狽える桐谷を置き去りに、青木は携帯を取り出し、電話帳から一つの名前を選択した。
「でも、その人から警察に連絡が行ったら」
「連絡も何も。薪さんはオレと同じ警察官ですよ」
『薪剛警視長』と表示された画面を見て、桐谷の顔面が蒼白になった。
「誘拐犯らしく。頑張ってくださいねっ」

 予想通りと言うか、薪はえらく怒った。
「すみません、今は帰れません」
 こういう言い方をすれば、薪のことだから、青木が一枚噛んでいることは即座に見抜く。それが分かれば事を大きくしたりしない。その上でお金を用意してくれるかどうかは、実は青木にも自信がなかったのだが。
 幸い、薪は取引に応じると言ってくれた。格安の身代金が彼の神経を宥めたのかもしれない。
「まだハッキリしたことは言えないんですけど、神戸支局の中に」
「ちょっと青木さん、困りますよ。決行は今夜なんですから、その前に情報を洩らされちゃ」
 桐谷に電話を取り上げられ、薪との会話は途中で切れてしまった。念のため、経緯を文章にして薪のプライベートメールに送っておいたのだが、夜にはまた事情が変わってしまった。




テーマ : 二次創作:小説
ジャンル : 小説・文学

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Rさまへ

9/9に拍手コメントいただきました Rさま。
お返事遅くなってすみませんー!

> ああ青木さん!人骨を掘り当ててしまったのですね←性?(笑)

そうなんですよ~。
今回は「青木さんのコワイ所」に焦点を当ててみました。 お楽しみいただければ幸いです。(^^


それと、この後のコメントに関しては……実は、わたしも同じ不安を抱いておりました。(>_<;)
後のコメントでお気遣いいただきましたのにすみません、でも、わたしも二次創作を楽しむ読者の一人なので。 Rさまのご懸念、すごくよく分かります。 

本当にそうですよね。 みなさん、どうなんでしょう。

わたし自身は、そうですね、
エピローグ以来、以前ほどは書く必要性を感じなくなりました。 それは物語が終わってしまったから、と言うよりは、薪さんの幸せが確定したからです。
わたしはとにかく薪さんに幸せになって欲しくて、でも原作にそれを望むことが困難だったから、自分で書いて自分を慰めていたんです。 ので、原作で薪さんが幸せになれば、その必要は無くなります。 薪さんが心配で夜眠れない、なんてこともなくなりましたしね。 今は、二人の幸せな姿を脳内で思い浮かべれば、それでけっこう満足だったりします。
そんなわけで、創作のペースはぐっと落ちましたが、薪さんへの愛が目減りしたわけではありませんので。 細々と続けていきたいと思っております。

それと、うちの場合は、設定からキャラからギャグ仕様に変えちゃったんで~、
新たな燃え投下とか、あんまり関係ない気がします。 
過去もみっちり捏造しちゃったので、原作で鈴薪祭りをやったとしても今さら、警察庁時代に実は鈴木さんと関係が、とか無理。 

ということで、これからもうちはヘタレな青薪さん一本です。
よろしくお願いします。


プロフィール

しづ

Author:しづ
薪さんが大好きです。

2008年の夏から、日常のすべてが薪さんに自動変換される病に罹っております。 
未だ社会復帰が難しい状態ですが、毎日楽しいです。

しづの日誌

法医第十研究室へようこそ!
メロディ6月号、読みました。
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